真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第118話

「先輩、大丈夫ですか?」

 

「ああ、レイアこそ身体は大丈夫か?」

 

「はい、私も大丈夫です」

 

 レイアはそう答えているが、顔には絆創膏が貼られ、腕にも包帯が巻かれており、その姿は見ていて痛々しい。

 

「本当に大丈夫ですよ、軽い傷が残っているだけですので」

 

 俺のそんな視線に気付いたレイアはそう言って笑いながら腕の包帯に触れる。

 恐らく噓は言って無いだろうが……。

 

「それなら良いけど、あまり無理はするなよ」

 

「そうだよ、折角あの戦いを生き抜いたんだから、こんなところで無理して傷を悪化させないようにね」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 俺に続いてそう言って気遣うガレスにレイアは感謝の言葉と共に頭を下げた。

 

「うんうん、みんなよく生き延びた」

 

「なら、もうちょっと感情を込めて言いなよ」

 

 机に上半身を乗せ、だらけ切った様子で話すリリーに対してガレスは苦笑気味にそう指摘する。

 

「失礼な、めっちゃ感情を籠めて言ってる」

 

「本当かい?」

 

「本当本当」

 

「……まぁ、けど本当によく全員生き残ってくれたよ」

 

 俺はガレスとリリー、レイアの三人を見回すとみんなの無事を心の底から喜ぶ。

 四凶との死闘を乗り越えてから一週間、傷も癒えた俺達はユートレア学院の教室の一室にて集まっていた。

 

 普段ならばこうして教室でたむろっていれば誰かしらに注意されるだろうが、現在のユートレア学院は全ての講義を一時的に休講にしており、教員たちの多くはアぺプスによって破壊されたガラテアの復興作業に従事している。

 

 故に学院には教員がほぼいない状態であり、学生たちもその多くはで寮で待機しているか、実家に帰省、或いはボランティアとして復興作業に参加している。

 

 尤も俺たちは今までアぺプスとの戦ったため、ボランティアには参加できず療養を命じられている為、こうして休んでいる訳だが……。

 

「はぁ、私もアぺプスとの戦いに参加したかったなぁ……」

 

 午前中のボランティアを終えてレイアと共にやって来た燈が俺たちとアぺプスの戦いの一部始終を聞き、心底残念だと言わんばかりの様子でそう嘆く。

 

「この話を聞いてその感想が出てくるのか」

 

「だって伝説の邪霊だよ? 生きている内に一度は戦ってみたいと思うものでしょ?」

 

「……まぁ、確かに貴重な体験だったことは否定しないけど」

 

 燈の言葉に俺も物語に出てくる悪役との戦いに少なからず興奮していた面もあったことを思い返しながら呟く。

 

 尤も、あんな戦いはもう二度としたくはないところではあるが……。

 

「とはいえ、そのアぺプスも完全に倒し切れた訳じゃないからね。個人的には遠慮したいが、また刃を交えることになる可能性は十分にある」

 

「………そうだな」

 

 ガレスの言葉に場に空気が重くなるのを感じながら俺は静かに頷く。

 そうだ、アぺプスは送還された訳じゃない。俺たちとの戦いで浅くない傷こそ負っている筈だが、それでも単独で問題無く活動できるほどの力は残していた。

 

 ……そもそもアジ・ダハーカが復活したことで戦闘が中断されたが、仮にあのまま続けていたら負けていたのは間違いなく俺たちの筈だ。

 

 今回は文字通り運が良かっただけだろう。

 

「……本当に大変なことになってしまったね」

 

「…………」

 

 深いため息と共に漏れたガレスの言葉に誰も言葉を返すことができず、重苦しい沈黙が場を支配した。

 

 そうだ、結局あれだけ息巻いたにも拘らずアぺプスは倒せず、アジ・ダハーカは復活してしまった。

 

 生き残っただけであって結果は最悪と言えるだろう……。

 

「……アぺプスは一体、どこへ消えたのでしょうか?」

 

 やがてこの沈黙に耐え兼ねたのか、レイアは不安げな表情を浮かべながらふと、そんな疑問を口にする。

 

 確かにそれは気になるところではあるが………。

 

「霊力の回復を図る為に霊脈のある土地に行くのは間違いない、けど……」

 

「だとしても候補が多いな……」

 

 近場でいえばジュデッカの森辺りだろうが、リリーの口にした条件の場所はロムス王国全体で数十ヶ所、他国にまで範囲を広げれば数えきれない程の候補が存在する。

 

 アぺプスの目的も不明な以上、ハッキリ言って位置を特定するのは不可能に近いだろう。

 

「もう少し絞る為の条件が欲しい。何かない?」

 

「そう言われてもな……」

 

 俺がアぺプスについて知っていることなんて強いことと文献に書かれていることくらいで他に知っていることなんて無いぞ……。

 

「………あ、そういや復活した直後はホーンテッドと簡易契約を結んで霊力を補充していたみたいだ」

 

 必死に記憶を思い返していた俺は辛うじて、その情報を思い出すことに成功する。

 

 まぁ、これが意味のある情報かと言われると疑問はあるが……。

 

「………ふむ」

 

 けれど、リリーはその情報を聞いて何か思い当たることでもあるのかブツブツと独り言を呟きながら考え込んでしまう。

 

「まぁ、アぺプスの行方も気になるけどさ、それよりも私は……」

 

 すると燈はアぺプスの話題を一旦。終わらせると俺に視線を向けながらゆっくりと口を開いた。

 

「あの羽の生えた女の子、それに先輩との関係についても気になるなぁ……」

 

「………」

 

 再び、場に重苦しい空気が広がるのを感じながら俺は無言で燈に視線を向ける。

 その瞳からは絶対に逃さないという強い意志が感じられ、視線を横にズラすとレイアも彼女と同じく答えを求める視線を向けており、俺は思わず苦笑を浮かべる。

 

「まぁ、色々と事情はあるが、ざっくり言うと親族だな」

 

「親族?」

 

「ローク」

 

 何かを言おうとするガレスを手で制しながら俺は「大丈夫だ」と答える。

 

「……自分で聞いといて何だけど、話して良いの?」

 

「ああ、寧ろ話すべきことだろうからな」

 

 ビブリア廃神殿でのリリスとホーンテッドの会話からして二人の間に何かしらの繋がりがあるのは確実だ。

 

 まだ実感は無いが、仮にもリリスは俺の妹なのだ。

 この一連の騒動にリリスが関わっている以上、血の繋がった家族として責任を取る必要があるのは間違いない。

 

 事態の収束の為にも全てを包み隠さずに話す必要があるだろう。

 

「とはいえ、さっきも言ったようにちょっと事情が複雑でな。詳しいことは後でミーシャとかみんなが揃った後でも良いか?」

 

「別にそれくらいなら待つけど、生徒会長は何してるの?」

 

「会議ですよ、お父様や学院長たちとの話し合いに参加して今後の方針を決めているみたいです」

 

 燈の疑問にレイアがそう答えると「うぇ~」と渋そうな表情で呟く。

 

「話し声がすると思えば……お前たち、ここにいたのか」

 

「ロクスレイ」

 

 前方の教室のドアが開いたかと思うと普段と変わらず風紀委員長の腕章を付けたロクスレイがこちらに近付いてきた。

 

「身体はもう平気か?」

 

「ああ、今もボランティア活動に参加してきたところだ」

 

「流石だね」

 

 あの戦いでロクスレイも相当消耗していた筈なのに翌日には問題無く動ける程まで回復していた。

 

 ガレスと同様に流石という言葉しか出てこない。

 

「とはいえ、病み上がりだからとすぐに帰らされたけどな」

 

「だろうな」

 

 俺も昨日、ボランティアに参加しようとしたが絶対にダメと言われて追い返されてしまった。

 

 寧ろ参加が許されたことの方が驚きだ。

「それで、お前たちはここで何をしているんだ?」

 

「特に何かをしていた訳じゃいよ、ただ駄弁っていただけさ」

 

 ガレスが質問そう答えるとロクスレイは「呑気な奴らだな」と呆れ気味の返答をしながら近くの椅子に腰を下ろした。

 

「四凶の半分が復活したんだぞ、もっと危機感を持ったらどうだ?」

 

「勿論、危機感はあるさ。けど、現状できることも特に無いだろ」

 

 アぺプスもアジ・ダハーカもその行方が分からない以上、行動を起こすこともできないし、そもそも学生風情である俺たちができることなどたかが知れている。

 

 せいぜいできることと言えばボランティア活動くらいだろうが、それも今は止められているし、マジですることが無い。

 

「………まぁ、確かにそれもそうか」

 

「そもそも四凶の行方が分かったところで対処するのは王国精霊師団だろうしね。僕らが動くことはほとんど無いんじゃない?」

 

 俺の言葉にロクスレイが納得する中、ガレスが付け加えるようにそう告げる。

 

 確かにここまでの事態になった以上、国が総力を上げて四凶の討伐に乗り出す筈だ。

 

 もしかしなくても俺たちの出番は無い可能性が高いだろう。

 

「えぇ~、もう戦えないのッ!? まだ不完全燃焼なんだけどッ!」

 

「戦闘狂過ぎる……」

 

 ガレスの話を聞き、文句をブーブーという燈に思考の海から帰還したリリーが若干、引いた様子で呟く。

 

 俺はそんなリリーの言葉に内心で同意しながら横目でレイアの姿を確認する。

 

 安堵した様子で静かに息を吐くその姿を見つめていると燈から「安心した?」と揶揄うような口調で尋ねられる。

 

「なッ! そんなことはッ!」

 

「でも凄くホッとした感じで息を吐いてたじゃん」

 

「そ、それは……ッ!」

 

 燈の指摘にレイアは反論しようとして、けれど咄嗟に言葉が思い付かなった様子で口籠ってしまう。

 

「別に隠すことでも無いだろ? 当然の反応だ」

 

「で、ですが王国の精霊師たる者が邪霊と戦わないことに安心するなんて……」

 

 俺がそうフォローを口にするが、レイアはまるで自分を恥じるようにそう呟きながら顔を俯かせる。

 

「別に恥じることはない。あんな化物が相手ならそう思うのが普通だ」

 

「ロクスレイ先輩……」

 

 まさかロクスレイからそう言われるとは思わなかったらしいレイアは驚いた表情を浮かべる。

 

「意外だね、君がそんなことを言うとは……。てっきり情けない奴めッ! みたいなことを言うかと思っていたよ」

 

 ガレスもロクスレイがそんな言葉を口にするとは思っていなかったらしく驚いた様子でそんな声真似を披露する。

 

 ちなみに結構似ていた。

 

「俺をどんな奴だと思っているんだ?」

 

「鬼」

 

「鬼畜」

 

「血も涙もない風紀委員長」

 

「貴様ら……」

 

 ガレス、リリー、俺の順番で口々に率直なイメージを口にするとロクスレイは額に青筋を浮かべ、頬を引き攣らせる。

 

 やベッ、素直に言い過ぎたか。

 

「………まぁ、そう思われても仕方ない言動は取り続けてきたか」

 

 一瞬,キレそうな雰囲気を醸し出していたロクスレイは目を瞑ると自らの行い原因かと反省しながらため息を吐いた。

 

「俺だって血の通った人間だぞ。四凶のような邪霊を相手に怯えることを 責するほど鬼畜じゃない」

 

「確かに四凶にビビるなって言われたら僕ならキレるね」

 

 ロクスレイがそう弁明するとガレスは納得した様子で頷く。

 俺もからそんな理不尽なことを言われたら普通にキレる気がする……いや、普通にブチギレるな、うん。

 

「言っておくが、俺は部下に理不尽にキレ散らかしたりはしてないからな。勘違いするなよ」

 

「そこまでは言ってないって」

 

「被害妄想」

 

「ああ、流石にそこまでは思ってない」

 

「……」

 

 ガレス、リリーと共に再びそう答えるとロクスレイは何とも言えない表情で沈黙する。

 

 そもそもそんな奴だったら下が付いて来ない筈だ。

 実際、風紀委員からロクスレイの悪い噂を聞いた覚えがないし、それだけ慕われているということだろう。

 

「フフッ」 

 

「…………」

 

「あ、す、すみません」

 

 俺たちのやり取りが面白かったのか、吹き出すように笑ってしまったレイアは周りの視線を感じ、すぐに頭を下げて謝罪する。

 

「……まぁ、随分と話が逸れたが、あまり気負い過ぎるなと言いたかっただけだ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 なんだか締まらない雰囲気になったが、ロクスレイは話を纏めるようにそう言うとレイアはペコリと頭を下げた。

 

「っていうか、そもそもお前があんな風に揶揄わなければこんな変な空気にならなかったんだぞ、反省しろ」

 

 俺が燈に視線を向けながらそう叱ると彼女は「はーい」と少し気の抜けた返事をするとレイアに頭を下げた。

 

「レイア、ごめんね」

 

「い、いえ、大丈夫です。全然、気にしていませんよ」 

 

 後輩二人が仲直りする様子を眺めていると再び教室のドアが開き、誰かが中に入ってきた。

 

「皆さん、ここに集まっていたんですね。探しましたよ」

 

「セナか」

 

 現れたのは生徒会書記であるセナだった。

 その顔には隠し切れない疲労の色が見え、碌に眠れていないのか目元には隈まできている。

 

「何だか随分と疲れているみたいだけど、大丈夫か?」

 

「大丈夫かと言われれば、大丈夫では無いですが、そんなことを言える状況では無いですからね」

 

 覇気の無い声でそう語るセナに思わず「無理をするなよ」という言葉が反射的に漏らすと彼女は弱々しい笑みを浮かべる。

 

「貴方ほどでは無いので心配しなくても大丈夫ですよ」

 

「いや、俺は……」

 

「貴方……いえ、貴方たちの四凶撃退に比べればこれくらいどうってことありませんよ」

 

 セナはそう言うと俺たちに向かって頭を下げた。

 

「皆さん、本当にありがとうございました。この学院都市に住まう人間の一人として改めて感謝を述べさせて下さい」

 

「セナ……」

 

 突然の感謝の言葉に対して咄嗟に言葉を返せずガレスたちに視線を向けるが、彼らもなんて言えば良いのか分からない様子で押し黙っている。

 

 しかも燈に関しては気まずそうな様子で「私、アぺプス戦には参加して無いんだけど……」と小声で呟いている始末だ。

 

 確かにお前は参加してなかったな……。

 

「……あの時は誰もができることをしただけだ。そんな改まって感謝されるようなことじゃない」

 

 やがてロクスレイが暫くの沈黙の後、そう上手い返しをしてくれたので俺たちは全員でうんうんと何度も首を縦に振って同意する。

 

「……ありがとうございます」

 

 ロクスレイの言葉にもう一度だけ感謝を述べて頭を上げたセナはそこで「忘れるところでした」と何かを思い出した様子で口を開く。

 

「姫様から伝言です。皆さんに生徒会室まで来て欲しいとのことです」

 

「ミーシャが?」

 

 

 一体、何の呼び出しだろうか。

 俺たちは訝しげな表情を浮かべ、顔を見合わせるのだった。

 

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