真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます 作:アラッサム
漫画ならではのキャラの可愛いさとカッコいいアクションシーンが沢山あるので是非、買って下さい!
あと、私服のレイアが可愛いです!
聞き間違いか。
そう思って学院長に視線を向けると再度、「亡くなった」と同じ言葉が繰り返された。
「恐らくアぺプスとの契約に身体が耐えられなかったのだろう、ビブリア廃神殿の瓦礫跡からボロボロの状態で見つかった」
「……そんな」
アルベルト先生が……死んだ?
本当に? 冗談とかおふざけではなく?
混乱しながら横目で師匠とミーシャを確認してみると沈痛な面持ちを浮かべる二人の姿が視界に入った。
「………そう、なんですね」
いや、考えてみれば当然のことだ。
あの戦場で俺達が誰一人欠けることなく生き残ったことだって奇跡に近いのだ。死者が出ることは当たり前だし、何ならアルベルト先生がしでかしたことを考えれば因果応報と言えるだろう。
『……罪悪感が全くないとは言わないよ。ユートレア学院での教鞭は真面目にやっていたし、私の講義を楽しげに聞いてくれる学生たちのことは嫌いじゃない。ここでの生活は気に入っていたよ』
けれど、それでも…………。
「…………」
「惜しい人物だった。間違いなくな」
黙り込む俺の心を代弁するかのように学院長は静かにそう言った。
裏切り者とはいえ、ユートレア学院の教師であり、学生や同僚たちから尊敬されていた精霊師であったアルベルト先生の死を学院長も悲しんでくれだ。
その事実に少しだけ心が軽くなるのを感じながら俺は「はい……」と静かに頷いた。
「…………話を戻そう。いつまでも感傷に浸ってはいられない」
暫く感傷的な沈黙に包まれていた学院長室は師匠のその呟きと共に再び元の空気感を取り戻した。
「さっきも言ったように僕が悪魔についての知識があるのは、アイツの研究資料の一部を拝借して読んでいたからだ。アイツは邪霊と関連することについては本当によく調べていたからね」
「……何か分かったことはあるんですか?」
それこそ邪霊の為に自分の全てを擲つような人間だ、きっと色々と調べていたのだろうと思いながら尋ねると師匠が頷いた。
「いや、残念ながらそこまで目新しい内容は見つけられなかった。ただ、ホーンテッドの話の裏付けになるような情報は幾つか見つけられたよ」
「……どのような内容でしょうか?」
「悪魔は邪霊を引き寄せる性質があるというものだ」
師匠のその言葉に俺とミーシャは訝しげな表情で首を傾げる。
「アルベルトはこれを帰巣本能、もしくは彼らが持つ魔力に引き寄せられているんじゃないかと考えていたようだ」
「帰巣本能……どこかホーンテッドの話と通じるところがありますね」
「ああ、アイツが言っていた邪霊の起源の話を考えると悪魔がこの性質を帯びているのも理解できる」
「…………」
師匠の話を聞いて俺が頷く中、ミーシャは顎に手を添えながら何かを考える素振りを見せながら沈黙していた。
「ミーシャ、どうかしたか?」
「……ああ、いえ。悪魔の性質に関しては分かったのですが、そもそも魔力という力は一体、何なのかと思いまして」
「えっ、そりゃ……」
………何なんだろう?
言われてみると確かに魔力自体がよく分からない。
悪魔が扱う何だか凄い力ぐらいの超アバウトな認識しか無かった。
「師匠」
「いや、そう言われても僕だって分からないよ。そもそも専門でも無いし、魔力を実際に目にしたのもあの時が初めてだからね」
……そりゃそうか。
考えてみれば師匠の専門は歴史学だ。流石に無茶振りが過ぎた。
「……まぁ、詳しいことは分からないが、それでも一つ言えるのは霊力とは似て非なる力だということは確かだ」
「似て非なる力……」
リリスが放った鎖の魔術を思い出しながら俺は呟く。
恐らくあの鎖を構成していた力が魔力なのだろうが、そこまでの異質さは感じなかった。
「…………」
———いや、それどころか……。
「そもそも霊力はこの世界を構成する力の一部だ。この世界に根付く霊脈、そこから大気に溢れた霊気を生物たちが取り込み、霊力を生み出す」
「そうだな。精霊が生まれ落ちる元霊界も大量の霊気よって構成されている」
「ええ、魔力は違う。魔力は悪魔だけが持ち、扱うことができる力だ。この世界のことを全て知っている訳じゃないが、それでもやはり特殊だと言わざるを得ない」
「………」
異端。
師匠は言葉を選んでくれたが、話を聞いていた俺の脳裏にはそんな二文字が浮かんだ。
「……ローク・アレアス」
「何だ?」
どこか悩ましげな表情で声を掛けてきたミーシャは「もしかしたらですが……」と前置きした上で言った。
「貴方、魔力を扱ったことが無かったでしょうか?」
「えっ?」
魔力を使った? 俺が?
「いや、そんな筈は……」
「大精霊演武祭の最後の競技、防衛戦で貴方がユーマ・シュレーフトを相手に使用した最後の技……あの時に魔力を使用していませんでしたか?」
「大精霊演武祭……」
完全に予想外だった指摘に困惑する中、ミーシャからその根拠となるエピソード共に再び尋ねられ、俺は当時のユーマとの死闘を思い返す。
かつて霊装化したミーシャが破れ、呼び出したクロも破れた俺がユーマを倒す為に最後に使用した技は何だったか……。
「……ミストルティン」
「ミストルティンって、ああ僕が渡したあの木精霊のことかな? 」
ミストルティン。契約者の霊力を喰らってどこまでも成長する性質を持つ木精霊。
かつて大精霊演武祭の切り札として師匠が俺に渡してくれた精霊、それを最後に使用したんだ。
「……そうだ、ミストルティンだ! 最後にミストルティンでユーマを倒そうとして、けどミストルティンに喰らわせる霊力が足りなくて……俺は……ッ!」
「話が見えてこないな。一体、どういうことだい?」
「ローク・アレアスが最後に使用した精霊、ミストルティンから感じられた気配が魔術と似ていたんです。当時は単純に込められた霊力の属性が濃かっただけかと思っていましたが、今改めて振り返るとやはり霊力とは違ったように思えて」
「ミストルティンから……?」
「ふむ、邪霊との契約者だったという例のリベル学院の生徒会長との戦いか」
訝しげな表情を浮かべる師匠と学院長がミーシャの話に耳を傾ける中、俺は必死に記憶を掘り返していた。
「そうだ、どうして、どうして今まで忘れていたんだ? あの得、俺は力を貰ってミストルティンを使ったんじゃないかッ!」
当時の記憶が鮮明になるにつれて俺は自分の馬鹿さ加減に殴りたい衝動に駆られる。
あの時、聞こえてきた声と溢れ出たあの力……間違いない。
「リリスだ。リリスが俺に魔力をくれたんだ!」
一度使った経験があったからリリスが使った魔術に異質さを感じず、寧ろ懐かしさのようなものを感じていたんだろう。
「リリスが魔力を君に?」
驚きと疑問の入り混じった表情で確認を取ってくる師匠に俺は「はい」と頷く。
「間違いありません。それに今思い返すとユーマも言っていたんです。あの時は何のことかって思っていましたけど……」
「なるほど……」
俺の話を聞き終えた師匠は腕を組みながら何かを考え込む。
「確かに言われてみれば君が邪霊との契約を行おうとした時も干渉していたね」
「……ん? ちょっと待ってくれ。今聞き捨てならない発言が聞こえないんだが?」
師匠の発言に学院長が待ったを掛ける。
途端に俺が師匠に視線を向けると口元を抑え、やっちまったと言わんばかりの表情を浮かべる。
———やってくれたな、師匠。
「君達、簡易契約だけに飽き足らず、そんな危険なことをしていたのか」
「あの、いや~、それは……」
師匠に恨みを抱くのも束の間、学院長の言葉に俺は慌てる。
トラルウスとの学位戦後の尋問で俺はビビって簡易契約だけで流石に精霊契約は試してないと微妙に嘘を付いていた。
あの後、それ以上深く追及されることは無かった為、完全に油断していた。
まさかこんなタイミングで嘘がバレるとは……ッ!
「……全く、普段ならばもう少し深掘りするところだが、今はそんな話をしている場合では無いな。後にしよう」
「…………」
呆れ混じりの学院長の判断に思わず安堵の息を漏らすと「詳細は後で確認するぞ」と睨まれ、俺は静かに頷くことしかできなかった。
「とはいえ、何を考えるにしてもやはり今は情報が足りなそうだな」
「そうですね。実際、先程から憶測しか話せていませんしね」
四凶、悪魔。
どちらも文献でしか知ることのないような古の存在ばかりであり、どうしても得られる情報が少ない。
「……そろそろ終わりにしよう。次の予定も控えていしな」
疲れを吐き出すように息を漏らしながら呟いた学院長に俺は感謝を述べるとミーシャと共に頭を下げて学院長室を後にしようとすると「待ちたまえ」と呼び止められる。
「最後に一つだけ、君の妹についてだ」
「……はい」
俺は返事をすると振り返ると学院長に向き合う。
「こちらでもできるだけ穏便にことを収められるように努力はするが、状況が状況だ。あまり期待はしないでくれ」
「はい、寧ろご配慮くださりありがとうございます」
寧ろ本当ならば逆賊として問答無用で処罰される筈だ。
こうして配慮してくれるだけでも充分ありがたい話だった。
「悪魔という得体の知れない存在とはいえ、まだ子供だ。教育者としてはどうにかしたいというのが素直な気持ちだな」
「僕の見立てではあの子は協力と言うよりもホーンテッドに上手く利用されている雰囲気でした。可能性は充分あると思いますよ」
そう語る学院長と師匠の言葉の端々からリリスをどうにかして助けたいという思いが感じ取れ、俺は再び「ありがとうございます」と感謝を述べた。
「いや、礼を言われるようなことでは無い。それより引き留めて悪かったな、戻ってゆっくり休むと良い」
学院長のその言葉に俺は頭を下げると今度こそミーシャと共に部屋を後にするのだった。
*****
「それにしても君が弟子を取っていたとはな」
ローク達が学院長室から去った後、学院長……オルフェウス・ガンバイルはそう言いながらオーウェンに視線を向ける。
「あの問題児が随分と立派になったものだ」
「あんまり昔に触れるのは止めて貰えません?」
オルフェウスのその言葉にオーウェンは過去のやらかしを思い出してバツの悪そうな表情を浮かべる。
「何だ、恥ずかしいのか?」
「流石にこの歳になれば当時の自分が如何に馬鹿だったかなんて自覚しますよ」
オーウェンは当時、周囲への迷惑も考えずに好奇心の赴くままに暴れ回り、イキり散らかしていた自分をぶん殴りたい衝動に駆られながら呟く。
「ハハハ、君も大人になってしまったな」
「あれから何年経っていると思っているんですか?」
オルフェウスの言葉にオーウェンは呆れ混じりに言葉を返す。
幾らかつてユートレア学院の学生と言っても、もう昔の話だ。あまり子供扱いしないで欲しかった。
「それよりどうするんですか?」
「さて、どうしたものか……」
オーウェンのその主語の無い質問の意味を正確にはあしながらオルフェウスは考える。
「学生の手前、格好を付けてしまったが正直なところ、これといった打開策は思い付かないな」
「そもそも相手の居場所も目的も分からない状況ですからね」
苦笑を漏らしながら髭を撫でるオルフェウスにオーウェンは困り果てた様子で同意する。
仕方ないこととはいえ、全ての行動が後手に回ってしまっている。
「とはいえ、全く見当を付けていない訳では無いのだろう?」
「ええ、と言っても確かな情報では無いですが」
オルフェウスのその言葉にオーウェンは頷く。
先程まではローク達を巻き込みたくなかった為、黙っていてがオーウェンはアルベルトと自身の持つ資料を確認し、彼らの目的と行動幾つかの推測を立てていた。
「これから王国精霊師団との話し合いもある。その前に君の意見を聞かせて貰えるかな?」
「はい」
かつての師の言葉にオーウェンは静かに頷くのだった。
*****
「それでは、失礼します」
「ああ、手伝ってくれてありがとうな」
学院長への話を終えて別れ際、ミーシャにそう感謝を述べると苦笑と共に首を横に振られる。
「私は何もしていませんよ」
「いや、お陰で学院長と直接、話すことができたからな」
正直ビビり散らかしはしたが、こうして直接、学院長と話せて良かった。
お陰で随分と心が軽くなった。
「貴方が良かったと思えたなら、私も提案した甲斐がありました」
「ああ、本当に助かった」
再度、俺は感謝を述べるとミーシャに背を向けて寮に向かおうと歩き出す。
「ローク」
「……!」
普段の呼び方とは違う、名前だけの呼び方に少し驚きながら振り返ると優しい笑みを浮かべる彼女の姿が視界に入る。
「貴方のご礼妹、必ず和解しましょう」
「…………」
ミーシャのその言葉に俺は思わず言葉を詰まらせる。
師匠は割り切る必要は無いと言ってくれていたが、本当にそれで良いのか。
リリスと和解する為にミーシャや師匠といった関係ない人々を巻き込んでしまって本当に良いのか。
そもそもリリスは俺達じゃどうしようもないような悪党なんじゃないか。
そんな疑問が頭の中に渦巻き、肯定の返事をすることができなかった。
「……」
そんな俺の心情を見透かしたのか、ミーシャはこちらに近付いてくるとそのまま抱き締められてしまう。
「うぇッ!? ちょ———」
「大丈夫ですよ。他ならない貴方の妹です。きっと根は優しい子に決まっています」
「……ッ!」
ミーシャから香る良い匂いと柔らかい感触にドギマギするのも一瞬、ミーシャの口にした言葉に驚きで目を見開く。
「……それはちょっと俺を買い被ってないか?」
「かも知れません。けれど、それだけ私は貴方を信じていますよ。勿論、貴方の妹も」
「………」
下手をすれば殺されていたかも知れない筈なのに俺よりもリリスを信じるミーシャに暫くの間、言葉を失う。
けれど、少ししてミーシャからの信頼の厚さを理解した俺はゆっくりと感謝の言葉を口にした。
「……ありがとう。俺と、妹を信じてくれて」
「どういたしまして」
返事を聞きながら気付けば、ミーシャに抱き締められて不思議な安堵を覚えていることに気付いた俺は少し慌て気味に「もう大丈夫だ、ありがとう」と呟く。
「おや、もう良いのですか?」
「あ、ああ。もう大丈夫。本当に大丈夫」
俺がそう言うとミーシャはゆっくりと背中に回していた腕を解いて離れた。
離れていくミーシャの温もりに名残惜しさを覚えてしまう自分に喝を入れながら俺は改めてミーシャに感謝を述べた。
「ありがとう、ミーシャ。お陰で元気が出たよ」
「そうですか? それなら良かったです」
ミーシャはそう言うと背を向けて歩き出すが、すぐに「あっ」と何かを思い出した様子でこちらに振り返った。
「もし元気が出なくなったら言って下さい。また抱き締めてあげますよ」
「………へ?」
ミーシャの発した言葉の意味を俺が理解する頃には既に彼女の後ろ姿は消えていた。
「………戻るか」
ミーシャがいなくなった後も暫く呆然としていた俺はそう呟きながら廊下を歩き出した。