前回に続き、今回も柱が登場します。
お楽しみいただければ幸いです。
また、伍之巻掲載に伴い、参之巻と肆之巻の火薬表記を爆薬に修正しております。
麟矢視点
音柱・宇髄天元様との面会から数日が経ったある日。俺は朝から馬を駆り、耀哉様の仲介で面会の約束を取り付けたある方の自宅へと向かっていた。
宇髄様同様、鬼殺隊の最高戦力である柱の地位に就いており、藤の花から抽出した毒を用いて鬼を滅ぼす異色の隊士。そう、
「ここか…」
目的地に到着した俺は、近くの立ち木に馬を繋ぐと手土産片手に門を潜り―
「ごめんくださいませ!」
声を発して待つこと5秒。
「はーい!」
緑色の帯を締め、三つ編みの先に蝶の飾りを付けた女の子がやってきた。この子はたしか…蝶屋敷3人娘の一人で、なほちゃんだったな。
「どちら様ですか?」
「私本日、
「東雲様…少々お待ちください。しのぶさまに確認してきます!」
ペコリと頭を下げ、屋敷の奥へと戻っていくなほちゃん。再び待つこと約1分。
「お待たせしました! しのぶさまは診察室の方でお待ちです」
「ありがとうございます。お邪魔させていただきますね」
靴を脱ぎ、なほちゃんに案内されて屋敷を進み…
「こちらになります!」
「ありがとうございます」
診察室の前へとやってきた。なほちゃんとはそこで別れ―
「失礼します!」
俺は1人、診察室へと入室する。
「蟲柱、胡蝶しのぶ様。本日はお忙しい中、面会の時間を設けていただき、ありがとうございます」
「お待ちしておりました。東雲さん。つい先程まで急患の対応中だった為、御出迎えも出来ず、申し訳ありません」
「いえ、お仕事お疲れ様でございます。あ、これはつまらない物ですが…」
互いに挨拶を交わしたところで、俺は椅子へ座…る前に、手土産として持参した風呂敷包みを解き、中身を胡蝶様へ差し出した。
「パティスリー東雲で販売している焼き菓子の詰め合わせ*1と、
「まぁ、これは高価な物を…ありがとうございます。手伝いの娘達と頂きますね」
胡蝶様が手土産を受け取ってくださったところで、俺も着席。胡蝶様が直々に淹れてくださった緑茶片手に話を始めていく。
「お館様や宇髄さんから聞きました。鬼殺隊に弓隊を作ろうとされているとか?」
「はい。鬼の動きを鈍らせ、頸を刎ねる隙を作り出す事が出来れば、隊士の犠牲を少しでも食い止められると愚考しております」
「なるほど…」
「既に耀哉様と宇髄様からは賛同を頂いており、本日こちらへお邪魔しましたのも、胡蝶様から賛同を頂ければ…と考えての事です」
「………賛同するかどうかを判断する為、幾つか質問をさせてください」
真剣な顔でそう問う胡蝶様に頷き、質問を待つ。さて、どんな事を聞かれるのか…
「まず1つめ。威力を上げる為、矢に爆薬や毒を仕込むと聞いていますが、
「それに関してですが、鏃だけでなく
「それなら、威力の心配は無さそうですね…では、2つめです。仕込む毒ですが、やはり
「いえいえ、胡蝶様の専売特許である藤の毒を使うなど、恐れ多いことです」
「……それでは、何の毒を?」
暗に
「藤の毒ほど、鬼に効果があるかはわかりませんが…自然界には、
「…参考までに、どのような毒を使う予定か伺っても?」
「そうですね…植物由来の毒なら、
「毒性という点では、
前世で得ていた知識などを総動員して、藤の毒に代わる毒を幾つか挙げていったが…あれ? 胡蝶様、なんで
しのぶ視点
「そうですね…植物由来の毒なら、鳥兜、毒空木、毒虫なら豆斑猫や土斑猫が有力候補ですね」
「毒性という点では、唐胡麻や河豚なども捨て難いのですが、
「………」
爽やかな笑顔を浮かべたまま、極めて物騒なことを口にする東雲さんに、私は自分の顔が強張っていくのを感じていました。
先日、お館様から東雲さんの話を伺った際、同席していた宇髄さんが―
―実際に会い、話をしてわかった。あいつは凄まじく頭が切れる。出来る事なら敵に回したくないくらいに…な―
そう仰っていましたが、まったくその通りです。この人は絶対に敵に回してはいけない。
「あの、胡蝶様?」
「あぁ、失礼しました。そこまでしっかりと考えられているなら、私に否やはありません。弓隊の件…私も賛同させていただきますね」
「ありがとうございます!」
強張っていた表情を笑顔に変え、賛同の意思を告げると深々と頭を下げる東雲さん。良いお付き合いが出来るように頑張らなくてはいけませんね。
「賛同して頂けたお礼…という訳ではありませんが、胡蝶様に1つ
東雲さんがそんな事を口にしたのは、その直後でした。耳寄りな話…一体何なのでしょう?
「胡蝶様は小柄で腕の力が弱い為、鬼の頸を刎ねる事が出来ず…それ故に突き技に特化した型と藤の花の毒を合わせた独自の戦法を用いられていると、耀哉様より伺いました」
「はい、私は柱の中で唯一鬼の頚が斬れません。ですが、それが何か?」
「あぁ、その事をどうこう言う訳ではありません。耀哉様も己が体格の不利を熟知し、努力を重ねられている胡蝶様を高く評価されていますし、私も同感です。ですが……胡蝶様でも
「………」
東雲さんの言葉に、私は何も答えることが出来ず…黙り込んでしまいました。どんなに鍛えても、私の腕力では鬼の頸を刎ねられるほどの斬撃の重さが出せなかった。
だからこそ、私は強みであった突きを徹底的に鍛え上げてきた。だけど、そんな私でも鬼の頸を刎ねられる?
そう、これはまさに悪魔の囁き。迂闊に首を縦に振れば、きっと後悔する。だけど…
「お聞かせ、願えますか?」
私はそう呟いてしまいました。
麟矢視点
胡蝶様の返答を聞いた俺は、一言断りを入れた上で庭へと移動。脱いだ背広を縁側に置き、ネクタイを緩め、木刀片手に打ち込み台の前に立つ。そして―
「素人ですので、動きの拙さに関してはご容赦を」
そんな事を言いながら、構えを取り…動き出した。
「………」
俺の動きを無言で見つめ続ける胡蝶様。俺が木刀をどのように振るうかを注視しているんだろうが…生憎、
「せぃっ!」
直後、俺が見せたのは空中回転回し蹴り。アクロバットのパフォーマンス等では、
「蹴り…脚を、使う?」
俺の動きを見て、呆然と呟く胡蝶様。やっぱり、蹴り技は
「はい、脚を使います。一般的に脚の力は腕の力の3倍と言われていますが、胡蝶様の脚力ならそれ以上の力を出せるでしょう」
「そして
「ッ!」
俺の言葉に驚愕の表情を浮かべる胡蝶様。うん、もう一押ししておこう。
「他にも遠心力を上乗せして威力を高める事が出来る長柄武器…薙刀などを使うという手もありますね。鬼の頸を刎ねる事が出来れば良いのですから、日輪刀…
「………」
俺の言葉を聞いた直後、黙り込む胡蝶様。ゆっくり10数えたところで―
「そう…です、ね。ありがとうございます。東雲さん。じっくり考えてみます」
そう言って何かを考え出した。うん、俺が今出来るのはこのくらいだな。
「しのぶさまー」
と、そこへやってきたのは桃色の帯を締め、おかっぱ頭で耳の上辺りに蝶の飾りを付けた女の子がやってきた。たしか…きよちゃんだったな。
「しのぶ様、お昼ごはんの用意が出来ました」
「ありがとう、きよ。すぐに行きますね。あ、そうだ。東雲さんも良かったら、お昼ご飯を食べていかれてください」
「それはありがたいお話ですが、よろしいのですか?」
「はい、アオイはいつもお替り用に多めに作っていますから。きよ、1人分追加とアオイに伝えてください」
「わかりました!」
胡蝶様の言葉に元気よく答え、胡蝶様と俺に頭を下げて戻っていくきよちゃん。さて、お昼ご飯をいただくとしますか。
しのぶ視点
昼食を終え、東雲さんが帰宅した後、私はいつも通り負傷した隊士の治療に勤しみ…無事に今日の予定を済ませる事が出来ました。
「………」
使った薬の補充を終え、ふと手持ち無沙汰になったところで…私は書き損じた紙と鉛筆を手に取り、頭の中に浮かんだ物を書き殴っていく。
「刃物を仕込んだ靴…爪先だけでなく、踵にもあった方が良いでしょうね。長柄武器…悲鳴嶼さんや宇髄さんの様に、鎖を付けるというのも、戦い方に変化を付けられて良いかもしれません」
思いつくままに考えを書き連ね…ふと考えてしまいます。
今からこんな事を始めても手遅れかもしれない。だけど、もしも、もしも間に合ったとしたら…
私は普段、鍵付きの棚の中で保管している
「…鉄地河原さんに相談してみましょう」
机の棚から便箋と万年筆を取り出して、手紙を書き始めます。そして暫く経った頃…
「しのぶさまー」
きよが私を呼びに来ました。窓の外を見てみればもう夕暮れ、集中していたら、時が経つのはあっと言う間ですね。
「しのぶ様、夕ご飯の用意が出来ました」
「ありがとう、きよ。今日の献立は何ですか?」
「東雲様が帰り際にレシピを書いてくださって、早速アオイさんがそれを作ってくれました! 『猪肉の生姜焼き』だそうです!」
「それは楽しみですね」
きよとそんな会話を交わしながら、私は皆が待つ食堂へと向かい…夕食を共にするのでした。
ちなみに、東雲さんがレシピを書いてくれた『猪肉の生姜焼き』はとても美味しかったです。美味しかったのですが…
「アオイ…生姜焼きとマヨネーズの組み合わせは危険ですね」
「はい…あの組み合わせは、すこぶる危険です」
食べ過ぎてしまうのが欠点ですね。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回は3人目の柱が登場予定!
※大正コソコソ噂話※
後日、しのぶさんは刀鍛冶の里の鉄地河原さんや一部の隠等と協議を重ね、新しい戦い方の準備を開始しました。
しかし、その話をどこからか聞きつけたゲスメガネなる人物が、独断で
その隊服と靴、そしてゲスメガネ自身がどうなったかは…ご想像にお任せします(笑)