鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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お待たせいたしました。

お楽しみいただければ幸いです。

2023/02/10

一部修正を行いました。


漆之巻 -麟矢、最終選別へ(起)-

輝利哉視点

 

「………」

 

 背広を脱ぎ、襟締(えりじめ)*1を外された状態で庭に出られた麟矢様。その左手には西洋の弓、コンパウンドボウが握られていて、その視線は『隠』の皆さんが急遽準備された5つの的を見つめられています。

 

「的の大きさと距離は弓道の近的(きんてき)競技*2に則っています。麟矢様、準備はよろしいですか」

「いつでも」

 

 母上の問いかけに一言そう答え、コンパウンドを構えられる麟矢様。

 

「まいります」 

 

 その声と共に淀みの無い動作で矢を番え…一射。間を置かずに二射、三射と、まるで決められた作業のように淡々と矢を放たれていき…

 

「ひなき、結果は?」

「…全て、中心を射貫かれています」

 

 五射全てが的の中心を射抜いていました。

 父上に結果を報告するひなき姉様の声に、僅かに驚きが混じっていたけれど無理もない。じっくり狙った上でならまだわかる。だけどあんなに早く矢を放ったら、普通はまっすぐ飛ばす事も難しい筈だ。

 にちか姉様とかなたは驚きで目を丸くしているし―

 

「人が弓を射るのを間近で見るのは初めてですが、あんなに早く射る事が出来るものなのですね」

 

 くいなもそんな声を上げている。

 

「いいえ、くいな。あれは麟矢様の技量によるもの。弓の持ち方や矢の構え方など、様々な動きに定められた所作や手順のある弓道では、あれほど早く矢を射る事はまずありません。長く弓を扱っている者なら早く射る事自体は出来るでしょうが…あれほど正確に的を射抜くとなると…驚くべき技量の一言ですね」

「どうやら私達は、麟矢君の実力を甘く見積もっていたようだね」

 

 くいなの認識を静かに訂正する母上と、見積もりが甘かったと苦笑する父上。その間に『隠』の皆さんの準備が済んだようだ。

 

「次は隠3人が投げる素焼きの皿を矢で射貫いていただきます。皿の数は全部で30。投げる順番などは完全に不規則です。準備はよろしいですか?」

「いつでも」

「それでは、太鼓の音が合図です。ひなき」

「はい」

 

 ひなき姉様が叩いた太鼓の音と共に、『隠』の皆さんが素焼きの皿を空へと投げ始めた。

 

 

あまね視点

 

 ひなきが叩いた太鼓の音と同時に3人の『隠』が空へと投げ始める素焼きの皿。投げる順番はおろか、高さも早さもバラバラ。

 

「………」

 

 それにも拘らず、麟矢様は顔色一つ変える事無く次々と矢を放ち、皿の全てを射貫いていく。

 最後には3人が一斉に投げた3枚の皿を()()()()()()()()()()()()()()()という離れ業で射貫いてみせた。

 

「神業ですね」

 

 歓声を上げる子ども達を横目に見ながら、私はそう呟き…()()()()()()()()()()()()()()()()へそっと合図を送りました。

 

 

麟矢視点

 

「ふぅ…」

 

 30枚の皿、その全てを無事に射貫いた俺は、歓声を上げるひなきちゃん達へ小さく微笑み、コンパウンドボウを下ろそうとしたが…

 

「ッ!?」

 

 次の瞬間、突然感じた気配。咄嗟に飛び退いた直後、数本の苦無が俺の立っていた場所に突き刺さっていく。襲撃? この真っ昼間に? だとすると相手は鬼ではないのか?

 そんな事を考えながら矢の切れたコンパウンドボウを投げ捨てた俺は、耀哉様達を庇える位置に立つと、足元に敷き詰められた玉砂利を掴み取り―

 

「そこかぁ!」

 

 感じた気配を頼りに、攻撃の主のいるであろう方向へ投石!

 

「チッ!」

 

 手にした苦無(くない)で石を弾く襲撃者。黒尽くめの格好で、顔も黒い布で隠しているが…かなりの巨体だ。2m近くあるだろう。

 

「お、おい。待て」

 

 なんだか()()()()()()()()()()()だが、きっと勘違いだ。白昼堂々産屋敷邸を襲うとは不届き千万。万死に値する!

 

「覚悟!」

 

 俺は前世で得ていた野球の知識。特に球種の知識を基に軌道に変化をつけ、次々と石を投げつけていく。

 カーブ*3! スライダー*4! シュート*5! フォーク*6

 

「くっ、曲がったり落ちたり、面妖な!」

 

 若干焦った声を出しながらも、苦無を振るって石を弾いていく襲撃者。こうなったら、とっておきのナックルボール*7で!

 

「そこまでだよ」

 

 ここで聞こえてきたのは耀哉様の声。握っていた石を投げ捨てた俺は、耀哉様の方へ向き直り膝を突く。

 

「お騒がせして申し訳ありません」

「いや、私達を守ろうとしての行動。感謝しているよ。()()も苦労をかけたね」

「いえ、この程度大した事ではありません」

 

 耀哉様の声にそう答え、顔を隠していた黒い布を取り去る宇髄様。道理で聞き覚えのある声だと思ったよ

 

「済まないね、麟矢君。君を試す為、天元に不意打ちを仕掛けてもらったんだ」

「弓を射終わって気が抜けたところを襲撃して、何も対応出来なければ失格。まぁ、不意打ちを避けるくらいはやってのけるだろうと予想していたが、まさかあそこまでやってのけるとはな」

「それで、天元。麟矢君の実力は?」

「文句の付けようがありません。最終選別も想定外の事態が起きなければ、九分九厘突破出来るでしょう」

 

 宇髄様の言葉に、俺は心の中で歓喜の声を上げる。

 そもそも、俺がどうして耀哉様達の前で弓の腕を披露したり、宇髄様の不意打ちを凌ぐ羽目になったかと言うと…

 耀哉様と柱達が一堂に会して行われる御前会議『柱合会議』。先日行われた会議の場で、俺の主導する鬼殺隊改革に対し、()()()()が強硬に反対したそうだ。

 その柱曰く―

 

 -鬼殺隊の隊士でもない一般人の浅知恵など、実戦の場じゃ糞の…失礼しました。何の役にも立ちません!-

 -改革改革と唱えるなら、せめて最終選別に生き残り、正式な隊士になってから口にするべきです!-

 

 との事だ。まぁ、誰が言い出したかは別にして、反対の内容には一理ある。

 そこで、俺が最終選別を受けられるだけの能力があるか、耀哉様達が直々に見極める事になり…今日に至った訳だ。

 

「麟矢君。直近の最終選別は旧暦10月*8の終わり。今から1ヶ月半後だ。無理に…と言うつもりは無いが、出てみるかい?」

「耀哉様も挑発がお上手でいらっしゃる。是が非でも1ヶ月半後の最終選別、突破したくなりましたよ」

「そうか、それなら…頑張ってきなさい。無事を祈っているよ」

「はい!」

 

 耀哉様の激励にそう答え、頭を下げた俺は宇髄様と共にその場を後に―

 

「ひなき、麟矢君のお見送りを」

「は、はい!」

 

 訂正、ひなきちゃんも一緒にその場を後にした。 

 

 

ひなき視点

 

「ひなき、麟矢君のお見送りを」

「は、はい!」

 

 父上に声をかけられた途端、私は弾かれたように立ち上がり…足を半ば縺れさせ乍ら、麟矢様の元へと駆け寄りました。そして麟矢様、宇髄様と共に歩き出したのですが…

 

「あー、俺とした事がうっかり忘れ物をしちまった。急いで取ってくるから、東雲はひなき様と先に行っててくれ」

 

 少し歩いたところで、宇髄様はそう言いながら庭の方へと戻っていかれました。

 

「………」

 

 運良く麟矢様と2人っきりになれたのですが、どうしましょう。言いたい事は沢山あるのに、上手く考えが纏まりません。

 宇髄様が言われていた通り、麟矢様の実力なら最終選別を突破するのはほぼ確実。だけどそれは絶対じゃない。

 百に一つ、千に一つでも麟矢の身にもしもの事が起きるのであれば、最終選別になど…駄目、産屋敷の家に生まれた者として、こんな考えを抱くなどあってはなら―

 

「ひなきさん」

「は、はひっ!」

 

 麟矢様に突然名前を呼ばれ、思わず上擦った声で返事をしてしまう…あぁ、穴があったら入りたい!

 

「今、不安な思いをさせてますよね。最終選別に出る事は、鬼殺隊の改革に必要な事。だけどひなきさんを不安にさせている事は、申し訳なく思っています」

「い、いえ、そのような…必要な事であると重々承知しております」

「それでも不安にさせている事は事実。だから…」

 

 そう言うと麟矢様は私の手をそっと取り、互いの小指を曲げ絡ませると―

 

「私は絶対に最終選別を突破して、またひなきさんに会いに来ることを約束します。指きりげんまん。嘘ついたら針千本飲ーます。指きった」

 

 指きりで約束してくださいました。

 

「麟矢様。約束ですよ」

「はい、約束です。もしも約束を破ったら、一万回叩いて*9、針を千本飲ませてください」

「はい、力一杯叩きますから」 

 

 その後、戻ってこられた宇髄様と共に帰宅の途に就かれる麟矢様。またお会い出来る事を…信じております。

 

 

麟矢視点

 

 ひなきちゃんに見送られ、産屋敷邸を後にした俺はそのまま帰宅…する事はなく、宇髄様に連れられて宇髄様の邸宅を訪れていた。

 そのまま宇髄様、3人の奥様達と一緒に邸宅内の道場へと向かうと―

 

「東雲。お前の弓や投擲の腕は相当なものだし、身のこなしも下手な隊士以上だ。だがまだ、()()()()()()()()()()

「特別に俺がお前の腕を査定してやる。準備しな」

 

 いきなりそう告げられた。準備も無しにいきなりか…と思わなくもないが、柱から指導を受けられるなんて滅多に無いチャンス。今の俺がどのくらい戦えるか見てもらうとしよう。

 俺は産屋敷邸の庭で弓の腕を披露した時のように背広を脱ぎ、ネクタイを外すと、壁に何本も架けられた木刀の中から、やや短め…小太刀サイズの物を2本取り―

 

「お待たせしました」

 

 左右の手に木刀を持った宇髄様の前に立つ。

 

「小太刀の二刀流。柳生心眼流*10か?」

「詳しい流派までは。執事の後峠(ごとうげ)さんから基礎を学んで、あとは我流です」

「ほぅ…」

「それより、指導の対価は何を支払えば? また、灘の生酒でも持ってきましょうか?」

「そいつも良いが、さっきの投石について詳しく教えろ。あれは色々役に立ちそうだ」

「了解です」

 

 ここまで言葉を交わしたところで、俺と宇髄様は互いに同じだけ距離を取り…

 

「それでは…はじめ!」

 

 雛鶴さんの声が響いた瞬間、同時に動き出した!

 

 

天元視点

 

「はぁぁぁっ!」

 

 気合の籠った声と共に木刀を振るう東雲。俺はそれを二刀で捌き、時に反撃しながら、東雲の動きを見極めていく。

 基礎を学んだ後は我流などと言っていたが、なかなか様になってやがる。

 見たところ、右の順手で持つ小太刀で攻撃。左の逆手で持つ小太刀で防御と左右で担当を分けているようだな。足捌きも上々。

 全集中の呼吸こそ使えないが、技量だけで言えば(かのえ)(つちのと)あたりの隊士にも引けを―

 

「うぉっ!」

 

 いつの間にか()()()()()()()()()()()()左の小太刀による一閃をギリギリで避ける。振るわれた木刀によって生じた風圧で空を舞う前髪に、これが直撃していたら()()()()()やばかったであろう事を悟る。

 

「やるじゃねぇか。東雲、最終選別突破したら、俺の継子(つぐこ)にならねえか? お前なら次代の柱も夢じゃねえかもしれないぞ」

「魅力的な提案ですが…自分としては、影の権力者を気取るのが好みなんですよねぇ」

「そいつは残念」

 

 そんな軽口を叩きあった直後、俺達は再び動き出す。次の激突で勝負を決める!

 

「音の呼吸…壱ノ型。(とどろき)!」

 

 俺は渾身の力で両手の木刀を振り下ろし…咄嗟に二刀を交差させて防御に回った東雲を壁まで吹っ飛ばした!

 

「勝負ありだな」

「そのようで」

 

 柄から上が木っ端微塵になった木刀を床に置き、深々と頭を下げる東雲。俺はそれに応えると、汗を流す為に井戸へと向かい…その途中で素早く考えを纏めていく。

 技量は問題なし。頭も切れる。今のままでも問題なく突破出来るだろう…だが、万が一の可能性を潰しておく為には…

 

「文を書いておくか」

 

 育手と弟子の関係と呼ぶのを憚られるほど短い期間教えを受けただけの関係。だが、俺にとっては数少ない師匠と呼べる存在。

 あの人なら、限られた期間で東雲に全集中の呼吸を習得させる事が出来るだろう。

 俺は今も育手として現役であるあの人に文を書く事を決意し、井戸水で汗を流すのだった。

*1
ネクタイの和名

*2
直径36cmの的を28mの距離から狙って、的中数を競う競技

*3
投手の利き腕と反対の方向に曲がりながら落ちる

*4
投手の利き腕と反対の方向に曲がる

*5
投手の利き腕方向に曲がる

*6
縦に落ちる

*7
不規則に揺れながら落ちる

*8
新暦10月下旬から12月上旬

*9
指きりげんまんのげんまんは、『拳万』と書き、約束を破った場合握り拳で一万回叩くという制裁を加えるという意味がある

*10
現代にも伝わる日本の伝統武術の流派。1640年頃仙台藩の武士、竹永隼人兼次が、柳生宗矩より新陰流を学んだ後に開いたと言われている。小太刀二刀流の他、体術・剣術・居合術・棒術・薙刀術などの系統がある




最後までお読みいただきありがとうございました。
次回、育手としてあのキャラクターが登場!



※大正コソコソ噂話※

麟矢から変化球の投げ方を教わった宇髄さん。1週間足らずで全ての球種をマスターし、苦無や手裏剣、爆薬丸の投擲に役立てているそうです。
宇髄さん曰く「軌道が変化するのは派手だし、無駄な消費も減る! 良い事尽くめだ!!」とのことです。
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