真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第125話

「…………」

 

 空を見上げると綺麗な満月が視界に入った。

 

「……無駄に綺麗な月だな」

 

 誰に言うでもなくそうぼやいたロークは慣れた足取りで月明りに照らされた獣道を進んでいく。

 

「……ッ」

 

 夜風が森を吹き抜けた。

 風に吹かれて草木が音を鳴らしながら揺れ、途端に森全体がざわざわと騒がしくなる。

 

 ロークは木の葉が宙を舞う中、かつて自分がクロとの契約を結ぶべくガレスや師匠と共に訪れた場所を再び踏み締めた。

 

「…………」

 

「今夜は月が綺麗だね、お兄ちゃん」

 

 過去のことを思い返しながら何気なく辺りを見回していると上の方から聞き覚えのある声が耳に入ってきた。

 

「…………」

 

 ゆっくりと声のした方向に顔を上げると大樹の枝に腰掛け、微笑みながらこちらを見下ろしている美少女、リリスの姿が視界に入った。

 

「今朝ぶりだね、お兄ちゃん。あれ? でも直接会うのは一週間ぶりくらいだから久しぶりの方がいいのかな?」

 

「……別にどっちでも問題無いだろ。会えたんだし」

 

「アハッ! 確かにそうだねッ!」

 

 ロークの言葉にリリスはコロコロと楽しげに笑いながら羽を広げるとゆっくりと地面に降りてくる。

 

「それじゃ早速、契約を結ぼっか? お兄ちゃん」

 

「……ああ、そうだな」

 

 リリスの言葉に頷きながらロークは前に出る。

 

 すると彼女の足元にアジ・ダハーカと禍魂結びをした時と同様の紫色の魔法陣が浮かび上がり、その手がゆっくりとこちらへ伸びてくる。

 

 そこでロークはハッとした。

 

「……待ってくれ、その前にホーンテッド達の居場所を教えてくれ」

 

「え~、後で良いでしょ?」

 

「駄目だ、先に教えてくれ」

 

 不満を口にするリリスにロークはこればかりは譲らないと首を横に振る。

 

 そもそも禍魂結びの性質上、後からでは仮に教えて貰えたとしてもリリスに服従の枷がある為、彼女の気分次第で何もできなくなる可能性がある。

 

「……私を信頼してないの?」

 

「そういう話じゃない」

 

「なら、どういう話なの?」

 

 リリスの纏う雰囲気が剣呑になり、辺りの空気が重くなる。

 

 ロークは冷や汗を流しながらできるだリリスを刺激しないように慎重に言葉を選んで話を続ける。

 

「ホーンテッド達がしようとしていることは俺の住む国全体に関わる危険なことの可能性が高いんだ。一刻も早く場所を知ってアイツらの企みを止めたいと思うのは当然のことだろう?」

 

「……そんなに他人が大切なの?」

 

「まぁ……赤の他人ならともかく、友達は大切だろ」

 

「……私には友達なんていないって言ったでしょ」

 

 ロークの答えを聞いたリリスはその表情を暗くしながら静かにそう呟く。

 

「リリス、それは……」

 

「他の子と関わることなんてできなかった。私にあったのは家族だけ。ずっと側で遊んでくれたのはお兄ちゃんだけだった」

 

「…………」

 

 その言葉にロークは複雑な表情を浮かべる。

 一体、自分と彼女の間にどんな過去があったのか。ロークはまだ記憶を少ししか思い出せていないことがもどかしくて仕方なかった。

 

 思い出せていればもっとしっかりとした言葉を投げ掛けられる筈なのに……。

 

「どうして家族よりも他人の方が大切なの? お兄ちゃんは……どうして私のことを心配してくれないの?」

 

「……ッ!」

 

 その言葉を聞いたロークが頭を鈍器で殴られたかのような様子で固っているとリリスが小さな声で何かをボソリ呟いた。

 

「リリス?」

 

「…………止めた」

 

「止めた?」

 

 ———止めたって、どういう……。

 

「多分、契約を結ぶだけじゃお兄ちゃんは手に入らないよね? そうだよね?」

 

「いきなり、何を言って……」

 

「私は一人だけど、お兄ちゃんの周りには沢山の邪魔者がいる。きっと契約を結べてもアイツらがお兄ちゃんを奪っていっちゃうでしょ?」

 

「奪うって、俺は誰の物でも無いぞ。それに禍魂結びをすれば俺とリリスは魂の繋がりを持つ上に服従を強制されるんだろ? それは流石に無理が……」

 

 早口で喋るリリスから放たれる異様な雰囲気を感じ取ったロークは嫌な予感を覚えながら彼女の言葉を否定する。

 

 しかし———。

 

「そうだよッ! やっぱりホーンテッドの言う通り、邪魔者を消した方が確実だよねッ!?」

 

「待て、リリス。ちょっと落ち着けッ!」

 

 見るからに纏う雰囲気が禍々しくなっていくリリスにロークは慌てて落ち着くように声を掛けるが既にこちらの声は届いていない様子だった。

 

「でもそうでしょ? その方がお兄ちゃんも後腐れなく契約を結べるじゃんッ! そうだよ、それが良いに決まってるッ!」

 

「リリス、お前ちょっと———ッ!?」

 

 ロークは不穏な言葉を漏らすリリスの肩を掴みながら制止の声を上げるも次の瞬間、頭上から何かによって身体を地面に抑え付けられてしまう。

 

「何が……ッ!」

 

 顔を上げると巨大な骨の腕が自身の身体を抑え付けていた。

 

『ギギギッ!』

 

 見れば皮の無い骸骨だけの姿をした精霊……否、邪霊がその窪んだ空洞の中に存在する赤い瞳でこちらを睨み付けていた。

 

「コイツは……ッ!」

 

「心配しなくても大丈夫だよ、お兄ちゃん。少しの間、そのまま大人しくしてて。その間に私が邪魔者を全部、消してくるから」

 

「おい、ちょっと待てッ!」

 

 バサリと羽を広げて舞い上がるリリスにそう叫んだロークは霊力による肉体強化を全開にすると邪霊の腕を持ち上げ、拘束から脱出することに成功する。

 

「リリス、止めろッ! 俺が悪かった! 契約は結ぶから、それで良いだろッ!?」

 

「狂骨、しっかり押さえて」

 

 ロークの言葉を無視したリリスは傍らの邪霊、狂骨にそう短く指示を出す。

 

 すると指示に応じた狂骨はその赤い瞳を輝かせながらロークに向かって再び腕を振り下ろす。

 

「くッ!」

 

 ロークは宙を舞う木の葉を裂きながら迫ってくる狂骨の腕を後方へと退きながら回避すると依代を取り出す。

 

 失敗した。

 情報を急ぐあまりリリスのことを蔑ろにしてしまい、彼女の機嫌を損ねてしまった。

 

 そのことを反省しながらもこうなった以上、やるしかないとロークは思考を切り替える。

 

「リリスッ! お前が仲間を傷付けようとするなら俺も容赦しないぞッ!」

 

「………そう」

 

 リリスは自身に敵意を向けるロークに対して冷めた視線を向けながらその手に黒い光を生み出すと勢いよく解き放った。

 

 ロークは素早く跳躍して放たれた光を回避するとそのまま狂骨の腕に着地する。

 

「大人しくしろッ!」

 

 ロークは狂骨の腕の上を一気に駆け上がり、滞空するリリスに迫っていく。

 

 そのままロークは依代から雷獣を呼び出し、それぞれ簡易契約すると大きく足を踏み込んで跳躍する。

 

 一時的にリリスよりも高い位置に着いたロークは肩に乗せた雷獣によって雷を纏うと拳を振り下ろす。

 

「私を舐め過ぎだよ、お兄ちゃん」

 

「なッ!?」

 

 リリスが呆れ混じりにそう呟いた瞬間、彼女の背に現れた複数の魔法陣から鎖が放たれ、ロークの身体に絡み付いて拘束した。

 

「クソッ! こんなものッ!!」

 

「前みたいに剣精霊すら呼ばないで素手で私を殺せると思ってる?」

 

「……何か思い違いをしているみたいだけど、別にお前を殺したい訳じゃないぞ」

 

 ロークは鎖で動きを封じられながらリリスに向かってハッキリと告げる。

 

「俺は極端な思考回路しかできないお馬鹿な妹に拳骨を喰らわせたいだけだ」

 

「…………」

 

 その答えにリリスの瞳が驚きによって僅かに見開かれるが、それも一瞬だった。

 

 すぐに冷めた表情に戻ったリリスは静かに腕を横に振るう。

 

『カカッ!』

 

「ぐぁッ!?」

 

 リリスの動きに合わせて狂骨が腕を薙ぐように振るい、ロークは横っ面に骨の硬い拳を受けて森の中を吹っ飛んでいく。

 

「私に拳骨を落としたいのは分かったけど……」

 

 再びリリスの手に黒い光が生まれ。キィイインという甲高い音を響かせながらロークに向かって放たれる。

 

「やべッ!」

 

 禍々しい気配を感じ取ったロークは素早く態勢を立て直すと全身に雷を帯び、その場から離れる。

 直後、先程までいた場所に黒い光、魔術が直撃して地面に人一人が入れそうな程、大きな穴を生み出した。

 

「…………」

 

「今のお兄ちゃんじゃ、私に指一本届かないよ?」

 

 放たれた魔術の威力に戦慄するロークに向かってリリスは静かに告げる。

 

「……確かに、正直見くびってた」

 

 ロークはリリスの強さを見誤っていたことを素直に認める。

 

 というのもリリスと再会した時、自分は既にアぺプスとの戦いで既に満身創痍だった。

 

 故にロークはリリスが強いことは理解しつつも、ここまで戦力差があるとは思っていなかったのだ。

 

「けどな、リリスこそお兄ちゃんをあんまり甘く見るなよ」

 

 ロークはそう呟きながら不敵な笑みを浮かべると雷鳴を響かせながら拳を構える。

 

 力量差を理解しながらも、それでも兄としての威厳を保ちたいが故の精一杯の強がりを見せるロークに対してリリスは「分かった」と返事をする。

 

「えっ?」

 

 てっきり嘲笑されるとばかり思っていたロークがそんなリリスの素直な返事に毒気を抜かれている中、彼女の周囲に複数の亀裂が現れる。

 

 バキリとガラスが割れるような音を鳴らしながら空間が割れ、中から禍々しい気配を纏った怪物達が姿を現した。

 

「禍魂結び」

 

『ガァアアアッ!』

 

『キィイイッ!』

 

『ブォオオオオオッ!!』

 

 雄叫びを上げながら闇を纏った邪霊達が次々にその姿を晒す。

 黒い皮膚に覆われた一つ目の巨人、どこか人間のようにも見える顔をした怪鳥、そして巨大な牙が特徴的な猪の姿を邪霊達がそれぞれ月明りに照らされがらリリスの側に集まった。

 

 しかも最初の狂骨を含めて全ての邪霊達と禍魂結びを終えているようでよく見ればそれぞれ身体に紫色の紋章が刻まれていた。

 

「じゃあ、全力でお兄ちゃんをボコボコにするね?」

 

「オーケー、そういう感じね?」

 

 ロークは眼前の高位邪霊達を見つめながら納得した様子で頷くと手を上げ、空に向かって思いっきり雷を放つ。

 

「……何してるの?」

 

「助けを呼んだんだよ」

 

 今の行動の意味が分からず、不思議そうに首を傾げるリリスに対してロークがそう答えた瞬間だった。

 

 夜空に雷鳴が轟き、巨大な雷の柱が翼を羽ばたかせて滞空していた邪霊の身体を貫いた。

 

『ギィイアッ!?』

 

「……邪魔者」

 

 悲痛な叫びを上げなら地面に墜落する邪霊に見向きもせず、そう呟きながらリリスはロークの後方に視線を向ける。

 

「全く……。穏便に済むとは思ってなかったけど、これは一体どういうことだい?」

 

「びっくり仰天」

 

 聞き慣れた声が背後から聞こえてきた為、ロークが振り返ると魔剣を携えながら現れたガレスとリリスがあった。

 

「まぁ、初動対応をミスってな。思いっきり拗れた」

 

「だろうね」

 

 ロークが若干気まずげにそう答えると予想通りだと頷く。

 

「正直さ、万が一の時に助けが必要だから控えとくとは確かに言ったけど、これ呼ばれずに君自身で解決して流石は僕の親友だ!的なフレーズを言う展開だと思ってたんだよね」

 

「良かったな、親友の助けができるぞ」

 

「何も良くないけど……」

 

 ガレスがロークにそう言い返していると「いやぁ、随分と愉快なことになっているね」と楽しげな声が耳に入った。

 

「トラルウス、どうして……」

 

「どうしてとは心外だな。わざわざ友の為に寝る間を惜しんで駆け付けたと言うのに」

 

 ケイの発言にロークが驚きながらガレスに視線を向けると「僕が頼んだ」とガレスは白状した。

 

「あまりこういう隠し事を気にしない且つ実力のある精霊師が誰かと考えたら真っ先に浮かんできたんだ」

 

「気のせいかな、微妙に貶されてないか?」

 

 ガレスはそんな疑問を口にするケイを無視しているとさらに奥からもう一人の男性が姿を現した。

 

「今更だけど、これ絶対に怒られるよね? 僕が」

 

 片手に紫炎を帯びた鎌、霊装化したジャックを片手に持ちながらオーウェンは真顔でそう呟く。

 

『でしょうねぇ、大人として子供を監督する立場にありながら一緒に危険な橋を渡ってますし、この後の説教間違いないしでしょうね~』

 

「嫌だなぁ、オルフェウスさんに怒られたくないんだけど……」

 

 霊装化したジャックからの指摘にオーウェンはその表情を暗くしながら迫ってきた邪霊、一つ目の巨人に合わせるように霊装を振るう。

 

 拳と霊装が衝突し、大気を揺らす衝撃と共に紫色の炎が宙を舞う。

 

「ふんッ!」

 

『グォオッ!?』

 

 そのまま気合の声を漏らしながらオーウェンが霊装を振り抜けば邪霊は腕が跳ね上がったことで態勢を崩して地面に倒れ込んでしまう。

 

「けどまぁ、可愛い弟子の為に一肌脱ごうか」

 

「…………」

 

 そう言って笑うオーウェンの姿にロークが言葉を失っているとポンとガレスに肩を叩かれる。

 

「それで僕達はどうすれば良い?」

 

「………」

 

 ガレスの質問に周囲の視線が集まるのを感じながらロークは答える。

 

「申し訳ないが、とにかく他の邪霊を抑えてくれ」

 

「君はどうするんだ?」

 

「お前らが邪霊を抑えている間に終わらせてくる」

 

「何を?」

 

「…………」

 

 ガレスの問いにロークは雷を纏い、姿勢を低くするとハッキリとした声で言った。

 

「しょうもない兄妹喧嘩を」

 

「———ッ!?」

 

 バチリと雷鳴と共にその場からロークの姿が掻き消えたかと思うと次の瞬間にはリリスの肩を掴み、そのままジュデッカの森の奥に消えて行ってしまう。

 

「言うだけ言って、そのまま行きやがった……」

 

「はぁ」

 

「ほら、みんな仕事仕事」

 

 呆れた表情でロークが消えて行ったジュデッカの森の奥を見つめるガレスとリリーにオーウェンがパンパンと手を叩きながら呟く。

 

 その声に反応して前方を見れば突然、主人が吹っ飛んで行ったことに驚いていた邪霊達が動き出そうとしていた。

 

 地面に倒れていた怪鳥はゆっくりと起き上がると雷を放ったガレス達に殺気を放ち、次いで狂骨がその身体をリリス達の方へと向ける。

 

 そして残り二体の邪霊もそれぞれリリスの援護とガレス達の撃退に動こうとするのを見て先んじてケイが動いた。

 

「セイレーン、ローレライ」

 

 主人の指示に応じて二体の精霊達が美声を響かせる。

 

 すると音と共に霊力が空気を伝って邪霊達の身体に纏わり付き、僅かな時間ながらもその動きを拘束することに成功する。

 

「それで、どうする? 都合が良いことに邪霊は四体いるけど?」

 

「二体、僕が受け持とう。残り二体を君達で頼む」

 

「それは随分と僕達を軽んじていませんか?」

 

 そう言いながら側に呼んだサンダーバードの背に乗るオーウェンに対してケイが不満げに口にすると「大人だからね」と言葉が返ってくる。

 

「君達よりはリスクを負って戦わなきゃ」

 

 オーウェンが言い終えると共にサンダーバードが翼を羽ばたかせて舞い上がる。

 

「とはいえ、余裕があれば援護をしてくれると助かるよッ!」

 

『キィイイッ!』

 

『ギィイイッ!?』

 

 オーウェンはその言葉を最後にサンダーバードと共に飛翔するとそのまま怪鳥に向かって突進し、二体の高位精霊は羽を散らしながら上空で縺れ合う。

 

「それじゃ、僕らもオーウェンさんに迷惑を掛けないように頑張ろうかッ!」

 

「おーッ!」

 

「やれやれ」

 

 軽やかにベオウルフの背に乗ったガレスがそう意気揚々と叫ぶとリリスは腕を上げながらミノタウロスを呼び出し、ケイもローレライを霊装化しながら構えを取るのだった。

 

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