鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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4ヶ月以上のお待たせとなり、大変申し訳ありませんでした。

伍拾参之巻を投下します。
お楽しみいただければ幸いです。

なお、今回の掲載に先立ち、伍拾弐之巻の終盤を修正しております。
話の内容自体に変更はありません。


伍拾参之巻 -激闘・上弦の参(後編)-

猗窩座視点

 

「仮に風雷合一とでもしておきましょう!」

 

 今まで倒してきた無数の鬼狩り。幾人の柱からも聞いたことのない呼吸音を響かせながら、二振りの小太刀を構える麟矢。その姿に、俺は笑みが浮かぶのを止められない。

 

「さぁ、その秘密兵器とやらを見せてくれ!」

 

 そして、俺がそう叫んだ瞬間―

 

「せぇいっ!」

 

 麟矢は逆手に持っていた左の小太刀を振るい、鋭利な爪を思わせる斬撃を飛ばしてきた。なかなかの妙技だが、たった一条の風では俺に―

 

「なにっ!?」

 

 届きはしない。そう続く筈だった声無き呟きは強制的に打ち切られた。麟矢は斬撃を飛ばした直後、順手に持った右の小太刀を振り上げながらこちらへ突進。

 

「はぁぁぁっ!」

 

 先に飛ばした斬撃に追いつくと同時に、袈裟懸けに振り下ろした小太刀を斬撃へとぶつけてきたのだ。

 斬撃にぶつけたことで小太刀の一撃は加速され、鋭さを大きく増した一撃となって俺の頸に迫る。

 

「くっ…!」

 

 予想だにしていなかった麟矢の攻撃に、反応が僅かに遅れた。今からでは迎撃することは不可能。ならば防御…いや!

 

 

麟矢視点

 

「………浅かったか…」

 

 それなりの手応えを感じつつも、三分の一ほど斬られた頸の傷口を手で押さえ、俺達と距離を取る猗窩座の姿に、()()()()()()()()ことを悟る。

 斬撃が命中する瞬間、猗窩座は全力で回避を行い…致命傷を避けた。コンマ一秒にも満たない時間で実行してみせる反射神経。敵ながら見事と言わざるを得ない。そして…

 

「やはり上弦の鬼相手に使うには、些か調整不足だったかな…」

 

 仕留め損なった一番の原因は、実戦での調整不足。これに尽きる。日々の鍛錬は欠かしていないし、実戦の場数

も踏んではいるが、格上相手はなかなか…な。

 こうなった以上は仕方がない。少々()()()()()()()()()()()()が…当初の想定通りに動くとしよう。

 

杏寿郎視点

 

「参ノ型。気炎万象!」

「砕式・万葉閃柳!」

 

 俺が弧を描くように振り下ろした日輪刀と、上弦の参(あかざ)の振り下ろした拳がぶつかりあい、生じた反動で互いに距離を取る。

 

「はぁぁぁっ!」

 

 そこへ追撃を仕掛ける東雲。あの動き…雷の呼吸・壱ノ型(霹靂一閃)水の呼吸・漆ノ型(雫波紋突き)の合わせ技か!

 電光石火の勢いで上弦の参(あかざ)との間合いを詰めながら放たれた最速の突き。それは上弦の参(あかざ)の頸へ一直線に迫るが―

 

「くぅっ!」

 

 上弦の参(あかざ)は、喉のど真ん中を貫く筈だった突きを僅かだが回避。頸の肉を幾らか持っていかれたものの、素早く距離を取ってみせた。驚異的な反応速度…敵ながら見事と言わざるを得ない。

 東雲が切り札を発動して早五分。戦況はこちら側が若干有利と取れなくもないが…

 

「………」

「東雲、大丈夫か?」

 

 肩を動かし、()()()()()()()()東雲を横目で見ながら声をかける。異なる二つの呼吸の掛け合わせ、凄まじい力を発揮出来るのは間違いないようだが、やはり相当な負担がかかるのだろう。

 

「えぇ…まだまだ戦えますよ」

 

 不敵に笑いながらそう答える東雲だが、柱に勝るとも劣らない精度で全集中・常中を使いこなせている者が、肩で息をするなど普通ではあり得ない。この有利…長くは続かないと考えたほうが良いだろう。

 

 

猗窩座視点

 

「参ノ型。千波万波!」

「弐ノ型。稲玉!」

「破壊殺・乱式!」

 

 剣蔵と獪岳がそれぞれ放つ連撃と俺が放つ無数の拳打。互いの攻撃がぶつかり合い、どちらともなく距離を取る。そして―

 

「破壊殺・空式!」

「炎の呼吸…肆ノ型・盛炎のうねり!」

 

 いつでも飛び出せる状態でこちらの隙を窺っていた杏寿郎は、空式の連発で足止め。

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

 杏寿郎の技によく似た…雷の虎となって突っ込んできた麟矢には―

 

「脚式・飛遊星千輪!」

 

 渾身の力を込めた蹴りをぶつけ、互いに半ば吹き飛ぶ形で距離を取る。

 

「くぅっ…」

 

 着地し、体勢を立て直した瞬間を狙って放たれた鉛玉で、左腕を丸ごと持っていかれるが…この程度なら一向に構わん!

 瞬時に失った左腕を再生させ、再び狙い撃たれぬように動きながら…十分程ではあるが拳を交えたことで得た情報を整理し…麟矢が使うあの呼吸、その弱点を導き出していく。

 一つ、あの呼吸は凄まじく強力ではあるが、その分負担も大きいのだろう。一定の時間が経つ毎に呼吸を解除し、再度発動している節がある。

 二つ、異なる呼吸を組み合わせて発動するという手順を踏む必要がある為、発動までに若干の時間を必要としているようだ。

 即ち、あの呼吸は長期戦に弱く、即応性に欠けるということ!

 

「ならば!」

 

 勝機はこちらにある! 俺は両脚に力を込め、前へ出る。

 

「破壊殺・空式!」

 

 杏寿郎と剣蔵、獪岳を空式の乱発で足止めしつつ、麟矢との間合いを一気に詰め―

 

「破壊殺・乱式!」

 

 無数の拳打で麟矢を攻めたてる!

 

「くぅぅぅっ……」

 

 嵐のような俺の攻撃を、二振りの小太刀を巧みに操って凌ぎ続けていた麟矢だったが…

 

「……かはっ…」

 

 遂に呼吸の限界を迎えたのだろう、その動きが明らかに鈍った。好機到来!

 

「脚式・流閃群光!」

 

 次の瞬間、俺は麟矢の腹に連続蹴りを叩き込み…派手に吹っ飛ばした。

 

「手応えあり…だ」

 

 土煙を上げながら地面を転がり…動かなくなった麟矢の姿に、俺は一抹の寂しさを感じながら、杏寿郎達へと視線を送る。

 

「残るは…3人」

 

 

杏寿郎視点

 

「東雲ぇっ!」

「麟矢さん!」

 

 上弦の参(あかざ)の攻撃を受け、吹き飛んでいく東雲の姿。そして、悲痛な声を上げる獪岳や慌てて駆け寄る竈門少年達の悲痛な声を聞きながら、俺は上弦の参(あかざ)を睨みつける。

 

「竈門隊士! 東雲の具合は!」

「ま、まだ…い、息は…あ、あります」

 

 犬塚の問いかけに、絞り出すような声で答える竈門少年。声の調子から見て、相当悪い状態なのだろう…・

 

(あばら)をまとめて砕いた感触があった。たとえ今息があったとしても、長くはもつまい。死にゆく弱者など放っておけ」

 

 酷薄極まりない上弦の参(あかざ)の言葉。断じて許すことは出来ん!

 

「犬塚、東雲の傍へ…獪岳、今から上弦の参(あいつ)に勝負を仕掛ける。援護を頼む!」

 

 俺は犬塚と獪岳へそう告げると、一度深く呼吸を行い…ゆっくりと構えを取っていく。

 

「炎の呼吸…奥義!」

「素晴らしい闘気だ…その気迫! その精神力! 一部の隙も無いその構え! やはりお前は鬼になれ! 杏寿郎!」

 

 上弦の参(あかざ)の戯言には一切耳を貸さず、俺はこれから放つ技の為に残る全ての力を込めていく。そして―

 

「玖ノ型。煉獄!」

「破壊殺・滅式!」

 

 俺と上弦の参(あかざ)は同時に飛び出した。そして、互いの間合いまであと5歩の距離まで近づいたその時…風を切る音と共に、一本の矢が俺のすぐ横を飛んでいき―

 

「なっ…」

 

 上弦の参(あかざ)の額に深々と突き刺さると間髪入れずに爆発した。今のは!? いや、何であろうとこの好機、逃すわけにはいかん!

 俺は八割がた吹き飛んだ頭部を再生させる為か、意図せず棒立ちとなっている上弦の参(あかざ)との間合いを詰め―

 

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

 気合と共に、渾身の力で日輪刀を振り下ろす!

 赫き炎刀が上弦の参(あかざ)の肉体を、そして頸を容赦なく抉り斬っていく。あと一息!

 

「ぬぁぁぁぁぁっ!」

 

 だが、ここで上弦の参(あかざ)が動き出した。両手で刀身を掴み、これ以上刃が進まぬよう力を込める。

 

「ぬぅぅぅっ!」

「うぁぁぁっ!」

 

 俺と上弦の参(あかざ)の力が拮抗し、日輪刀の動きが止まる。このまま千日手となる可能性も少なくないだろう。だが、それは一対一での話だ。

 

「雷の呼吸…壱ノ型」

 

 俺の背後には仲間がいる! 俺は咄嗟に日輪刀から手を放し、後方へと飛び退く。

 

「霹靂一閃!!」

 

 それと同時に、霹靂一閃を放つ獪岳。電光石火の勢いで上弦の参(あかざ)との間合いが詰められ…擦れ違いざまに鞘から日輪刀が抜き放たれた。

 

「………」

 

 次の瞬間、頸を斬られて宙に舞う上弦の参(あかざ)の頭部。それが地面に落ち、徐々に崩壊しながら転がる様、そしてゆっくりと倒れていく身体を見て、俺は勝利を確信した。

 

「我々の…勝ちだ」

 

 そう呟きながら静かに息を吐き…俺は、先程上弦の参(あかざ)へ放たれた矢のことを思い出した。そうだ、先程の矢は誰が!?

 俺が慌てて振り返ると、そこには…

 

「どうも…ご心配を、おかけしました」

 

 神妙な表情をした東雲の姿。生きて、生きていたのか!

 

 

麟矢視点

 

「東雲! 無事だったのか!」 

 

 そう声をあげながら、俺に駆け寄ってくる煉獄様。その姿に罪悪感を感じながら、俺は隊服の釦を外し―

 

「これのおかげです」

 

 猗窩座の攻撃を凌げた理由。胸当て代わりに仕込んでいた絹織物で包まれた物を取り出した。

 

「これは、陶器…いや磁器か!」

「はい、特注で作ってもらった磁器製の板です。こいつが割れることで、上弦の参の攻撃…その衝撃を肩代わりしてくれました」

 

 所謂防弾チョッキに使用される付加防弾材(プレート)と同じ役割だな。

 

「もっとも、肩代わりしきれなかった衝撃で、肋が数本折れていますが…」

 

 まぁ、まともに食らえば即死間違いなしだったのだから、この位のダメージは許容範囲だ。

 

「しかし…このような物を装備しているならしていると、一言あっても良かったのではないか?」

「仰る通りです。その点に関しては深くお詫び申し上げます」

 

 煉獄様の指摘にそう答え、俺は頭を深々と下げる。あの一射を成功させる為とはいえ、煉獄様を騙したことは真摯に謝罪しなければな…というか、俺を死んだと思い込ませた上で、破壊殺・羅針(血鬼術)の効果範囲外から狙わなければ、額を射抜けないとか難易度高すぎにも程があるだろう…。

 

「しかし、上弦の参の隙を突くには、俺が死んだことになっている必要があったので…」

「ふむ、敵を騙すにはまず味方から。という奴か。まったく、俺だけが何も知らなかったとは」

「いえ、作戦を知っていたのは獪岳と犬塚氏だけです。炭治郎君達は何も知りません。そもそも、炭治郎君は嘘がつけませんから」

 

 やられたふりをした理由を説明し、ついでに噓を吐くと変顔になる炭治郎君のことを話すと…

 

「ハハハッ! 竈門少年、なんだその顔は!? たしかに、そんな顔をしていては嘘がすぐに見破られてしまうな!」

 

 煉獄様は高らかに笑い声をあげ、全てを水に流してくれた。これでめでたしめでたし。といきたいところだが…そうは問屋が卸さない。

 

「………」

 

 そう…頸を斬られ、頭が完全に崩れ去った猗窩座の身体が立ち上がったのだ。

 

「馬鹿な…」

「頸を斬ったんだぞ。頭を落としたんだぞ…それなのに、どうして…」

「これが、上弦の鬼…」

 

 三者三様の反応を見せる獪岳、犬塚氏、そして煉獄様。だが、三人とも即座に戦闘態勢を取ったのは流石の一言だ。

 

「ご心配なく。()()()()()()()()()()()用意しておいた物があります。玄弥君!」

 

 それに…こういう時の為の用意だってしてある!

 

 

玄弥視点

 

「ご心配なく。こんなこともあろうかと用意しておいた物があります。玄弥君!」

「はい!」

 

 麟矢さんの声に答えた俺は、背負っていた背嚢から椀型の部品を取り出すと、小銃の銃口に取り付け…そこに大型の弾丸、いや擲弾を装填。

 

「大丈夫だ。俺ならやれる。俺なら…やれる!」

 

 部品と榴弾を付けたことで重心の変化した小銃を構え、ゆっくりと動き出した上弦の鬼に狙いをつける。

 

「これで…終わりだ!」

 

 次の瞬間、俺は引き金を引き、擲弾を発射。放たれた擲弾は上弦の鬼へと一直線に飛んで行き…命中と同時に爆発。上弦の鬼、その身体を木っ端微塵に吹っ飛ばした!

 

「やった…」

 

 原形を留めないほど粉々になった上弦の鬼。肉の塊になっても、僅かにもぞもぞと動いていたけど、夜が明けて日の光に照らされ始めると灰化して崩れ去っていった。

 

小銃擲弾(らいふるぐれねえど)、凄い威力だ…」

 

 麟矢さんの指示を受けた後峠さんが用意し、俺に託された小銃擲弾(らいふるぐれねえど)の威力に言いようのない興奮を覚えながら、俺は小銃を握り締める。

 もちろん、これで鬼を殺しきれるわけじゃない。それでも上弦の鬼を木っ端微塵に出来た。全集中の呼吸の適正が無い、剣の才能がない俺でもここまでやれたんだ。

 これできっと、きっと兄ちゃんだって認めてくれる。胸を張って兄ちゃんへ会いに行ける。

 駆け寄ってきた炭治郎と伊之助からもみくちゃにされながら、俺は密かにそんな確信を抱いていた。

 

 

麟矢視点

 

「では、モーリアン。頼みましたよ」

「カァァァ、オ任セクダサイ。必ズオ館様ニオ届ケシマス。カァァァ」

 

 耀哉様への書状を背に飛び立った鎹鴉のモーリアンを見送り、俺は改めて横転した無限列車へと視線を移す。

 派手に横転し…再び走れるようになるには相当な月日を必要とするほど激しく損傷した車体。乗客も多くが負傷し、重傷者も相当数いるようだ。

 だが、二百人の乗客は全員無事。そして煉獄様も生還し…更には上弦の参、猗窩座を倒すことも出来た。正直言ってこの結末は想定以上だ。

 

「日頃の行いって、やっぱり大切ですね」

 

 静かにそう呟き、俺は炭治郎君達の元へと戻り、指示を下す。

 

「間も無く後処理を行う隠の部隊が到着します。あとの事は彼らに任せ、我々は帰還しましょう」

 

 俺の記憶(原作知識)が正しければ、次の戦いが始まるのは4ヶ月後。それまでに万全の準備を整えつつ…()()()()()()を解決しなければならないな。

 まぁ、問題の内一つについては…申し込みを済ませている訳だけど…ね。

 

 

実弥視点

 

「カァァァ! 隊士、獪岳。上弦ノ参撃破! 隊士、竈門炭治郎。下弦ノ壱撃破!」

 

 鎹鴉の爽籟が伝えてきた報せ。そいつは俺を驚かせるに十分過ぎるほどの吉報だった。

 これまで幾多の柱が挑み、勝てなかった上弦の鬼。煉獄や他の隊士との共闘とはいえ、そいつを撃破するとは…獪岳、たしか二年前の春に隊士となった奴だったな。やるじゃねえか。

 それから、竈門炭治郎か…いけ好かねぇ奴だが、下弦の壱を倒したことだけは認めてやっても―

 

「ナオ! 特別遊撃班『離』所属、不死川玄弥! 上弦ノ参撃破ニ多大ナル貢献! 多大ナル貢献!」

 

 な、ん…だと…

 

「あの愚図が…上弦の撃破に多大な貢献だとぉ…」

 

 一瞬、爽籟が噓を言っていると思ったが、それはあり得ない。だとすると…

 

「東雲の野郎…今度は何を企んでやがる…」

 

 アイツが上弦との戦いに参加するどころか、貢献するなんて、西から登った太陽が東に沈みでもしない限りある筈が無ぇ…。

 そうだ、東雲の野郎がまた、くだらねぇことを考えているに違いねぇ…、

 

「上等だ…俺の手で、(奴ら)のインチキを暴いてやる」

 

 その為にも…

 

「稀っ! 稀血っ! 稀血の匂いっ!」

「ど、どけっ! 俺が喰う! 稀血は俺が喰うんだっ!」

 

 俺の腕から滴り落ちる稀血の匂いに誘われて、我先に駆け寄ってきた二体の鬼に向けて、俺は日輪刀を構える。

 

「まずは手前らからなます切りにしてやらぁ!」




最後までお読みいただきありがとうございました。
2話ほど短編を投稿した後、遊郭編へと突入します。


※大正コソコソ噂話※
 
上弦の参撃破の一報を受けた産屋敷邸は、予想だにしなかった吉報で大いに沸きましたが、上弦の参を倒す為に危ない橋を渡ったことを知ったひなきちゃんは大いに怒り、耀哉様に対し「麟矢様に一度、しっかりと言い聞かせてください!」と要求。
そのあまりの剣幕に、耀哉様は大いに苦笑したそうです。
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