真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第1話

 

 既に開始の合図がなってから1時間は経過していただろうか。 

 周囲をぐるりと巨大な壁兼観覧席で覆われた闘技場の中では、障壁によって区切られた区画ごとに若き精霊師が激戦を演じていた。

 

 その中でも一際目立つのは、太陽に照らされて輝く三つ編みの銀色の髪に、どこか修道服を彷彿させる白い制服を身に纏う少女と、彼女を背に乗せて空を我が物顔で舞っている一匹の竜だった。

 

 赤い鱗の表面を炎で覆われ、その巨大な一対の翼をはためかせる度に小さな火の粉を踊らせるその姿はどこか太陽を連想させる。

 精霊の中でも上位種である竜種、その中でも更に最上位の精霊であろう赤竜の姿に観客たちは声すら出せず、ただただ畏敬の念を抱きながら見つめていた。

 

 そんな衆人の視線を浴びている中、赤竜の身体がより一層赤く燃え上がり、その巨体に膨大な霊力が満ち始めた。

 

 攻撃が来る。その確信を前に赤竜と相対する少年は、どこか勇者のようになった気分を抱きながら防御態勢を取る。

 

「やりなさいッ!サラマンダーッ!!」

 

 背に乗せた小さな主人の指示に従い、サラマンダーは瞳をギラつかせながら大きく息を吸い込んだ。

 

 そして次の瞬間には口内に生え揃った鋭い牙を見せながら溜め込んだ息──否、紅蓮の炎を眼下の小さな獲物に向けて躊躇いも無く放った。

 ゴォォオと瞬時に燃え広がる霊力を帯びた業火は地面を溶かしながら標的である少年を津波の如く呑み込まんと迫っていく。

 

「おいおい、これが一年生が出せる威力なのか!?」

 

「これが今年の新入生首席、《炎竜の巫女》か!」

 

「ヴァルハート家の天才……か」

 

 少女の指示に従うサラマンダーを観戦していた生徒たちから驚嘆と悲鳴、歓声の入り混じった声が次々に上がってくる。教師陣の中にも、信じられないと言わんばかりに声を荒げる者たちがいる。

 

 が、それも当然の反応だ。少女の精霊、サラマンダーが放った炎の息吹の威力は明らかに学生レベルでは無い。恐らくプロの精霊師の霊術と何ら遜色無い。それこそ未熟な学生が相手となれば下手すれば死者が出てもおかしくは無い程だ。

 

 新入生主席である《炎竜の巫女》ことレイア・ヴァルハートもそんなことは百も承知だ。自分が全力で霊力を込めてブレスを放てば大抵の相手はなす術なく黒焦げになってしまうだろう。

 

 だが、今の彼女はそんな気遣いなど全くしていなかった。レイアはひたすらに自らの持つ全霊力を総動員してサラマンダーへと流し込み、本気の業火を眼下の少年に向けて放っていた。

 

 だというのに──本来ならば真っ黒焦げになって焼死するであろう必殺の一撃を放ったというのに、レイアにはまるで手応えが感じられなかった。

 

 そして彼女のその直感を証明するかのように、眼下に広がる炎が中から現れた膨大な水の渦によって消火され、辺り一帯が炎の消火によって発生した大量の水蒸気で覆われる。

 

 本気の一撃が届かなかった。その事実に水蒸気の中で思わず顔を顰めるレイアは、次の瞬間にはより顔を歪ませることになった。

 

「やるな、焦ったぞ」

 

「ッ!!」

 

 その言葉とは裏腹に欠片も焦りを感じさせない余裕を持った声音と共に水蒸気が霊術による突風で払われ、レイアの眼前に少年がその姿を現した。

 

 少年の纏う学院指定の白い制服には汚れ一つなく綺麗な状態を保っており、それは先程の一撃がまるで効いてなかったことを如実に示していた。どうやら炎を完全に防御されたらしい。

 

 レイアが霊力で視力を強化しながら少年を確認すれば、彼の周囲にはフワフワと青い輝きと緑色の輝きを放つ小さな球体──水と風の微精霊たちが数体ずつ浮遊していた。察するに先程の防御は彼らの力を使って放ったのだろう。 

 

 他でもない自らの契約精霊であるサラマンダーの放った業火を……。

 

「ッ!」

 

 ギリッと怒りと屈辱でレイアは思わず歯を食いしばる。

 先程の一撃は殺すつもりこそ無かったが黒焦げにするつもりで放った全身全霊の一撃だった。それをあろうことか契約精霊ですらない、微精霊によって防がれた上に火傷一つ無いとは……。

 

 一つ上の学年にとんでもない化物がいると噂には聞いていたが、それでもこれほどの実力差があるとは思っていなかった。

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

 激しい霊力の消費により呼吸が乱れる。思わず立っていられなくなり、サラマンダーの背に片膝をつきながら呼吸を整える。

 身体が鉛のように重く今すぐに地面に倒れたい衝動に駆られる。けれど倒れる訳にはいかない。名門ヴァルハート家の人間としてそんな無様を観衆の前で晒す訳にはいかない。

 

 

「苦しそうだな後輩。どうだ、ここらで手打ちにしないか?」

 

 

「冗談じゃないッ!こんな形で終わってたまるもんですかッ!」

 

 

 侮辱とも言える提案にレイアが怒りを露わにしながら吠えると少年は困ったように笑いながら「だよねぇ〜」と呟くと仕方ないという様子で手元から一つの巻物を取り出した。

 

 そのまま少年が呪文を唱えて巻物を広げれば巻物から彼の眼前に鈍色に輝く一本の剣が現れた。

 少年は剣を手に取るとゆっくりと構えを取った。同時にフワフワと浮かぶ微精霊たちが少年の剣へと取り込まれ、青緑色の輝きを放ち始める。

 

 

「じゃあ、行くぞ」

 

 告げると同時に少年がレイアに向かって駆け出す。

 少年が脚に力を込めて跳躍すれば霊力によって強化された脚力によって高く舞い上がり、宙で風の霊術を使って滞空するとそのままサラマンダー目掛けて矢の如く迫る。

 

 無論、少年の接近をただで許すサラマンダーでは無い。目の前に浮かぶ蝿を撃ち落とさんと顎門を開き、炎弾を少年に向けて放つ。炎弾の火力自体は先程の一撃と比べれば比較するまでもなく弱いが、それでも無防備に受ければ火傷では済まない。

 

 故に応じて少年は迫ってくる炎弾に向けて剣を振るう。

 すると剣から表面が水に覆われた三日月型の斬撃が炎弾に向けて飛翔し、衝突した相反する二つの属性攻撃は互いに消滅し、再び周辺一帯に水蒸気を発生させた。

 

「くッ!」

 

 相手を見失ったレイアは一度距離を取るべくサラマンダーに命じて後方に後退しようとするが、それより先んじて水蒸気が振り払われ、猛スピードで宙を飛んできた少年がサラマンダーの背へと着地し手にした剣の先をレイアの首へと突き付けた。

 

 

 同時に試合の終わりを告げる鐘と歓声が鳴り響く。

 この戦闘において防御一辺倒だった少年、ローク・アレアスの初めての攻勢により既に満身創痍だったレイアは初めての敗北を喫することとなった。

 

 

 

 


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