真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第17話

 

 

 ハプニングこそ色々あったが無事に遺跡調査を終えて単位を獲得することができた俺は今日も今日とて講義を受ける為に学院へと足を運んでいた。

 

 

「やぁ、ローク」

 

「うす」

 

 講義が行われる教室へと続く廊下を歩いている途中、前方から講義終わりと思わしき様子のガレスと遭遇した。

 

「この後講義か?」

 

「ああ、邪霊学取ってるからな」

 

「ああ、あれか。僕も取りたかったけど他の講義と被って取れなかったよ」

 

「俺も興味あるから取ったけど結構テスト難しいらしいぞ。毎回、半数が単位を落とすらしい」

 

「なら後期で受講するからテスト問題回収できたら頼むよ」

 

「見返り次第だな」

 

 学院において学生どうしのこういったテストやその答案などの取引は割と日常茶飯事である。というのも当然ながら学院での成績は卒業後の進路にもろ影響する。良い成績を残せばそれだけ良い進路先、選択肢の幅が広げられるし悪い成績ならそれだけ進路先の質も選択肢も狭められる。

 

 故に既に進路が決まっているような大貴族を除けば基本的に皆、少しでも良い成績を取る為に協力する。加えて言えば学院は様々な家柄の人間がやって来る為、こういった取引を通じて人脈を形成をすることもできる。

 

 つまりはこういった裏取引も学生にとっては大切なコミュニケーションという訳である。

 

「なら君が欲しがってたアーサー伝記でどうだい?ちょうど、少し前に古本屋で売られてたのを見つけてね。僕はもう読んだからあげるよ」

 

「もう全身全霊でお渡しさせて頂きます、ガレス様」

 

 本当にこういうことがあるから取引はやめられない。アーサー伝記は少し前に発売された英雄と呼ばれた精霊師アーサーの活躍を描いた小説だ。人気過ぎてどこの書店を探しても見当たらない品薄商品で今となっては買おうとするとアホみたいに価格が上がっていて手が出せなかったのだが、マジで有難い。

 

「ではよろしく。にしても今期の講義はテスト系が多くて本当に参るよ」 

 

「レポートの嵐よりはマシだろ」

 

「そうかい?あんなの内容を適当に纏めて提出すれば終わりじゃないか」

 

「その適当が上手くできないんだよ。しかも高評価を得るための纏め方よくわからないし」

 

 時間を掛けて良い出来だと思って出したら思ったより高くないし逆に時間が無いからと少し雑に纏めたものを提出したら何故か最高評価を貰えたりする。頼むから評価基準を教えて欲しい。

 

「君は全力か頑張らないかの極端な二択しかないからね。適度に力を抜く方法を覚えた方がいい」

 

「地力が良い奴は難しいことを言うな」

 

 こちとらスタートが普通以下なのだ。今の地位をキープする為には基本的に努力を怠ることは許されない。と言うか怠った瞬間に化けの皮が剥がれて何もかもを失うだろう。

 

「何も難しいことは言ってないよ。僕が言いたいのは————」

 

「言いたいのは何だよ?何を見てるんだ?」

 

 途中で言葉を止めたガレスの視線を俺も追うとそこには廊下に設置された掲示板を眺める学生たちの人集りがあった。

 

 何をそんなに集まっているんだと思いながら目を細めて掲示板の内容を確認するとどうやら学位戦についての案内のようだった。

 

「もうそんな時期か…」 

 

 また嫌な時期がやって来た。成績の為とは言え他の学生たちと試合をしなければいけないのは骨が折れる。

 

「今期は君と当たるかな?」

 

「マジで勘弁してくれ。俺はお前と戦いたくない」

 

 俺の事情を知っている相手との戦いなど俺にとっては絶望に等しい。なのに俺の記憶が確かなら今のガレスの学年順位は十位、普通に戦う可能性がある。

 

 いや、というかガレスに限らず十位以内の奴らとは基本的に戦いたくない。何故かは知らないが俺たちの代はお姫様を始めとして優秀な学生が多く、どいつもこいつも現役の精霊師顔負けの実力者ばかりなのだ。

  

 更に四位以内となると予め白旗を準備して挑む必要がある。アイツらとの試合は運が悪いと何もできずに負けるし運が良くても普通に負ける、準備しても負ける。基本的に敗北しかない。

 

 いや、お前も四位以内だろと思ったそこの君、それにも浅い訳がある。

 

 そもそも俺は一位の姫様を除いて戦ってない。いや、厳密には現三位とは記録上では一度戦ったがそれも不戦勝というまさかの相手のすっぽかしでの勝利だ。

 

 つまり俺は運で実力以上の地位を手に入れてしまったということである。本当どうすりゃ良いんだろうな?

 

「ここらだと見えないね」

 

「だな、近付くか」

 

 何はともあれ今大事なのは学位戦の相手だ。相手によっては今すぐ対策を練らなくてはならない。

 

 そう思いながら俺たちが掲示板へと近付くと途端に集まっていた人集りが左右に引いていく。

 

「おい、あれアレアス先輩とオーロット先輩じゃないか?」

 

「アレが噂に聞く二年生の高順位者の二人ね」

 

「しかもアレアス先輩には限っては未だに契約精霊呼ばずに学年二位だろ。何者なんだよ?」

 

 契約精霊すらいない雑魚です。どうか後輩たちよ、俺のような奴のことなど無視して下さい。そんなわざわざ退いて貰うほど大層な人間じゃないんです、本当に。

 

 

「僕は一戦目からか。課題も控えてるのに嫌だな」

 

 苦々しく呟くガレスの横で俺は血眼になって自身の名前を探す。学位戦は長期間に渡って行われる為、掲示板に張り出されるのは1日3試合で直近5日間分の計15試合分の試合が掲示される。

 

「俺は……げっ、5試合目にある…しかも相手オーフェリアじゃん……」

 

 俺は上から表示される名前を一つ一つ読んでいくと第5試合目に自身の名前が名前が載っているのを確認して深いため息を漏らす。加えて相手は学年十二位のオーフェリア・リングラードという高順位者である。ストレスでゲボ吐きそう。

 

「おい、アレアス先輩。対戦相手を見てため息を漏らしてるぞ」

 

「噂では常に自身が本気で戦うに値する敵を求めてるそうだけど、オーフェリア先輩では役者不足ということなのかしら?」

 

「ミーシャ様を相手にさえ契約精霊呼ばなかったんだろ?誰が相手なら本気で戦うんだよ」

 

 マジでこの意味不明な噂流してる奴は誰だ?俺の学院生活のハードルが秒単位でどんどん上昇していくんだが、どうしてくれる?

 

 

「ローク、顔色が悪いよ」

 

「気にするな。いつものことだ」

 

「それもそれでどうかと思うけど……時間も時間だし僕はもう行くよ。また後で」

 

「ああ、またな」

 

 

 ふと腕時計に視線を落とすと講義が始まるまで後数分程しか無い。俺は駆け足気味に廊下を歩いて教室へと向かった。

 

 

*****

 

「ギリギリ過ぎたか」

 

 駆け足気味に教室へと入ると時間ギリギリということもあって席が殆ど埋まっており、残っている席は最前列しか無かった。

 

 流石に最前列は嫌だなぁと思いながらも席に座ろうとすると喧騒の中「ローク、こっち」と俺の名を呼ぶ声が聞こえた。声の方へと視線を向けると手を振りながら俺の名を呼ぶリリーの姿があった。

 

「場所、取っておいた」

 

「おお、リリー助かったぞ!ありがとう」

 

「フフ」

 

 そうだ、この講義はリリーも取っているんだった。そのことをすっかり忘れていた俺はドヤ顔を浮かべるリリーに感謝を述べながら比較的後方にあるリリーの隣の席へと腰を下ろす。

 

 暫くして黒縁眼鏡を掛けた邪霊学の講師であるアルベルト先生が教室へと入ってきて壇上に立つと同時に講義の開始を告げるチャイムが教室に鳴り響いた。

 

「さて、今日も講義を始めていく訳だけど前回は私の事情で休講にしてしまったからね、まずは復習から始めようか。君たち、そもそも邪霊とは何なのかしっかり理解できているかな?」

 

 そう言ってアルベルト先生は眼鏡を掛け直しながら生徒たちへと尋ねるとその反応はまちまちだった。自信があるのか何度も頷く生徒もいれば首を横に振って知らないアピールをする生徒もいる。

 

 ちなみに俺とリリーは無反応である。知っているが下手に反応して注目を浴びたくないので腕を組んで無反応を貫く。

 

「ふむ、何だかあんまり自信無い人もいるみたいだけど……それじゃ正解といこう。邪霊とは通称で本来は闇精霊と呼ばれている精霊たちの一種に含まれるんだ」

 

 言いながらアルベルト先生はチョークを手に取ると黒板に文字を書いていき、説明を続けていく。

 

「すると自然とこんな疑問を抱く人もいると思う人も出てくるんじゃないかな?何故、闇精霊はそのまま闇精霊と呼ばずに邪霊なんて通称がついているのか」

 

 

「知ってる?」

 

「一応。と言っても幾つか説があるけど」

 

 

 そこまでは流石に知らず俺が隣に座るリリーに尋ねると流石は天才と言うべきか彼女はこくりと頷いた。

 

「少なくとも百年前から邪霊と呼ばれていて、理由は幾つかあるけど尤も有力なのは邪霊の在り方、そのものが大きな原因だと呼ばれている」

 

 言いながら先生は幾つかの説の説明を板書していくと一度、最後の説を大きな円で囲って手を止める。

 

「積極的に人類や他の精霊を襲う。そして何より契約を結ぼうとした相手の精神を破壊する点だね」

 

「精神を破壊する……ですか?」

 

 言っている意味が分からないとばかりに生徒が首を傾げながら呟くと「その通り」とアルベルト先生は頷いた。

 

「今まで多くの精霊師が邪霊を契約精霊として使役させようとしたが、その誰もが契約を結んだ瞬間に気が触れたかのように奇声を上げて壊れた。ほぼ全ての精霊師がだ」

 

「…………」

 

 その説明に多くの生徒が怯えた表情を浮かべる。

 そりゃ、そうだ。契約した瞬間に発狂させられるって怖いったらありゃしない。

 

「彼らが狂った原因は明確には分からない。けれど邪霊はそもそも闇属性という悪魔に近い性質を持つ精霊だからね、契約をする際に何が起きていてもおかしくない」

 

「…………」

 

 ————やっぱ邪霊って怖いんだなぁ。

 

 今更ながら俺は邪霊の危なさを改めて実感する。相手にすれば積極的にこっちを襲ってくるし、契約しようとすると発狂させられてしまう。今のところ邪霊の良いところが何も無いぞ。

 

「ちなみに例外として邪霊と契約できた精霊師が歴史上、一人だけいる。今から三百年ほど前、計七十二体にも及ぶ邪霊と契約した精霊師イーヴァン・クルーガだ」

 

 

 イーヴァン・クルーガ。その精霊師の話はアーサー伝記にも出てくる程に有名だ。この学院の生徒だけでは無く、この世界の歴史を知っている人間ならば誰であろうと一度は聞いたことのある名の一人だろう。

 

 

「後に邪霊戦役と呼ばれる戦争を起こした彼は契約した邪霊たちを率いて各国の精霊師たちによって結成された精霊師連合と当時の地図を書き換える程の激しい戦闘の末に死亡。同時に彼の契約していた邪霊たちもその殆どが送還された」

 

 七十二の精霊との契約。聞くだけでも化物としか言いようのない精霊師だ。多くの精霊師にとって契約を結べる精霊は一体、もしくは多くても三体までと言われている。というのも精霊契約は精霊との魂を繋ぐ契約である為、一体なら問題無いが複数体との契約となると魂に相応の負担が掛かるらしい。俺は一度も契約したこと無いから知らんけど。

 

 

「ちなみにこの時に送還させることができず、封印という形で処理された四体の最上位の邪霊は四凶と呼ばれてる邪霊の中でも特に危険と呼ばれているんだけど、知っている人はいるかな?」

 

 アルベルト先生の問いに生徒たちは自信無さげな様子を見せる者が多く、その様子を見た先生は苦笑を浮かべる。

 

 

「そしたらみんなには次回までに四凶についてレポートを出して貰おうかな。四体分はやらなくて良いから自分が気になった四凶の内の一体について調べてレポートを出すように。よろしくね」

 

「げっ」

 

 近々、学位戦も控えているというのにレポート課題を出されてしまった。バイトもあるのに過労で死ぬぞ。

 

「何について書く?」

 

「どうすっかな。とりあえず比較的文献があるヤツかな」

 

 四凶といえば闇冥龍、魔龍、羅刹鬼士、堕天使の四体がいた筈だ。確か堕天使に関してはとにかく文献が少なくレポートに纏めるとなると面倒だろう。調べるとすれば残りの三体の内のどれかだろう。 

 

 正直面倒臭いが丁度、邪霊について調べたいと思っていたし良い機会だろう。学位戦もあるし、今の内にさっさと調べて纏めておこう。  

 

 とそんなことを考えていると講義の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、アルベルト先生が「課題忘れないようにね」と一言だけ述べると駆け足気味に教室から出て行った。

 

「ローク、お腹空いた。学食行こう」

 

「はいはい、まだ写し終わってないから待ってね」

 

 俺はリリーに急かされながら黒板に書かれている内容をノートに写し終えると教室を出て食堂へと向かった。

 

 


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