真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます 作:アラッサム
本作のストーリーの区切りとなる話になる他、彼方さんの素晴らしいイラストも描かれているので是非、買って頂ければと思います!
「かはッ」
「リリスッ!」
胸を貫かれたことで口から大量の血を吐き出しながら崩れ落ちるリリスの姿を見たロークは反射的にそう叫びながら駆け出す。
そのまま依代から剣精霊を呼び出すと契約を結びながらその柄を持ち、リリスを刺した下手人に向けて剣を振るう。
「おっと」
しかし下手人はリリスの身体を抱き抱えながら軽やかな動きでロークの斬撃を躱すとそのまま後方に着した。
「何だ、てっきり感謝されるものだと思っていたけど随分と怒るんだね、ローク君」
「ホーンテッドォォオオオッ!!」
何故ここいるのか、今までどこにいたのか、そういった疑問を全て投げ捨て、ロークは下手人、ホーンテッドに向かって叫んだ。
対するホーンテッドはそんな激昂するロークを楽しげに笑いながら既に動かなくなったリリスの身体を掲げる。
「リリスを離せッ!」
「言われずとも解放するさ、やるべきことをした後でね」
ホーンテッドがそう呟くとホーンテッドの持つ剣、ヴラドが光を放ち始め、同時に項垂れていたリリスが弱弱しい呻き声を漏らした。
「……あ、う………」
「お前、何をッ!」
「ちょっと血を貰うだけさ」
その言葉と共にリリスを貫いていた刀身にまるで血管のような線が幾つも浮かび上がり、そのまま血を吸い取っているかのように脈動を繰り返し始めた。
何をしようしているかは分からないが、苦しんでいるリリスの様子を見てすぐに止めようとロークは足を踏み込む。
「おっと、下手に動かないでくれ。動けばこのまま君の妹の息の根を止めるよ?」
「ッ!!」
ホーンテッドの言葉にロークは思わず歯を食い縛りながら動きを止める。
実際、リリスに剣を突き刺した状態のホーンテッドは言葉通りいつでも命を奪うことができる状態だ。
ロークは胸の内で煮え滾る怒りを抑えるとその瞳で射殺さんばかりにホーンテッドを睨み付ける。
「フフッ、怖い怖い。人質がいて良かったよ」
ホーンテッドはそんなロークの視線を受け止めながらおどけた様子で笑う。
その様子がロークの神経を更に逆撫でる。
「……ッ」
「ハハハ、そんなに心配しなくてもリリスはちゃんと解放してあげるよ。しっかりと血を吸い上げた後でね———ッ!」
喋っている途中でホーンテッドの足元の影が波打ち、次の瞬間その身体が地面へと沈み始めた。
「この力は———ッ!?」
「……ッ!」
沈むホーンテッドは咄嗟に脱出を試みようとするが、踏ん張る地面が存在しない為、脱出することができず焦りを見せる。
けれどその瞬間、剣の姿から少女の姿になったヴラドがホーンテッドを抱き留めると周囲に生成した杭を足場に影の範囲から脱出する。
しかし、代わりに宙に投げ出されたリリスはそのまま重力に従って影の中に沈んで消えてしまった。
「リリスッ!」
『私の空間に入っただけだ、そう叫ばずともしっかり生きている。重傷ではあるがな』
「ッ!」
聞こえてきたアぺプスの声にロークは視線を足元に向ける。
見ればロークの影がホーンテッドが立っていた位置まで不自然に伸びており、そこでアぺプスが干渉したことに気付いた。
「どうして? 戦闘には参加しない筈じゃ?」
『これは戦闘じゃなくてただの嫌がらせだ。それに言っただろう』
アぺプスは地面に広がる闇の中から金色の瞳を輝かせながらロークに告げる。
『私はアイツらが好きじゃないと』
「……そういや、そうだったな」
その言葉にロークはアぺプスが嫌悪感丸出しでアイツらが好きじゃないと言っていたことを思い出し、笑いながら頷く。
「助かった。ありがとう、アぺプス」
『私が好きにやったことだ。礼を言われる筋合いはない』
ロークは妹を助けてくれたことに対して感謝を述べるが、アぺプスに素っ気なく返されてしまう。
「それでもお前がいなければ妹を助けられなかった。本当にありがとう」
それでも尚、ロークがそう礼を述べるとアぺプスはどこか面倒そうにため息を漏らしながら『まぁいい』と呟いた。
『なら、今回のことは契約の礼ということにでもしておこう』
「ああ、分かった」
ロークがアぺプスの言葉に頷いていると「冗談はよしてくれよ」とどこか嘆くようなホーンテッドの声が耳に入る。
「どうしてアぺプスがローク君と一緒にいるんだい?」
「…………」
『気を付けろ、三つ首が出てくるぞ』
その警告に弾かれたようにロークが顔を上げると信じられないと言わんばかりの表情を浮かべるホーンテッドの姿、そしてその背後から現れた三つ首の黒龍の姿が視界に入った。
『どうやら成功したみたいだな、ホーンテッド』
巨大な翼を羽ばたかせながら現れた邪霊、アジ・ダハーカの言葉が静まり返っていたジュデッカの森に響いた。
「ああ、概ねだけどね」
『しかし、肝心のガキはどこに行った? 死んだか?』
「いや、生きてはいるよ。尤も胸を刺した上に血もそこそこ吸ったから相当弱っているだろうけどね」
『なるほど……。まぁ、契約が切れている以上はどちらでも大して関係無ねぇか』
アジ・ダハーカはそう呟きながら視線をロークへと向ける。
そしてロークの身体から覚えのある気配を感じ取ったアジ・ダハーカは『マジか!』と驚きと喜びが入り混じった声を上げる。
『その気配、まさかお前、あの駄ヘビと手を組んだのかッ!?』
「…………」
「ああ、さっきリリスから血を回収していた時に邪魔されたよ」
ロークが何も答えず黙り込んでいると代わりにホーンテッドが肯定の言葉を口にした。
『ハハハッ! なるほど、お前はソイツを選んだのかッ!?』
『………』
『随分と面白い展開になってきたじゃねぇかッ! なぁ、ホーンテッド?』
「全然良くないよ、寧ろ個人的には嫌な展開なんだけど……」
楽しげなアジ・ダハーカとは裏腹にホーンテッドはげんなりと様子で言葉を返す。
「……何故、リリスを刺した?」
そんな邪霊と人のやり取りを見つめながら少し冷静さを取り戻したロークはホーンテッドにそう問い掛けた。
「ん?」
「どうしてリリスを刺した? 仲間じゃないのか?」
「ハハハ、それは違うな。俺とリリスは仲間って訳じゃない。あの子もそう言っていなかったかい?」
「………」
———勘違いしているみたいだから教えてあげるけど、ホーンテッドは仲間じゃないよ。私達はただの協力関係なだけだよ。
ホーンテッドの指摘にリリスも似たような発言をしていたことを思い出しながら「だとしても、あの子を刺す必要があったのか?」と問い質す。
「当然だ。寧ろそれがリリスと手を組んだ理由の一つなんだから」
「何だと?」
「リリスの血……厳密に言えば悪魔の血が欲しかったんだ。俺の邪霊、ヴラドは吸血能力を持っているからね。だからさっきのように後ろから刺させて貰ったという訳さ」
「……何故、悪魔の血が必要なんだ?」
そう言って手で人を刺すような仕草をするホーンテッドに対して再び沸々と湧き上がってくる怒りを抑えながらロークは重ねて問い掛ける。
この状況、怒りのままに斬りか掛かっても返り討ちになることは分かっている。
故にロークは時間稼ぎと情報収集を兼ねてこのまま質問を続けるが、ホーンテッドはどこか意地の悪い笑みを浮かべながら「おいおい」と声を上げる。
「さっきから質問ばかりだね? 俺がローク君の疑問に一つ一つ答えて上げる義理なんてあるかな?」
「…………」
「フッ。まぁ、良いよ。君の妹さんから貴重な血を頂いたしね。その代金として疑問に答えようか」
ホーンテッドはそう言うと隣のヴラドに声を掛ける。
すると応じたヴラドはホーンテッドの背中によじ登り、その小さな口を開くと首筋に思いっ切り噛み付いた。
「……ぐッ!」
同時に苦悶の声を漏らし始めたホーンテッドの身体に変化が訪れた。
身体に黒い紋様が刻まれ。その瞳が紅色へと染まっていく。纏う雰囲気も不気味で重苦しいものへと変化していく。
「……ッ!」
気付けばロークは駆け出していた。
一体、何が起こっているのかは。分からないが目の前の変化は見過ごしてはいけないという確信があった。
「はぁあああッ!」
「ッ!」
態勢を低くしてホーンテッドの懐に入ったロークは剣を逆袈裟に振り上げようとして———。
「ガハッ!」
次の瞬間には目の前に迫ってきたホーンテッドの手に顔を捕まれ、ロークはそのまま地面に叩き付けられる結果となった。
「はぁ、はぁ……」
『良い動きじゃねぇか、助けようと思ったが余計な世話だったみたいだな』
「いや、そこは助けて、くれよ」
霊術を放つ準備をしていたアジ・ダハーカの言葉にゆっくりと身体を起こしたホーンテッドは荒い呼吸のまま文句を口にする。
「にしても、いきなり斬りか掛かるとは酷いな。折角、答えを見せてあげたのに」
「こた……え、だと?」
後頭部から思いっ切り地面に叩き付けられたことで意識が朦朧としていたロークがそう呟くとホーンテッドは語り始めた。
「リリスの血を取り込んだことで俺の身体を無理矢理、悪魔に寄せたんだ」
「……」
「本物の悪魔の血には生きた魔力が宿っている。普通の人間だったら拒否反応を起こしてお終いだろうが、俺には薄いながらも魔の血が宿っているからね。こうして適応することも不可能じゃない訳だ」
「…………」
そこでロークは今更ながらホーンテッドの身体に魔力が宿っていることに気付いた。
「難点はそもそもどうやってリリスから血を奪うかだったけど、それも君があの子を弱らせてくれたお陰で上手くいった。改めて礼を言うよ、上手く嗾けた甲斐があった」
「……ふざけ、やがってッ!」
「さて、目的は果たした訳だけど———ッ!」
ホーンテッドの言葉を遮って雷鳴が轟く。
反射的にホーンテッドが腕を動かして防御を試みるが、自身に向けて振り下ろされた魔剣によって後方に弾き飛ばされた。
「やぁ、ローク。セーフかい?」
「……ギリギリな」
こちらに手を伸ばしながら尋ねてくるガレスにロークはそう言葉を返しながら手を掴む。
身体がガレスの力によって勢いよく跳ね上がったロークはふらふらとながらも立ち上がることができた。
「けど、もう少し早く来れたんじゃないか?」
「おいおい、無茶言うなよ。奴らが勝手に離脱したからどうにかなっただけで、こっちも結構大変だったんだぞ」
ガレスがそう言いながらアジ・ダハーカに向け「でもまぁ、君ほどじゃないか」と魔剣を構えるとその背後から契約精霊であるベオウルフを筆頭に仲間達が姿を現す。
「気配から察してはいたけど、勘弁してくれないか。僕は兄妹喧嘩のサポートに来ただけ何だけど……」
「……アジ・ダハーカ」
「おや、もしかしてクライマックスかな?」
オーウェン、リリス、ケイがアジ・ダハーカに視線を向けながらそれぞれ戦闘の構えを取る。
全員、既に邪霊との戦いで消耗している筈だが、どうやら全員このまま戦うつもりのようだ。
「おいおい、まさか全員やられたのか? 相応の強さを持つ邪霊達だった筈だけど……」
そんなガレス達の様子にホーンテッドはリリスが引き連れて行った邪霊達の姿を思い返しながら呟いた。
『あのガキとの契約が切れたからな、その影響が出たんだろ。多分、戦場から離脱した奴もいるぞ』
「……なるほど。まぁ、確かにこっちは仲間意識なんて薄いしね。制御を離れればそうもなるか」
アジ・ダハーカの指摘に納得した様子で頷くと未だ背中に引っ付いているヴラドを無理矢理引き剥がした。
『で、どうする? やるか?』
「やる気なところ悪いが、ここは退かせてくれ。こっちはまだ魔力が完全に身体に馴染んでなくてキツイんだ」
戦意を滾らせながら尋ねてくるアジ・ダハーカに対してホーンテッドは疲労と苦痛を滲ませた声音で撤退を口にする。
『おいおい、情けねぇなぁ』
アジ・ダハーカはそんなホーンテッドの姿に呆れた声音で呟くが、やがてため息混じりに『まぁいい』とその視線をローク……その足元の闇に向ける。
『あばよ、駄ヘビとガキ共』
「あ、ちょっと待って。フォルネウスは回収しておいてくれ、戦力になるだろうし」
『へいへい、注文の多いヤツだ』
その言葉と共アジ・ダハーカは闇に拘束されていたフォルネウスの身体を霊術によって解き、引き寄せると背後に巨大な空間の裂け目を生み出した。
「このまま逃がすと———ッ!」
「止せ、ガレス君」
雷を纏い、駆け出そうとするガレスをオーウェンが肩を掴んで止める。どうしてと言わんばかりに振り返るガレスにオーウェンは静かに首を横に振る。
ロークもオーウェンの言葉に静かに同意する。
ここで事件の元凶の一人を倒したいガレスの気持ちは分かるが、アジ・ダハーカが共にいる以上、ここで倒すのは厳しいだろう。それに重傷を負ったリリスを急いで治療する必要がある。
故に一刻も早くこの場から去りたいロークはホーンテッド達の撤退を妨害することなく、その姿を静かに見送る。
そのまま穴の中へと消えようとしていたアジ・ダハーカはその直前で『そうだ』と何かを思い出したかのようにその動きを止めた。
『お前ら、俺達を止めたいならルナの塔へ来いよ!』
「ッ!」
「おい、アジ・ダハーカッ!」
アジ・ダハーカの発言にローク達が驚く中、ホーンテッドが余計なことを喋るなと声を掛けるが、魔龍は知ったことかと話を続ける。
『その時は俺が盛大に歓迎してやるからよッ! 待ってるぜ、ガキ共ッ!!』
「はぁ……」
宣戦布告を終えて満足げに去っていくアジ・ダハーカの後ろをため息混じりにホーンテッドは続くのだった。