真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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読者の皆様、いつも感想ありがとうございます。
作者のミスで26話の時点で大精霊演舞祭の戦績で時間軸の矛盾が生じた為、20話の方の話を一部修正しております。
大変失礼致しました。

拙い部分も多いと思いますが、これからも本作をよろしくお願い致します。


第27話

 

「どうぞ、そちらに腰掛けて下さい」

 

「失礼します」

 

 生徒会室に入り、俺はミーシャに言われるがままに来客用のソファへと腰掛ける。何やらミーシャが奥でカチャカチャと何かをいじっているので手隙になった俺は周囲をぐるりと見回してみる。

 

 美術のことは分からないが壁や棚には見るからに高級そうな調度品が置かれ、他にも大精霊演舞祭のものか賞状や優勝トロフィーらしきものが景観を損なわないように綺麗に飾られていた。

 

 というかよく考えたらこの状況、密室でミーシャと二人きりじゃね?

 

 密室で美少女、しかも一国の王女と二人きりというシチュエーションに今更ながら気付いた俺の中の緊張感が一気に増す。

 

「こちら、どうぞ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 ミーシャが戻って来ると自身と俺の分の紅茶を用意して差し出して対面の席へと腰を掛けた。俺は緊張で若干硬くなりながら感謝を述べるとそんなガチガチの俺の様子を見たミーシャが可笑しなものを見たと言わんばかりに相好を崩して笑った。

 

「フフッ、どうかしましたか?普段通りで大丈夫ですよ」

 

「いや、ハハハ…そうですね」

 

 あれ、俺いつもどんな感じでミーシャと接してたっけ?

 

 緊張がピークに達して脳がバグった俺は普段の言動を一時的に忘れてしまう。というか一国の王女が密室で男と二人きりになって良いんですか?いや、けどよくよく考えればミーシャの実力なら仮に不貞を働こうものならこの世とお別れするだけだが。

 

 俺の頭はプチパニック状態に陥っていた。

 

「……やはり先程から思っていましたが、体調が悪いのですか?」

 

「いえいえ、国民として敬意を払っている姿勢をアピールしようかと」

 

「とても今更な気がしますが……」

 

 若干呆れの混じった視線をミーシャから向けられているが、とりあえず内心の動揺は無事に隠し切れているようだ。

 

「そう言えば月影さんと何かお話をされてたみたいですが、何の話をしていたんですか?」

 

「ああ、アレは……うん、何だったんだろうな」

 

「何やら大変なことがあったみたいですね」

 

「まぁ……いや、寧ろこれから起きそうというか」

 

「……?」

 

 遠い目をしながらブツブツと語る俺に事情を知らないミーシャは不思議そうな表情を浮かべながら手元のカップを手に取って傾けた。

 

「というかあの子、マジで何者なんだ?学位戦の動きを見る限り只者じゃないよな?」 

 

「彼女は推薦を受けて学院に入学しています。加えて一応受けて頂いた入試試験は実技だけで言えば、首席のヴァルハートさんを抑えてトップの成績で通過してますね」

 

「マジか…」

 

 レイアは一年生の中でも群を抜いた実力の持ち主だが、まさか実技においてそれ以上の成績を収めているとは…。

 

 しかし推薦を受けているということはやはり彼女もどこか良いところのお嬢様なのだろうか?東方はあまり情報が流れて来ない為、詳しいことは知らないが

 

 燈の話題のお陰で元の調子に戻り始めてきた俺は彼女の実力に戦慄しながらミーシャが淹れてくれた紅茶を頂く。うん、紅茶には疎いので良し悪しに関してはよく分からないが、少なくともこの紅茶は美味しい。

 

「如何ですか?」

 

「美味しいよ」

 

「それは何よりです」

 

 素直な感想を述べるとミーシャは嬉しそうに微笑みながらカップを再び傾ける。そのまま暫しの間、互いに紅茶を無言で味わっていたがカップを置いたミーシャが表情を真面目なものへと変えて会話を再開した。

 

「では改めて今回、貴方を呼んだ本題を話しましょう」

 

「大精霊演舞祭についてか?」

 

「分かっているなら話は早いですね」

 

 予測通りと言うべきか、今回の話は大やはり精霊演舞祭についでだった。

 

「貴方にも大精霊演舞祭に出て頂きたいと思っています」

 

「ちなみに拒否権は?」

 

「無いですね」

 

 だろうな。知ってた。

 

「何でだ?ロクスレイ委員長とトラルウスが出れば充分じゃないか」

 

「………貴方たちは示し合わせたように同じ解答をしてきますね?」

 

「…同じ解答?」

 

 とても引っ掛かる言葉が耳に入り、思わずオウム返しで尋ねてしまう。一体どういうことだ?

 

「二人も貴方と同じように大精霊演舞祭への出場を拒否して自分以外の二人に任せれば良いと話していたんです」

 

「えっ、アイツら出ないつもりなの?」

 

「はい」

 

 いやいや、あんだけの実力が持っていながら出場しないとか一体何を考えてるんだ?普通に考えておかしいだろ…。

 

「…………」

 

 とそんなことを思ったが、側から見たら俺も同じ風に見られてるんだろうなと思うと声に出して文句を言うことは出来ない。何ならアンケートの理由だけ考えると俺が一番クソみたいな理由をしているかも知れない。

 

「ちなみに二人が辞退した理由は?」

 

「ロクスレイ・ウオーバルトは風紀委員の仕事が忙しいとのことで、ケイ・トラルウスはそもそも興味が無いらしいです」

 

「………俺が言えた義理じゃないけど、二人とも酷い理由だな」

 

 俺もクソだが二人も予想以上におかしな理由だった。

 二人とも大精霊演舞祭に対してのやる気無さ過ぎない?特にトラルウスに関しては興味が無いって君、最高峰の舞台を前にして何言ってるの?

 

「本当ですよ、貴方も自信が無いは無いでしょう。仮にも次席を維持している学生が言う理由じゃありませんよ」

 

「いや、まぁ…確かに」

 

 考えてみれば煽りにしか見えない理由だ。逆の立場でこんな理由で出たくないってほざかれたら普通にキレている自信がある。事実とは言え、もっとそれらしい理由をしっかり考えておくんだった。

 

「というか、つまり今までの二人の呼び出しって」

 

「お察しの通り説得ですよ。大精霊演舞祭に出場して貰えるように貴方と同じく面談をしたんです」

 

「なるほど…」

 

 ため息を漏らしながら話すミーシャに俺はその苦労を察して内心で同情した。あの癖の強い二人を相手に説得って相当大変な気がする。片や話は聞くが無視する男、片や話を聞かない上にそもそも話しても通じない男、こう考えると才能がある奴らは性格が尖っている気がする。

 

「それは…お疲れ様です」

 

「そう思ってくれるなら是非、大精霊演舞祭に参加して下さい」

 

「いや、それはちょっと……」

 

「先日の学位戦も見学させて頂きましたが、契約精霊も呼ばずにあれほどの戦いができたのです。本気の貴方の実力であれば間違いなく大精霊演舞祭においても通用するでしょう。何を躊躇うのですか?」

 

 ミーシャはそう言って不思議そうに尋ねてくるが、その言葉はそもそもアレが俺の本気だと言うことを知らないから言えるのだ。恐らくその事実をハッキリとこの場で伝えることができれば一瞬で物事を解決することができるのだが、チキンな俺はその言葉を声に出す勇気が湧かなかった。

 

「それほどまでに自らに自信が持てませんか?」

 

「………いや、まぁ」

 

 一向に何も答えず沈黙する俺にミーシャは痺れを切らした様子で尋ねてくる。そりゃ、契約精霊いないからね、大精霊演舞祭への出場は不安しかない。

 

「………前々から思っていましたが、貴方のその自信の無さは一体どこから来るのですか?」

 

「えっ?」

 

「誇張でも無くしっかりとした実力を持ち、その力を周囲からも 認められている。勉学においても特に問題は見られる訳でも無い。何故ですか?」

 

「…………」

 

 その答えは精霊と契約できてない、その一言に尽きるだろう。

 結局のところ簡易契約や剣術、霊術を極めようとも、どれだけ良い成績を残そうが精霊と契約できてないという事実は変わりようが無い。

 精霊師として誰もが当たり前に結んでいる精霊との絆を結ぶことができない、その事実がどうしようもなく精霊師としての俺自身を否定している。

 

 ———やっぱり今、全部話すか。

 

 都合が良いか悪いか、ここには俺と生徒会長であるミーシャしかいない。恐らくは契約精霊がいないことを説明すれば大精霊演舞祭に出ないことも納得して貰えるだろうし、仮にそれで精霊師としての資格が無いとして退学させられるのならそれもそれで仕方が無い気がしてきた。

 

 ———よし、話そう。

 

 若干、投げやり気味ではあるが話す気が湧いている内にさっさと話してしまおう。

 

「…………ミーシャ、実は———」

 

「会長、大変ですッ!」

 

 そう思って口を開こうとしたところでバンッと荒々しく扉が開き、生徒会役員の男子学生が非常に焦った表情を浮かべながら生徒会室へと入ってきた。

 

 タイミングが悪過ぎる。完全に出鼻を挫かれた。

 

「マリス、今はローク・アレアス面談中と伝えたはずですが?」

 

「も、申し訳ございません。ですが急を要する案件で」

 

 申し訳なさそうにしながらも現れた生徒会役役員、マリスは焦燥に塗れた表情でミーシャへと訴え掛ける。その尋常じゃない様子に異変を感じ取ったミーシャが視線で確認を取ってきた為、仕方ないと俺が頷くと彼女はマリスへ先を促した。

 

「………それで急を要する案件とは?」

 

「そ、それが学院内に賊が侵入しました!」

 

「……賊が侵入…ですか」

 

「なんだ、そんなことか…」

 

 尋常じゃない様子だったのでどんな内容かと思えば思っていたよりも軽い内容だった為、俺は静かに息を履いた。

 

 ユートレア学院にはその歴史の長さもあって、多くの貴重な歴史的資料や遺産を内部に保管しており、それを狙って学院内に侵入しようとする命知らずが年に数人ほど現れる。

 ただ基本的には学院内に張り巡らされている精霊による監視によって一瞬で捕捉され、警備を担当している風紀委員たちに見るも無惨なほどにフルボッコにされるのがオチなのだが…。

 

 というかまだ見習いの段階とはいえ、こんな精霊師の巣窟に侵入してくるとは中々の度胸を持っていると俺は思う。何なら今は風紀委員長がロクスレイな為、捕捉されたら一瞬で潰されそうなものだが果たして賊は無事なのだろうか?

 

「賊は今どちらに?」

 

「それが今、校門前の広場で風紀委員会が戦闘を行なっていますがまるで歯が立たず、生徒会長に助けて頂きたく参りました」

 

「……風紀委員が押されてるのか?」

 

 まさかの報告内容に俺は思わず耳を疑いながら聞き返してしまう。風紀委員は学院内の秩序を守る為の警察機構的な役割もあり、所属している生徒は武闘派の実力者が多い筈だが……その彼らがやられているというのだろうか?

 

「ロクスレイ委員長は?」

 

「それがロクスレイ委員長は現在、依頼で学院外に出ていて連絡が取れない状況です」

 

 丁度、風紀委員会の最高戦力であるロクスレイ委員長が抜けてるタイミングでの侵入、加えて放課後で学生たちの多くが帰宅したり部活に意識を向けているこの時間帯から考えるに計画的な犯行の可能性が浮上してきたか…。

 

「なるほど、分かりました。では私が出ましょう」

 

「ミーシャ、俺も行くよ。何だか危なそうだしな」

 

「助かります、面談に関してはまた今度にしましょう」

 

「…………そうだな」

 

 正直、面談はもう良いかなと内心で思いながらも俺が頷くとミーシャは「案内をお願いします」とマリスに先導を頼みながら歩き出す。

 

 俺もいっそこのゴタゴタに乗じて面倒なことが全部流れないかなと淡い期待を抱きながらミーシャたちの後に続いて生徒会室を後にした。

 

 

 


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