真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第102話

「お、名前覚えてくれてたのか。嬉しいね」

 

 俺がその名を呟くと男、ホーンテッドは笑みを浮かべながら俺が名前を覚えているこことに喜んでいるが、どうでもいい。

 

それよりも———。

 

「どうしてここにいる?」

 

「いちゃ駄目かい?」

 

「質問に答えろ」

 

 こちらをおちょくるような言動に苛立ちながら再度、問い掛けるとホーンテッドやれやれと苦笑を浮かべながら口を開いた。

 

「ここに来た理由の一つは前と変わらない。君の勧誘だよ」

 

「それなら前に断った筈だが……」

 

「おいおい、強情だな。俺たちがこんなに熱烈なアプローチをしているっていうのに」

 

「自分がやった所業を思い出すんだな」

 

 そう言って悲しげに嘆くホーンテッドに対して俺はそう言い返す。

 どうしてこの男は俺が仲間になると思い込んでいるのか、まるで理解することができない。

 

 

ましてや、四凶の解放など……ッ!

 

 

「……おや、その様子からして既にこちらの動向はある程度把握しているようだね」

 

 

「なら、やはり四凶の解放は……」

 

「勿論、僕らの仕業さ」

 

 誇るように自らの所業を言い放つホーンテッドに気付けばロークは尋ねていた。

 

「そこまでして一体、何がしたいんだ?」

 

「あれ? ユーマから聞いたんじゃないのか? 革命だよ、革命」

 

 周囲の人々が俺たちの様子に、ホーンテッドはそう言うと両手を広げながら語る。

 

「僕たちで新しい世界を作るんだよ。逸れ者たちがもっと自由に生きられる世界をね」

 

「で、その為に今の世界を滅ぼそうって?」

 

「新しい何かを創造する為には古い物の破壊は必須だからね」

 

 そう呟きながらホーンテッドは懐から一つの封霊石を取り出す。

 

 普段、市場で見るよりも大きな封霊石が黒い輝きを放つのを見て俺はここが街中だと言うのも気にせず動いた。

 

 依代から剣精霊を取り出し、そのまま駆け出す。

 

 一気に距離を詰め、ホーンテッドの胴を目掛けて剣を勢いよく横薙ぎに振るおうとするが、直後に地面から生えてきた一本の杭によって妨害さてしまう。

 

 

「チッ」

 

「ハハハ、動きに躊躇いがない。やるね」

 

「……」

 

 

 現れた邪霊、ヴラドは前と変わらない可憐なドレス姿で現れると主人を霊術によって守り、相変わらず人形のように感情の読めない瞳でこちらを見つめてくる。

 

「うおッ! いきなりなんだッ!?」

 

「おいおい、こんなところで乱闘かッ!?」

 

「離れろッ! 巻き込まれるぞッ!!」

 

「誰か警邏隊を呼んで来い!」

 

 

 大市場でいきなり戦闘を始めた俺たちの様子に周囲の人々の驚愕と動揺の声が広がっていく。

 

「さて、これ以上の邪魔が入る前にもう一つの目的を果たさせ貰おうか」

 

「何を———ッ!?」

 

 

「無論、破壊さ」

 

 

 

 ホーンテッドの言葉が耳に入ると同時に眩い光が辺り一帯を包み込む。

 

 

『オオォォォォォオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

 

 視界一杯に広がる輝きに思わず顔を覆っていた俺は、人々の悲鳴の中で確かにその恐ろしい声を聞いた。

 

 

 

******

 

「これは……」

 

 生徒会室で作業していたミーシャは学院都市に広がる異様な霊力を感じ取り、窓から外の様子を確認する。

 

 

 先程まで晴天だった筈の空はまるで夜の如き闇色に染まっており、大市場の一角からは今も尚、この異常の原因と思わしき輝きが放たれている。

 

 

「ミーシャ様」

 

 

「セナ、今すぐに学院長に連絡を。先生方や学生たちと共に住民をこの学院に避難させなければ……」

 

 不安げな表情を浮かべるセナにミーシャはそう指示を出す。

 

「一体、何が起きているのですか?」

 

「…………」

 

 

 ミーシャはセナの質問に答えず、ジッと光を見つめる。

 光からかつて大精霊演武祭で戦ったユーマの邪霊、クロム・クルアハを遥かに超える禍々しい気配に嫌な予感を覚えるのだった。

 

 

 

******

 

「………」

 

「これは………」

 

 学院都市ガラテアの南東に設営された劇場にて、予定していた公演を終えたケイとその従者であるシルトットは外の様子の変化に驚きで目を見開く。

 

 

「シル、今すぐ観客たちを連れて学院に避難するんだ。ここにいるのは危険だと伝えてね」

 

 

「ケイ様? 一体何を言って……」

 

 

「二度は言わないよ、さっさと行きなさい」

 

 

「は、はいッ!」

 

 シルトットは困惑しながらも外の異常と普段にも増して真剣な表情を浮かべる主人の様子から指示に従うと、劇場から出てきた観客たちの避難誘導を始める。

 

「やれやれ、本当に魔王でも降臨してしまいそうな雰囲気だね」

 

 禍々しい光を眺めながらそう呟いたケイの表情は、言葉とは裏腹にどこか楽しげな笑みを浮かべていた。

 

******

 

 ビブリア廃神殿にて結界構築の作業を行っている精霊師たちの護衛を行っていたゼルは、突如としてガラテア方面から感じた禍々しい気配に視線を向け、息を呑む。

 

 

「何だ、アレは……」

 

 

 澄み渡った青空が広がった先、ガラテアの上空だけがまるで切り取られてしまったかのように黒く染まっている。

 

 

「空に何かが昇っていますッ!」

 

 

「……ッ!」

 

 

 一人の精霊師の叫びにその場にいた全員がガラテアが存在する方角へと視線を向ける。

 

 地面から長大な黒い影が現れたかと思えばそのまま空に昇っていき、空を泳ぐように旋回する。

 

 その光景はゼルにとって学院都市への帰還を決意するには十分だった。

 

 

「みんな、突然で申し訳ないが私は一足先にガラテアに戻らせて貰う。この場は君たちに任せても大丈夫か?」

 

 

「ええ、こちらの邪霊は想定よりも弱いので我々だけで問題ありません。それよりもガラテアの様子が心配です。行って下さい」

 

「すまない、恩に着る」

 

 自分と同じく護衛を担当する精霊師の言葉にゼルは感謝しながらすぐに戻るべく、移動用の風精霊が収められた封霊石を利用するが、どこで「待って下さい」と彼を止める声が掛かる。

 

 

 カボチャ頭の柄尻が特徴的な鎌の礼装を持つ男、今回の作業に有志で参加した精霊師オーウェン・リブリアだった。

 

 

「ゼルさん、僕も連れて行ってくれませんか。僕のサンダーバードならそっちの精霊よりも早く戻れます」

 

「だが、君まで連れて行けばこちらの戦力が……」

 

 こちらの戦力低下を懸念するゼルにオーウェンは「そんなことを言っている場合じゃないですよ」と険しい表情で告げる。

 

「現れたアレはほぼ間違いなく解放された四凶アぺプスです。僕たちが戻らないと手遅れになりますよ。何なら僕らだけでも戦力が足りないほどだ」

 

「アレが……」

 

「馬鹿な、四凶が活動するにはまだ時間が掛かる筈だと———」

 

 空を漂う黒い影、アぺプスを眺めながら驚くゼルの横で精霊師の一人がまだ四凶が活動できる筈がないとオーウェンに反論する。

 

「今、そんな議論をしている場合じゃない筈だ。そうでしょう?」

 

「……ああ、あれが四凶アぺプスなのだとしたら猶更だ」

 

 ゼルはオーウェンの言葉に頷くと彼が呼び出したサンダーバードの背に飛び乗る。

 

「このまま私たち二人はガラテアに戻る。こちらはライクスに任せたい」

 

「承知しました。こちらもすぐに邪霊を処理して順次、援軍を送ります」

 

 ゼルからこの現場の指揮を頼まれた精霊師、ライクスは頷きなが更に援軍を送ることを約束する。

 

「よし、オーウェン」

 

「はい、サンダーバード!」

 

『キィイイッ!』

 

 オーウェンの指示に応じてサンダーバードは勢いよく空へと飛び立ち、二人はガラテアへと急ぐのだった。

 

******

 

「コイツは……」

 

 

『シャァアアア…………』

 

 

 漆黒の封霊石の中から現れたのは漆黒の鱗を纏った大蛇の邪霊だった。

 邪霊は全身に黒い霧を纏いながら闇色に染まった空へと昇ると、その金色の瞳でロークを睨み付けた。

 

 

 その瞬間だった。

 

 

 

「……ッ!!」

 

 

 

 金色の瞳と目が合った途端、これまでに感じたことがないほどの凄まじい悪寒と重圧をロークが襲う。

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁッ!」

 

 

 ロークは思わずその場に立っていられなくなり、地面に膝を突いてしまう。

 

 

 ———クソッ! こんな敵の目の前で何をやってんだッ!?

 

 

「はぁ、はぁ……くっ」

 

 

「ハハハ、落ち着こうと必死だね」

 

 

 ロークが乱れた呼吸を必死に整えようとしていると、前からホーンテッドの笑い声が耳に入る。

 

 

「けれど膝を突くだけで済んだローク君は自分を誇って良いと思うよ。周りの奴らは立つどころか意識すら保てない有様だしね」

 

 

「なッ!?」

 

 

 言われるがままにロークが周囲に視線を向けると確かにホーンテッドの言うようにほとんどの人々が倒れている。

 

 一体、あの邪霊はなんだというのか。

 

 

「まぁ、無理もないさ。邪霊戦役を生き抜いた生ける伝説の一体、冥闇龍アぺプスのプレッシャーを浴びているんだからね」

 

 

「アぺプス……だとッ!?」

 

 

 空を泳ぐように舞っている大蛇の邪霊を見つめながらロークは戦慄する。

 

 

 ———コイツがあの開放された四凶、アぺプスだっていうのか?

 

 

「いや、けれどアぺプスが動くにはまだ時間が……」

 

 

 そうだ、アぺプスが動けるようになるまでまだ時間が掛かるとアルベルト先生は言っていた筈だ。

 

 

 まさか情報に齟齬があったというのだろうか?

 いや、それ以前に四凶と呼ばれるほどの邪霊を従えることができるというのか。

 

 

 グルグルと様々な考えが頭を巡る中、ホーンテッドの笑い声がロークの耳に入る。

 

 

「ローク君がどんな情報を聞いたかは知らないけど、残念だったね。アぺプスはこうして問題無く活動できているよ」

 

 

「……ッ!」

 

 

 ホーンテッドの言葉から嘘は感じらない。

 

 

 加えて目の前の邪霊の姿はかつて文献で見たアぺプスの姿と非常に似通っているし、纏っている霊力は今まで出会ったどの邪霊よりも禍々しい。

 

 

 自分の持つ知識や直感が目の前の邪霊が本物のアぺプスだと告げてくるのを感じながらロークはゆっくりと立ち上がる。

 

 

「勘弁してくれよ……」

 

 

 呼吸を整えて動けるようにはなったが、依然として状況は良くない。

 

 何なら目の前の邪霊が四凶であること、仮にも精霊師の卵として倒れている人々を保護する必要が出てきてしまった分、悪化している。

 

 

 控えめに言って絶望的だった。

 

 

『ギィイイッ!』

 

『グォオオオッ!』

 

「ひぃいい、助けてッ!」

 

「……ッ! 今度はなんだッ!?」

 

 

 息をつく間もなく遠くから聞こえてくる精霊の雄叫びと悲鳴にロークは何事かと叫ぶ。

 

 既にいっぱいいっぱいだと言うのにこれ以上、何が起きているというのか。

 

 

「アぺプスの霊力に充てられた精霊たちが恐怖で暴れ出しているのさ。ここは学院都市と呼ばれるだけあって封霊石を売る店も多いからね」

 

 

「恐怖で暴れ出す? まさか……」

 

 

 ホーンテッドの言葉にガラテアで起きた精霊騒ぎがロークの脳裏を過る。

 

 

 ———まさか、あの騒ぎの原因はッ!!

 

 

「強い闇の霊力はそれだけで周囲を恐れ、怯えさせる。四凶ほどの邪霊が放つ霊力となれば尚更だ」

 

 

「前の騒ぎもお前たちの仕業だったのかッ!」

 

 

 ロークがそう叫ぶとホーンテッドは「それは少し違う」と首を横に振る。

 

 

「この街に潜伏しているだけで騒ぎを起こすつもりは無かったんだよ。けど、この封霊石じゃアぺプスの霊力を完全には抑えられなかったみたいでね、気配を感じ取った精霊たちが少しでも離れようと暴走しちゃったんだよ」

 

 

「…………」

 

 

 そう言って「参っちゃうよね」と笑うホーンテッドに対してロークは既に何かを言い返す余裕を失っていた。

 

 

 前方にホーンテッドと四凶、周囲には倒れた人々、加えて闇の霊力あてられた精霊たちがガラテアの至るところで暴れている。

 

 

 ———どうする? この状況で俺はどうすれば良い?

 

 

 そもそも自分一人ではアぺプスは愚か、ホーンテッドですら抑えられる気がしない。

 

 

「どうだい? 今度こそこっちに来る気になったかい?」

 

「……ッ!」

 

 ホーンテッドはロークにそう問いかけながら腕をゆっくりと上げる。

 

 こちらの返答によってその腕が処刑人の刃も如く自分に振り下ろされることを察し、ロークは言葉を詰まらせる。

 

 

 ドクンドクンと激しく脈動する胸を手で押さえ付け、精一杯の覚悟と共にロークは答えを吐き出した。

 

「———断るッ!!」

 

「……そうかい」

 

 ロークの返答にホーンテッドから呆れの混じった声が返ってくる。

 

「遅いか、早いかの違いなのに……。馬鹿だなぁ」

 

 

『ガァァァァァァアアアアアアアアアッ!!』

 

 ———来るッ!

 

 

 ホーンテッドの腕が振り下ろされると共にガラテア全体にアぺプスの咆哮が響き渡った。

 

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