真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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感想、お気に入り、評価ありがとうございます。
ちょっと説明多めの回になります。


11話

 

 今や精霊師なんて職業が生まれるほど人々の生活と精霊たちは密接な関係を築き上げているがその実、精霊についてはまだまだ謎が多い。

 

 その中でも数少ない判明している事実として精霊には死が存在しないことが挙げられる。人間と違って精霊は膨大な霊力を帯びた霊体である為、傷を負っても精霊たちは死にはしない。

 

 代わりに現界を保てなくなる程の危機に瀕すると便宜上、《元霊界》と呼ばれるこの世界とは別次元に存在する精霊たちのみが存在できる世界へと消え去ってしまうことが確認されている。

 

 この現象を《送還》と呼び送還された精霊はこちらの世界で得た記憶や知識、経験等を全て失う他、どんなに高位の精霊であってもその格を微精霊にまで落とすことになる。

 

 まぁ、この話を聞くと厳密には死という概念が存在しないだけでほぼほぼ一精霊としては死んだようなものだと思うかも知れないが少なくとも存在が消滅する訳では無いので精霊学の中では死と定義はされていない。

 

 人間で言うところの輪廻転生みたいなものと考えれば良いだろうか。

 

 またこれらの事から全ての精霊は微精霊として元霊界で生まれ、こちらの世界にやって来て経験を積みながら長い時間を掛けて精霊としての格を上げていくというのが一般的な定説だが……ここら辺はまだ研究段階であり明確なことは分かっていない。

 

 とにかくここで大切なことは精霊には死の概念は無いが送還されると微精霊にまで格が落ちると言うことだ。

 

 

 契約精霊を除いて。

 

 

 そう、ここまで話しといてこの流れが通じるのは野生の精霊、また霊力で強制的に従わせてるだけの簡易契約による精霊だけの話なのだ。

 

 契約精霊となると契約者と契約紋による繋がりによるものか、一時的に顕現こそ不可能になるものの契約者の霊力にもよるが平均して一日から二日程度の時間を掛ければ何事も無かったかのように復活させることができる。

 

 恐らくは契約紋を通して契約者に経験や情報を蓄積している為と考えられているがこれも確かなことは分からない。

 

 さて、前置きが長くなったがつまり何が良いたいかといえば———。

 

 

「あんだけ頑張って倒したのに一日も経てばアイツら全員復活するのかよ…」

 

「まぁ、これがガーディアンの恐ろしいところだよね」

 

 

 俺たちが頑張ってぶっ倒したあのデブ騎士どもは全員明日には復活しているということである。ああ、この世は何と残酷なことだろうか。

 

 というのもガーディアンたちは全員が守護する古代遺跡の契約精霊のような存在なのでぶっ倒してもぶっ倒しても次の日には元気一杯にまた襲い掛かってくるのだ。これが遺跡の調査が進まない理由の大きな要因の一つだ。

 

 ある程度遺跡をぶっ壊せばガーディアン関係は全て解決するがそうすると今度は遺跡の調査ができなくなるという本末転倒なことになるのでそれもできない。

 

 

 つーかいくら古代の技術の賜物とはいえ、無機物ですら精霊と契約できてるのに未だにどの精霊とも契約できない俺って……。

 

 

「ローク、上の階に着くぞ」

 

「ああ」

 

 結局最後までベオウルフに咥えられながら螺旋階段を登り切った俺たちは二階へと続く扉が目の前に迫ってきて————迫ってそのまま停止することなくベオウルフは勢いよく扉に突っ込んだ。は?

 

「ぐほッ!?」

 

 扉を粉砕すると同時に口から放された俺は木片と共に地面を転がる。そのままゴロゴロと地面を転がるとゴンッと後頭部が何かに直撃した。

 

「痛つつ…」

 

 あのクソ狼と内心で文句を口にしながら顔を上げると薄暗い空間の中に三角状の白い布が視界に入った。んん?何だこれは?

 

 俺は訝しげに思いながら目を細めて白い布をジッと見つめる。白い布の表面はよくみればレースのようなものが編み込まれている他、多少の装飾も付けられておりどことなく扇状的ながらも清楚感のある模様だった。

 

 暫く何だろうかと首を傾げていたが目が暗闇に慣れることで視界に入った左右の艶やかな白い肌を確認して俺はようやく全てを理解するに至った。

 

 

 …………そうか、そういうことか。

 

 

「……………」

 

 

 すぐ頭上から荒ぶる霊力を感じ取った俺は静かに息を吐いた。

 とりあえず起きてしまったことは仕方ない。大切なのはここから俺がどう挽回して生き残るかだ。少なくとも自らの意志でここに飛び込んだ訳では無い以上、情状酌量の余地はある筈だ。

 

 

 

 

 

 俺は覚悟を決めると暗闇、否スカートの中から俺はゆっくりと顔を出した。

 

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

 顔を出してまず視界に入ったのは銀色の髪を揺らすレイアの氷の如く冷めた無表情だった。いや、よく見れば僅かに頬は赤く染まっておりどうやら少なからず恥ずかしさはあるらしい。

 

 ————そう言えば姫さんは裸見られても全然恥ずかしがらなかったな。

 

 過去に一度だけ誤ってミーシャの下着姿をガン見してしまったが彼女は羞恥心が無いのか、はたまた自分のプロポーションに自信があるのか全く恥ずかしがらず寧ろ堂々としていた。

 

 と昔のことを思い返して刹那の現実逃避を終えた俺は眼前で口腔に燃え盛る炎を溜め込む赤竜、サラマンダーを視界に入れる。

 

「何か言うことは?」

 

「君の下着を見たことは申し訳なかった。けれどあれは完全に事故であり、そこに俺の意志が介入していないことを理解して欲しい」 

 

「そうですか」

 

 俺の弁明もまるでレイアには届かなかったらしく依然としてサラマンダーは口に炎を溜め込んでいた。分かっていたが、やはりダメか。

 

 

「とりあえず焼き加減はレアで勘弁してくれないだろうか?」

 

 

「ウェルダンで妥協しましょう」

 

 

 それ何も妥協して無いじゃん。そう思いながら俺はサラマンダーの口腔から放たれた炎を浴びるのだった。

 

 

*****

 

 

「とりあえず無事に合流できて良かった」   

 

 

「さっき無事じゃなくなったけどな」

 

 

 セリアが皆を見渡してホッとした様子で話す中で俺はヒリヒリとする身体をリリーに霊術で治療されながら呟いた。セリアは苦笑を浮かべ、俺をこの様にした犯人はとても気まずげな表情を浮かべながらそっぽを向いた。

 

「アレは君が悪いよ。レイアさんのせいにするな」

 

「お前、マジで覚えとけよ」

 

「ドンマイ」

 

 こうなった元凶の飼い主の言葉に震えていると横で治療をしていたリリーがそう言って俺の頭を撫でてくれた。その優しさが涙腺に効く。

 

 現在、場所は先程の一階から登って二階の広間へと辿り着いていた。色鮮やかなスタンドガラスが張り巡らされたこの場所にトラップやらガーディアンは確認できなかったようで一時的な拠点として先行組はここで俺たちを待っていたらしい。

 

 

「それで下での戦闘はどうなったの?」

 

 

「とりあえず大方は送還させたけど流石に全て相手は無理だからね、途中で逃げてきたよ」

 

 

「なるほど。追跡は?」

 

 

「追ってきてはいたけど俺が出入り口を塞いだからな。来るにしても多少は時間が掛かる筈だ」  

 

 

「つまりすぐに追手が来ることは無いってことね」

 

 

 俺たちの下の階での出来事を確認したセリアは頷くと顎に手を当てて次の動きを考える。このパーティのリーダーは彼女だ。全ての選択権は彼女にある。

 仮に危険と判断して撤退と言えば撤退するし、進めと言えば進む。個人的には既に帰りたい気持ちが強いが……恐らく進むことになるだろう。

 

 

「それじゃ再び班を二つに分けましょう。二人はここで待機と追手の迎撃、残り三人で先に進んで引き続き調査。何か意見は?」

 

「メンバーは?」

 

 

「待機メンバーは休息も兼ねてガレスくんとリリー、調査メンバーは私とロークくん、それからレイアちゃんの三人で先に進もうと思うけど何か意見はある?」

 

 

「異議あり。なんで俺が待機メンバーじゃないんですか?」

 

 

 しれっと調査メンバーに加えられた俺は手を上げて意見を述べる。何故ガレスは休憩も兼ねて待機メンバーなのに俺は調査メンバーに加わっているんだ。

 

 

「だって契約精霊呼んでないし、余裕あるでしょ?」

 

 だからいねぇんだよ、その契約精霊が。  

 けれどそれをハッキリと言う訳もいかず俺は一瞬言葉に詰まった。

 

「いや、それは……。けどそれならガレスだって既に充分動けるだろ?」

 

「僕は魔剣を使ったからね。アレは僕の霊力じゃないと使えないから正直休みたいというのが本音かな」

 

 そうだった。コイツの持つ魔剣グラムは使用者本人の霊力じゃないと発動できない上に燃費が悪いんだった。

 

 

「いやけど、それならリリー連れてけよ」

 

「この子はちょっと……危なかっしくて」

 

 何とも言えない表情で理由を述べるセリアにレイアが気まずげに同意を示す。どうやら俺たちがいない間にもしっかり暴れたらしい。

 

「お前……」

 

「知的好奇心を抑えられなかった。反省はしてる、後悔はしてない」

 

 

「あ、あの、お陰でこの部屋の安全は確認できたので」

 

 

 俺の視線を浴びたリリーが堂々と宣うと見兼ねたレイアがフォローを入れてくれた。お前、後輩にフォローされて恥ずかしくないんか?

 

 

「……………」

 

「……え、あの…何か…?」  

 

「……………」

 

 リリーは自分をフォローしてくれたレイアを無言でジッと見つめる。レイアが先輩から無言の視線に困惑した表情を浮かべる中、やがてリリーはペコリと一度頭を下げた。どうやらリリーは庇ってくれた礼をしたかったようだ。

 

「お礼は口頭で言いなさい」

 

「うぐ…」

 

 俺は軽く頭を叩いて注意をするがそれだと尚、リリーは呻き声を漏らすだけで声で礼を言うことは無かった。マジでコミュ障極まっている。

 

「あっ、あの私は全然気にしてないので大丈夫です。寧ろローク先輩にされたことの方が———」

 

「大変申し訳ございませんでした」

 

 俺はレイアが言葉を言い終える前に謝罪の言葉を挟み込む。というか今更だけどこの後輩、俺に遠慮が無くないか?いやパンツ見たしこうもなるか。

 

 

「うん、とりあえず話を纏めるけど4人ともさっきのメンバー編成で大丈夫?」

 

 セリアからの最終確認に三人は肯定の頷きをもって示す。俺もぶっちゃけ霊力結構消費したから休みたいんだけど流れ的にノーと言える雰囲気でも無いので俺も僅かに遅れて頷き同意を示した。

 

 

「それじゃロークくん、少しだけ休んだら向かうからよろしくね」

 

「了解」

 

「先輩の契約精霊、今回こそ見せて欲しいですね」

 

「ハハハ…」

 

 いないものを見たいと要望してくるレイアの言葉に俺は乾いた笑いを返すことしかできない。胃がキリキリと痛くなってくるのを感じながら俺は壁に背を預けて暫しの休憩に入るのだった。

 

 


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