真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます 作:アラッサム
「今のは……」
ユーマは、突然地面に沈むようにロークの姿が消えたことに驚きながら、そう呟く。
主力部隊を分断するという目的は果たしたが、ロークの動きが気掛かりだった。
こちらの転移術による移動でもなく、周囲の仲間達やローク本人も動揺した様子を見せていたことから、恐らく事前に計画していたことでもないはずだ。
「サラマンダーッ!」
『グォオオオッ‼』
「———ッ!」
しかし、そんなユーマの思考を遮るように赤竜が咆哮を上げながら現れ、こちらに向かって飛翔してきた。
「チィッ! クロムッ!」
『ガァアアッ!』
『——ッ!』
ユーマの指示の下、クロムはその剛翼で眼前の天使を弾き飛ばすと、向かってきたサラマンダーと空中で組み合った。
「はぁああッ!」
二体の竜が咆哮を上げながら激しく衝突する中、サラマンダーの背に乗っていたレイアが声を上げながらその手に火球を生み出し、ユーマに向けて放った。
ユーマは自身に向かってきた火球を光剣で斬り裂くと、そのままクロムの背を駆け、大きく跳躍してレイアに向けて斬撃を放つ。
「———ッ!」
「なにッ⁉」
レイアは迫ってくる光剣の軌道を正確に見抜くと、半身を僅かにずらすことで剣を躱すことに成功する。
「お返しですッ!」
「ッ!」
斬撃を躱されて動揺を見せるユーマに対し、レイアは反撃のために再び火球を生み出すと、至近距離で爆発させた。
「驚いた。まさか躱された挙げ句、カウンターを受けるとは……」
「たった一撃躱されただけで、そこまで驚かれるのは癪ですね」
爆炎の中から無傷で姿を現したユーマに僅かに顔を歪めながら、レイアはそう言葉を返す。
「いや、失敬。予想以上の身のこなしについね」
「当然です。貴方よりも、もっと速い剣を間近で見てきたんですから」
「……なるほど」
レイアの言葉に、ユーマは納得した様子で静かに呟く。
確かにユートレア学院には、ガレスを始めとして剣技に長けた精霊師が多い。彼らの剣技を見ているなら、躱されるのも不思議ではない。
「……にしても随分と余裕があるな。父親やロークが消えたっていうのに」
「愚問ですね」
ユーマの問いに、レイアはそう即答すると、その身体から紅蓮の炎を滾らせる。
「お父様は勿論、ローク先輩だって普段は情けない姿も見せますが、ここぞという時は絶対にやってくださる人です」
レイアは父と先輩に対する強い信頼を示すと、「だから———」と続けながら、その両手に炎を纏わせ、ユーマへと向ける。
「私は私が為すべきことを為します」
「———チィッ!」
まるで流れるような動きで霊術を発動したレイアに、ユーマは舌打ちをしながらその場から跳び、迫ってきた炎を躱す。
———思った以上に成熟してるな。
宙で一回転しながらクロムの背に着地したユーマは、レイアに対する評価を改めながら、内心でそう呟く。
ゼルとロークの話題を口にすれば、多少なりとも動揺を見せると思っていたが、まるで意に介していない。それだけ強い信頼があるのだろう。
「雷公穿刃」
「ッ!」
バチリと響き渡る雷鳴に視線を向けると、迫ってくる魔剣が視界に入り、ユーマは素早く光剣を間に挟み込んで一撃を受け止める。
「流石にそう簡単にはいかないかッ!」
「こっちも今日はそれなりの覚悟を決めてきているからな」
そう答えながら、ユーマはガレスを弾き飛ばすと、懐から本型の依代を取り出した。
「出血大サービスだ」
パラパラと次々にページが捲れたかと思うと、依代から邪霊の群れが姿を現した。
『グォオオッ!』
『ガァアアアッ!』
骨と皮だけで形成された竜に、甲羅と翼を持つ甲殻類を彷彿とさせる怪物、そして蝙蝠のような翼を生やした能面の化物。
見るも悍ましい姿をした邪霊が次々に依代から現れ、ガレス達に向かって襲い掛かる。
「くッ!」
「サンダーボルト」
落下中で無防備になったガレスを援護するため、リリーが下から雷の霊術を放つ。
リリーの小さな手から放たれた大きな雷は、ガレスを避けるように大気を駆け、襲い掛かってくる邪霊に直撃する。
『———ギッ』
雷を受け、痺れによって僅かに動きを止める邪霊。その隙に壁を蹴って高く跳んだベオウルフが、落下するガレスを咥えて地面に着地する。
「ここは私達には不利。下がろう」
「やむを得ないね」
ユーマが呼び出した邪霊達は、その全てが飛行能力を持っている。天井が高く、地面の面積が少ないこの空間において、飛行手段を持たないリリーとガレスは不利だった。
『ガァアアアッ!』
リリー達が後退しようとしたその直後、頭上で紫色の光が瞬き、霊力を纏った光線が地面を貫いた。
「ッ!」
「なッ⁉」
元々脆かった地面は、その一撃によって崩壊する。しかし、ガレスは咄嗟にリリーを素早く抱き抱えると、落下していく足場を飛び移りながら入口に着地した。
「ミーシャ様ッ!」
「問題ありませんッ! それより———ッ!」
ガレスは振り返り、落下するミーシャの救出に動こうとするが、背筋を走り抜ける悪寒に足を止めた。
『シャアッ‼』
直後、ガレスの行く手を阻むように、翼を生やした三つ目の蛇の邪霊が、その長い胴体をうねらせながら姿を現した。
「邪魔だッ!」
『———ッ!』
瞬時に悪寒を振り払ったガレスは、目の前の邪霊を処理するべく力強く足を踏み出す。対する邪霊は、自身を睨み付けるその鋭い眼光に反応するかのように、額に付いた瞳を輝かせた。
「ガレスッ! その邪霊の目を見ちゃダメッ!」
「ッ⁉」
その様子を見たリリーの叫びに反応し、ガレスは反射的に目を閉じるが、僅かに遅かったらしく、邪霊の力によってガレスの右足が石化していく。
「これは———」
「蜃ッ! ミノタウロスッ‼」
ガレスが動揺する中、リリーは蜃を呼び出して霧を吐かせ、視界を覆って邪霊の力を妨害しながら、ミノタウロスに攻撃を命じる。
『ブォオオッ!』
『シャァアアアッ!』
しかし、霧の中でも熱によって正確に敵の位置を把握する邪霊は、ミノタウロスによる霧の中からの攻撃を回避すると、そのまま交戦に入った。
*****
「二人とも、そちらは頼みます」
ガレスとリリーを援護したい気持ちを抑えながら、上空のユーマに視線を向けたミーシャは、自身の契約精霊である天使、ミカエルを呼ぶ。
足場が崩壊していく中、主人の下へと参じたミカエルは、その翼でミーシャを覆うと、自身の身体を武装へと変化させる。
「霊装化か……」
クロムの霊術によって足場を破壊し、ガレス達を撤退させたユーマは、眼下で霊装化を行ったミーシャを確認する。
『グォオオッ!』
「チッ!」
ユーマの思考を遮る大音量の咆哮と共に、向かってきたサラマンダーが炎を帯びた鉤爪を突き立てようと迫る。
対するクロムは、その翼でサラマンダーの一撃を受け止めると、そのまま薙ぎ払うように振るう。
「くッ!」
クロムの力に押されてサラマンダーは僅かに体勢を崩し、乗っていたレイアも落下しないように背にしがみつく。
『ガァッ!』
クロムはその隙を逃さないと言わんばかりに、不気味な音を響かせながら瞬時にサラマンダーに肉薄すると、今度はお返しとばかりにその翼を鈍器のごとく振り下ろそうとする。
「させませんッ!」
しかし、そんなクロムの動きに合わせて、霊装を纏ったミーシャが槍の穂先を突き出し、霊術を放った。
『ッ!』
カウンターの要領で放たれた光線に対し、クロムは攻撃を中断すると、再び瞬間移動を行って上空に退避した。
「……フッ」
ユーマはサラマンダーの背に乗るレイアと、霊装を纏ったミーシャを見下ろすと、静かに笑みを浮かべる。
「何だか大精霊演武祭を思い出す顔ぶれだな」
「そうですね、ユーマ・シュレーフト」
バサリと翼を羽ばたかせるクロムとユーマを見上げながら、ミーシャは呟く。
「この戦いがあの時と同様に正式な試合ではないことが、残念で仕方ありません」
「ミーシャ様」
「…………」
どこか悲しみを帯びたミーシャのその言葉に、レイアは少し驚いた表情を浮かべ、ユーマは口を閉ざした。
そのまましばらく沈黙していたユーマは、静かに口を開いた。
「それはあり得ない話だな。俺が邪霊との契約者である限り」
「…………」
「俺達が異端として扱われる今の世界じゃな」
「……だから、こんなことをしているのですか? 今の世界を変えるために?」
ユーマの言葉からその目的を何となく察したレイアは、非難するような視線を向けながらそう尋ねる。
「……だったら、何だ?」
「こんなやり方、間違っていると思います」
レイアのその言葉に、ユーマは僅かに眉間に皺を寄せながら、「なら、どうすればいい?」と尋ねる。
「どうすればこの世界を変えられる? 偏見と差別を消すことができる?」
「それは……」
その問いに対してレイアは口を開くが、答えを出すことができず、そのまま口籠ってしまう。
ユーマはそんなレイアを嘲笑うように、「分からないなら、教えてやる」と自身の答えを口にする。
「一度、今の世界を壊すんだ」
「そこまでする必要があるのですか? もっと他に———」
「新しい何かを生み出すためには、既存の枠組みを破壊するしかないんだ」
やり方があまりに過激だと訴えるミーシャに、ユーマはそう答えながら光剣の切っ先を突き付ける。
「ですが、だとしても今、貴方が生み出そうとしている世界は本当に貴方の望む世界なのですか?」
「…………」
「貴方達が作り出そうとしている世界は、ただ混沌に満ちた世界なんじゃないのですか?」
「……かもしれない」
ミーシャの懸念を、ユーマは決して否定しなかった。
それはユーマ自身も抱いている懸念だった。
本当にこの行動が正しいのか? この行動の先に、自分が望んだ世界が本当に訪れるのか? 正直に言えば、疑念は抱いている。
「……それでも今のありのまま生きられない、息苦しいこの世界よりはマシだ。マシに決まっている」
『……』
その上でユーマはそう言い切ると、静かに剣先をミーシャ達に向ける。
「話はここまでだ。別にお前達のことは嫌いじゃないし、同じ精霊師としても敬意を払っている。だが、邪魔をするというのなら蹴散らす」
「……私も貴方のことは嫌いではありません。ですが、貴方達の行動が私達の国を危機に陥れる以上、容赦はしません」
ミーシャはそう呟きながら背の翼を広げ、霊装の穂先をユーマに向けると、その全身から戦意を滾らせる。
「私もヴァルハート家の精霊師として貴方を止めます」
『ガァアアアッ!』
ミーシャに続いて、その手に炎を纏わせたレイアの宣言と、サラマンダーの雄叫びが塔内に響き渡る。
「……そうか」
ユーマも話はこれで終わりだと言うようにそう呟くと、再び依代を開く。
すると、黒い輝きと共に依代の中から朱色の蝶のような姿をした邪霊達が無数に姿を現し、彼らを覆うように広がっていく。
「なら、消えろ」
「行きますよ」
「はいッ!」
彼らの言葉と共に、闇と光、そして炎が激しく衝突し、戦場を明るく照らした。