真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第126話

「はぁッ!」

 

「おっと!」

 

 耳に入った甲高い音に素早くリリスから離れると再び黒い光線が放たれ、後方の大木を貫いた。

 

「随分と殺気の籠った攻撃だな、リリス」

 

 近くの木の枝に着地しロークは喰えば命が無いような一撃を何の躊躇いも無く放ってくるリリスに対してそう呟く。

 

「そういうお兄ちゃんは相変わらず武器を握らないんだね」

 

「ああ、必要ないからな」

 

「…………」

 

 ロークの返答を聞いたリリスの瞳が鋭くなる。

 同時に彼女から滲み出る怒気を感じ取ったロークは笑いながら口を開いた。

 

「別にリリスを舐めてる訳じゃない。ただ、兄妹喧嘩に刃物を使うような情けない真似はしたくないだけだ」

 

「……喧嘩で済むと思ってるの?」

 

「済まないのか?」

 

 ロークがそう聞き返すとリリスは不愉快そうに顔を歪めながら「そうだよ」と肯定した。

 

「助けにきた邪魔者……お兄ちゃんのお友達、あの子達がみんな殺すよ? そうするように指示を出したから」

 

「…………」

 

 物騒なことを口にするリリスにロークは記憶に残る幼い彼女の姿を重ねながらゆっくりと口を開いた。

 

「止めてくれ、リリス。お前はそんな悪い子じゃないだろ?」

 

「……ッ!」

 

 驚きでリリスが目を見開く中、ローク自身も自分の口から自然と漏れた発言の内容に内心驚いていた。

 

 ———ああ、そうか。

 

 そして今更ながら自覚する。

 

 ロークはどこかで自分がリリス・アレアスという少女のことを信じていることに。

 

「何でそんなことが分かるの? 私のことなんてほとんど覚えてない癖にッ!!」

 

「……そうだな。その通りだ」

 

 ロークは頷く。

 

 リリスの言う通り、自分の中の彼女の記憶は断片的だ。何なら再開してからの彼女の恐ろしい面の方が印象的だ。

 

 けれど、それでもリリスのことを信じられるのはきっと……。

 

「俺はリリスのお兄ちゃんだからな。分かるんだよ」

 

「ッ!!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、リリスの瞳が動揺に激しく揺れる。

 愛する兄からの信頼の言葉。

 

「わ、私は……」

 

 思わず頷きそうになる妹としてのリリスの心に魔としてのリリスの思考が制動を掛ける。

 

 本当にそれで良いのか? それでロークが手に入るのか? 本当に手に入れたいのなら———。

 

『ロークを手に入れたい? そんなの簡単さ、彼の周りの人々を全員殺せばいい。そうすれば愛しのお兄様は名実ともに君のものさ』

 

「———殺す、殺すッ! 殺す殺す殺す殺す殺すッ!! みんな殺してお兄ちゃんを私だけのもにするんだッ!」

 

「リリス……」

 

 リリスの小さな身体から凄まじい殺気と共に溢れ出す魔力。

 黒い長髪が逆立ち、その瞳が怪しい輝きを宿す。

 

 常人であれば悲鳴を上げ、或いは気絶してしまいそうな闇を前にしてロークは一切、怯むことなく妹を見据える。

 

 そして———。

 

「リリスが何を求めているかは分からない。けど、殺して奪える物は命だけだ。きっとお前が欲しい物は手に入らないよ」

 

「うるさいうるさいうるさいッ! お兄ちゃんの周りの邪魔者を全部消せば、最後には私のところに———ッ!」

 

「させないよ」

 

 リリスの言葉を遮ってロークは更に数体の微精霊を呼び出した後、静かに拳を構える。

 

「お前には何も奪わせないし、何も失わせない」

 

「ッ‼」

 

「行くぞ、リリスッ!」

 

 ロークはそう叫ぶと同時に素早くリリスに肉薄し、拳を振るう。

 側で風属性の微精霊が輝き、ロークの拳から放たれた風圧がリリスに直撃して後方に吹き飛ばされる。

 

「くッ!」

 

「ちょっと痛いかも知れないけど、我慢しろよッ!」

 

 不意打ちを喰らって怯むリリスにロークはそう告げながら駆け出した。

 

*****

 

『あのガキ、良いのか?』

 

 薄暗い空間の中、幾何学模様が描かれた壁に背を預けていたホーンテッドは聞こえてきた声に視線を向ける。

 

 三つ首の龍がその内の一つをこちらに向けていた。

 

「良って、何が?」

 

『勝手をさせてって話だ。何をするか、分かったもんじゃねぇぞ? ここにいた奴らも何体か、アイツの下に送る羽目になってるし』

 

「ああ、別に問題は無さ。君にはこうして残って貰って作業も進んでるし」

 

 言いながらホーンテッドは視線をアジ・ダハーカからその先の石壇の上に置かれている黒い棺に視線を向ける。 

 

 その棺の周囲に描かれている幾何学模様からパキパキと何かが砕けるような音が断続的に鳴り響いており、その度に少しずつ模様が纏っている輝きが弱まっていた。

 

『それなら良いが、アイツに呼ばれたら俺も作業を中断してここを離れるぞ? そもそも逆らうことも出来ねぇし』

 

「勿論、行って構わない。寧ろ是非行って欲しいくらいさ」

 

『あん? どういう意味だ?』

 

 アジ・ダハーカはホーンテッドの言葉の意味が理解できず、そう尋ねるが意味深な笑みが返ってくるだけで詳細を語る様子は無かった。

 

『……まぁ、どうでも良いけどよ』

 

 アジ・ダハーカはそんなホーンテッドに興味を失うと意識を目の前の棺へと集中させる。

 

 そんなアジ・ダハーカを見つめながら今度はホーンテッドが質問を投げ掛けた。

 

「……ところでまだ棺の封印、解けないの?」

 

『そう簡単に行く訳ねぇだろ』

 

 棺を封じる術式はまるで無数の糸が滅茶苦茶に絡み合っているかのように複雑で全く解くには一つ一つ丁寧に処理していく必要があった。

 

「えぇ、魔龍って呼ばれるだからこう、ちゃちゃっとできないの?」

 

『んなこと言うならテメェがやれッ!』

 

 薄暗い空間にホーンテッドとアジ・ダハーカがワーワー言い争う声が響き渡る。

 

「あの人、なんで四凶に対してあんな強気で出られるんですか?」

 

 そんな邪霊と人のやり取りを遠巻きに眺めていた少年、元リベル学院生徒会長であるユーマはドン引きした様子で隣にいる仮面の男、デヤンに尋ねる。

 

「まぁ、アイツは元々ぶっ飛んだ性格をしているからな」

 

「……まぁ、それは確かに」

 

 呆れ混じりに呟きタデヤンの言葉にユーマが同意していると「それに……」と続きの言葉が耳に入る。

 

「アイツは、私達の中で抜きん出た才能を持っている」

 

「……」

 

「勿論、半魔の人間であるローク・アレアスには劣るだろうが、それでも一時的にアぺプスを簡易契約で従えることが可能な程の実力を有している」

 

 恐らくは先祖返りというものだろう。

 ホーンテッドは決してロークに届かずとも並の精霊師では決してすることのできない邪霊との簡易契約を結ぶことができる数少ない精霊師だ。

 

 その才能は疑いようもなかった。

 

「あ、ユーマッ! デヤンさんッ! 暇なんでこっちで一緒にしりとりしませんッ⁉ 最初はアジ・ダハーカのカからでいきましょう!」

 

『勝手に俺の名から始めるんじゃねぇッ!』

 

「…………」

 

「…………」

 

 本当に性格さえもう少しなぁ……と思いながらデヤンはその場を離れるのだった。

 

*****

 

 黒い閃光がジュデッカの森を照らす。

 同時に響き渡る獣の咆哮、雷鳴、そして美しい歌声と音楽。幾度となく森が揺れ、衝撃によって木々が次々に折れて地面に転がっていく。

 

「…………」

 

 ロークは周囲から聞こえてくる戦いの喧騒に耳を傾けながら前方から迫ってくるリリスに視線を向ける。

 

 怒り、憎しみ、悲しみ、そして僅かばかりの罪悪感。

 様々な感情が複雑に混じり合ったリリスの瞳に射抜かれながらロークは静かに術式を組み上げる。

 

 ロークの手の中に風を凝縮すると生み出された拳ほどの風の塊を迫ってきたリリスに解き放つ。

 

「くッ⁉」

 

 放たれた爆風は周囲の木の葉や枝を巻き込みながらリリスに直撃し、その小さな身体を後方に吹き飛ばさんとする。

 

「ぁあああああッ‼」

 

「マジか!」

 

 しかし今までと違い、荒れ狂う暴風にリリスは髪を乱しながら耐えるとロークに向かって幾つもの鎖を放った。

 

 ロークは咄嗟に回避行動を取るも、全てを避けきることは叶わず、鎖の一つに腕を絡め取られるとそのままリリスによって力の限り振り回されてしまう。

 

「ぐぁッ!」

 

 周囲の木々をへし折りながら振り回されたロークは地面に放り投げられ、思いっきり背中を打ち付けて苦悶の声を漏らした。

 

「……ッ」

 

 けれどそれも一瞬、すぐに立ち上がってその場から退避する。直後、放たれた黒い光線ついさっきまでロークのいた地面を穿つ。

 

 駆け出したロークは霊術を使用しながら跳躍すると枝を足場にして木々の間を縫うように動き回り、リリスから次々に放たれる光線を躱し続ける。

 

「ちょこまかとッ!」

 

「だって一撃でも喰らったら終わりだろ、その魔術」

 

 自身の魔術が当たらないことに憤るリリスにロークはそう答えながら丈夫な木の枝の上に着地する。

 

 光線が止んだことで動きを止めて振り返ればリリスは呼吸を乱しながら攻撃の手を止めていた。

 

「……ふぅ」

 

 僅かに生まれた戦闘の間。この間にロークは息を吐きながらリリスの手札の確認を行う。

 

 今までリリスが使用した魔術は主に三つ。

 相手を拘束する鎖の魔術、そして恐らく当たれば一撃で決着が着くであろう黒い光線を放つ魔術、そして精霊、人を問わず魔力を与えることによって従える禍魂結び。

 

 どれも恐ろしい力だが、理解してしまえば対処は決して難しくは無い。

 鎖の魔術は一気に幾つも出せるようだが。速度が無く全力で逃げればまず捕まることは無い。

 

 黒い光線は一撃の威力と速度こそ脅威だが、直線状にしか放たれないこと、発射の直前に魔力の禍々しい気配と黒い光によって射線から逃れることは難しくない。

 

 そして最後の禍魂結び。これに関しては戦闘で使われることはほぼ無いだろう。

 

 ただ問題は禍魂結びで従えたであろう邪霊を呼び出すことができる点は無視することはできない。

 

 現に今はガレス達が抑えているが、計四体に及ぶ高位邪霊をこの場に呼び出している。

 

「……何故だ」

 

 だからこそ、ロークにはリリスがアジ・ダハーカを呼び出さない理由が分からない。

 

 ロークはアジ・ダハーカとリリスが禍魂結びをする瞬間を自身の目でしっかりと確認していた。

 

 この状況、仮にガレス達を殺して自分を捕まえたいのならばアジ・ダハーカをこの場に呼ばない理由が無い。

 

 ———禍魂結びに俺の知らない制約でもある? それとも今は呼び出せない理由があるのか、或いはその考えが今のリリスに無い可能性もあるか。

 

 観察する限り、今のリリスは明らかに冷静さを失っている。

 彼女の年齢、加えて攻撃も単調になっていることも考慮すると頭に血が上ってそもそもアジ・ダハーカを呼ぶという考えに至っていない可能性はあり得そうだ。

 

 尤も不確定要素が多過ぎ為、断定することはできないが……。

 

「とはいえ、ここは高を括るか……」

 

 どうせ呼び出されれば時点で詰みであることは違いない。

 それならばとりあえず今はアジ・ダハーカを呼び出せないと考えて対処しようとロークは考えを纏めると改めてリリスに視線を向ける。

 

「はぁ、はぁ……ッ!」

 

 呼吸を乱し、頬から汗を流すリリスは明らかに消耗していた。

 

 恐らく魔術の連発に加えて邪霊達に魔力を供給していることが要因だろう。

 

「リリス、そろそろ止めないか?」

 

「うるさいッ!」

 

 激昂した様子でそう言い返すリリスを見つめながらロークは彼女を安全に無力化する方法を模索する。

 

 戦闘当初こそリリスから放たれる威圧感と魔術に翻弄されて余裕が無かったが、ある程度手札が分かった今ならば問題ない。

 

 加えて言えばリリスは戦闘経験が浅く、攻撃や防御に対して比較的に楽に対処することができる。

 

 このままの状態が続けばどうにかなりそうだとロークが考えているとリリスの怒りの叫びが耳に入った。

 

「昔っからそうやって私を馬鹿にしてッ! 舐めないでッ‼」

 

「っと」

 

 再び走る黒い光線を危なげなく回避したロークは水と風属性の霊力を混ぜながら術式をくみ上げると手で小さな輪を作るとそこに息を吹き掛ける。

 

 すると輪からフワフワと人間の頭ほどの大きさをしたシャボン玉が幾つもリリスに向かって漂っていく。

 

「こんなものッ!」

 

 リリスは迫ってきたシャボン玉を魔術で撃ち抜こうとして、掌を向けるも次の瞬間にはフィンガースナップの音と共にシャボン玉が爆発した。

 

「なッ!」

 

 まさか爆発するとは思っていなかったのか、動揺するリリスの声を爆煙の向こう側から耳にしていたロークは次なる霊術を放つ準備を終えていた。

 

「雷縄ッ!」

 

「ッ! ぁあああああッ!?」

 

 形成される雷の縄を素早くリリスに向かって放つ。

 既に冷静さを失っているリリスはロークの霊術に対する反応が遅れ、回避も防御もできずに雷の縄を身体に浴びて苦悶の声を上げる。

 

「リリス、もう止めよう」

 

「…………ッ」

 

 ロークは雷を浴びて動けなくなっているリリスに諭すように告げる。

 できる限り威力は抑えているとはいえ、痛いことは痛いだろう。苦しげに顔を歪めるリリスの顔を見てロークも顔を歪める。

 

 自分の妹とはいえ、仲間を殺そうとする奴だ。

 苦しむ姿を見ても何も感じないと思っていたが、不快感や罪悪感が胸の内から湧き上って仕方なかった。

 

「リリス、邪霊達に戦いを止めるように指示を出すんだ」

 

「……ッ!」

 

「願いはちゃんと聞く。だから一旦、戦いを止めて話し合おう」

 

「……ふざけるな」

 

 その言葉にリリスは全身に走っている雷撃に耐えながら言い返す。

 

「私の望みはずっとお兄ちゃんだけって言ってるでしょッ! それ以外は何もいらないってッ!」

 

「なら、俺と契約を結べば———」

 

「それだけじゃ、お兄ちゃんは私の物にはならないでしょッ!」

 

「…………」

 

「私にだって分かる、お兄ちゃんと邪魔者の間に大切な繋がりがあるくらいッ!」

 

 その叫びと共にリリスの身体から魔力が放たれて雷の拘束が破られる。

 

「リリス、それは———」

 

「だから私が断ち切ってやるッ! 全部全部、奪ってやるッ‼」

 

 ロークの言葉に耳を傾けることなくリリスは叫び散らしながら思いっきり地面に手を当てる。

 

「来いッ!」

 

「この気配はッ!」

 

 再び空間に亀裂が走ったかと思うと、禍々しい気配と共にそこから見覚えのある胸ビレが視界に入った。

 

『……ォォオオオッ!』

 

「クロッ!」

 

 簡易契約とはいえ、かつて相棒として共に戦った邪霊の姿に動揺するのも束の間、その目が輝き、身体が一気に重くなる。

 

「フォルネウス、圧し潰せッ!」

 

『——ッ!』

 

 フォルネウスはリリスの指示に従ってロークに向けて霊術を放つ。

 ロークを中心として周囲に掛かる重力が一気に増加し、バキリと音を響かせながら地面が陥没する。

 

「くッ!」

 

 しかし、ロークは加重が最大になる前にその場から飛び退くことで霊術から脱出するとフォルネウスに向けて一瞬、躊躇いながらも霊術を放つ。

 

「サンダーピアスッ!」

 

『ッ!』

 

 ロークは指先から放たれた雷閃は大気を裂いてフォルネウスの右胸ヒレを目掛けて突き進むが、直撃の直前で障壁に阻まれて霧散してしまう。

 

「この感じ、何だか懐かしいなぁッ!」

 

 かつてルナの塔でフォルネウスと対峙した時のことを思い返しながらロークは思わず笑ってしまう。

 

 尤も、あの時と比べるとフォルネウスに対する恐怖心は無い。代わりに状況はあの時よりも最悪だが……。

 

『オオッ!』

 

 ロークの思考を遮るようにフォルネウスが雄叫びを上げて霊術を発動させる。

 再び身体が重くなる感覚を覚えたロークは素早くその場から跳躍して霊術を回避する。

 

「悪いが喰らわねぇぞ、クロッ!」

 

『…………』

 

 側で幾度となく霊術を扱う瞬間を見てきたロークにはフォルネウスの攻撃を手に取るように読むことができた。

 

 フォルネウスが霊術を放つ前兆を素早く察知して危なげなく攻撃を躱し続けるロークはそのまま反撃に転じようとして、背中に走る悪寒と共に動きを中断した。

 

 後ろを振り返るとリリスの放った魔術がこちらに迫ってきており、ロークは回避を余儀なくされる。

 

 咄嗟に回避行動が取れた為、直撃こそ避けることができたが、放たれた魔術はロークの肩を掠め、次の瞬間には焼けるような痛みに襲われる。

 

「ぐッ!」

 

 ———掠っただけでこの痛みか。

 

 痛む肩を抑えながらロークが改めてリリスの魔術の危険性を実感していると周囲の木々がまるで矢の如く自分に向けて放たれる。

 

「ちッ!」

 

 ロークは舌打ちを漏らしながらその場から駆け出す。

 フォルネウスとリリス、単体ならばどちらも問題なく対処できるが、同時に相手取るとなると話はまるで変わってくる。

 

 ましてやフォルネウスの重力を操る霊術とリリスの光線を放つ魔術は非常に相性が良い。

 連携されるとロークの勝ち目はほぼ無いと言って良い程だった。

 

「くッ!」

 

 そんなことを考えている間も絶え間なく迫ってくる木々をロークは駆けながら躱していくが、途中で足をリリスの鎖によって絡め取られて動きが鈍くなる。

 

「がふッ⁉」

 

 そこを狙い撃つように放たれた大木がロークの胸部を直撃し、そのまま勢いよく地面を転がってしまう。

 

「ゲホッ! ゲホッ!」

 

 衝撃で咳き込むロークがゆっくりと顔を上げるとフワフワと宙を漂うフォルネウスとリリスの姿が視界に入った。

 

「フォルネウス」

 

『———ッ‼』

 

「ぐぁッ⁉」

 

 身体が重くなる感覚。

 けれど先程と違い、咄嗟に動くことができなかったロークはそのままフォルネウスの霊術を受けて地面に叩き付けられてしまう。

 

「く……そッ!」

 

 体液が逆流し、地面が沈む。

 加えて一緒にいた微精霊達はフォルネウスの霊術に耐えることができず圧し潰されて送還されてしまい、手数が一気に減ってしまう。

 

「く……ッ!」

 

「お兄ちゃんを傷付けたい訳じゃないけど、抵抗するなら仕方ないよね?」

 

「リリスッ!」

 

「下手に暴れられても困るからとりあえず腕は貰うね?」

 

 リリスのその無慈悲な言葉と共にキィイインという光線を放つ時の甲高い音がローク耳に入ってくる。

 

「あ、心配しないでッ! 腕がなくなっても私がしっかりサポートしてあげるからね!」

 

 ———クソッ! このままじゃマズいッ!

 

 ロークは全身に肉体強化を施して何とか霊術に抵抗しようとするが、こちらの強化に合わせてフォルネウスも更に霊術の威力も増加していく。

 

 恐らくリリスと禍魂結びをしているのだろう、ルナの塔や自分で使役した時よりも強力な威力の霊術を前にロークは碌に身体を動かすことできない状態だった。

 

 今のリリスにとって自分は格好の的でしか無かった。

 

 ———動けッ! 動け動け動けッ‼

 

 肉体強化を施しながらロークは内心でそう叫んで自分に喝を入れるが、それでも身体はフォルネウスの霊術に叶わず動くことができない。

 

 そして遂に頭上で黒い閃光が瞬き、リリスの魔術が放たれる。

 

 魔術の速度からして回避がもう間に合わないことを悟ったロークはせめて肉体強化を最大にして受けるダメージを最小限に抑えようとして———。

 

「———ッ⁉」

 

 次の瞬間、闇の中に沈んだ!

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