鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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お待たせいたしました。

今回は育手としてあのキャラクター、そして弟子として2人のキャラクターが登場します。

少々短いですが、お楽しみいただければ幸いです。

また、最新話掲載に伴い、漆之巻のタイトルを一部変更しております。
内容に変更はありません。


捌之巻 -麟矢、最終選別へ(承)-

麟矢視点

 

 前にも言ったと思うが…俺、東雲麟矢は()()()だ。

 死亡の経緯が経緯なだけに*1、前世の記憶と知識を持ち越した状態での転生が認められた上―

 

 -それから些少ではありますが、転生特典も付与させていただきます-

 

 転生特典も貰う事が出来た。貰った転生特典は全部で3つ。

 1つ目はこの肉体。無病息災で、生まれ変わってから今日に至るまで、風邪ひとつ引いた事が無い。

 また自然治癒能力も常人の数倍はあるようで、怪我の治りも早かったりする。

 2つ目は生物・非生物を問わず、あらゆる乗り物を乗りこなす事が出来る『騎乗』のスキル。

 3つ目はあらゆる事柄を通常よりも早く習熟出来る『習熟度増加』のスキル。これのおかげで、前世で嗜んでいたイラストや工作、料理の腕前はプロ級になれたし、8歳の頃から鍛錬を続けている弓も相当な腕前になれた。

 もっとも弓に関しては、早撃ちやアクロバティックな動きと組み合わせているから、弓道を修めている人間に言わせると『邪道』らしい。閑話休題。

  

「地図によるとこの辺りなんだけど…」

 

 そんな事を考えながら歩いていた俺は、目的地が近い事に気づき、足を止めて周囲を見回す。と言っても周りにあるのは樹、樹、樹。

  

「………道は続いているから、もう少し登ってみるか」

 

 そう呟き、俺は再び山道を登り始める。そもそもの話、何故俺が山を登っているかだが…3日前に宇髄様の鎹鴉である『虹丸』が俺に手紙を運んで来た事が全ての発端だ。

 その手紙には―

 

 -俺が『音の呼吸』に開眼する前、僅かな期間だが教えを受けた育手に話をつけた。-

 -相当厳しい指導だが、その人ならお前が最終選別を受けるまでに、全集中の呼吸を習得させる事が出来る筈だ-

 -お前にその気があるなら3日後の昼、地図に書かれた場所を訪ねろ-

 

 と書かれており、育手の名も記されていた。その人物の名は…

 

「お、着いたか」

 

 七合目辺りまで登ったところで急に目の前が開け、一軒の板葺き屋根の家が見えた。どうやら、目的地に着いたらしい。

 俺は山登りで乱れた呼吸を整え、家へと近づき―

 

「ごめんくださいませ! 育手の桑島慈悟郎(くわしまじごろう)様はご在宅でしょうか!」

 

 板戸を叩きながら、そう声をあげた。

 

 

慈悟郎視点

 

獪岳(かいがく)善逸(ぜんいつ)。今日は昼から客人が来る」

 

 朝食の途中、儂は弟子の獪岳と善逸にそう切り出し、鍛錬の順番をいつもと変える事を告げた。

 

「こんな山の上まで訪ねてくるなんてじいちゃん、客人ってどんな人なの?」

「先生と呼べ、この馬鹿」

「痛ぁっ!」 

 

 つい儂の事をじいちゃんと呼んでしまう善逸に対し、容赦無く拳を振るう獪岳。善逸がここに来た3ヶ月前から毎日のように見られる光景じゃ。

 

「獪岳。すぐに手を出すのは改めた方が良いと前にも言った筈じゃぞ」

「申し訳ありません、先生。この馬鹿が全く学習しないので」

だからって、殴らなくたっていいだろ…

「あぁっ?」

なんでもないです…」 

 

 毎日のように繰り広げられるこのやり取り。儂は苦笑しつつ、善逸の問いへ答えていく。

 

「お前達がここに来る前、短期間だが儂の元で全集中の呼吸について学んだ者がおる。その男は一月半程で独自の呼吸を生み出し、儂の手を離れたのじゃが…先日、その男から文が届いての」

「『自分の継子にしても構わないと思えるほどの逸材をそちらへ送るので、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』とあった」

「なっ!?」

「40日以内ぃ!? 無理無理無理! そんなの出来る訳無いよぉ!」

「五月蠅い! 喚くな!」

「痛ぁっ!」 

 

 手紙の内容に大声を上げる善逸と、そんな善逸を五月蠅いと殴る獪岳。そんな2人に儂は再び苦笑しつつ、鍛錬の前にこの家を綺麗に掃除する事を命じた。そして―

 

 

「………来たか」

 

 家の掃除を済ませた後、(おもり)代わりの石を入れた籠を背負って走り込みに出た2人を見送って1時間が経とうとした頃、何者かがこちらへ近づいてくる気配を感じ取った。

 

「………」

 

 儂は無言のまま杖を片手に立ち上がり、板戸の陰に身を潜めると―

 

「ごめんくださいませ! 育手の桑島慈悟郎様はご在宅でしょうか!」

「お入りください」

 

 来訪者の声にそう返しながら、静かに杖を持ち替え…居合の構えを取る。

 

「失礼します!」

 

 僅かな間の後板戸が開き、1人の若者が土間へと足を踏み入れたその瞬間!

 

「隙ありぃ!」

 

 儂は敷居を超えた若者の右足を打ち据えようと、居合の要領で杖を振るった。杖は寸分の狂いもなく青年の右脛へと向かい、(したた)かに打ち据える筈じゃった。が…

 

「………」

「なっ!?」

 

 青年は儂の不意打ちをまるで読んでいたかのように足を引き、杖の一撃をやり過ごしてみせた。信じられん! 何度も受けて、対処法を熟知しておる獪岳ならともかく、初見で避けるとは!

 

「ぬぉ!?」

 

 直後、片足が義足の儂は踏ん張りが効かず、体勢を崩してしまった。そのまま板戸に顔をぶつけるかと思ったが…

 

「っと!」

 

 その声と共に青年の手が伸び、儂を支えてくれた。

 

「大丈夫ですか?」

「あぁいや、済まんな。見苦しいところを見せた」

 

 青年の手を借りて体勢を立て直した儂は、そのまま居間へと上がり、改めて青年と向き合う。

 

「音柱・宇髄天元様よりご紹介いただきました。東雲麟矢と申します」

「桑島慈悟郎じゃ。最初に言っておくが、儂は少々考えが古い。鍛錬の内容も厳しいものとなるが…構わんかな?」

「覚悟の上です。ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いいたします」

 

 そう言って頭を下げる東の…いや麟矢。書生のような格好*2で一見わかりにくいが、服の下の体は相当鍛えられておるようだ。

 背負っていた背嚢も重さが8貫*3はあるじゃろう。

 音柱殿…天元の奴から文が届いた時は、半信半疑じゃったが…あの男が継子にしても構わないと思うだけの素質があるのは、間違いないようじゃな。

 

「間もなく、走り込みに出た2人の弟子が戻ってくる。昼飯を食べてから鍛錬を始めるとしよう」

「それでしたら、昼は私が準備させていただきます。料理には多少心得がありますし、()()()()()()()()()()()()()

 

 思ってもみない申し出に、思わず儂は首を縦に振ってしまった。すぐさま動き出した麟矢を止めようかと思ったが…

 

「見事な手際じゃ…」

 

 テキパキと背嚢から材料や道具を取り出し、調理へ取り掛かる姿にそのまま任せてみようと考え直す。

 どんな物が出来るか、楽しみじゃな。

 

 

善逸視点

 

「はぁっ、はぁっ…あぁ、疲れたー」

「五月蝿い、いちいち声に出すな」

 

 走り込みを終えて、背負っていた石入りの籠を降ろしながらそう口にした瞬間、獪岳から厳しい声が飛んでくる。

 獪岳の言いたい事はわかる。わかってる。だけど、口に出てしまうのは仕方が…

 

「ん? なんだか、凄く良い匂いがする」

 

 家の方から漂う良い匂いに気が付いたのはその時だ。何かを焼いているような香ばしい…これ肉だ! ()()()()()()()()()()()だ!

 俺は矢も楯も堪らず、家へと走り―

 

「じいちゃん! 肉なんてどうし、た…の」

 

 土間の台所にいるであろう爺ちゃんへ声をかけたけど、台所で調理していたのは見慣れない顔の男。

 

「え、だ、誰?」

「東雲麟矢と申します。善逸さんと獪岳さんですね。もう少しで出来ますから、手を洗って待っていてください」

 

 俺と俺の背後に立って様子を窺う獪岳に笑顔でそう言うと、真剣な表情で調理に戻る東雲って名前の男。

 

「2人とも戻ったか。今日の昼はそこの麟矢が作ってくれる。ほれ、手を洗ってこい」

「う、うん」

 

 じいちゃんに促された俺達は手を洗い、軽く全身の汗を拭いて居間へと戻る。

 

「お待たせしました。献立は『ベーコン(塩漬け燻製肉)と蕪の葉の炒飯』『蕪の味噌汁』『南瓜のソテー』『蕨と油揚げの煮物』になります」

 

 すぐさま用意された膳に載せられていたのは、美味しそうな料理の数々。

 

「では、いただくとしようかの。いただきます」

「「「いただきます」」」

 

 じいちゃんの声に続いていただきますと唱え、早速料理を食べ始めたけど―

 

美味(うま)っ!」

 

 料理を口にした途端、思わず声が出る。炒飯っていう米料理は、米の一粒一粒に浸み込んだ燻製肉の油と塩気が、蕪の葉のシャキシャキした歯触りと合わさって文字通り匙を止められない。

 かぼちゃのソテーは、どことなくライスカレーに似たピリッとした辛みと香りが、かぼちゃのホクホクした甘さとよく合っている。

 蕨と油揚げの煮物も塩梅がちょうどいいし、蕪の味噌汁は優しい味わいでなんだかホッとする。

 

「じいちゃんの作る飯に負けないくらい美味いです! なっ、獪岳!」

「……美味いのは同感だが、いちいち喚くな」

 

 俺の声に仏頂面でそう答える獪岳。あぁ、まただ。またこの音が聞こえる。獪岳の心の中にある()()()()()()()()()()()()()()()()()()が…。

 なぁ、獪岳。お前、何がそんなに不満なんだよ…じいちゃんは滅茶苦茶厳しいけど、俺達の事を心底思ってくれてるじゃないか。

 親には捨てられ、他人には利用されてばかり。おまけに臆病で逃げ癖の染み着いた俺みたいな人間を拾ってくれて、雨風凌げる暖かい家に置いてくれてるじゃないか。

 鍛錬の時は厳しいけど、鍛錬が終わったらいつも温かくて美味い飯を作ってくれて、温かい風呂にも入れてくれるじゃないか。

 今だって、こんなに美味い飯が食えてるじゃないか。それなのに、これ以上何を求めているんだよ…。

 正直、俺にはどうすればいいのかわからない。じいちゃんはきっと、何とかしようとしているんだろうけど…きっと俺には出来る事なんて無いんだろう…。

 

「善逸くん。どうしました? もしかして、やっぱり口に合わなかったとか?」

「い、いえ! あ…あんまり美味しくて吃驚してただけです!」

 

 東雲さんの問いかけへ咄嗟にそう答え、誤魔化すように炒飯を口に運ぶ。さっきと変わらず美味いけど…俺は心のどこかでその味を素直に楽しめないでいた。

 

 

慈悟郎視点

 

「ふぅ、馳走になった」

 

 麟矢の作った昼食を綺麗に平らげた儂は、麟矢が淹れ直してくれた熱い緑茶を一口啜り…

 

「少し休んでから、昼の鍛錬を始める。まずは…獪岳」

「はい!」

「麟矢の実力を見る。兄弟子として胸を貸してやれ」

「俺がですか?」

「左様。仮にも柱が継子にしたいと言うほどの男じゃ。今の善逸では荷が重いかもしれん」

「………わかりました。俺で良ければ」

 

 爽やかに笑いそう答える獪岳じゃが…内心不満に感じておる事はわかっておる。

 これは儂の勘じゃが…麟矢と手合わせする事で、獪岳も己の殻を破る切っ掛けとなるかもしれん。

 真面目で努力家じゃが、霹靂一閃のみを使えぬ等、どこか歪みを感じさせる獪岳。儂自身の力でその歪みを正せるのが一番じゃったが…事ここに至っては、第三者の力を借りるのも一つの手。

 儂は麟矢の存在がある種の起爆剤となることを祈り、また湯呑に口をつけるのじゃった。

*1
死神側の確認不足で、同音異字の別人と間違えられた

*2
スタンドカラーシャツに着物、馬乗り袴(股の分かれたズボン状の袴)

*3
約30kg




最後までお読みいただきありがとうございました。
次回、麟矢vs獪岳!



※大正コソコソ噂話※

今回麟矢が持ち込んだ30kgもの荷物。
そのおよそ8割5分は、燻製肉や乾物、調味料、調理道具といった料理関係でした。
麟矢曰く「美味い物を食べれば皆笑顔になるからね」との事でしたが、中身の詳細を知った善逸くんからは「アンタ、どこの料理人だよ!」と言われたそうです。
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