真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます 作:アラッサム
本作にご興味がある方は是非、ご購入を検討して頂ければと思います!
「ふぅ、にしてもまさか四凶まで出張ってくるとはね……無事に済んで良かったよ」
そう言って安堵の息を漏らすオーウェンに対してケイが不完全燃焼そうな様子でもう少し霊術を試したかったと嘆く。
「それよりローク、あの子は?」
「そうだ、妹さんはどうなったんだ?」
「……そうだ、リリス!」
リリーとガレスの指摘にロークがハッとしながら足元に広がる影と同化した闇に視線を向けるとまるでタイミングを見計らったかのように地面からリリスの頭が姿を現す。
「ふんッ!」
「……」
ロークが地面の闇に手を入れ、その身体を引っ張り上げると胸元を赤く染め、ぐったりとしたリリスが姿を現した。
「リリスッ! 大丈夫か、リリスッ!?」
「…………」
ロークは必死の声を掛けるが反応が無い。
完全に意識を失っているようだった。
「トラルウスッ! リリスをッ!」
「いや、その前に……いや、それどこじゃないか」
ケイはロークが使用した霊術が気になりながらも、抱えているリリスの様子を見て思考を切り換えると精霊達と共に治療に入った。
「どうだ、ケイ?」
「前にも言ったけど治癒術は専門じゃないからね。流石にこの傷の深さだと悪化を抑えるのが精一杯だな」
ケイは霊装化した指揮棒を患部に向けながら険しい表情でそう呟く。
「オーウェンさん、ここから全速力でガラテアに戻ったとしてどれくらい時間が掛かりますか?」
「そうだね、全力でも小一時間は掛かるんじゃないかな? 今はスピードに特化した精霊を連れていないしね」
「もしかして、ヤバいのか?」
「今すぐとまではいかないが、マズい状態だ。傷は勿論だが出血も酷い。あまり時間は掛けたくないな」
「そんなッ!」
ケイの診断を聞いたロークは焦る。
ジュデッカの森からガラテアに戻るまでオーウェンの言うように急いでも一時間は掛かってしまう。
リリスはそれまで保ってくれるだろうか……。
「早く戻ろう」
「リリー」
するとそんなロークの肩をポンッと叩きながらリリーが言った。
その表情からはロークと同様に焦りが見えるが、それ以上に何としてもリリスを救おうという意志を感じ取れた。
「家族を失っちゃダメ」
「……ああ、そうだな」
リリーのその言葉にロークが力強く頷く中、ガレスとオーウェンは少しでも早くガラテアに戻る為に策を練っていた。
「ここでリリスを素早くガラテアへ連れて行けるような精霊と簡易契約を結べませんかね?」
「いや、恐らくさっきの戦いの影響で近くの精霊は皆、逃げているだろうし、」仮にいても契約を結ぶ時間を考慮すればサンダーバードに乗せた方が速い」
『私が運んでやろう』
「……ッ!」
脳内に響くアぺプスの声にロークは反射的に真下を見るとすると闇の中で揺らめく金色の瞳がこちらを見つめていた。
『あの場所は一度、行ったからある程度の座標は覚えている。霊力を寄越せば一瞬で異動してやる』
「頼むッ!」
「ロークッ!?」
アぺプスの提案にロークは即答でそう叫んでいた。
突然、叫び声を上げたことに周囲は何事かと驚きながら声を掛けるがロークはその全てを無視しながら再度、アぺプスに「頼むッ!!」と叫んだ。
『しかし、良いのか? 力を使えばお前と私が契約していることが完全に露呈するぞ?』
「んなこと、どうだって良いッ! 早くッ!!」
『…………』
どこか試すようなアぺプスに対して一刻も早くリリスをガラテアに連れて行きたいロークは仲間達の困惑した視線を浴びながらそう叫んだ。
『……分かった。今から移動を行うからお前は周りに少しの間、目を閉じるように伝えろ』
「みんな、悪いが少しの間、目を閉じてくれッ!」
「一体、何をする気だ……?」
「ローク、その子が心配なのは分かるけど少し落ち着いて……」
「違うッ! 別におかしくなってないから頼むッ!」
ロークの必死の頼みにガレス達は訝しげな表情を浮かべながらも目を閉じる。
『行くぞ』
全員が目を閉じたのを確認した後、ロークもリリスを抱き締めると目を瞑る。
その直後、身体が水の中に沈み込むような感覚に襲われた。
「ッ!?」
「これはッ!」
予想もしていなかった感覚にガレス達は驚きと困惑が入り混じった声が耳に入るがそれも一瞬で数秒もすると身体が押し上げられる感覚と共に浮遊感も消失した。
『着いたぞ』
「……ッ! はぁ、はぁッ!!」
到着を告げるアぺプスの声が耳に入ると共に一気に霊力を抜き取られ、身体が凄まじい疲労感に襲われて意識が朦朧とする。
「ここは……ガラテア? 今の一瞬で?」
「ローク、今のは……」
「説明は後です。それよりも……ッ」
この一瞬でジュデッカの森からガラテアまでの長距離移動を成し遂げたことに周囲から困惑の声が漏れるがロークはそれらを無視しながらリリスを抱きあげようとする。
けれど身体に上手く力が入れられない影響で立ち上がれかったロークはそのままバランスを崩して転びそうになるが、後ろからガレスが手を差し伸べて支えた。
「ああ、今はとにかく急ごう」
「……ありがとう」
「いつものことさ」
ロークはガレスに支えられながらベオウルフの背に乗るとユートレア学院に向けて疾風の如く駆け出した。
*****
リリスは懐かしい夢を見ていた。
まだ幼い頃、背中に生えた羽を上手く隠せなかったリリスは母親から羽を隠せるようになるまでは外で遊ぶことを制限されていた。
けれどそんなある日、リリスは一度だけ母親の言いつけを破ってこっそりと家を飛び出したことがあった。
よくある悪戯だった。家族を困らせてやろう、その程度の考えだった。
そしてすぐに後悔した。外に出て同じ年齢の子供達と遊ぼうとしても羽のせいで不気味がられて避けられ、挙句には軽い暴力を振るわれた。
当時のリリスはまだ魔力も少なく、そもそも魔力の扱い方すら碌に分からない年相応の子供だった。
だから同年代の振るう子供達のパンチもキックは凄く痛かったし、みんなから嫌われたという事実はリリスの心を傷付けた。
———だから。
「こらぁ! お前らウチの妹に何してやがるッ!」
そう言って助けに来てくれた兄の大きな背中をリリスは一度も忘れたことが無い。
「クソガキ共ッ! 二度と俺の妹に近づくんじゃねぇッ!!」
同年代の子供達よりも年齢が上な為、身体付きがしっかりしていたロークは瞬く間に子供達を追い払うとリリスの姿を見て安堵の息を漏らした。
「良かった、大きな怪我は無いみたいだな」
「お兄ちゃん………」
そう言って笑う兄にリリスも自然と笑顔になった。
「けど、それはそれとしてお前も後で説教だからな」
けれど次の瞬間には勝手に抜け出したことを怒った兄によって軽い拳骨を喰らい、リリスはまた涙目になってしまった。
「さぁ、帰るぞ」
そして最後にはそんな自分の手を兄は優しく握ってくれ、それだけ今日は悪い日では無かったとリリスは思えたのだ。
あの時の兄の笑顔も怒りの顔、手の感触もリリスは一度たりとも忘れたことはなかった。
*****
「…………」
意識を取り戻したリリスが目を開けると見覚えのない白い天井が目に入った。
ゆっくりと自分の身体に視線を向けると胸部が包帯に覆われており、そこで自分がホーンテッドに胸を刺されたことを思い出した。
「……ッ」
重く感じる身体を起こそうとすると胸部がズキリと痛み、リリスは顔を歪めながら胸の傷に触れようとしてそこでようやく気付いた。
「……ッ!」
温かい右手。視線を向ければ自分の右手を握っている兄、ロークの姿があった。
どうやら眠っているらしく、目を瞑って寝息を立てているロークはベッドの側の椅子に腰掛けながらその手で自分の手を大事そうに握り締めていた。
「……」
ふとリリスはロークの手を離そうとするが、その手は絶対に離さないとばかりに強く握られており、外れる気配はまるで無かった。
「……お兄ちゃん」
小さな声でそう呼び掛けると眠っていたロークはその声に反応するようにビクッと身体を震わせるが、再び寝息を立てた。
そんな兄の反応に思わず笑ったリリスは繋がっている手を強く握り締めながら身体をベッドに預ける。
「……そっか」
小さく呟いたリリスは再び目を瞑る。
決して消えていなかった繋がりを手に感じながらリリスは再び眠りに着いた。