真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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新年早々、周囲でコロナに罹った人が出たきたりと私の周りでは不穏な気配を放っていますが皆様も体調面にはお気をつけ下さい。

今回で一応、一区切りになります。


16話

 

「私、大きくなったらお兄ちゃんと結婚するッ!」

 

「お、本当か?嬉しいなぁ」

 

 幼い妹の告白に兄は本当に嬉しそうに笑いながらその小さな身体を抱き上げる。その身体は本当にしっかりと食事をしているのかと疑わしくなる程、軽かったが妹が毎日母親の料理を綺麗に平らげているのは確認している。

 

 何なら自分よりもご飯を食べているのでブクブク太りそうなものだが、妹は相変わらず人形のように可愛らしく小さい。一体、彼女の身体の中でどのように栄養が吸収されているのか不思議で仕方ない。

 

 

「おい、待ってくれレナ。この前は父さんと結婚してくれるって言ってくれたじゃないか」

 

「お父さん臭いからイヤ」

 

 

「ゴフォッ!?」

 

 

 娘からの辛辣過ぎる一言に父は思わず口から血を吹き出しながらその場に倒れ込む。どうやら今の一言は父にとっては会心の一撃だったらしく、父は倒れたままショックで痙攣している。

 

「レナ、臭いはやめよう。流石に可哀想だから」

 

「え〜、でも実際に臭いよ?」

 

「ぐふッ!」

 

 妹を宥めるつもりがトドメの一撃を出させてしまった。

 死体蹴りをされ、倒れていた父がショックで更に激しく痙攣する。既に父のライフはゼロなのでこれ以上の追い討ちは辞めてあげて欲しい。

 

「二人とも何やってるの。それにお父さんもそんなところで寝っ転がってないで。掃除の邪魔よ」

 

「お、俺の存在価値って……」

 

 奥からやってきた母はショックで動けなくなっている父をヒョイっと軽く掴み上げるとソファーに向かってぶん投げた。その扱いの雑さには流石の兄も息子として意見を言いたかったが、母に逆らう勇気が無い兄は思いを声に出すことはせず内心で父に対して同情するだけにした。

 

 

「ほら、貴方たちもさっさとそこを退きなさい。邪魔よ」

 

 

「分かった」

 

「はーい」

 

 この家でのカーストは母が頂点に立っている。少年と妹は母の言葉に逆らえる筈も無く、そそくさとその場から離れる。

 

 

「あ、お兄ちゃん。ちなみにいつ結婚してくれるの?」

 

 

「えっ?あ、うーん。いつだろうねぇ」

 

 少年は妹からの質問に困ったように笑う。

 本当は兄妹で結婚など不可能なのだがわざわざ今それを指摘する必要は無いだろう。大きくなれば自然と知識を身に付け、誰か好きな異性ができる筈だ。

 

 それにどうせ何れは自分も父と同じくクソ兄貴とかキモ兄貴とか呼ばれるようになるのだろうし、今ぐらいは好かれていたい。

 

 

「ねぇ、お父さんは?お父さんじゃダメなのか?」

 

 

「相変わらずレナはお兄ちゃんが好きね」

 

 

 父は切実な表情で妹へと向けて訴えるがガン無視され、その様子を見ながら部屋の掃除をしていた母は呆れたようにため息を漏らす。妹が兄によく甘えるのは元々だったが最近はよりその傾向が顕著だった。 

 

 まぁ、兄が何かと事あるごとに妹を甘やかしているので当たり前と言えば当たり前の結果なのかも知れない。

 

 

「じゃあ、約束!お兄ちゃん指切りしよッ!」

 

「はいはい」

 

 小指を出して指切りをせがんでくる妹に兄は苦笑を浮かべながら同じく小指を出して互いの指を絡ませる。

 

 

「はい、約束!嘘付いたらお兄ちゃん大っ嫌いになるからね!」

 

「それは嫌だなぁ」

 

 ニコニコと笑いながら話す妹の頭を撫でながら兄は微笑む。一体この妹はいつまでこの約束を覚えているのか、そして覚えていたとして黒歴史としてきっと恥ずかしく思うんだろうなぁと将来を考えて自然と口元が緩んだ。

 

 

「ほら、二人ともそこで遊んでいるだけなら掃除の手伝いをしなさい」

 

 

「えぇぇ!」

 

 

「…………」

 

 

「はい、手伝います」

 

 

 母の魔王の如き眼力に屈した妹はサッと立ち上がると素早く母の元へと向かう。俺はそんな妹に続くのだった。

 

 

*****

 

 

「…………んん」

 

 どうやら知らない内に眠ってしまっていたらしい。瞼を開けると視界に茜色に染まった空の下で大きく翼を広げてを飛ぶ赤い竜の姿が視界に入った。

 

「………ここは」

 

「起きた」

 

 倦怠感を覚えながらもゆっくりと身体を起こそうとすると視界の端から当然、ヌッとリリーが顔を出した。

  

 めっちゃビビった。

 

「身体は大丈夫?」

 

「あ、ああ。少し怠いけど問題無いよ」

 

「良かった」

 

 俺の返事にリリーは安心した様子で呟いた。表情にあまり変化は無いがどうやら心配してくれていたらしい。俺はリリーの手助けを得ながら身体を起こすと視線を周囲へと向ける。

 

 見たところ俺は大きな木製の船のような物の上に乗っていた。上を見れば船の両脇から屋根の骨組みのように伸びた木をサラマンダーが両腕で掴んで運んでいるようだった。

 

「おはようローク、ようやく目覚めたね」

 

 

「良かった!本当に心配したよ!」

 

 

 目を覚ました俺にガレスとセリアが近付いてくる。その制服を見れば俺の記憶よりも汚れており、恐らくは俺が意識を飛ばした後も遺跡で戦闘があったのだろう。

 

 

「俺、どれくらい寝てた?」

 

「一時間以上は寝てたと思うぞ」

 

「マジか…」

 

 どうやら俺は割と眠っていたようだ。まぁ、そりゃ俺の最後の記憶は遺跡内だったのに目覚めたら脱出してるしそれくらいは経過しているだろう。

 

 

「迷惑掛けたな」 

 

「別に問題ないよ。寧ろ君の方がお疲れ様だろう」

 

 俺の謝罪にガレスは気にした様子を見せずに寧ろ労いの言葉を掛けてくれた。後ろでリリーもガレスの言葉に無言でうんうんと頷いている。

 

「二人から聞いたよ。高位邪霊と一人で戦ったんだって」

 

「本当にすぐに助けに行かなくてごめんね。ガーディアンたちの処理に手間取っちゃって」

 

 

「最後に来てくれただけでも助かったよ。気にしないでくれ」

 

 

 セリアに限ってはすぐに援護に行けなかったことを申し訳無さそうに謝ってくれたが状況が状況だったのだ寧ろ最後に迎えに来てくれただけでも充分に救われた。

 

「にしても本当によく倒したね」

 

「アイツに関しては俺たちと戦う前からガーディアンと戦って霊力を消耗していたから迎撃できたんだ。本当にただの運だよ」

 

 実際振り返ってみるといくらシグルムとはいえ簡易契約で十全に力を振るえない状況であんな簡単に邪霊の防御を突破できるとは思えない。恐らく邪霊の方もあまり余裕が無かったのだろう。

 

 というか本当に事前に師匠から精霊を借りておいて良かった。マジでどうしようもなくなるところだった。

 

 お陰で命拾いした訳だけど。

 

 

「またまた〜そんな謙遜して」

 

「いや、謙遜じゃなくて本当に———」

 

「ローク先輩、目覚めたんですね」

 

 なんか変に持ち上げてくるセリアの誤解を解こうとしている途中でサラマンダーの背に乗っていたらしいレイアが上から降りてきて、俺の元へと駆け寄ってきた。

 

「……お怪我は大丈夫ですか?」

 

「ああ、大丈夫だよ」

 

「それなら、良かったです」

 

 その俺の返事に安心した様子でホッと息を吐くレイアに俺は僅かに困惑する。何だか気持ち俺に対しての雰囲気が柔らかくなったような気がするが…勘違いだろうか。

 

「………その、すみませんでした」

 

「へっ?」

 

 とレイアの雰囲気に困惑していると彼女はどこか歯切れの悪そうな様子で謝罪の言葉を漏らし、俺はその唐突な謝罪に思わず素っ頓狂な声を漏らしてしまった。

 

 いきなりどうしたんだ?

 

 

「今回、私は先輩方の足を引っ張ってばかりでした。特にローク先輩は私のせいで余計な危険に合わせてしまった上に助けに行くこともできず……」

 

「いや、別にそんなことは……」

 

 まぁ、確かに思うところが無いと言えば嘘になるが彼女は古代遺跡の探索なんて初めてだろうし仕方ないと言えば仕方ないだろう。

 

 そもそもメンバー全体が久しぶりの古代遺跡の探索ということで浮き足立って空気が弛緩してたし、今更ながら振り返ると彼女一人というよりも全体的に悪かった。

 

 加えて邪霊の一件に関してもアレは俺が下手に攻撃をしたせいでヘイトを向けられて集中的に攻撃を浴びただけであり彼女にそれほど非があるとは思えなかった。

 

 

「ヴァルハート家の人間として誰よりも先頭に立って戦うべき人間の筈が……邪霊にまともな抵抗をすることもできず……先輩に助けられました」

 

 

「…………」

 

 

 確かにダメージこそ与えられていないが、それでもレイアがサラマンダーでしっかり一撃入れていたと思うが……下手に口を挟むのは憚られたので俺は静かに聴きに徹することにした。

 

「改めて今までの先輩に対しての不躾な態度を謝罪させて下さい。本当に…申し訳ございませんでした」

 

 

「……………」

 

 

 そう言ってその頭を下げるレイアに今度こそ俺は言葉を失う。彼女のような名門貴族の人間がいくら先輩とは言え俺のような平民に頭を下げるという事実に驚きを隠せなかった。

 

 特に彼女は自身の家柄に誇りを持っていた上に契約精霊を呼ばない俺のことを嫌っていた筈なのだが、今回の一件で俺のことを見直してくれたのだろうか。

 

 

「あ、けどそれはそれとして契約精霊を呼ばないのはやはり失礼に当たるので良くないと思います。何か事情があるのでしょうがしっかり呼ぶことをオススメします」

 

 

「ハハハ…ソダネ」

 

 思わず感動していたのも束の間、最後にレイアからジト目で睨まれながらそう指摘された俺は乾いた笑いを浮かべる。

 

「それは確かにレイアちゃんの言う通りだね。私もロークくんの契約精霊見たいなぁ〜」

 

「私も気になる」

 

「ハハハ、疲れてるしその話はまた今度、な?」

 

 水を得た魚の如く俺の契約精霊を知ろうと迫ってくるセリアとリリーの二人に俺は誤魔化すように笑いながら後退る。けれどもすぐに背後の壁にぶつかり逃げ場を失いドッと冷や汗が流れる。

 

「ほらほら、契約精霊を呼べ〜ッ!」

 

「呼べー」

 

「だーッ!やめてッ!許して!!」

 

 

 学院都市へと向かう茜空の下、赤竜が運ぶ船上の上で俺の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

*****

 

 

「それで、目的は果たせたのかい?」

 

 

「………うーん」

 

 

 ロークをある程度弄り終えて満足したのか、壁に背を預けて休んでいるセリアの横に腰を下ろしたガレスはそう問いかけた。

 

 セリアは少し言葉を濁しながら視線をついさっきまで弄っていたたロークへと視線を向ける。自分はもう離れたがロークは未だリリーに拘束されており、それを見兼ねたレイアがロークを助けようとして3人で揉みくちゃし合っていた。

 

 

「残念ながら果たせなかったかなぁ」

 

「と言うと?」

 

「とうとうロークくん、邪霊との戦闘でも契約精霊を呼び出さなかったよ」

 

 

 セリアはそう言うと目を細めるとどこか冷めた感情でロークを見つめる。

 

 今回の古代遺跡探索の中でセリアが抱いていた密かな目的の一つ、それがロークの契約精霊を暴くことだった。残念ながら目的を果たすことはできなかったが。

 

 

「……………」

 

 

「邪霊が来たときは正直チャンスだと思ったんだけどなぁ」

 

 

 今回の探索ではガレスの協力も得て敢えてロークの負担を増やして契約精霊を使わせることを画策していたが、結局最後までその目的が叶うことは無かった。特にセリア自身にとってもイレギュラーであった邪霊の介入の際に彼を助けるフリをして彼の身体に胞子を付けて戦闘を確認していたが、邪霊も最後は師匠から借りたという高位精霊を簡易契約で従えると言う力技で無理矢理突破していた。

 

 アレには本当に驚かされた。あの危機的状況ならば流石に契約精霊を呼び出すと思っだ、あの状況でもあくまで契約精霊を呼ばないと言うスタンスを貫くロークはハッキリ言って異様だ。

 

 

「だから言ったろ。無駄だって」

 

 

「……何だか腹立つ言い方ね」

 

 

 ガレスの指摘にセリアは少し不機嫌そうな様子で呟く。何とかガレスに協力を取り付けたは良いが、彼は終始この結果が無意味に終わることを理解していたような言動をしていた。それが納得いかなかった。

 

 

「貴方は興味ないの?ロークの契約精霊を?」

 

「逆に尋ねるけど、君はどうしてそこまでロークの契約精霊に興味を持つ?」

 

「だって不気味でしょ。契約精霊を使役せずに戦う精霊師…正直、ミーシャ様を相手にするよりも怖いわ」

 

 無論、天使を使役するミーシャの実力は言わずもがな。一年時に何度か戦ったが正直、勝てるビジョンがまるで見えない程に強かった。ただ、それでも彼女が何となくどれくらい上にいるのか、立っている位置は分かった。

 

 けれどローク・アレアス。彼は例外だ。

 彼に関しては本当に底が見えない。一年の最初は目立った実績は無かったがある時期を境に学位戦でその実力を轟かせた。それも契約精霊を呼ばずに。

 

 本人はずっと本気で戦っていると言っているが契約精霊を呼ばずにどの口がほざいているのか。明らかに余力を残している。

 

「今年は学位戦だけじゃなく、大精霊演舞祭も控えてるからできるだけ今の内に彼の実力は知りたかったんだけど……」

 

 結果はご覧の通りだ。まだまだ彼については色々調べる必要がありそうだ。

 

 

「大精霊演舞祭……か」

 

「ガレスくんも気になるんでしょ?だから今回、私に協力してくれたんじゃないの?」

 

「今回、君の提案に乗ったのは調べること自体が無駄だと教える為だよ」

 

 そもそも彼に契約精霊はいないのだから、調べようとしたって何も得ることができないのは当たり前だ。

 

 それに————。

 

 

「そもそも契約精霊云々の前に契約精霊を呼ばないロークに僕らは学年順位で負けてるんだ。探る前に今の彼に確実に勝てるような実力を付けるのが先じゃないかい?」

 

「…………」

 

 

 そのガレスの指摘に押し黙ったセリアは暫くして小さく息を吐くと頷いた。

 

「確かにその通りね。契約精霊を知れたとしても結局勝てなきゃ意味無いし、優先順位は間違えないようにしなきゃね。尤も——」

 

 

「おい、離せぇえええッ!服を脱がそうとするなぁッ!!」 

 

「精霊紋どこ?」

 

「り、リリー先輩、ダメです!それはまずいですッ!!」

 

 服に手を掛け始めたリリーと必死に抵抗するロークの姿を視界に納めながらセリアは口元に弧を描く。

 

 

「今の彼になら負けるつもりは無いけどね」

 

「…………」

 

 そんなセリアの勝ち気な横顔を眺めていたガレスはやがて壁に背を預けるとロークは大変そうだなと他人事のように思いながら目を瞑り、睡眠に入るのだった。

 


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