真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第113話

 空と地面を覆っていた闇が霧散し、本来の景色である満月が浮かぶ夜空と荒れ果てた大地が視界に入る。

 

「……ッ」

 

 どうにか生き延びた。その事実を実感した瞬間、霊力で形成されていた床が消滅した。

恐らくトラルウスが限界を迎えて霊術を維持できなくなったんだろうが、同じく限界だった俺は重力に従って落下していき、そのまま地面に叩き付けられそうになるが……。

 

「先輩ッ!」

 

 地面ギリギリのところで飛び出してきたレイアに庇われ、俺は何とか無事に地面に着地することができた。

 

「助かった、レイア」

 

「いえ、それより身体は大丈夫ですか?」

 

「キツイです……」

 

 まともに立つこともできない状態の俺を心配そうに見つめながら尋ねてくるレイアに正直にそう答える。

 

 既に霊力が空っぽな上に先程の超新星を放った反動で全身に洒落にならない痛みが走っている。正直、今すぐベッドに倒れて休みたいこところだが、まだ戦いが終わった訳ではない。

 

 トラルウスを筆頭に師匠とミーシャも俺と同様に限界を迎え、他のみんなも動けるとはいえ余裕がある訳でもない。

 

 加えて———。

 

『&×▼#……』

 

 ふわりと宙を舞うクロの姿を眺めながらどうしたものかと俺は考える。地面に転がる剣精霊も含めて既に契約は切れてしまっている。

 

 ジュデッカの森や学位戦でのことを考えると何もしなくても大人しく依代に戻ってくれそうな気はするが、この状況下でクロを放置したくない。さっさと依代の中に回収しておきたいが……ッ!

 

「———ッ!」

 

 そこで俺の思考を遮るように神殿の方から金色の火柱が上がり、視線を向けると誰かが勢いよく吹き飛んできた。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 態勢を立て直しながら地面に着地した人物に視線を向ければ、それは金色の霊装を纏ったゼルさんだった。

 

「お父様!」

 

「レイアッ! それにロークくんも……良かった。無事だったか」

 

 レイアの声を聞き、俺たちに気付いたゼルさんはその険しい表情を緩ませると安堵した様子でそう呟く。

 

「それと先程、この一帯の禍々しい霊力が消えたけど……」

 

「先輩方がアペプスを倒したんです」

 

「まさかとは思ったが、本当に君たちだけで倒したのか……」

 

 レイアの言葉にゼルは驚きと動揺を隠しきれない様子で呟く。

 

「はい、最後はローク先輩の五つの属性を合わせた複合霊術で」

 

「五属性の複合霊術ッ!? 凄いな、そんな複雑な術式を組めるのか!」

 

「いえ、レイアさんを含めて周りのサポートがあったからです。一人じゃ無理ですよ」

 

 過剰評価の予感を感じ取ったロークは慌ててゼルに訂正の言葉を口にする。

 なんか一人で霊術を行使したみたいになっているが、あの技は一人で扱えるような術じゃない。

 

「だとしても見事だ、ロークくん。まさか四凶を倒すとは想像だにしていなかったよ」

 

「……ありがとうございます」

 

 確かにゼルさんからすれば師匠がいたとはいえ、俺たちがアぺプスを倒せるとは思いもしなかっただろう。

 

 そもそも下手をすれば—————。

 

「とはいえ、申し訳ありませんがこっちはもう満身創痍です。これ以上は……」

 

「ああ、アぺプスの戦闘に参加できなかった分、ここで活躍させて貰うよ」

 

 暗い思考を打ち払い、俺がそう言うとゼルさんは頷きながら視線をビブリア廃神殿の方、より正確にはこちらに歩いている男、ホーンテッドに向ける。

 

 どうやら俺たちがアぺプスと戦っている間もゼルさんと熾烈な戦いを繰り広げていたらしく服は焼け焦げ、その全身に痛々しい傷跡が刻まれている。

 

「やってくれたね」

 

 けれどそんな身体の状態など気にする素振りも見せず、俺たちに視線を向けると頭を抑えながら驚嘆と苛立ちの混じった声を漏らす。

 

「幾つかのマイナス要素があったとはいえ、四凶の一体を打ち破るとは……。全く、俺は悪夢でも見ているのか?」

 

「そう思うならこのまま大人しく手を退いたらどうだい? 君たちの切り札は潰えたぞ」

 

「退くだって? それこそあり得ない話だね」

 

 ゼルさんの降伏勧告を一蹴しながらホーンテッドは「それに……」と宙を指差しながら笑みを浮かべる。

 

「確かに倒したことは認めたが、俺は一言も送還されたとは言ってないぞ」

 

「……ッ!」

 

 ホーンテッドの言葉に答えるように禍々しい気配が再び現れ、霧散していた闇が一ヶ所に集い始める。

 

「そんな……ッ!」

 

「…………」

 

 やがて闇が巨大な蛇の姿を模る様子にレイアが絶望感に満ちた声を漏らす中、俺はやはりと苦い表情を浮かべながら内心でやはりと呟く。

 

 最後の攻防、ミーシャの一撃があったとはいえ、あまりに呆気無さ過ぎるとは感じていた。仮に倒せたとしても最後にもう一発くらい何か大きな反撃がある筈と予想していたが、そもそも倒せていなかったというオチだったようだ。

 

『…………』

 

 けれど、それでもやはり受けたダメージは大きかったらしく先程までの強烈な威圧感は感じない。万全の状態なら何とかなりそうな気もするが、こっちも既に満身創痍。ゼルさんがいるとはいえ、あっちにもホーンテッドもいる。

 

 やはり厳しい状況と言わざるを得ないだろう。

 

「随分と消耗したようだけど、簡易契約を結ぼうか?」

 

『…………』

 

 やがて完全に復活したアぺプスはホーンテッドの提案を無視しながらジッとその瞳を俺に向ける。

 

「……ッ……?」

 

 何だ、この感じは?

 

 アぺプスに見られて一瞬、身構えたが、その瞳から敵意や悪意といった負の感情がまるで読み取れない。

 

 一体、何を考えている?

 

「娘たちはやらせないよ」

 

 そんな俺の疑問を他所にアぺプスの視線から庇うようにゼルさんが前に出て、その全身に金色の炎を灯す。

 

『……おい、あの小僧』

 

「あ、気付いた? まあ、戦っていれば当然か」

 

 けれどアぺプスはそんなゼルを無視すると何かを確認するようにホーンテッドとの会話を始める。

 

 何だ。マジで一体、何なんだッ!?

 話している内容はまるで分からないが、それでも彼らが俺のことを話していることだけは理解できる。

 

 故に何の話をしいているのかと口を挟もうとした俺は直後、ビブリア廃神殿から放たれた重苦しい重圧感に身体を震わせた。

 

「ッッ!!」

 

 全身の毛が逆立つような恐怖。アぺプスとは似て非なる禍々しい気配。ドクンと心臓の脈拍が激しくなるのを感じながら視線をビブリア廃神殿へと向ける。

 

「今のは……」

 

「この気配……まさか」

 

 他のみんなも今の気配をしっかりと感じ取ったらしく全員が険しい表情を浮かべながら視線をビブリア廃神殿へと向ける。

 

『今の気配……』

 

「どうやらあっちの準備もようやく終わった感じかな」

 

「まさか……」

 

 ビブリア廃神殿に視線を向けながらホーンテッドが口にした言葉を聞き、俺の脳裏に最悪の事態が過る。

 

 いや、けど封印はまだ破られてない筈じゃ———。

 

「馬鹿な、まだ封印は解けていない筈だッ!」

 

「……一つ、君たちの勘違いを正してあげよう」 

 

 ゼルさんの叫びを聞いたホーンテッドは俺たちに向けてどこか諭すような口調でそう語り掛けてくる。

 

「俺たちはアジ・ダハーカの封印を一つも解いていない。アルベルトさんはあくまでアジ・ダハーカの封印の要点一つ一つに楔を打っただけだ。時間を掛けて丁寧にな」

 

 

「楔?」

 

 訝しむオーウェンにホーンテッドは「ああ、そうだ」と頷きながら告げる。

 

「それが一体、何だって言うんですかッ!?」

 

「分からないか? まさか魔龍と謳われる邪霊がただ封印されていただけだと思っているのか?」

 

 何が言いたいんだと叫ぶレイアに対してホーンテッドは嘲笑を浮かべながら告げる。

 

「何を言って……」

 

「たとえ英雄が施した封印であろうと百年にも及ぶ時間があったんだ。あらゆる種類、属性の霊術を扱うことができるアジ・ダハーカにとってこちらの適切なサポートがあれば内部から封印を抉じ開けることは可能なのさ」

 

 

 ホーンテッドがそう告げた瞬間、ビブリア廃神殿から轟音が響いたかと思うと黒い輝きと共に膨大な闇が放出される。

 

 

 

 

 

 

『『『グォォオオオオオッ!!』』』

 

 

 

 三重に響き渡る大音量の雄叫び。

 空洞となった廃神殿の天井から巨大な二対の黒翼が広がり、宙を舞う。

 

 

 銀色に輝く三対の瞳が俺を射抜いた。

 

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