真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます 作:アラッサム
「皆さん、来ましたね」
「やぁ」
生徒会室に入ると最奥の椅子に座るミーシャと来賓用のソファに深々と腰を掛けて座っているトラルウスの姿が視界に入った。
「なんでトラルウスがここに?」
「僕も呼ばれたんだよ」
「そうなのか……」
「とりあえず、そちらに掛けて下さい。立ったままでは疲れるでしょうから」
となるとアぺプスとの戦いに参加したメンバーを呼び出したのだろうが、一体どんな用件なのだろうか。
俺がそんなことを思いながらソファに腰掛けているとミーシャの視線が後方にいる燈へと向いた。
「おや、月影さんも来ていたのですね」
「ああ、さっきまで一緒にいてな。そしたら来たいって暴れてな」
「なんか私だけ仲間外れにされているのが嫌で来ちゃいました」
生徒会室に呼び出されたメンバーに燈は含まれていなかったが、彼女に私も行きたいと駄々をこねられ、連れて来る羽目になってしまった。
「まずかったか?」
「いえ、少し驚いただけです。来てしまったならば構いません」
ミーシャはそう言って首を横に振ると俺たちを見回す。
「ああ、あまり緊張しなくても大丈夫ですよ。皆さんをここに呼んだのは共に四凶との戦いを切り抜けた戦友として情報を早めに共有しておこうと思ったからです」
俺たちの間に走る張り詰めた空気を感じ取ったミーシャが口にしたその言葉に俺は思わず安堵の息を漏らした。
状況が状況なこともあって何か大変なことでも起きたのかと身構えてしまったが、とりあえず何も無くて良かった。
「そういえば皆さん、身体の方は如何ですか?」
「ああ、もう大丈夫だ」
「僕も特には」
ミーシャの問いに俺がそう答えるとトラルウスも肩を回しながら問題無いと続いた。
他のメンバーも全員がそれぞれ身体の調子が問題無いことを答えるとミーシャは「それなら良かったです」と安堵した様子で呟く。
「まずは皆さん、お疲れ様でした。未だ脅威は依然として残っていますが、それでも窮地は乗り切ったと言えるでしょう。力を貸してくれた皆さんに心からの感謝を。お父様からも感謝の言葉を預かっています」
「……いや、そんな国王様や君に感謝をされるほどの結果は残せていないよ、二体目の四凶の復活を許してしまったしね」
俺たちへの労いと感謝を述べるミーシャにトラルウスが少し間を開けた後、険しい表情でそう返す。
まさにそれはセナからの感謝を述べられた時に俺が思っていたことだった。
勿論、全力は尽くしたつもりではあるが、結果だけ見れば素直に感謝の言葉を受け入れることはできなかった
「それでも私たちが全滅し、学院都市が滅びるという最悪の結末を回避することはできました。そして、何よりアぺプスを撃退したことで相手の戦力を大きく削ぐことができたことも大きい」
「…………」
「確かに最高の結果では無いですが、それでも次に繋がる戦果だったと私は思っています」
「……そう思って貰えたなら何よりだよ」
ミーシャの言葉にトラルウスは少しだけ口元を緩めながら呟く。
俺も彼女の言葉に少しだけ心が軽くなる感覚を覚えながらソファの背もたれに身体を預ける。
前に生徒会室に来て座った時も思ったが、非常に座り心地の良いソファだった。
「では、次に現状についての話をしましょう」
その発言に柔らいでいた空気が引き締まるのを感じながら俺は改めてミーシャの言葉に耳を傾ける。
「まず、四凶たちの行方についてですが、ドラコニア王国の協力も得ながら王国精霊師団が総力を挙げて捜索していますが、成果は芳しくないのが実情です」
「全く分からないのか?」
「……一応、アジ・ダハーカについては霊力の痕跡を見つけているようですが、アぺプスについてはまだ何も」
「まぁ、四凶が相手だからな。無理もない」
特にアぺプスに関して言えば戦闘中にも二つの別空間を繋げるような霊術を行使していた、既に遥か遠くに移動していても不思議じゃない。
「ただ痕跡が全くない以上、アぺプスに関しては付近に潜んでいる可能性も捨て切れない為、暫くは厳戒態勢を敷くことになります。学院もそれに伴い、当分は休むことになるでしょう」
「なら、僕たちは基本的には学院に待機ですか?」
「はい、基本的にはそうなるでしょう」
ガレスの問いに頷くミーシャは「ただ……」と語尾に付け加えると俺たちを見回しながら告げる。
「貴方たちは数少ないアぺプスと戦い、撃退を成し遂げた精霊師です。彼らの行方は知れず、また捜索にも人員が裂かれている以上、王国としては貴方たちの力も必要になる可能性が高いのが実情です」
「………」
つまり、状況によっては再び四凶と戦って貰うことになるかも知れないとミーシャは言いたいのだろう。
確かに捜索と各都市の警備に人員を裂かれた上にその対象が四凶たちともなれば、人手が足りなくなるのも無理は無いが……。
「その上で、このロムス王国の王女として貴方達にお願いします」
そう言うとミーシャは俺達を見回しながら頭を下げた。
「……どうか、この国の為に皆さんの力を貸しては頂けないでしょうか?」
「ッ!」
予想もしていなかったミーシャの行動に俺達は全員が驚いた反応を見せた。
「勿論、強制するつもりはありません。今回は運良く生き延びることができましたが、次の戦いでも生き残れるとは限りません。寧ろ命を落とす可能性の方が高いでしょう」
「ですが、その上で……どうか、今一度この国を守る為に皆さんの力を貸しては頂けないでしょうか?」
『…………』
ミーシャのその必死の頼みを聞き終えた俺達は暫くの間、誰も言葉を発せず沈黙が続いていたが、やがてケイが口を開いた。
「頼まれずとも僕はまた挑むつもりだったよ。伝説の邪霊との戦いなんてインスピレーションが湧いて仕方ないからね」
「理由それかよ……」
予想以上に自己中心的な理由に思わず突っ込みを入れていると「僕も戦うよ」とガレスが言った。
「オーロット家の精霊師として国の危機にこの魔剣を振るえるのはこれ以上ない栄誉なことだからね。喜んで戦うさ」
「そういうことなら望むところだよ。前回参加できなかった分、働かせて貰うよ」
魔剣の柄に手を置きながらそう語るガレスに続き、燈がその両目に戦意を漲らせながらそう口にする。
「俺はいつも通り、自分の責務を果たすだけだ」
「頑張る」
そしてロクスレイとリリーがそれぞれ決意表明をする中、俯いて咄嗟に言葉を返せないレイアの姿が視界に入った。
教室での会話からレイアは四凶に対する恐怖が強いのは分かっている。
この場で今の彼女に何かを言わせるのは酷だろう。
「私は……」
「話の途中だが、少しいいか?」
何かを喋ろうとしたレイアの言葉を遮り、俺は手を挙げて発言を求める。
「何だい? 君は四凶との戦いは嫌かい?」
「そういう話じゃない。いや、嫌かと言われれば勿論、嫌だんだけど……そうじゃなくてみんなが集まっている今の内に話しておきたいことがあるんだ」
揶揄うトラルウスの言葉にそう言葉を返しながらソファから立ち上がるとその場にいた全員の視線が俺に集まる。
「ローク」
リリーが俺の言いたいことを察した様子で声を掛けてきた為、無言で頷きだけを返すとゆっくりと口を開く。
「話したいのは俺とホーンテッドとアジ・ダハーカの召喚陣から呼び出された少女についてだ」
「……ああ、そう言えばお兄ちゃんとか呼ばれていたね」
俺の言葉を聞いたトラルウスはその時のことを思い返しながら呟く・
「そうだ、そのことだ」
「あの時、色々と聞き捨てならない単語があったのは確かだ。しかし……」
トラルウスはそこで言葉を止めると視線だけで俺に訴え掛けてくる。
———本当に話して良いのか? と。
「………話すべき……いや、話さなければいけないことなんだ」
俺はそう言うとみんなを見回しながら言った。
「聞いてくれるか?」
俺の言葉にみんなが頷くのを確認した後、俺は一拍置いてから話し始めた。
自身の生い立ちと現れた少女、リリスが妹であること、そして四凶の復活の一端を彼女が担っていること、その全てを包み隠さずにみんなに語った。
正直、話している間はずっと身体が重かった上に心臓がバクバクと激しく脈動していた為、自分がしっかりと話すことができていたかは定かでない。
なんなら途中、変な話仕方になった気もする。
「———という訳だ」
けれど、それでも何とか話し終えることできた俺は、その場にいた全員が一度も真剣な表情で耳を傾けてくれていたことに深い感謝を覚えながら頭を下げる。
「だから今回の騒動の原因の一端は間違いなく俺にもある。謝って済むことでは無いが、それでも、本当に申し訳ないッ! どんな処罰も受ける所存だッ!」
俺が謝罪を終えたことで場に再び沈黙が訪れる。
そんな沈黙にこれ以上ない程の重苦しさを感じながら頭を下げて待機していると「顔をあげて下さい」という声が耳に入った。
その言葉に従い、顔を上げるとミーシャの微笑みが視界に入った。
「よく、話してくれましたね。ローク・アレアス」
「…………」
その声に込められた温かみに俺が思わず言葉を失う中、ミーシャから感謝の言葉が漏れた。
「とても話し辛いことだったと思いますが、隠さずに話してくれてありがとうございます」
「いや、話すべきことだったからな」
少なくとも話したく無いからという個人的な理由で隠すにはあまりにも重要な情報だと思った。
「まず処罰の件ですが、こちらに関しては特に何もありません。そもそも貴方が何かをした訳ではありませんし、ましてやアぺプス撃退の立役者でもある貴方を処罰する訳にいけません」
「けどミーシャ、俺は……」
「貴方の親族があちら側にいるのは理解しましたが、それが貴方の罪になることはありませんよ、ローク・アレアス」
ミーシャは微笑みながら言う。
「ロムス王国の王女として貴方に罪がないことをここに証明します」
「…………」
「きっとお父様がこの場にいても同じ判断を下していたと思います」
その言葉に先程まで感じていた重圧が消えていく感覚を覚えながら半ば呆然とミーシャを見つめていると彼女は仲間たちに視線を向ける。
「皆さんから何か意見はありますか?」
「いえ、僕からは何も」
「同じく」
首を横に振ってそう答えるのはトラルウスとロクスレイ、続いてリリーも無言で首を横に振って特に意見が無いことを伝える。
「私は何だか先輩に親近感が湧いたよ。お互い変な兄妹を持つと大変だね」
「……私もミーシャ様と同じです。先輩に罪と呼べるようなものは無いと思います」
どこか楽しげに共感を口にする燈の横でレイアがミーシャと同様に俺を見つめながら罪は無いと口にしてくれる。
「僕もまぁ、当然何も無いよ」
「……ガレス」
ガレスは俺と視線が合うとパチッとウィンクをしてくる。
何か無駄に動作がイケメン過ぎて抱いていた感動が少し薄れていくような感覚に陥りながらも俺はみんなに向けて頭を下げた。
「みんな、ありがとう」