真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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5巻の準備の為、再び更新頻度が遅くなっています。
申し訳ございません。


第115話

 そんなロークの状態を見た少女の動きは早かった。

 少女は驚いた様子で翼を広げると次の瞬間にはロークの目の前で膝を突き、その頭を抱えながら「どうしたの、大丈夫!? 頭が痛いの!?」と声を掛ける。

 

「……かはッ……ぐぅぅッ!」

 

 ロークは自分の顔を覗き込みながら声を掛けてくる少女に気付きながらも頭痛と霊術をのせいで碌に反応することができなかった。

 

「……これ、身体を拘束される?」

 

 ロークの状態に気付いた少女がその目を静かに鋭くさせる中、オーウェンは素早く霊術を発動させていた。

 

「サンダーランスッ!」

 

 オーウェンの精密なコントロールの下、放たれた雷槍は側のロークを避けて少女だけを正確に射抜くよう一直線に突き進むが、彼女に直撃する少し手前で背の羽によって弾かれてしまう。

 

「……ねぇ、ホーンテッド。お兄ちゃんに金縛りを掛けたのは誰?」

 

 少女は何事も無かったかのように雷を払った羽をバサバサと羽ばたかせると、その美貌を不愉快げに歪めながらホーンテッドにロークに霊術を掛けた人物を尋ねる。

 

「あー、それなら」

 

『オレだが?』

 

 ホーンテッドの言葉を遮ってアジ・ダハーカがそう答えると少女は静かに視線を向ける。

 

「今すぐ解いて」

 

『あ?』

 

 少女は四凶の放つ威圧感を物ともせず、アジ・ダハーカをギロリと睨み付けるとロークに掛けた金縛りの霊術を解くように命じる。

 

『おいおい、それがモノを頼む態度か? 幾らお前が———』

 

「早く」

 

「アジ・ダハーカ。ここは穏便に……」

 

『……はぁ、やれやれ』

 

 ホーンテッドの言葉にアジ・ダハーカは面倒そうにため息を漏らすとロークに掛けた霊術を解く。

 

「ッ!」

 

 拘束が消え、身体が自由になったロークが顔を上げると嬉しそうに微笑みかけてくる少女の姿が視界に入った。

 

「お兄ちゃん、やっと会えたね」

 

「お兄……ちゃん」

 

 頭痛が落ち着き、少女の顔をしっかりと確認することができたロークはそこでようやく、彼女に実家に飾ってあった写真に写っていた少女の面影があることに気付いた。

 

「まさ、か……リリス……なのか?」

 

「—————ッ!!」

 

 ロークが父から聞いたその名を呟くと少女、リリスはその美貌を驚きで染めた後、感極まった様子で抱き着いてきた。

 

「お兄ちゃん! お兄ちゃんッ!! お兄ちゃんッ!!」

 

 抑え切れない感情を零すように、その言葉を何度も繰り返すリリス。

 

 そんな彼女の反応からロークは目の前の少女が自分の妹であることに確信を抱くが、同時に新たな疑問も湧き上がる。

 

 ————どうしてリリスがここに?

 

 それはロークにとって当然の疑問だった。

 どうしてリリスがホーンテッドの構築した召喚陣から現れたのか。いや、それ以前にリリスとホーンテッドは何故、繋がっているのか。

 

「あぁ、お兄ちゃんの匂い……幸せ」

 

「……あの、とりあえず離れてくれないか?」

 

 色々と疑問は尽きないが、リリスに思いっきり抱き締められながら匂いを嗅がれているこの状況下ではまともに思考することなどできない。

 

 故にロークはとりあえずリリスに一度、自分から離れるように頼むが……。

 

「嫌だ。絶対に離れない」

 

「嫌だ、じゃなくて……痛だだだだッ!」

 

 強い意志を感じるリリスの拒否の言葉と共に寧ろ抱く力が強くなり、既にボロボロになったロークの身体が悲鳴を上げる。

 

「やだやだやだッ! 折角、会えたんだもんッ! 絶対に離れないからッ!!」

 

「あだだだッ! 力、力を弱め———ッ!」

 

 叫んでいる途中でロークは頭上から勢いよくこちらに滑空してくる精霊、サンダーバードの姿を視界に入れる。

 

「———邪魔」

 

『ギィイッ!?』

 

 けれど次の瞬間には振り返ったリリスが素早く手を翳すと彼女の周囲から鎖が現れ、迫ってきたサンダーバードを拘束する。

 

 そのままリリスが腕を振るうと鎖に拘束されたサンダーバードは契約者であるオーウェンに向かって勢いよく投げ飛ばす。

 

「……って、よく見たら、貴方はあの時の邪魔者じゃない」

 

 地面に転がるサンダーバードの隣に立つオーウェンを見たリリスはその目を細めると不愉快そうに呟く。

 

「あの時の……邪魔者?」

 

「……なるほど。どこか似た気配を前に感じたことがあったと思ったけどあの時、ロークに憑いた子か」

 

 リリスの発言にロークがどういうことだと訝しむ中、何かを察したらしいオーウェンの声が響き渡る。

 

「俺に憑いたって、まさか……」

 

「ああ。君がクロと契約を結ぼうとした時、あの時の君から感じた気配と同じものをその子に感じるよ」

 

 事情を知るガレスを除く仲間たちが話を理解できずに困惑した様子を見せる中、オーウェンの言葉を耳にしたロークは啞然としながら自身を抱き締めるリリスへと視線を向ける。

 

「アハハッ! あの時と比べると随分と情けない姿をしているね!」

 

「生憎、こっちは君と違って先程まで命懸けの死闘をしていたんでね」

 

 リリスの嘲笑に対してオーウェンは皮肉交じりの返事をしながら先程、彼女が放った鎖について考える。

 

 ———あの術、まさか……。

 

 あの術は性質こそ闇属性の霊力と似通ってこそいるが、間違いなく別種の力だった。

 

 そんな力をオーウェンは一つしか知らなかった。

 

「フフッ、私の使った魔術が気になってるの?」

 

 そんなオーウェンの内心を見透かすようにリリスは口角を上げ、楽しげな様子で語り掛ける。

 

「……やはり魔術か、だとしたら君は———」

 

「悪魔。そう言いたいんだろう?」

 

 最悪な予想が的中したことで顔を歪めるオーウェンの言葉を遮るとホーンテッドが続きを高らかに口にする。

 

「ああ、その通り! 正解だよ、オーウェン・リブリア! 彼女こそ伝承に語られる魔の一族、悪魔そのものさッ!!」

 

 悪魔という単語に困惑した声を漏らすレイアにゼルがリリスへの警戒を強めながら静かに答える。

 

「だが、あれは空想上の存在じゃないのか? 実在を証明する証拠は見つかっておらず、後年に創作によって作られたものだと……」

 

「ハハハッ! 言うに事を欠いて証拠が無いだと!?」

 

 悪魔の存在を疑うロクスレイの発言にホーンテッドは堪え切れないと言わんばかりの様子で嘲笑の声を上げる。

 

「君の眼は節穴かいッ!? 証拠なら最初からずっと君たちの前にあるじゃないかッ!」

 

「目の前って……」

 

「……邪霊」

 

 剣を突き出しながら叫ぶホーンテッドに対してレイアが訝しむ中、察した表情を浮かべたリリーが静かに呟く。

 

「そうとも、邪霊こそ他ならぬ悪魔を起源として産み落とされた精霊ッ! 彼らこそが悪魔の存在を語る旗印であり、眷属なのさッ!!」

 

『——ッ!!』

 

 ロークがホーンテッドのその言葉に絶句していると今までアジ・ダハーカの霊術によって動きを封じられていたクロが動き出した。

 

『ほぉ?』

 

 自身の霊術を破ったことにアジ・ダハーカが興味深げな声を漏らす中、ロークたち学院側の精霊師たちの間に緊張が走る。

 

 今のクロはロークと簡易契約を結んでいない。

 

 先程は運良くホーンテッドに向かってくれたが、今度はこちら我がに牙を剥く可能性も充分にある。

 

 特に事情を知らないゼルはクロを警戒しながら素早く術式を組み、すぐに霊術を放てるように構える。

 

『——ッ!!』

 

 けれど、そんな彼らの懸念に反してクロが狙ったのはリリスだった。

 バサリと胸ヒレを翼の如く羽ばたかせると勢いよく飛び上がり、リリスを目掛けて突進を仕掛ける。

 

「………」

 

 対するリリスは迫ってくるクロを冷めた瞳で見つめた後、ゆっくりと手を挙げると口を開いた。

 

「……跪け、フォルネウス」

 

『ガッ!?』

 

 今までの少女らしい話し方と打って変わり、どこか凛とした声音でリリスがそう呟いた瞬間、クロの目が怪しく輝き、そのまま不自然な動きで地面に落下する。

 

「全く、仕事はしない上にお兄ちゃんに纏わり付くわ。お前は本当に役立たずね」

 

『……ッ!』

 

「……今、何をしたんだ?」

 

 地面に落ちたクロを るリリスに気づけばロークにそう尋ねていた。

リリスの呟きに応じるように地面に突っ込んだクロの動きにロークは何かしらの霊術、もしくは魔術なるもの使用したのかと思ったが、そんな雰囲気は無い。

 

 文字通りクロに向かって呟いただけのように見えるが……。

 

「何って、言うことを聞かない馬鹿に跪くように命令しただけよ」

 

「命令って、それだけで……」

 

 ただでさえ従えることが難しい邪霊、その中でも高位の邪霊であるクロを言葉一つで従えることができる訳が無い。

 

「それができるんだよ、他でもない君の妹ならね」

 

「何を言って———」

 

「言っただろう? 悪魔は邪霊の起源だと。全ての邪霊たちは生まれた瞬間から枷を嵌められ、本能的に悪魔に従うようになっているのさ」

 

「……本能的に」

 

「まぁ、中にはその枷を外せる奴らもいる訳だけど」

 

 ちらりと四凶たちに視線を向けながらそう畳むホーンテッドを他所にロークはクロへ視線を向けていた。

 

 ———まさか。

 

 簡易契約とはいえ、今まで自分がクロを従えることができた理由。それにロークが不明確ながらも気付きかけた瞬間、背筋に悪寒が走る。

 

「フッ、気付いたようだね」

 

「ッ!」

 

 ロークの表情から考えを察したホーンテッドは静かに告げる。

 

「察しの通り、邪霊を使役するのに必要なのはただ一つ、血筋さ」

 

「なら、お前も……」

 

「ああ、俺やデヤンさん、それにユーマもら邪霊を使役できる精霊師たちは皆、その身体に魔の血を流しているのさ」

 

「…………」

 

「おっと、勘違いしないでくれよ? 君と違って俺の両親は歴とした人間だよ。ただ家系を辿っていくと先祖に悪魔がいるみたいでね、だいぶ薄まってはいるけど、俺にも魔の血が流れているのさ」

 

「…………」

 

「尤も血が薄過ぎて君のように簡易契約で高位邪霊を使役するような芸当はできな———」

 

「ホーンテッドッ! 話が長いッ!!」

 

 ホーンテッドの話を遮り、我慢の限界を迎えた様子でリリスが叫ぶ。

 どうやら会話に入れないことが不満だったようで彼女はロークを抱き締めながらホーンテッドを睨み付ける。

 

「おっと悪い悪い。折角の家族団欒の時間を邪魔したね」

 

「はぁ……」

 

 ホーンテッドの謝罪に対してリリスはため息を漏らすと今度はその視線を周囲へと向ける。

 

「それにしても、さっきから視線が鬱陶しいね」

 

 ボソリと漏れたリリスの声。

 抱き付いているリリスの顔を見ることは叶わないが、声には隠し切れない不快感が滲んでおり、ロークはその顔を見ずとも彼女がどんな表情を浮かべているのか分かる気がした。

 

「フォルネウス、薙ぎなさい」

 

「ッ! 止せッ!!」

 

 次いで聞こえてきた言葉にロークが咄嗟に制止の声を上げるが手遅れだった。

 

 リリスの指示に応じたクロは地面から勢いよく舞い上がると周囲に向けて無差別に霊術を放つ。

 

「くッ!」 

 

「キャッ!」

 

 衝撃波と共に湧き上がる悲鳴。

 碌な抵抗もできずに吹っ飛ばされていく仲間たちの姿を視界に入れながらロークは乱暴に抱き付くリリスを引き剝がすと「今すぐ止めろッ!!」と激昂する。

 

「何で?」

 

「何でって、俺の仲間だぞ!」

 

「……それは私より、優先するものなの?」

 

「優先って、そういう話じゃ……ッ!」

 

 そこまで喋ったところでロークはリリスの顔を見て思わず言葉を詰まらせる。

 

「———私より、あんな奴らが大切なの?」

 

 

 まるで深淵の如き闇を携えたその瞳には憎悪と怒り、そして嫉妬といった様々な負の感情が滲み溢れており、そのあまり威圧感にロークは気圧される。

 

 

 

「私はずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずーーーーーーーーっとお兄ちゃんのことを思っていたのに……お兄ちゃんは、私よりあんな奴らがいいの?」

 

「…………」

 

 そう言って小首を傾げるリリス。

 本来ならば年相応の可愛らしいその仕草も今のロークにとっては恐怖以外の何ものでも無かった。

 

「……どうして? ねぇ、どうして?」

 

「がッ!?」

 

 首をリリスに捕まれたロークはその小さな手からでは考えられない程の握力で絞められ、苦悶の声を上げる。

 

「どうして私よりアイツらを大切にするの? ねぇ、どうして?」

 

「ぐ……あ……っ」

 

 壊れた玩具の如く繰り返されるリリスの問い掛けに対してロークは彼女の細腕を掴んで必死に抵抗しながら仲間たちに視線を向ける。

 

 ———良かった、無事だな。

 

 どうやらゼルとオーウェンが咄嗟にみんなを庇ったらしく、後方に吹っ飛ばされてこそいるが大きな外傷は見えない。

 

「——————」

 

 仲間の安否を確認して安堵するロークに対してリリスは目を見開くと全身から禍々しい力、魔力を漲らせた。

 

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