真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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13話

 

 衝撃と共に視界を覆うように舞い上がった粉塵をロークは風の微精霊と契約することで突風を起こして吹き飛ばす。

 

「なッ!?」

 

 

 砂煙が消えた後に視界に入ったのは全身が地面にめり込んでひしゃげているガーディアンの姿だった。

 少なからず高位精霊を相手にできるほどの実力を持っていたガーディアンたちがなす術無く地面と一体化している姿にレイアは思わず驚愕の声を漏らした。

 

 

「一体何が……」

 

「上だ」

 

 レイアと同様にロークも困惑していたがそれも一瞬、直ぐに敵の気配を察知すると剣精霊を呼び出し、視線を上へと向けた。

 

 ガーディアンを送還させた相手はロークたちの頭上、遥か上からふわりふわりと空気を失っていく風船のようにゆっくり舞い降りてきた。

 

 大きな一対の翼にも見える大きく水平に広がった胸ビレを波立たせるその巨体はエイを彷彿とさせる姿をしている。ふわりと宙を浮かぶ姿はどこか能天気さを感じさせるが、一方でその身に纏う霊力は強大でとても禍々しかった。

 

 

「アレは……まさか《邪霊》?」

 

 

「だろうな、この遺跡の何かに惹かれてきたか」

 

 

 唖然としながらもその正体を看破するセリアにロークは冷や汗を流しながら頷いた。まさかこの遺跡に野生の邪霊が紛れ込むとは……。

 

 しかも一目見ただけでも相当高位だと分かるほどの霊力、単純な格で言えばそれこそガレスのベオウルフやドリアードにすら引けを取らないだろう。

 

 

「撤退ね。流石にアレを相手にする気は無いわ」

 

「同感だ」

 

 セリアの即断にロークは同意する。どう考えてもこんな場所で真っ向から相手にする敵では無い。

 

「サラマンダーッ!」

 

「ガァァアアッ!」

 

 

 どうやって逃げようかとロークが思考する間に先制して仕掛けたのはレイアだった。呼び出されたサラマンダーは現れるや邪霊目掛けて宙に炎を吐き出した。

 竜の口腔から吐き出された業火は一瞬にして邪霊のいる上空を赤一色で埋め尽くし、熱気が辺りを包み込んだ。

 

 

「ナイスだ、レイア。今の内に引くぞ」

 

 

 流石に倒せていないだろうが、それでも充分目眩しにはなっている。逃げるなら今が絶好のチャンスだろう。

 

 

「ですが、アレを野放しにしても」

 

「頑張ればいけるだろうが今無理して戦う相手じゃない。それに見たところガーディアンとは敵対しているようだし、その内勝手にやられるさ」

 

 いくらあの邪霊も延々と湧き出るガーディアンたちを前にすれば霊力切れで力尽きることは想像に難くない。ここは大人しく引くのが吉だ。

 

「……しかし」

 

 けれどそのロークの判断にレイアは思わず歯噛みする。

 

 この世界にとって悪魔と並んで闇に属する危険な存在、邪霊。判断としては正しいのだろうがそれでもヴァルハートの貴族として一精霊師として、眼前の邪霊を放置して逃げることはしたく無かった。

 

 

「二人ともッ!」

 

「ほら、早く走れ!」

 

「………はい」

 

 それでも先輩たちの言葉に従おうと僅かな逡巡の後に自分の意志を曲げて頷くレイアだったが———この状況に於いてその僅かな逡巡が命取りとなった。

 

 

 

 

 

 僅かに視界が歪んだかと思えば突然身体が重しを括り付けられたかのように重くなり、思わずそのまま地面に倒れ込んでしまう。 

 

「きゃッ!?」

 

 

 ——————これは何をッ!?

 

「く…ッ!」 

 

「ちぃッ!」

  

 

 耳に入ってきた苦しげな声にレイアが視線を向ければ自分と同じようにまるで地面に引き寄せられているかのように倒れ込んでいるセリアと片膝を突きながらも何とか必死に抵抗をしているロークの姿があった。

 

 そしてそれは精霊たちも例外ではなく、倒れてこそいないものの精霊たちも上からの圧力に身体が地面へと沈みかけていた。

 

「ォォォオオオオオオッ!」

 

 

 上空から響き渡る重低音の鳴き声に視線を向けば炎の中から傷一つ負っていないピンピンした様子の邪霊が胸ビレをはためかせながら姿を現した。

 

 

「おのれッ!」

 

 

 その姿を見て激昂したのはドリアードだった。彼女は圧力に耐えながら地面に手を付けると彼女の周囲から大木を幾つも生やした。ドリアードは邪霊を睨み付けるとその全てを邪霊目掛けて槍のように伸ばしていく。

 

 真っ直ぐに邪霊へと突き進んでいく大木の群れに直撃を確信したレイアだったが、彼女の予想に反して木々はその全てが邪霊の眼前で不自然に軌道を変えて邪霊の身体の真下を通り過ぎていった。

 

「ぬッ!」

 

「重力か…ッ!」

 

 今の光景を見たロークが邪霊の力に当たりを付ける。今の自身に掛かっているこの圧力と先程の光景からしてあの邪霊は霊術によって重力を操っていることはほぼ間違いないだろう。

 

 けれど相手の能力の正体が分かったところで状況を改善できる訳では無い。邪霊による霊術の拘束は強力で自力で破るにしても拘束が緩まない限りは身体を動かすことさえままならない。

 

「くッ!サラマンダーッ!」

 

「グォオオオオッ!!」

 

 その状況を変えるべく動いたのはやはり精霊だった。レイアの指示の下、全身から霊力を放って無理矢理霊術を破ったサラマンダーは雄叫びを上げながら翼を大きくはためかせると炎を纏って邪霊へと突撃する。

 

 眼前に迫ってくる赤竜を前にして邪霊から霊力が溢れる。再び霊術を発動してサラマンダーを地面に落とそうとするがサラマンダーは重力を気合で耐えてそのまま邪霊に肉薄する。

 

「ガァァアアッ!!」

 

サラマンダーは前脚を振り上げるとその鋭い鉤爪に炎を纏わせ、邪霊の顔面へその顔を焼き裂くべく振り下ろす。

 

 けれど鉤爪が振り下ろされる直前で邪霊も次の霊術を発動してバリアを眼前に展開、鉤爪はバリアに阻まれる形となった。

 ギィンという金属音にも似た甲高い音が空間に鳴り響き、高密度の霊力同士の衝突によって発生した衝撃波により周囲のステンドグラスが光を放ちながら砕け散る。

 

 

 サラマンダーの一撃は邪霊にダメージを与えるには至らなかったがそれでも霊術による拘束は緩んだ。この瞬間を逃すまいとロークはありったけの霊力を周囲に放つとサラマンダー同様に無理矢理拘束を解く。

 

「颶風剣ッ!」

 

 ロークは動けるようになるや微精霊による剣精霊の強化を発動させた。業火の剣と同じく微精霊一体を消費する強化は彼を覆うように吹き荒れる暴風となってその凄まじさを示した。  

 

「らァァアアアッ!」

 

 気合一閃。ロークは剣を掲げて刀身に周囲の風を集約させると声を荒げながら剣を振り下ろし、刀身に纏った高密度の風を斬撃として邪霊へと放った。

 

「ッ!?」

 

 サラマンダーの攻撃を凌いでいた邪霊にガラス片を吹き飛ばしながら迫ってくる風の斬撃を避ける術は無く斬撃をモロにその身体で受けることになった。風の斬撃を浴びた邪霊はそのまま身体をくの字に曲げると上空へと吹き飛ばされる。

 

「拘束が解けた。流石はロークね、助かったわ」

 

「相変わらず其方、人間離れした霊力量じゃな」

 

「お褒めの言葉は素直に受け取るけど今の内にさっさと逃げよう。多少はダメージ食らってるだろうけど絶対ピンピンしてる」

 

 拘束が解かれたことにより完全に動けるようになったセリアとドリアードとにロークはそう言いながらずっと険しげな表情で視線を上へと固定していた。

 

 

「そうね、レイアちゃんも行くよ!」

 

「は、はい!」

 

 拘束が解けていたにも関わらず惚けて固まっていたレイアはセリアとの声にハッとすると慌てて頷き出口へ向かって再び走り出す。そして同時に先程のロークの姿が脳内でフラッシュバックする。

 

 契約精霊を介さない霊術でありながらとても高度な霊術だった。前に自分と戦った時もそうだったが彼は複数の属性において高度な霊術を扱う。基本、精霊師の霊術の技量は自身の契約精霊と同じ属性の霊術に偏り気味だが彼にはそれが見られない。

 

 ———契約精霊が複数属性の持ち主?

 

 それならば納得はいく。数は少ないが確かに中には複数の属性を宿している精霊もおり、納得はいくが……どうにも腑に落ちないというのがレイアの感想だった。

 

 この遺跡探索が終わった後に話を聞いてみようかと、そう思いながらレイアはドアノブに手を掛けて一つ前の部屋へと入り込む。僅かに遅れてセリアも中へと入り込み、最後にロークが入ろうとしたタイミングで再び邪霊の霊術が彼を襲った。

 

 

「ちッ!またかッ!?」

 

 咄嗟に迫り来る重力を感じ取ったロークは剣を盾にし、風を展開することで霊術の威力を下げようと試みるが、吹き飛ばされたことに怒っているのか放たれた霊力の威力は今までの比では無かった。

 

 咄嗟に防御して潰れることは免れたがあまりの威力に警戒していたサラマンダーも抵抗しきれずローク目掛けて勢いよく落下してくる。

 

「くッ!」

 

 このままではロークがサラマンダーの下敷きになって潰されると判断したレイアが精霊の顕現を解くことで最悪の悲劇を回避することはできた。

 

 尤も回避できたのは最悪のみだが。

 

 

 

「なッ!?」

 

 重圧に剣と風を盾にして何とか耐えていたロークだったが先に地面の方に限界がきた。ビキビキと砕けるような音を鳴らしながら地面にヒビが入り、やがて音を立てて崩壊した。

 

「ドリアードッ!」

 

 咄嗟にセリアはドリアードに命じて木を落下するローク目掛けて伸ばすが木のスピードよりもロークの落下速度の方が圧倒的に速く、届かない。

 

「ローク先輩ッ!?」 

 

「ッ!下がりなさいッ!」

 

 僅かに遅れてサラマンダーを呼び出して助けに向かわせようとするが刹那、セリアが腕を掴むと思いっきり背後へと引っ張った。

 

 何をと困惑する間も無く先程まで自身がいた場所に巨大な岩が弾丸のような勢いで着弾し、扉ごと粉砕した。

 

 

「重力で瓦礫を加速させたのね」

 

「それよりセリア先輩、ローク先輩がッ!」

 

「落ち着いてレイアちゃん、ロークなら大丈夫。貴女も戦ったことがあるなら分かるでしょ?彼は簡単にやられるような奴じゃないわ」

 

「けどッ!」

 

 尚も焦った様子のレイアを宥めるようにセリアは背中を一度強く叩く。

 

「恐らくガーディアンもまだ残ってる。焦らず冷静に」

 

「……はい」

 

 ようやく落ち着きを取り戻して頷く後輩にセリアは笑みを浮かべる。その様子を彼女の契約精霊であるドリアードは静かに見つめていた。


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