真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます 作:アラッサム
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「うん、もう良いよ。許してあげる」
「そりゃ、良かったよ」
あれから体感で十分くらい頭を撫で続けていた俺はリリスの許しを得て、ようやく撫でる手を止めることができた。
尤も夢の中なので実際、どれくらいの時間が経っているかはよく分からないが……。
「それじゃ、話の続きを聞かせて貰えるか?」
「うん、良いよ」
リリスはニコニコと上機嫌な様子で頷くが、言葉とは裏腹に黙り込んだまま一向に話し始めようとしない。
「………」
「何だ? まだ不満なことがあるのか?」
まさか、やっぱり「もう少し撫でて~」とまた頭を撫でる羽目になるのではと身構える俺にリリスは「え~っと」とどこか悩ましげな声を漏らした。
「私、何を話そうとしてたんだっけ?」
「…………」
そう言ってどこか気まずそうに笑うリリスに俺は思わずため息を漏らしながら「家族のことだろ」と端的に告げる
「ああッ! そうだったそうだった! すっかり忘れちゃってたよ」
「………」
「ごめんごめん」
愛嬌のある笑みと共に謝るリリスに何とも言えない気持ちになりながら押し黙っていると彼女は「コホン」と一度、咳払いをして気合を入れ直した。
「それじゃ、そろそろあの女が何をしたのか、何で私達が離れ離れになったのかを話していこっか」
「ああ、教えてくれ」
いよいよ話が本題に入り、俺も椅子に腰掛けながらリリスの言葉に耳を傾ける。
「あれは私が八歳くらいの時だったかな? あの頃から私は魔力が高くなってきたみたで家の周りに邪霊が来るようになったんだ」
「邪霊が?」
「うん、私の魔力に惹かれてきたみたい」
「……邪霊は魔力に惹かれるのか?」
「みたいだね。アイツは、魔力は邪霊からすると自らを完全に至らせる糧になるとか、本質と共鳴するだとか色々と言ってたよ」
「…………」
リリスの言葉を聞き、俺は学院長室で師匠と話していたことを思い出した。
悪魔が邪霊を引き寄せるのは悪魔帰巣本能か、或いは魔力に惹かれているというアルベルト先生の考えは間違っていなかったようだ。
「まぁ、それでその頃から家に邪霊がよく来るようになったんだ」
「え、それって大丈夫だったの?」
邪霊が家に頻繁に来るという命が幾つあっても足りなそうな恐ろしい日常の日々に思わずそう尋ねると「全然大丈夫だったよ」と軽い返答がくる。
「みんな、特に攻撃とかしてこなかったし、いい子たちばっかりだったよ」
「そ、そうなの?」
「うん、特に危ないことは無かったよ。一緒に遊んでくれたりもしたし。まぁ、あの女が全部追い返しちゃったけどね」
「追い返した?」
「うん、邪霊が危ないって思ったみたい」
不満げにそう呟くリリス。
どうやら話を聞く限り、母さんが邪霊を追い返したらしい。
リリスも邪霊と仲良くしていたらしいし、どちらも二人が悪魔だからこそなせることなのだろう。
「いや、でも仕方ないだろ。実際、リリスが大丈夫でも俺とか友達は危ないだろうし……」
「———私に友達なんていないよ」
やっべ、地雷を踏んだか?
友達という単語を口にした瞬間、険呑な雰囲気を放つリリスを見て焦りながら「ご、ごめん」とすぐに謝罪する。
「そもそも他の人なんてどうでもいいよ、あんな意地悪な奴らなんて」
「それってあのクソガキ共のことか? まぁ、確かに———ッ‼︎」
昔、リリスに暴力を振るっていたクソガキ共のことを思い返しながら呟いていた俺はそこで過去の記憶を思い出せていることに気付いた。
「記憶が……ッ!」
「お兄ちゃん……ッ‼」
封印が解けた効果が早速出ていることに驚いているとリリスが興奮した様子で抱き着いてくる。
「記憶を取り戻したのッ⁉ どこまで思い出せたッ⁉」
「いや、まだ全然。本当にクソガキ共のことをちょっと思い出せただけで」
期待に目を輝かせながらそう尋ねてくるリリスに申し訳なく思いながら俺はそう答える。
「…………」
「ご、ごめんって」
他の記憶が戻ってないことに対して不満げに膨れっ面で睨み付けてくるリリスに俺はその小さな頭を撫でながら謝罪する。
「ほ、ほら、それより邪霊を追い返した後の話の続きを聞かせてくれッ! 昔のことを聞けば他にも色々と思い出せるかも知れないだろッ⁉」
「……分かった」
リリスはムスッとした表情を浮かべながらも俺の言葉に従い、再び話を続けた。
「それでアイツが邪霊を追い払った後だけど、邪霊を呼び寄せる私とお兄ちゃんを引き離そうとしたんだよ。このまま一緒にはいられないって」
「母さんが……」
恐らくは俺や近くに住む人々のことを考慮したのだろう。
仮に母さんが強力な悪魔だったとしても、何体もの邪霊が集まってきていたのだとしたら万が一のことがないとも限らない。
俺達の安全の為の決断だったのだろう。
「私は絶対に嫌だって言ったんだけど、アイツはまるで聞いてくれなかったんだよ。お兄ちゃんもお父さんも反対してたのに……」
「……なるほどな」
確かに当時の俺なら……いや、今でもきっと二人と離れたくないと反対しただろう。
しかし……そうか。
どうして俺とリリスが離されたのか、どうして母さんが出て行ったのか、ようやく理解できた。
「…………」
ずっと母親に捨てられたと思ってた。
実家に帰って親父から話を聞いた時も正直、信じ切れずにいた。悪魔やらの云々は本当だとしても母さんが俺達を捨てた事実は変わらないんじゃないかって。
けど、違ったんだな……。
「……そうだったんだな」
母さんは俺を捨てたんじゃなくて、危険から遠ざける為にリリスと引き離したのか……。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「悪い、何でもない」
一人、感慨に耽っていた俺はリリスの声で我に返るとそう言いながら誤魔化す。
きっとリリスに今の俺の心情を知られたら間違いなく不機嫌になる。いや、それどころか下手をすれば殺され兼ねない。
「話を遮っちゃったな。それで、母さんとリリスは出て行ったのか?」
「そうだよ。とは言いっても、暫くしたら安全だからって私を元霊界に放り込んでどっか行っちゃったけどね」
「なら、今は母さんとは一緒にいないのか?」
「うん」
なら、母さんは今どこにいるんだ?
仮にも子供一人を放っておいてどっかに行くなんてことがあるのだろうか?
「はぁ……やっぱりあの時、もっと抵抗しておくんだったなぁ」
「結構、暴れたのか?」
「そりゃ、勿論。家壊れそうになったから止めたけど、その時に気絶させられちゃった」
家が壊れそうになるほど抵抗したって何をしたんだ?
その時、お前十歳くらいだよね?
「そ、そんなに暴れたの?」
「だってお兄ちゃんと離れたくなかったんだもん」
「ああ、うん……」
そんなリリスからの好意をやはり素直に喜べない俺が何とも言えない返事をすると
「せっかく、お兄ちゃんと契約を結べたのに」と聞き捨てならない言葉が耳に入った。
「契約? 今、契約って言ったか?」
「うん、と言ってもアイツに妨害されたせいで不完全な状態だけどね」
「契約って……何?」
「禍魂結び」
俺が恐る恐る尋ねるとリリスからそんな答えが返ってくる。
禍魂結び、確かアジ・ダハーカに力を与える時に口にしていた言葉だ。
「それは、一体何なんだ?」
「私達、悪魔だけが使える特別な契約だよ。相手に魔力を与える代わりに自分に服従を強制するね」
「……ふく……じゅう?」
ちょっと何を言っているか分からない。
というよりも脳が理解を拒んでいる。というか、あまりにも恐ろしい契約内容に恐怖で身体が震え出している。
え、俺そんな服従の契約を結んでるの?
「あ、別にお兄ちゃんを服従させたい訳じゃないよ? ただ契約を結べばお互いにいつでも念話で話せるし、お兄ちゃんがピンチな時もすぐに助けられるし」
俺の表情を見てリリスが慌ててそう弁明をする。
あくまでも俺を思ってのことだと語る彼女の表情はこれ以上ないほどに真剣で嘘を言っているようには見えない。
まぁ、確かに契約の内容にビビり過ぎ———
「それにお兄ちゃんがどこにいてもすぐ見つけられるし、変な女に捕まってもすぐに始末できるでしょッ!」
———では無かった。
普通にヤバかった。
いや、そうだ。考えてみれば、リリスは出会って早々に俺の仲間を殺そうとしてたじゃないか。
今までのリリスの様子から完全に失念していた。
いや、けど今はそれよりも———ッ!
「……契約が不完全ってどういうことだ?」
「私がまだ悪魔として未熟だったのもあるけど、あの女が私とお兄ちゃんが契約を結ぼうとしている場に割り込んだんだよッ!」
俺の質問に対して怒りを堪え切れない様子で叫ぶ。
……どうやら俺は母さんに文字通り救われていたようだ。
「お兄ちゃんだって結ぼうって言ってくれたのにッ!」
「………」
当時の何も知らない純粋無垢な俺はきっと満面の笑みでリリスのお願いによって、言ったんだろう……。
「お陰で禍魂結びが不完全になってお兄ちゃんとは偶にしか繋がれないし、挙句にはアイツに閉じ込められるし、最悪だよ」
「クロ……邪霊との契約や大精霊演武祭で俺が限界だった時に介入したもの禍魂結びによってリリスが介入したってことか?」
「うん、そうだよ。ナイスだったでしょ?」
「確かに大精霊演武祭の時のことは感謝してる。お陰でユーマに勝てたしな」
あの時、リリスが魔力をくれたことでミストルティンを使用して勝つことができたのは事実だ。
確かにあの時のことは感謝している。しているが……。
「どうして邪霊との契約の時に介入してきたんだ? しかも俺の身体を乗っ取って襲い掛かったらしいし」
「だって、アイツらお兄ちゃんとフォルネウスを契約させようとしてたんだよッ! それに私よりお兄ちゃんを知っているみたいなマウントも取ってきてムカついたし……」
「……まぁ、ムカついた云々は一旦、置いておくとして何であの邪霊との契約がダメなんだよ?」
後半の予想以上に幼稚な理由は一旦、横に置いた俺はリリスがクロとの契約を止めようとした理由を尋ねる。
「言われたことすらまともにできないフォルネウスと契約なんて絶対にダメだよッ! お祭りの時もお兄ちゃんを守り切れていないし。あんな無能、お兄ちゃんに相応しくないよ!」
「相応しくないって……にしてもフォルネウスか。そうか、そんな名前だったのか」
前半の理由もしょうもない内容だったことに呆れるも一瞬、今更ながらクロの真名を知ることができたことに自然と口角が上がるのが分かった。
クロなんてアダ名で呼んでいたけど、随分と立派な名前を持っていたんだな……。
「お兄ちゃん? 聞いてる?」
「……ああ、しっかり聞いてる。けど、アイツはリリスが思っているほど無能じゃないよ」
「えぇ、お兄ちゃんはそう思うの?」
「当然だろ。クロ……フォルネウスには何度も助けられたんだ、それこそアぺプスとの戦いだってアイツがいなきゃ勝てなかった」
納得いかないと言わんばかりのリリスに俺はそう答える。
クロがいなければ詰んでいた状況は何度もあった。特にアぺプスとの戦いなど、空中での戦いなった都合上、アイツの存在は必須だった。
「はぁ、あんなポンコツの肩を持つなんて。お兄ちゃんは甘過ぎるよ」
「リリスこそ、厳し過ぎるだろ。っていうか、フォルネウスは無事なのか?」
アジ・ダハーカと共にクロがどこかへ転移していったことを思い出しながら俺は尋ねる。
「ん? 普通に無事だよ。今は待機中」
「そうか」
契約を結んでいない俺にはクロの安否は分からない上に送還されるような事態になっても助けることはできない。
無事が分かって良かったと思わず安堵の息を漏らそうとした俺はそこで今更ながら確認するべきことがあることに気付く。
「そう言えばリリス、一つ聞きたいことがあるんだけど」
「なに?」
「お前らは今、どこにいるんだ?」
できるだけ何気ない雰囲気を意識しながら俺はそう尋ねる。
現在、四凶たちは行方が分からない状態だ。
もし、今リリスから居場所を聞き出すことができればアイツらが何かをする前に止めることができるかも知れない。
「………」
俺の質問に対してリリス何も答えずにその目を少し細めると、楽しげに口角を上げた。
今までの年相応な笑みとは打って変わり、妖艶さを感じる大人びた笑みに俺は薄ら寒いものを覚えているとリリスが口を開いた。
「居場所が知りたいの?」
「……ああ、できれば」
まるでこちらを見透かすかのような視線に思わず身構えながら頷くとリリスは明るい声で「良いよ」と応じてくれる。
「ただし、私とちゃんと契約をしてくれるならね」
「それは……」
その提案に俺が思わず口籠ると途端にリリスが瞳を鋭くした。
「嫌なの?」
嫌だよ。
魔力という強力な力はこれからホーンテッド達と戦う上で確かに役に立つことは間違いないだろう。
けれど契約はしたくない。
リリスの性格的に契約したら最後、薄暗い部屋に監禁されてそのまま生涯を終える未来すら想像できる。
どうにか誤魔化せないだろうか……。
「心配しなくてもお兄ちゃんに命令なんてしないって。私はただお兄ちゃんと繋がっていたいだけなんだから」
「いや、そうは言うけど……」
俺の身体を乗っ取ったり、仲間を殺そうとしたり今までリリスがしでかしたことを考えると流石に信じることは難しい。
「えぇ~、でも嫌なら教えることはできないよ」
「…………」
「けど、良いのかな? ホーンテッドは随分と危なそうなことをしようとしてたけど」
「……ッ!」
我が妹ながら随分と厭らしいことを言いやがる。
リリスの言うことがハッタリなのか、事実なのかは分からない。
けれど、どちらにしても既に四凶二体を封印から開放したという前科がある以上、無視することはできない。
「どうするお兄ちゃん?」
「……そもそもホーンテッドは仲間なんだろ? 俺に居場所を教えて良いのか?」
「勘違いしているみたいだから教えてあげるけど、ホーンテッドは仲間じゃないよ。私達はただの協力関係なだけだよ」
「協力関係?」
俺が訝しみながら尋ねるとリリスは「そう」と首を縦に振りながら話を続ける。
「私は元霊界からこっちに出てお兄ちゃんを手に入れること。あっちは私に引き寄せられる野良邪霊の収集とアジ・ダハーカの強化、つまり戦力増強の為の駒として利用し合っているだけだよ。だから仲間意識なんてないよ」
「…………」
「信じられないって顔だね、お兄ちゃん」
当然だ。信じられる訳がない。
そもそも仮にリリスと禍魂結びをしてしまったら俺の意志に関係なく、彼女に従う羽目になってしまう。
とはいえ……。
「……分かった、応じるよ」
「……えっ? いいの?」
俺の発言が予想外だったのだろう。
年相応の表情で驚くリリスに少しだけ気分の良さを感じながら俺は話を続ける。
「ただし、絶対に居場所を教えること。そしてこの情報を第三者に伝えることを許す。この二点を約束してくれ」
「………」
そうだ、仮に俺がリリスに服従することになろうと師匠やミーシャに情報を伝えることができれば……。
「それもお兄ちゃんの仲間の為?」
「ああ、俺のことよりもホーンテッド達の居場所を特定する方がよっぽど重要だ」
「………」
リリスは俺の返答を聞くと少し不愉快げな表情を浮かべながら暫く黙っていたが、やがて深いため息を漏らすと「分かった」と言葉を漏らした。
「いいよ、別に。ホーンテッドよりもお兄ちゃんのお願いの方が大切だし」
「良かった。それなら早速———」
「待って、私としても今すぐしたいけど、契約は直接会わないとできないから今はダメ」
「あ、そっか」
言われてみればここ夢の中だったな……。
あまりにリアル過ぎて完全に忘れていた。
「なら、どうする?」
「明日の夜に会おう。場所は……それじゃ、折角だしお兄ちゃんがフォルネウスと契約を結ぼうとしたジュデッカの森にしようか。良い?」
「ああ、大丈夫だ」
「あ、それと来る時は絶対に一人で来てね?」
「……ああ」
念を押すように言われた一言に俺は内心で顔を顰める。
万が一に備えてガレスやリリーに同行して貰おうかと思っていたが、リリスに読まれていたようだ。
「黙って連れて来てもいいけど、もし連れて来たら約束は無効。その仲間も殺すから」
「………分かった」
リリスの瞳から今の発言が全部、本気であることを悟った俺が頷くと彼女は満足した様子で立ち上がった。
「それじゃ、今日はここまでだね、お兄ちゃん」
リリスはそう言うと背中の羽を一度羽ばたかせふわりと浮かび上がり、俺と目線を合わせた。
「また明日……いや、もう今日かな? とにかく、また後でね」
リリスはそう呟くと俺の額をトンッと人差し指で優しく小突いた。
「———ッ!」
一瞬、遠く意識。
そして次に意識がハッキリした時にはいつも通りの自室の天井が視界に映っていた。
「……クソッ、ふざけやがって」
暫く呆然としていた俺は先程の夢でのリリスとのやり取りを思い出し、気付けば苛立ちを吐き出すようにそんなことを呟いていた。
……とても嫌な目覚めだった。