鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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伍拾肆参之巻を投下します。
お楽しみいただければ幸いです。


伍拾肆之巻 -ある家族の再生-

麟矢視点

 

 上弦の参…猗窩座の撃破に成功した俺達は、休息と治療の為蝶屋敷へと向かったのだが…

 

「十日間の完全休養…ですか」

「はい。お館様より、『今回の上弦の参撃破。鬼殺隊千年の歴史で初めてとなるその功績は、計り知れない。これに見合うだけの褒賞は必ず用意するので、まずは身体を休めてほしい』との伝言をお預かりしています」

 

 到着早々、胡蝶様から伝えられたのは、耀哉様からのそんな伝言だった。

 

「褒賞などとんでもない! 我らは我らの使命を果たしたまで、十日も休みを頂けるだけで十分!」

「まったくです」

「同感だ」

「東雲達に同じく」

 

 まぁ、褒賞云々は後回しにして…耀哉様の御厚意は遠慮なくいただくとしよう。俺達は胡蝶様の診察と治療を受け、用意された部屋*1で休養を開始した。

 

 

 休養開始から二日が経った頃。

 

「麟矢様、こちらが本日中に処理していただく書類となります」

「わかりました」

 

 俺は後峠さんに頼んで、東雲商会商品開発部部長付としての仕事(表の仕事)を持ってきてもらい、片付け始めた。

 ある程度余裕を持たせていたとはいえ、十日間丸々休める程余裕がある訳ではない。済ませられる仕事は済ませておかなくては…

 勿論胡蝶様から許可は貰っている。まぁ…

 

 ―手紙程度なら兎も角。病室で書き仕事を行われたのは東雲さんが初めてです―

 

 と、苦笑いされてしまったが…な。

 

「後峠殿、先日の戦いでの援護射撃。実にお見事! あれほどの射撃の腕、一体どちらで習得を?」

「東雲家…麟矢様のご実家で執事としてお世話になる前は、帝国陸軍中佐の地位に就いておりました。恥ずかしながら、日清戦争での従軍経験も些か」

「なるほど! 実戦で磨かれた腕前ということですか! 是非とも一度手合わせをお願いしたいものだ!」

「既に引退して久しい身。最高位の鬼狩り様を前にしては、素人同然でございます」

「いやいや、その佇まいといい、纏っている雰囲気といい、とても素人とは言えますまい!」

「そう言えば、最終選別を突破してすぐの頃。用があって東雲の家を訪ねた時、容易く背後を取られたことがあったな…」

 

 煉獄様や獪岳達は、後峠さんとの会話が盛り上がっているようだな。結構なことだ。

 

 

 さて、表の仕事は一時間半ほどで終了。後峠さんに書類を持って帰ってもらい、あとはノンビリ出来ると思ったのだが…

 

「………」

「………」

 

 何とも嫌な沈黙が室内を支配する。今この部屋にいるのは、俺とひなきさんの二人だけ。何故、このような事態に陥ったのか? 全ては十五分前に遡る。

 鬼殺隊初の快挙である猗窩座(上弦の鬼)の撃破。それを成し遂げた煉獄様や俺達へ、直に感謝を伝えることと、褒賞についての希望を聞くため、耀哉様の名代として輝利哉くんとひなきさんが蝶屋敷を訪れ…いや、厳密に言うと耀哉様の名代は輝利哉くん一人であり、ひなきさんはその同行者…というか、()()()()()()()()()やってきたのだ。

 ひなきさんの表情からそれを察した俺は、適当な理由を付けて褒賞に関する話し合いを煉獄様達に丸投げ。ひなきさんを連れて、この空いていた部屋へと移動したわけだ。

 

「………えーと、ひなきさん。怒って、いらっしゃいますよね?」

「………はい。先の戦いで麟矢様の取られた行動。上弦の鬼を倒す為に必要なことだったと、頭では理解しております。それでも……麟矢様が己の身体を囮に使ったと聞いて、少しの間ですが頭の中が真っ白になりました」

「それは…ご心配をおかけしました」

「産屋敷の家に生まれた者として、鬼殺隊の使命、何を最優先に考えるべきなのかは重々理解しております。それでも、それでも麟矢様には…麟矢様には、御体を大切にして頂きたいのです」  

 

 涙をポロポロと溢しながら、思いを真っすぐにぶつけてくるひなきさん。次の瞬間、俺は無言でひなきさんを抱きしめていた。

 

「麟矢、様…」

「ひなきさん。貴女を悲しませて、本当に申し訳なく思っています。駄目な許婚ですが…許して、くれますか?」

「………一つ、我儘を言わせてください」

「なんなりと」

「…このまま、頭を撫でてください」

「はい」

 

 俺は、ひなきさんが満足するまで頭を撫で続け…改めて、心配をかけないことを約束した。

 これからも体を張らなくてはならない場面は訪れるだろうが…より一層気を付けて戦いに臨まないといけないな。 

 

 

獪岳視点

 

 十日間の休養は無事に終わり、俺と犬塚が本来所属している班へ戻る日がやってきた。

 

「獪岳、犬塚氏。今回の上弦の参討伐。お二人の力が無くては、到底不可能でした。助力頂けたこと、改めて感謝します」

「礼を言うのはこちらの方だ。上弦討伐に関われるなど、鬼殺隊隊士にとってまさに誉れ!助力を頼んでくれたこと、誇りに思うぞ!」

 

 上弦討伐の増援に参加したことへ、改めて頭を下げる東雲にそう言って高らかに笑う犬塚。炎柱様もだが、犬塚(こいつ)ともこの十日で随分打ち解けることが出来た。俗っぽい言い方だが、友になれた…というやつだろうな。

 

「また何かあった時は、遠慮なく言ってくれ。可能な限り助けに来る」

「えぇ、遠慮無く頼らせていただきます」

「また会う時まで、二人とも息災でな! 武運を祈る!」

 

 炎柱様と東雲に一礼し、俺と犬塚は蝶屋敷を後にした。暫く同じ道を歩き…

 

「獪岳殿、俺はこっちの道だ」

「俺はこっちだ」

「では、また会おう」

「あぁ、また」 

 

 道が二又に分かれた所で別れ、互いの所属先へと歩いていく。またいつかの再会と共闘を約束して。

 

 

麟矢視点

 

「さてと…我々も行きましょうか」

 

 煉獄様と共に獪岳と犬塚氏を見送った俺は、二人の姿が見えなくなったところで、煉獄様へと声をかけた。

 俺達同様休養に入っていた炭治郎君達には先に戻ってもらっており、蝶屋敷に残っているのは俺達だけだ。

 

「うむ、十日間の休養で心身共に完全回復出来た。また隊士としての任務を全うしていこう!」

 

 心身共に…ね。ならば、()()()()()()()()()かな。

 

「そうそう。煉獄様、実は個人的にお話したいことがありまして…お屋敷へお帰りになる前に、少しだけお時間を頂けますか?」 

 

 人様の家庭環境に口出しするのは、あまり宜しくないが…今を逃すと次の機会が何時になるか判らないからな。上手くやるとしよう。

 

 

杏寿郎視点

 

「………着いたか」

 

 東雲に言われたこと、その正しさを重々理解しつつもなかなか考えがまとまらないまま、家の前まで来てしまったことに俺は内心苦笑する。

 ここまで来てしまったからには、覚悟を決めるしかあるまい。成るように成れ、だ!

 覚悟を決めた俺は、努めていつも通りに振る舞い、門を潜る。

 

「おかえりなさいませ、兄上!」

「あぁ、千寿郎。今戻った」

 

 俺の姿を見るなり、大急ぎで駆け寄ってきた千寿郎にそう声をかけ、俺は家へと足を踏み入れる。

 

「すぐにお風呂の準備をします。それからお夕飯の用意も!」

「すまんな、苦労をかける」

 

 着替えを届けるなど、三日に一度は蝶屋敷へ来ていた千寿郎だが、俺が帰宅したのが余程嬉しいのだろう。

 弾んだ様子で風呂の準備に走る千寿郎の背中に、俺は一瞬だけ笑みを溢し…すぐに気持ちを切り替える。そして廊下を進み―

 

「父上! ただいま戻りました!」

 

 部屋で横になっている父…煉獄槇寿郎に声をかけた。

 

「煩い! 大声を出すな!」

 

 直後、顔面目掛けて飛んできたのは、父の枕元にあったぐい呑み。

 俺は咄嗟にぐい飲みを左手で受け止め、痺れるような痛みを無視したまま無言で父を見つめる。

 

「……なんだ」

 

 やがてその視線に気づいたのか、父は鬱陶しそうな様子でこちらへ向き直った。俺は小さく息を吐き―

 

「父上、酒をお控えになる気はありませんか?」

 

 努めて冷静にそう問いかけた。だが…

 

「……杏寿郎、お前…随分と偉くなったなぁ」

 

 父から返ってきたのは、想定の中でも最悪のものだった。

 

「上玄の参如きを倒したくらいで、自分が特別な何かにでもなったと勘違いしたか? 何度も言わせるな! お前も俺も、どうせ大したものにはなれないんだ!」

「そうではありません! 私はただ父上のお体が心配で―」

「心にも無いことを言うな!」

「ッ!」

 

 父の怒声に、俺はどうしてこうなってしまったのか? と自問自答し…同時に、東雲に言われた言葉を思い出していた。

 

 ―人様の家庭の事情にあれこれ口を挟むのも無礼だと思い、これまでは黙っておりましたが…先代の炎柱、煉獄槙寿郎様の一件。もう自力で立ち直るのを信じて見守る段階は、疾うに過ぎ去っていると思います― 

 ―いや、これが煉獄様お一人の問題なら、お気の済むまで。と言えるのですが、問題は千寿郎君です―

 ―煉獄様がどのようにお話しされているかは存じ上げませんが、煉獄様が任務で留守にしている間、日がな一日酒浸りの父親と同じ屋根の下。と言うのは、千寿郎君の心身の成長に悪影響こそあれ、良い影響は微塵もありません―

 ―千寿郎君の為を思うなら…心を鬼になされたほうがよろしいかと― 

 

 そうだ。俺と違い、千寿郎は父上が前を向いていた時のことを直に見ていた訳ではない。何もかもが俺からの伝聞だ。

 この躓き、進むべき道を見失ったままの父上しか知らぬ千寿郎のことを真に思うのであれば…

 

「……わかりました。父上が今の生活を改められないのであれば…」

 

 俺は…覚悟を決める!

 

「俺と千寿郎は、この家を出ていきます!」

 

 覚悟を決めた俺の声が部屋中に響く。父上は一瞬、何を言っているのか理解出来ない。という顔をされていたが…

 

「なん、だと……」

 

 すぐにわなわなと震えながら、俺を睨みつけてきた。だが、ここで躊躇ってはならない。俺は心を鬼にして言葉を紡いでいく。

 

「ある人に言われました。今の状況は千寿郎に悪影響こそあれ、良い影響は微塵もないと! 今日まで父上は立ち直ってくれる。そう信じておりましたが、先程のお言葉でその望みが無いことを理解いたしました。千寿郎の将来の為、私と千寿郎はこの家を出ていきます!」

「………」

 

 私の宣言に対し、何かを言うでもなくただ黙って睨みつけてくる父上。千寿郎がやってきたのはその時だ。

 

「な、何か、大きな声が聞こえたのですが…」

 

 不安気な顔で私に問うてくる千寿郎に、私は敢えて真剣な顔を見せ、こう告げた。

 

「千寿郎。私と共にこの家を出るぞ。すぐに準備をしなさい。当面の着替えと必要な物だけでいい」

「え…この家から、ですか?」

 

 俺の言葉に千寿郎の顔はますます不安の色を濃くしていく。だが、問答をしている暇はない。

 

「千寿郎、今は余計なことを考えるな。急げ!」

「は、はいっ!」

 

 弾かれたように自分の部屋へと走っていく千寿郎。俺も荷物を纏める為、部屋へと行こうと父上に背を向けるが―

 

「………勝手にするがいい。この親不孝者ども!

 

 そこへ浴びせられる父上の怒声。親不孝者…か。

 

「ならば父上、貴方は子不孝者であり、何よりも…妻不孝者だ!!」

「なっ…」

「情熱を失い、酒に溺れ、日がな一日怠惰に過ごす体たらく。これを妻不孝と言わずに、何と言いますか! ……母上が生きておられたら、どれだけお嘆きになるか!」

「………杏寿郎…お前に、お前に…お前に何がわかる!

 

 次の瞬間、父上は猛烈な勢いで俺に掴みかかると、これまで一度も口にしてこなかったご自分の心の内を明らかにしていく。

 曰く、炎の呼吸。いや、今存在する全ての呼吸は、最強にしてはじまりの呼吸である日の呼吸の模倣、劣化、派生に過ぎないこと。

 曰く、日の呼吸を使うことが出来たのは、長い鬼殺隊の歴史上でもたった一人であること。

 そして、唯一日の呼吸を使うことが出来た剣士であっても、鬼舞辻無惨を倒すことは出来なかったこと。

 

「力及ばず、何人もの人を救うことが出来なかった! 挙句の果てには、病に苦しむ瑠火さえも救えなかった! 救いを求めて縋った炎柱の書に書かれていたのは、ただただ絶望だけだった!」

「最強である日の呼吸ですら、鬼舞辻無惨を倒すことが出来なかったのだぞ! 日の呼吸の劣化に過ぎない炎の呼吸に何が出来る!」

「お前に、お前にわかるか! 俺の無念が! 絶望が! お前にわかるのか! 杏寿郎っ!!」

 

 涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、私に喚き散らす父上。父上のこれほど弱々しい姿は初めて見た。同情、憐憫、様々な思いが湧き上がり、俺自身意識しなければ平静さを保てそうにない。だからこそ…

 

「父上、長年に渡る無念や絶望。若輩の私では全てを理解することなど出来ないかもしれません…ですが、これだけは言わせていただく!」

 

 覚悟が鈍らぬうちに、伝えるべきことを伝えなければ!

 

「父上は何人もの人を救うことが出来なかったと仰ったが、その何倍、何十倍もの人々を救ってきたではありませんか!」

「先の任務で、ある老婦人とお孫さんを鬼から救うことが出来たのですが、その老婦人は二十年前、父上が鬼から救った方でした」

「なん、だと…」

「父上が鬼から救った方が子を成し、孫が成長するまで歳月を重ねることが出来た。これは父上のやってきたことが間違っていなかったという何よりの証拠ではありませんか!」

「失ったものに囚われず、救えたもの、護れたものに目を向けてください!」

「………」

 

 俺の叫びに何も答えることなく、その場に崩れ落ち、項垂れる父上。俺はそんな父上を振り切るように部屋へと戻った。

 

「父上…どうか身体を…厭うてください」

 

 最後にそう言い残して。

 

 

千寿郎視点

 

 大急ぎで荷物を纏めた私は、兄上に連れられて家を出た訳ですが…

 

「煉獄様、お待ちしておりました」

「東雲! どうしてここに?」

 

 門の外では、自動車に乗った東雲様が私と兄上を待っていました。

 

「いやぁ、煉獄様を焚き付けた手前、どんな結果を迎えたか気になった…と言いますか、私の予想通りになっていたら、煉獄様は十中八九千寿郎君を連れて、家を出るだろうと…まぁ、とにかく乗ってください」

「すまんな、世話をかける」

 

 そう言って東雲様へ頭を下げる兄上。それに続くように私も頭を下げ、自動車へと乗り込みます。

 

「それでは、発車します」

 

 声と共にゆっくりと走り出し、徐々に速度を上げていく自動車。自動車、初めて乗りましたが、こんなに速く走れるものなのですね。

 

「煉獄様、どちらへ向かわれるおつもりだったんです?」

「あぁ、とりあえずは近くの詰め所に向かい、事情を話して空いている部屋を使わせてもらうつもりだった」

「…それでしたら、私の家へ来ませんか? 炭治郎君達とも一つ屋根の下になりますが、部屋は沢山空いていますし、庭の鍛錬場なども使えますよ?」

「東雲の気持ちはありがたいが、そこまで世話になる訳には…」

「煉獄家のゴタゴタを一般隊士に知られてしまうことで生じる混乱を避ける為、という言い方は意地悪ですかね?」

「……そう、だな。避けられる混乱は避けるべきだ。すまん、東雲。面倒をかける」

「お気になさらず」

 

 兄上とそんな話をしながら、自動車を走らせる東雲様。東雲様の家、一体どんな御宅なんだろうか?

 

 

槇寿郎視点

 

 杏寿郎と千寿郎が家を出ていった後、俺は自棄酒をする気にもなれず…布団に寝転がり、ただただ考え続けていた。

 

 ―失ったものに囚われず、救えたもの、護れたものに目を向けてください!

 

 杏寿郎め…生意気なことを言いよって……たしかに、杏寿郎の言ったことが正論。なのだろう。

 

「だが、正論だけで人は生きているわけではない…生きているわけではないのだ」

 

 多くの人を助けられず、瑠火を失ったことで生まれた空虚さは、今更埋めることなど出来はしない…

 

 

 気が付くと、床に臥せっていた瑠火が体を起こし、こちらを見つめていた。

 

「起きていたのか、何か羽織るものを持ってこよう」

 

 俺はそう言って立ち上がろうとするが…まるで体が石にでもなったかのように動かない。どういうことだ?

 

「………」

 

 何とかして動こうと、体に力を込めている間に、無言のままの瑠火は少しずつ俺から遠ざかっていく。

 

「待て! 待ってくれ! 瑠火! 俺を置いていかないでくれ!」

「………」

「何だ! 何を言いたいんだ! 瑠火!」

 

 黙って俺を見つめたまま、遠ざかっていく瑠火。その体がだんだんと小さくなり…やがて霞のように消えていった…。

 

「瑠火ぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 己の叫び声で布団から飛び起きる。夢…だったのか。

 

「こんな夢を見るとはな…」

 

 自分の情けなさを自嘲しながら、俺は立ち上がり縁側へと向かう。

 

「月の位置から見て…午後の八時頃か」

 

 大体の時刻を確認したところで、まだどこかボンヤリした頭をスッキリさせようと、俺は庭に下り、井戸へと向かう。そして、桶に水を注いだのだが…

 

「……酷い顔だ」

 

 月明かりによって水面へ仄かに映る己の顔。そのあまりの酷さに、乾いた笑い声が漏れる。本当に…酷い顔だ。

 

「………酒を、抜かねばならんな…」

 

 

麟矢視点

 

「さぁ、炭治郎! どこからでも来るといい!」 

「お願いします!」

 

 木刀を正眼に構えた煉獄様の声に応え、真正面から向かっていく炭治郎君。そのまま両腕を交差させ―

 

「壱ノ型、水面斬り!」

 

 攻撃を放つが、それは煉獄様の木刀で完全に受け止められ…半歩後退させるだけに終わる。

 

「良い踏み込みだ! さぁ、どんどん打ち込んでくるんだ!」

「はい!」

 

 その後も矢継ぎ早に繰り出される炭治郎君の攻撃、その全てを煉獄様は受け止め、捌いていく。

 暫くの間我が家に滞在されることになった煉獄様だが―

 

 ―ただ寝泊まりさせてもらうだけでは心苦しい! 竈門隊士達(彼ら)の鍛錬、俺にも手伝わせてほしい!

 

 と、申し出てくれた。もちろん、断る理由は何処にも無いので、協力していただき…今日に至る。

 

「今日で一週間か…」

 

 炭治郎君の打ち込みを受けながら、アドバイスを送る煉獄様を見ながら、一人呟く。俺の予想が当たっていれば、そろそろの筈だが…

 

「麟矢様、煉獄様にお客様がいらっしゃいました」

 

 後峠さんが、声を掛けてきたのはその時だ。予想通り。

 

「まずはここに案内してください。あとで客間を使うと思うので、お茶の準備も頼みます」

「かしこまりました」

 

 一礼して来客の案内に戻る後峠さんを見送り、俺は煉獄様に声を掛けた。そして、待つこと数分。

 

「…酒を抜き、体に活を入れるのに少々手間取ってしまった」

 

 後峠さんに連れられて、煉獄槇寿郎様がやってきた。だが、その風貌は俺の知るそれとは大分異なっていた。

 無精髭は綺麗に剃られ、ボサボサだった髪も整えられている。酒浸りで衰えていたであろう身体も、生気が戻っているようだ。

 これなら、大丈夫。悪い結末にはならないだろう。

 

「外では話がし難いでしょう。客間の方で親子水入らず、じっくり話をしてください」

 

 俺はそう言って、煉獄様達を客間へと案内するのだった。

*1
四人部屋×2。内訳は麟矢、煉獄、獪岳、剣造で一部屋。炭治郎、善逸、伊之助で一部屋




最後までお読みいただきありがとうございました。
次回、あの兄弟の関係修復なるか?


※大正コソコソ噂話※
 
上弦の参、猗窩座との戦いに増援として参加した犬塚剣造が使うオリジナル呼吸『波の呼吸』。
系統としては水の呼吸の派生にあたり、変幻自在な歩法と打刀と脇差の二刀を用いて、岩をも砕く荒波のように相手を切り刻む攻撃重視の型です。
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