真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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更新が遅くなり申し訳ございません。


14話

 

 

「くそッ、力加減を知らないのかあの野郎!」

 

 

 暗闇の中を落下しながら俺は思わず毒()く。先程一撃喰らったことがよっぽど気に入らなかったのだろう。先程の一撃は俺を中心として範囲をある程度絞ることで霊術の威力を底上げしてきやがった。

 

 颶風剣を発動していたから良いものの、強化が無ければ下手するとガーディアンたち同様にペシャンコになってたかも知れない。マジで洒落にならない。

 

「っと、地面か」

 

 どれくらい落下し続けたのだろうか、ようやく地面が見えてきたので風で速度を軽減させながら着地した。とりあえず無事に地面に降り立つことはできたが相当な距離を落とされた。

 

 先程まで俺がいた場所は遥か上のようでどれだけ霊力で視力を強化しても見ることは叶わない。というか床の下にこんだけの空洞があるって一体どんな設計してんだこの建物は……。

 

「ってか、何だここ?」

 

 不気味というのが最初に抱いた感想だった。ポツンと奥に存在している石壇と黒い箱は何かを祀る祭壇だろうか、それだけで既に不気味だがより目線がいくのは周囲で淡い輝きを放つ幾何学模様が描かれた壁だった。恐らくは何かの術式なのだろうが幾何学模様には軽く見積もっても高位精霊十体分以上の霊力が流れていた。

 

 果たしてこの部屋がこの遺跡の中心部なのか、それとも別の用途なのかは知らないがあまり長居はしたく無い。明らかにヤバい匂いがする。

 

 

「とりあえず上に…………ッ!」

 

 

 風を纏ってさっさとこの場から離れようとした俺は上から猛スピードで落下してきている邪霊の気配を察知する。どうやら俺はあの邪霊の標的にされてしまったようだ。

 

 

「ふざけやがって…」

 

 

 颶風剣の発動時間もあまり長くは無い。とにかく早めに決着を付ける必要があるが、あの邪霊に短期決戦を仕掛けたとしても果たして勝てるのか……。

 

 

「いやまぁ、やるしかない訳だが…」

 

 

 俺は小さく息を吐くと今尚高密度の風を纏っている剣を掴み直す。同時に霊術で更に全身にも風を纏うと地面を強く踏み込み、暗闇の先にいるであろう邪霊を睨みつけながら思いっきり跳躍した。

 

 

 暗闇の中でも僅かに見える周囲の景色が移り変わっていく中で俺は剣を持つ手に力を込める。互いに相手へと向けて迫っていることもあり、邪霊との距離は猛スピードで縮まっている。

 

 そのまま数十秒もしない内に視界に上からこちらに向かって落下してくる邪霊の姿が視界に入る。邪霊の眼前にはサラマンダーの攻撃を防いだバリアのような障壁が展開されており、どうやら奴は俺をこのまま突進で突き飛ばすつもりのようだ。

 

 

 上等だ。寧ろこっちが弾き飛ばしてやる。

 

 

「しねぇえええッ!クソ魚ァァアアアッ!!!」

 

 

「ォォオオッ!!」

 

 

 俺は邪霊に通じていないであろう殺意マシマシの言葉を放ちながら剣を思いっきり振り被ると突進してくる邪霊の面目掛けて颶風剣を放った。

 

「うぉぉおおッ!!」

 

 剣に纏わせていた風が邪霊のバリアに阻まれて俺たちの周囲を荒れ狂う。サラマンダーの一撃を凌いだ時点で察していたがやはり硬い。腕に霊力を流しながら剣を押し込もうとするがまるで巨岩の如く硬く、全く押し込めない。

 

 それどころか、このバリアに剣を押し込もうとしても寧ろこちらの剣が僅かに押し返されている。恐らくは重力の向きと力を操ることで展開しているのだろうが予想以上に霊術の力が強い。

 

 

「くッ!」

 

 

 本当ならこのまま押し返したかったがやむを得ない。俺は僅かに腕の力を緩めると途端に押し込んでくる邪霊をそのまま身体をズラすと後方へと受け流す。 

 

 そのまま身体を回転させながら更にバリアの展開されていない無防備な背に向けて再び風の斬撃を放ってぶつけるが本体も硬いらしく、体勢こそ崩すことはできるがその身体が傷付く様子は無い。

 

 やはりあの邪霊にダメージを与えるには直接、颶風剣をぶつけるしか無さそうだが果たしてできるか。

 

 そんなことを考えていると周囲の壁が音を立てて割れ、四角形にくり抜かれた壁が俺に向かって襲い掛かってきた。

 

「くッ!!」

 

 高速で四方八方から迫ってくる壁の弾丸を俺は剣で斬り裂き、あるいは宙を霊術で飛び回ることで躱していく。攻撃自体を凌ぐことは難しくないが、霊力と時間を消費させられることが痛い。

 

 なら余力がある内にこの邪霊を無視して逃げればとも思うが、あの霊術の範囲と威力を考えるとすぐに捉えられるのがオチだろう。

 

 やはり逃げるにしても何かしらダメージを与える必要があるのだが、現状では手数が足りない。他のストックしている下位精霊を呼び出しても相手があれでは陽動すらまともにこなせず、秒で送還されるのは目に見えている。

 

 

 となると自然と方法は限られてくるのだが……。

 

 

「……あんまやりたくねぇな」

 

 真っ先に脳裏に浮かんだ作戦に俺は顔を顰める。多分、今数ある手段の中で一番確実な方法ではあると思うが実行した後が怖い。

 

 

「けど、他の手段だと————ガッ!?」

 

 流石に敵を前にして考えごとに没頭しすぎたようだ。背後から飛来してきた瓦礫に気付くのが遅れ、後頭部にクリーンヒットする。一瞬、衝撃で頭が真っ白になって動きが止まったところに更に追い討ちと言わんばかりに瓦礫の群れを放ってくる。

 

 

「うらぁッッ!!」

 

 

 俺は霊力を込めると勢いよく剣を横薙ぎに振るい、迫ってきた瓦礫を突風で文字通り吹き飛ばす。

 

 うん、懸念事項は幾つかあるがあまり躊躇っている余裕は無さそうだ。下手にこのまま戦い続けたら冗談抜きで死にかねない。

 

 まぁ、やれば怒られることもあるだろうが背に腹はかえられない。今まで同様に後のことは未来の自分に託すことにしよう。

 

 そう思いながら俺はポケットから一つの道具を取り出す。取り出したのは注射針の付いた試験管だった。中には紅く輝く液体が入っている。

 

 俺はそれを何の躊躇いもなく首元に突き刺した。チクッという鋭い痛みが首元に走るが気にせず俺は引き抜くと空になった試験管を放り投げる。

 

 

「ふぅ…」

 

 俺は消費した霊力が回復していくのを感じながら小さく息を吐く。突き刺した試験管に入っていたのは霊力強壮剤だ。しかも竜種の血を混ぜ込んだ希少価値の高いものである。 

 

 先程ガレスから貰ったもので恐らくはアイツ自身、魔剣を使用した際に消費した霊力を回復させる為に持って来ていたのだろうが助かった。

 

 お陰でこうして俺は万全の状態で邪霊に挑むことができる。

 

 

「しっかり頼むぞ、本当に」

 

 祈るように呟きながら俺が次に懐から取り出したのはエメラルド色に輝く封霊石だった。中に封印されているのは言わずもがな、俺の師匠が調教した風属性の高位精霊だ。

 

 どこか訝しげな様子で成り行きを見守っている邪霊に対して俺はニヤリと笑みを浮かべると見せ付けるように封霊石を掲げながら封印を解いた。

 

 

「来い、シグルムッ!!」 

 

 

 俺と邪霊の間に緑色の輝きが放たれ嵐の如く風が吹き荒れる。そこで静観していた邪霊が本能的に危険を察知したのか、再び周囲の壁を破壊して瓦礫を輝きに向かって高速で飛ばしてくるが、その尽くが眼前に展開された風の防壁によって左右に逸らされる。

 

 

「キィィィィイイイッ!!!」

 

 

 甲高い鳴き声を遺跡に響かせながら光の中から一対の巨大な翼が広がる。現れたのはどこか神々しさすら感じさせる緑色の羽毛を生やした鷹の姿を象る精霊。

 

 風精霊シグルム。俺たちをルナの遺跡まで運搬してくれた精霊を俺は改めて戦闘の為に呼び出した。

 

 

「悪いけど、もう一仕事頼む」

 

 

「ギィィイッ!!」

 

 

 俺はシグルムと簡易契約を結びながらその背に降り立つとポンポンと柔らかい天羽を撫でながら呟く。シグルムはそんな俺に仕方ねぇなと言わんばかりに鳴きながら全身に風を纏った。

 

 

 シグルムの鋭い瞳と邪霊のどこかつぶらな瞳が交差する。二体は対照的な瞳をしているがどちらもその瞳に溢れんばかりの敵意と戦意、そして殺気が込められていた。

 

 

「…………」

 

 

 刹那の静寂が場を包み込む。シグルムと邪霊は互いに睨み合う中で場の緊張感はどんどん高まっていき、数秒程かはたまた一分ほど過ぎたか時間感覚が麻痺した中で二体は吠えた。

 

 

「ギィィイイイッ!!」

 

 

「ォォォオオオオオオッ!!」

 

 

 

 シグルムは風を、邪霊は重力をその身に纏いながら相手に向かって突撃。二体の纏った霊力が衝突した。

 

 

 

 

 

 


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