真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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お久しぶりです。
7月20日にコミカライズの方で二巻が発売します!

漫画ならではの技やオリジナルキャラも出てくるので是非、買ってみて下さい!


第120話

「それじゃ、僕はお先に失礼するよ」

 

 俺が話を終えた後、ミーシャから再び今後についての軽い説明を受けて解散の流れとなった為、トラルウスはソファから立ち上がって生徒会室を後にした。

 

 他のメンバーもトラルウスに続いて生徒会室から出て行き、俺も続こうとするとミーシャから「少しだけ待って下さい」と声を掛けられる。

 

「どうかしたか?」

 

「いえ、少しだけ確認したいことがありまして」

 

 その言葉に俺は足を止めるとガレスたちに先に戻るように伝え、ミーシャに向き直る。

 

「それで話ってのは?」

 

「聞かせて頂いた話についてですが、中には私だけで処理するのが難しい情報があるのも事実です。無論、共有しても意味は無い相手には話しませんが、学院長などには説明しても宜しいですか?」

 

「ああ、そのことか。勿論だ、ミーシャが話すべきと思った相手には情報を共有してくれて構わない」

 

 俺はミーシャの言葉に構わないと頷く。

 彼女ならば俺が特に心配するまでもなく、話した情報を有効活用してくれるだろう。

 

「ありがとうございます。そうしたら、このまま学院長に話しに行こうと思うのですが、一緒に来ていただけますか?」

 

「えっ、俺も?」

 

「ええ、本人がいた方が話がスムーズだと思いまして。難しいですか?」

 

「いや、そんなことは無いけど……」

 

 確かに言われてみればその通りだが、学院長に話すことを考えると先程とは別種の緊張感に襲われずにはいられない。

 

「良かったです。なら早速、話しに行きましょう」

 

「あ、ああ」

 

 ミーシャに従い、生徒会室を出るとそのまま長い廊下を進んで学院長室へと向かう。

 教員も学生もその大半がいない為、やたらと静かな校舎にコツコツと俺とミーシャの足音だけが響き渡る。

 

「…………」

 

 移動中、顔を横に向けると中庭が視界に入った。

 普段は人で賑わっている筈のその場所も今や誰一人として姿が見当たらず、何とも言えない寂寥感に苛まれる。

 

「心配しなくても、少しの間ですよ」

 

「えっ」

 

 前を歩くミーシャからいきなり告げられたその言葉に驚いていると彼女は足を止めて振り返った。

 

「……顔に出てたか?」

 

「ええ」

 

 自分の顔を触りながら尋ねるとミーシャは頷く。

 どうやら無駄に心配を掛けてしまったようだ。

 

「大丈夫ですよ、すぐに元の日常を取り戻せます。絶対に」

 

「……ああ、そうだな」

 

 ミーシャの力強い言葉に俺は頬を叩き、気合いを入れ直すと歩みを再開する。

 そのまま廊下の突き当たりまで進むと学院長室という文字が書かれたプレートの付いた部屋の前に辿り着く。

 

「それでは中に……」

 

「ああ……ん?」

 

「———?」

 

「———」

 

 ノックをしようとしたところで中から誰かの会話が聞こえてくる。

 

「誰は来ているのか?」

 

「いえ、来客の予定は無かった筈ですが……」

 

 どうやらミーシャも来客は予想外だったらしく少し驚いた様子を見せるがすぐに切り替えた様子で扉をのノックする。

 

「学院長、ミーシャです」

 

「ああ、入ってくれて構わない」

 

 ミーシャの声に応じて温かみと威厳の入り混じった声が扉越しに返ってくる。

 その声に無意識に身体が強張る中、ミーシャが「失礼します」と中に入った為、俺も慌てて続いた。

 

「よく来たな、二人とも」

 

 中に入ると白い髭を撫でながらそう言って俺たちを歓迎する老人、オルフェウス・ガンバイル学院長の姿が視界に入った。

 

「おや、ミーシャ様にロークも」

 

 入学式以来、間近で見る学院長の姿に圧倒されていると視界の外から聞き慣れた声が耳に入る。

 

「師匠」

 

「貴方が来ていたのですね」

 

 師匠、オーウェン・リブリアは入ってきた俺たちに驚いたが、俺に視線を向けるとやがて何かを察した表情を浮かべる。

 

 ……恐らく俺がここに来た理由に気付いたのだろう。

 

「ローク、君……」

 

「ローク・アレアス、リブリア氏にも話して?」

 

「ああ、勿論。と言っても、ある程度は把握していますよね?」

 

「……そうだね、僕の想像通りの話なら概ね」

 

 俺の言葉に師匠はそう言って頷く。

 師匠はホーンテッドやリリスと会話していた。恐らく既に情報を整理して俺の抱えている事情に関しても理解しているのだろう。

 

「ふむ? 何やら私だけ除け者にされているようだが、一体何のことかな?」

 

「はい、実は……」

 

「待ってくれ」

 

 俺の制止にミーシャが驚いた様子を見せるが、自分で話すと告げると納得した様子で引き下がってくれた。

 

「学院長、今回の四凶の件について少し共有したいことがあります」

 

「……聞かせて貰えるかな? ローク君」

 

 四凶という言葉を聞き、学院長は表情を真面目なものへと切り替えると俺にそう言って先を促してくる。

 俺は「はい」と頷くと先程、仲間たちに語った時と同じように俺とリリスのことについて話した。目を瞑りながら俺の話に耳を傾けていた学院長はやがて息を吐きながら「なるほど」と小さく呟いた。

 

「ローク君」

 

「は、はい!」

 

 その声と共に学院長の鋭い眼光が俺を貫く。

 老いによる濁りも衰えも感じない、それこそゼルさんすら上回るのではないかと思うほど力強い瞳に思わず気圧される。

 

 けれど、それも一瞬だった。

 

「大変だったな」

 

「へっ?」

 

 目元を緩めながら学院長から唐突に告げられた労いの言葉に俺は思わず素っ頓狂な声を漏らしてしまう。

 

「生き別れた家族との突然の再会、それも邪霊の一団と手を組んでいたというのだから、本当に驚いたことだろう」

 

「……そうですね、正直なところまだ実感もあまり」

 

 そもそも母親や妹の存在を知ったのもつい最近のことだったのも相まって。まだ頭の中が整理しきれていない。

 

「だろうな、あまりに全てが突然だ」

 

「……その、学院長。俺は———」

 

「最初に言ったことが全てだ。そもそも君は学位戦で邪霊を使役していたり、前々から驚かされていたからな」

 

「そ、それは……」

 

 言われてみれば確かにそうだ。

 よく考えたら元々問題児だったな、俺。

 

「まぁ、その他のことを言うなら……よく頑張ったということだけだ」

 

「頑張った……ですか?」

 

 何のことだろうかと俺が尋ねると「ああ、そうだ」と学院長は首肯しながら答える。

 

「私が都市の人々の救助を行っている間、君たちにはアぺプスとの撃退という大役を果たしてくれた。ローク君やミーシャ君は勿論、オーウェン君にも感謝している。本当にありがとう」

 

「いえ、そんな……」

 

「当然のことをしただけです」

 

 そう言って感謝の言葉を述べながら頭を下げる学院長の姿に俺は慌てて首を横に振るなか、後ろからは師匠が落ち着いた口調でそう返した。

 

「だがローク君、君の妹のことはそう簡単に片付ける訳にはいかない」

 

「ッ!」

 

 今までの穏やかな表情から一転し、険しい表情を浮かべながら学院長は俺にそう告げる。

 

「事情がどうであれ、あの組織と共にある以上、王国は容赦しない。このまま行けば君の妹は国賊として組織諸共、殲滅されることになるだろう」

 

「それは……」

 

 少し考えれば分かることだ。

 今まで俺は自分のことしか頭になかったが、あの邪霊の一団と共にいる以上、リリスは国から倒すべき敵の一人と認識される。

 

 当然だ。あまりにも当然のことだった。

 

「君はそれで大丈夫か?」

 

「………」

 

 学院長の言葉に俺は思わず黙り込む。

 正直なことを言えば、大丈夫だと答えられる自分がいるのは事実だ。

 

 まだリリスが俺の妹だという実感が無いことも相まって今の俺の彼女に対するイメージは妹を名乗るやべぇ奴という感じだ。

 

「…………」

 

 けれど、だからと言って敵だと言い切るには抵抗がある。

 そもそもまだリリスについてまだ知らないことが多過ぎる。仮にも血の繋がった家族なんだ、可能ならちゃんとお互いのことについて話し合いたい気持ちもある。

 

「俺は……」

 

「無理に大丈夫だと答える必要はないよ」

 

 俺が口籠っていると様子を見ていた師匠からそう告げられる。

 

「血の繋がっている家族のことなんだ。簡単に割り切れるものではないし、割り切って良いことでも無いと、僕は思うよ」

 

「師匠」

 

 俺の肩を優しく叩きながら師匠はそう言うと「あまり僕の弟子を虐めないで下さいよ」と学院長に苦言を呈した。

 

「……私とて言いたくて言っている訳ではない。遠目から少し見ただけだが、まだ子供だった。恐らく善悪の判別すらまだ碌に付いていないのだろう」

 

 少し表情を和らげた学院長は椅子の背もたれに身体を預けながら続ける。

 

「だが、先程も言ったように簡単に片付く話ではない。ましてや君の妹はあのアジ・ダハーカを曲がりなりにも使役しているというのだろう? 俄かに信じ難い話だが」

 

「彼女、リリスが悪魔であることがアジ・ダハーカの使役に大きく関与しているのは間違いないでしょうね」

 

 リリスがアジ・ダハーカを使役しているという話を訝しむ学院長に師匠がそう答える。

 

「そういえば、あの賊が語っていましたね。悪魔と邪霊の関係性について」

 

「……全ての邪霊は悪魔を起源として産み落とされるだっけか?」

 

 ミーシャの言葉に俺はあの時のことを思い返しながらホーンテッドが口にした言葉を声に出す。

 

「元々、悪魔と邪霊に関連があると語られていたのは事実だ。拝霊教の教えでも悪魔は邪霊と並べて忌避するべき存在と語られていたしね。とはいえ、まさか邪霊が悪魔から生まれた精霊だとまでは思わなかったけど」

 

「そういえば師匠は悪魔について何か知っているみたいですけど」

 

 リリスの扱った技を初見で魔術だと気付いたり、ホーンテッドとの会話の内容から少なからず悪魔に関する知識を持っていたように思えた。

 

「君が思っている程のことは知らないよ。ただあの馬鹿……アルベルトが邪霊の研究をしている時に資料を見せて貰っていたからね」

 

「……アルベルト先生」

 

 その名前が師匠の口から漏れた瞬間、俺は何とも言えない気持ちになる。裏切られ、殺されかけた相手ではあるが、それでも講義は勿論、学位戦や大精霊演武祭など世話になった。

嫌いになることはできなかった。

 

「……そういえばアぺプスとの契約の後、アルベルト先生はどうなったんですか?」

 

 あの後、間を開けずにアぺプスとの戦いに突入した上に戦闘終了後は気絶してしまったせいでアルベルト先生の安否を確認することができていなかった。

 

 簡易とはいえ、四凶との契約なんて身体に相当の負担が掛かる筈だが、大丈夫だったのだろうか?

 

「…………」

 

「……師匠?」

 

 俺の質問に答えず、黙り込む師匠に思わず首を傾げる。

 珍しい反応だ。そう思いながら再度、師匠にアルベルト先生のことを尋ねようと口を開いたところで先んじて学院長の言葉が耳に入った。

 

「……亡くなった」

 

「…………えっ?」

 

 

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