真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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皆様、感想、お気に入り、評価ありがとうございます。

ちょっとリアルの方が忙しくなってきたので感想返しは後に回させて頂きます。
これからも楽しんで読んで頂ければと思います。


12話

 

 

「さて、そろそろ行こっか」

 

「はい」

 

「うし」

 

 

 セリアの言葉にレイアと俺はゆっくりと腰を上げる。休息も終えていよいよ出発の時間だ。

 

 

「それじゃ、ガレスくんもお願いね」 

 

 

「ああ、リリーは見てるよ」

 

 

「お土産よろしく」

 

 リリーをここに置いていくことに一抹の不安はあるがガレスがいるので多分大丈夫だろう。まぁ、言うてコイツも割とはっちゃける方だけど。

 

「それとローク」

 

「ん?」

 

 やっぱりあまり安心できないなと改めて思いながらも進むべく歩き出そうとすると去り際にガレスが何かを放り投げてきた。

 

 これは……。

 

「お前、何で持ってるの?」

 

「一応必要になるかなと思って念の為に持ってきてたんだけど、君の方が必要になりそうだから使うと良い」

 

「分かった。貰っとく」

 

 ガレスから渡されたものをポケットにしまうと俺は改めて待ってくれていた二人に合流する。

 

 

「それじゃ、私が先行して進むからロークくんは殿を宜しくね」

 

「了解」

 

 セリアを先頭に俺たちは奥にある扉まで進み扉の取手へと手を掛けるとそのまま勢いよく扉を押して俺たちは次の部屋へと侵入した。

 

「………不気味な部屋ね」

 

 最初に中へと入り込んだセリアが周囲を見回しながら呟く。確かに中に入ればその様相はこれまでの部屋とはだいぶ趣が違うことは一目瞭然だった。

 

 篝火の灯った薄暗い部屋、奥には先へと続くであろう巨大な扉があり、両壁には一階と同じように壁画が描かれていた。ただ描かれていた女神は最初の神秘的な様子とは打って変わり大地へと手を翳しており、大地を黒く染め上げていた。女神の姿も今までの描かれ方とは違い、どこか奇妙で不気味な描かれ方をしている。

 

 これまでの部屋が女神の美しさを象徴する為の部屋だとしたらここは女神の恐ろしさを象徴する為の部屋とでも言えば良いだろうか。とにかく見ていてあまり気分の良い絵では無かった。

 

「月の女神は大地に何をしているんでしょうか?」

 

「分からん。けど少なくとも恵みや慈悲では無いだろうな」

  

 レイアの疑問に俺はそう答えた。

 仮に良いことならこんな黒色を使いはしないだろう。少なからず大地にとって害のあることを行っていると考えて良い筈だ。

 

「この遺跡は女神の神殿って話もあるし敬わせる為に敢えてこういう恐怖を象徴させる絵を描いたのかもね」

 

 セリアは言いながらカシャリと映写機で学院への提出用の壁画の写真を撮っていく。今回の遺跡の探索は歴史研究家たちからの学院を通しての調査依頼の側面もある為、リーダーであるセリアはこうしてちょくちょく資料用の写真を撮影していた。

 

「けど本当に謎が深いわね。この部屋の構造も建物的に見れば有り得ない筈なのに」

 

 

 セリアの言う通りこの部屋の奥行きや横幅など外から見た形状から考えれば存在するスペースなど無かった。けれど現に扉を開けてこうして繋がっている以上、何かしら特別な力が働いているとみて間違いないだろう。

 

 

「恐らく何かしらの霊術が使用されているのだとは思いますが……ッ!」

 

 

 レイアの言葉を遮る形で突然奥に存在している巨大な扉が音を立てて開いた。

 何事かと視線を向ければ扉から先程俺とガレスで迎撃した背に黒い翼を生やした騎士姿のガーディアンが三体ほど部屋へと入ってきた。

 

 基本的には今までその姿形は変わっていないが、俺たちが戦った奴らよりも鎧に傷があったり翼も一部の羽根が欠けていたりと何だか違和感を覚える姿をしていた。

 

 

「ロークくんたちが戦ったガーディアンと同じ奴らだね」

 

「ああ、見たところ間違いない」

 

何はともあれ片付けるべく依代を取り出そうとすると一歩前に出たセリアが手で制した。

 

「ロークくんは下がってて、下で頑張ってもらったしここは私が相手するよ」

 

 

「セリア先輩、私も」

 

「それじゃ、最後だけお願いしようかな。とりあえず最初はいいよ」

 

 どうやら俺は戦わなくて良いとのことらしい。まぁ、彼女の実力を考えれば一人でもあの数ならば問題無いだろう。大人しく後方で見学させて貰うとしよう。

 

「セリア、そいつら基本的には武器での近接戦闘しか仕掛けて来ないけど硬いから気を付けろ」

 

「情報ありがとう。なら接近させずに片付けますか」

 

 呟きに応じてセリアの手の甲に描かれた契約紋が輝きを放つ。すると彼女の隣に緑色のドレスを纏った一人の小さな幼女が現れた。

 

「セリア、仕事か?」

 

「ええ、ドリアード。目の前のあの騎士たちをお願い」

 

「うむ、心得た」

 

 指示に応じたドリアードは両手を掲げた。するとその細く小さい腕から大量の木々が生えて眼前にいる騎士たちへと勢いよく迫っていく。一瞬にしてこの部屋を覆うほどの木々の展開、加えて枝の一本一本小枝に至るまで手足のように操る精密さを持つドリアードは木精霊の中でも間違いなく上位に位置するだろう。

 

 あっという間に周辺を緑で覆い尽くしながら向かってる木々を前にして騎士たちは慌てて翼を広げて宙へと退避しようとするがどこか動きが鈍重で、瞬く間にその四肢を木々に絡め取られていく。

 

 

「ッ!」

「ッ!?」

 

「その程度では儂の拘束からは逃れられんぞ〜」

 

 

 二体のガーディアンは碌な抵抗も出来ずに拘束されたが、残った一体の騎士は枝の拘束からなんとか逃げ切るとハルバードを振り回して迫り来る木々を粉砕していくが砕いた側から更に倍の量の木々が迫っていく。

 

「ッ!?」

 

 やがて残った一体も武器を振るっていた腕に枝が巻き付くことで更に動きが鈍ぶった隙にガーディアンを呑み込まんと言わんばかりに殺到する木々の群れに呑まれ、数分後には全身を拘束されて動けなくなった。

 

 

「…………」

 

 全身を木々に絡め取られて情けない格好で動けなくなっている騎士の姿は何というか見るに堪えないというべきか、とにかく直視することが憚られる光景だった。

 

 

「ほい、いっちょ上がり」

 

 

「ドリアード、お疲れ様」

 

 

「やめい、頭を撫でるな」

 

 ふぅと息を吐く己の契約精霊を労おうとセリアが頭を撫でるがドリアード自身はあまり嬉しくないようで嫌そうな顔をしながら呟いた。

 俺は自分が苦戦した精霊を瞬く間に無力化したセリアとドリアードの実力に思わず感嘆の息を漏らした。

 

「流石だな、何なら一階もセリアに任せた方が良かったかな?」

 

「冗談、あの数は流石に無理よ。数体だからできたことだし、それにまだ拘束しただけだしね」

 

「だけって、もうどうとでもなるだろ」

 

 謙遜するセリアだが既に翼に至るまで拘束されているガーディアンは全く身体を動かすことができず、ここまで来れば火力さえあれば流れ作業だ。

 

「それじゃ、レイアちゃんお願いね。できれば上からで」

 

「分かりました」

 

 そして火力となればこちらには期待の新入生首席がいる。レイアの頷きと同時にバサリと風が吹き、ガーディアンたちの頭上へと呼び出された赤竜は舞い上がった。

 

 天井ギリギリを飛ぶサラマンダーは大きく息を吸い込み、膨大な霊力を溜め込んでいく。周囲の空気が熱されていく中でサラマンダーは口から火の粉を漏らしながら眼下のガーディアンたちを睨み付ける。

 

 

「セリア、指示通り床も木々で覆ったが多分あれは防げんぞ」

 

「まぁ、壁画さえ守れれば地面はある程度は問題無いし良いよ。ってことでレイアちゃん思いっきりやっちゃえ」 

 

 木々で部屋全体を覆ったドリアードが宙で霊力を溜めるサラマンダーを眺めながら指摘するがセリアは問題無いと笑いながらレイアにトドメを頼んだ。

 

 

「はい、セリア先輩。防御はお願いしますね」

 

 

「えっ?防御?」

 

 

「やれ、サラマンダーッ!」

 

 

「ガァァァアアアッ!!」

 

 

 頷いたレイアの指示の下、サラマンダーは溜めた膨大な霊力を炎へと変換し眼下に向けて顎を開き、その溜めた力を解き放った。

 

 

「なッ!」

 

「きゃッ!」

 

 

 サラマンダーから放たれた熱線は一瞬にしてガーディアンたちを拘束する木々ごと飲み込むと地面を赤く染め上げ、更に余波の熱波が周囲へと拡散してこちらに迫ってくる。

 

 絶対にやり過ぎだ。俺が硬いからとか余計なことを言ったせいかも知れないがここまでしなくても普通に倒せる。

 

「これは凄まじいの」

 

 あまりに凄まじい火力にドリアードが戦慄しながら木々で壁を作って俺たちを守った為に直接熱波を浴びることは無かったがそれでも露出した肌をヒリつかせた。

 

 

「なんて火力だ…」

 

 目の前の光景を眺めながら改めてサラマンダーの恐ろしさを実感する。俺の微精霊一体を使い潰す業火の剣でもあそこまでの火力は出せないだろう。

 

 流石は最高位に属する竜精霊なだけはある。精霊自身の持つ霊力量と瞬間的な火力は他の精霊たちは明らかに一線を画している。

 

 つーか今更だけどマジで俺よくアレに勝てたな。

 

 試合序盤から中盤までは名門貴族あるあるの油断と慢心のお陰で無駄な霊力を消費させられたからどうにかなったが多分、次やったら普通に消し炭になるな。

 

 

 そんなことを思いながら熱波が収まったタイミングでドリアードが木の壁を解除すれば眼前には炭となってボロボロになった真っ黒い木々が残っているだけでそこにガーディアンの姿は跡形も無かった。

 

 考えるまでもなく送還されたのだろう。

 

 

「あはは、凄いねぇ。けどもうちょっと抑えても良かったかな?」

 

「えっ?あ、すみませんでした。つい……」

 

 

 木で炎が止まったから良いものの黒焦げになった部屋を前にセリアが苦笑いしながら暗にやり過ぎだと伝えるとレイアはやり切った顔から一転、シュンと申し訳なさそうに顔を俯かせた。

 

 この子もしかして割とポンコツか?

 

 というか前々から思っていたがこの後輩は自身と契約精霊とどちらも霊力量が多いせいであまり霊力消費を気にしない傾向がある。

 前回戦った時もバンバン霊力消費の激しい霊術を使わせながら長期戦に持ち込んだおかげで勝てたし、意外と後先を考えずに霊術を使う傾向があるのかも知れない。

 

 

「まぁ、ガーディアンは倒せたし壁画も無事だからそんなに気にしなくても大丈夫!ほら、元気出して次行こう!」

 

「は、はい。分かりました、頑張ります!」

 

 セリアは気落ちした後輩を励ましながら扉を指差して先を促すとまだ若干暗いながらも気持ちを切り替えたようで頬を叩いて気合いを入れ直す。

 

 

「ロークくんも、頼りにしてるから宜しくね?」

 

 

「ほどほどに頼りにして下さい」

 

 

 何なら俺の方が君たちを頼りにしてるから頼むよ。本当に。

 

 

 そんなことを思いながら次の扉へと手を掛けて更に先へと足を踏み入れると今度は二階に入った時と同じく色鮮やかなステンドグラスに覆われた空間が視界に入った。

それこそ一瞬、前の部屋に戻ってきてしまったかと錯覚したが、どこまでも高く終わりの確認できない天井を見上げることで違う部屋であることを確信した。

 

 

「扉が無いね」

 

「行き止まりでしょうか?」

 

「さて、どうだろう」

 

 ぐるりと周囲を見回したセリアが扉が無いことを確認するとレイアが行き止まりの可能性を口にした。確かに俺も一瞬そう思ったがにしてはこのやたらと高過ぎる天井が気になった。

 

「上が気になるの?」

 

「まぁな」

 

「でしたらサラマンダーに乗って上に行ってみますか?」

 

「……………いや、ちょっと待て」

   

 

 レイアからの提案に頷こうとした時だった。

 

 最初に俺が、僅かに遅れてセリアが、更に少し遅れてレイアが気付いた。

 

 

「この霊力、何か来る?」

 

「ふむ、再び出番か」

 

 セリアの隣に立つドリアードが俺たちを覆うように木々を生やし、上から高速でこちらに迫ってくる複数の霊力を迎撃できるように備える。

 

「またガーディアンですか」

 

 そのまま見上げていると視界に俺たち目掛けて高速で落下してきている数体のガーディアンを視認したレイアがどこか気の抜けた声音で呟いた。

 

 確かにその姿はついさっき片付けたばかりのガーディアンと何一つ変わらないが、何か様子がおかしい。いや、というかこれは………ッ!

 

「二人とも背後に下がれッ!」

 

「ぬッ!これはッ!」

 

 俺が叫びながら後方へと下がると同時にドリアードも理解したのだろう俺の言葉に二人が反応する前に自身の身を木々で覆い、迎撃用に備えていた一部の枝で二人を掴むと後方へと放り投げた。

 

 

 

 直後、ガーディアンたちは文字通り弾丸となって先程まで俺たちがいた地面へと降り注ぎ、ドリアードの展開した木々ごと周辺を粉砕した。

 

 

 

 


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