真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第29話

 

「怪我は大丈夫か?」

 

「はい、私は大丈夫です。ご心配して頂きありがとうございます…」

 

 負傷した風紀委員たちを保健室へと運び、残っていたミネア委員長たち医療委員会のメンバーに治療を任せた俺は治療を終えてベッドに腰掛けているレイアの様子を見に来ていた。

 

 俺とミーシャが到着するまで負傷者を庇いながら戦っていたレイアは重傷とまではいかないまでも浅くない傷を負っていた筈だが、既に問題なく動ける程度には復活しているようだ。

  

 流石はミネア委員長。

 

「……先輩、逃げたあの精霊師は?」

 

「ああ、心配しなくても先生方が捕まえてくれるさ」

 

「…そう…ですか…」

 

 俺は安心させるように軽い口調で言うが、レイアの表情は浮かないままで声にも普段のような覇気が感じられない。

 

「……どうした?やっぱりまだ傷が痛むか?」

 

 元気の無いレイアの様子にもしかしやっぱり傷が痛むのだろうかと思いながら尋ねると数秒程、黙り込んだ後に「先輩」とギリギリ聞き取れるぐらいの小さな声を漏らした。

 

「…………私って…弱いですか?」

 

「……いきなりどうした?」

 

 サラマンダーと契約できているレイアが弱い訳が無い。何なら純粋な火力勝負になれば一年でありながら学院内でも五本の指には入りそうなほどのスペックの持ち主だと思うが……。

 

「……先輩との新入生歓迎戦、先輩は最後まで契約精霊すら出さずに私を倒しました………そして、今回は学院への侵入者を前にして倒すこともできず………私一人では学院の仲間を守り切ることもできませんでした……」

 

「……いや、それは———」

 

「お父様から立派な精霊師になるようにって送り出して貰ったのに……こんなんじゃ……私は……」

 

「…………」

 

 ギリッと歯を食いしばりながら悔しげに話すレイアに俺は思わず言葉を詰まらせる。新入生歓迎に関してはそもそも契約精霊がいないだけで俺は本気も本気で戦っているのだが……それを伝える訳にはいかない。

 

「…レイア、あの侵入者はな———-」

 

「アレアス様、いらっしゃいますか?」

 

 今回の侵入者についてはそもそもレイアは負傷者を庇いながら戦っていた上にそもそも相手が悪過ぎる。その事実を語ろうと俺が話を始めたところで保健室の扉が開き、生徒会書記ことセナが入ってきた。

 

「……どうした?」

 

「生徒会長から招集が掛かっています。特別依頼があるので至急、生徒会室に来て欲しいとのことです」

 

「面倒ごとの匂いがするなぁ…」

 

 先程の襲撃から間を置かずに掛かった招集。加えて特別依頼と来れば面倒ごとを押し付けられる予感しかしないが…断る訳にもいかない。

 

「分かった。すぐ行く」

 

「ありがとうございます」

 

「待って下さいッ!」

 

 先導するセナの背中を追いかけて保健室を出ようとすると後ろから声が聞こえ、振り返ればベッドから立ち上がったレイアが立っていた。

 

「……私も一緒に連れて行ってくれませんか?」

 

「ですが、ヴァルハート様はお怪我が……」

 

「怪我なら、もう大丈夫です。充分に動けます」

 

「しかし……」

 

「良いじゃん、連れてってやれば」

 

 尚も難色を示すセナに俺はバレないようにため息を漏らすとそう口を挟んだ。

 

「どうせ特別依頼の内容もさっきの襲撃の件だろ?なら彼女も無関係では無いんだ。連れて行くだけ連れてってやれよ」

 

 恐らくレイアもそのことを理解してセナにお願いしているのだろう。

 それに仮にレイアが一緒に依頼に来てくるならば俺の負担が減ることは間違いない。連れて行くことに損は無いだろう。

 

「…………分かりました。でしたらヴァルハート様も付いてきて下さい」

 

「……ッ!はいッ!」

 

 僅かに悩んだ後、俺の言葉に納得してくれたらしいセナにそう告げると再び歩き出す。背後でその言葉を聞いていたレイアは元気に返事をするとセナの背を追って歩き出す。

 

 その様子を見る限り、少なからず気力は取り戻せたようだ。

 

「先輩、ありがとうございます」

 

「ああ」

 

 実際のところ三分の二くらいは自分の為なのだが、良い先輩を演じたいので本音は口にせずに頷いた。

 

 

*****

 

「失礼します。お待たせしました、生徒会長」

 

「来ましたか」

 

 生徒会室に入ると生徒会長であるミーシャの他に水霊学の講義を担当カイル先生と邪霊学を担当しているアルベルト先生がいた。

 アルベルト先生は普段通りキチンとスーツを着こなしているのに対してカイル先生は普段から着崩しているシャツが普段以上に乱れている上に頬に僅かに切傷ができていた。

 

 ミーシャは入ってきた俺たちを視界に入れるとレイアの姿を見て少し驚いた表情を浮かべる。

 

「何故、ヴァルハートさんがいるのですか?」

 

「それは……」

 

「俺が提案したんだ。特別依頼ってさっきの襲撃の話だろ?それならレイアも当事者の一人ではあるからな。とりあえず連れて来た」

 

 説明をしようとしたセナに先んじて俺が理由を話す。するとミーシャも特に否定することも無く、「確かに一理ありますね」とすんなりと頷いた。

 

「早速、本題に入りましょう」

 

 そう言うとミーシャは一冊の本を机の上に置いた。

 

「これは?」

 

「今回の侵入者の目的だ」

 

 俺の質問にカイル先生が手元で火の付いていない煙草をクルクルとペン回しのように弄びながら答えた。ヘビースモーカーであるカイル先生も王女様もいる手前、流石に火を付ける気はないようだが手に持っている辺り、吸いたくて仕方無いのだろう。

 

「侵入者はこの本を奪おうとしてこの学院に侵入してきたのです」

 

「本の中身は何なんだ?」 

 

「四凶の一体、魔龍アジ・ダハーカの封印についてです」

 

「えっ!?」

 

 俺の隣にいるレイアは歴史書にも出てくる単語がミーシャの口から発されたことに驚愕の声を漏らした。 

 

「…………」

 

 対して俺はと言うとアルベルト先生が生徒会室に来ている時点である程度の予測はしていた為、声こそ上げなかったが四凶まで絡んで来るとは思わず静かに驚いていた。

 

「侵入者は二人いてね、一人が陽動として派手に暴れている内にもう一人が図書館の奥に収められてるこの四凶の封印についての記述が書かれた本を奪おうとしていたみたいだ」

 

 先程の襲撃について説明をしてくれたのは黒縁眼鏡を掛け直すアルベルト先生だった。どうやら俺たちが戦った精霊師以外にも学院に侵入していた奴がいたようだ。

 

「もう一人いたんですか…」

 

「調べ物があって図書館に行ったらばったり出会ってね。本は取り返せたんだけど、相手には逃げられちゃったよ」

 

 面目無いと苦笑するアルベルト先生だが、本来の目的である本の奪取を阻止したのだから充分過ぎる功績だろう。盗まれていたら何が起こったか分かったものでは無い。

 

「そう言えばミーシャ、もう一人の侵入者は」

 

「そっちにも逃げられた。悪い」

 

 俺の質問にカイル先生はバツの悪そうな表情を浮かべながら答え、その事実に俺は驚いた。カイル先生は教員陣の中でも武闘派の精霊師の筈だが、この先生を相手にして逃げるとはやはりあの精霊師は相当強かったのだろう。

 

「ってことはもしかして特別任務って逃げた賊の追跡か?」

 

「いえ、そちらは王国精霊師団の方に連絡して追って頂く予定です。貴方にはビブリア廃神殿へと向かって頂きます」

 

「ビブリア廃神殿?」

 

「おや、アレアス君は私の講義を受けてくれてた筈だよね?」

 

 任務の意味が分からずに聞き返す俺にアルベルト先生はどこか試すような口振りで確認を取ってくる。

 

 講義…邪霊学の話か?

 

 俺は先生が口にした言葉の意味を考えた後に少し前に調べた文献の内容を思い出し、ようやく意味を理解した。

 

「……アジ・ダハーカの封印」

 

「そう、あそこにはアジ・ダハーカが封印されている祠がある」

 

 俺が答えを口にするとアルベルト先生は満足そうに頷く。するとそこで「ちょ、ちょっと待って下さい!」とレイアがどこか焦った様子で口を挟んだ。

 

「アジ・ダハーカの封印ってまさか———-ッ!」

 

「いえ、ヴァルハートさんの考えているような事態は起こっていない筈です。少なくとも今はまだ」

 

 レイアの懸念を払拭するように確信めいた口調でミーシャは答える。

 

「ただ油断はできないというのが本音だね。彼らの目的がアジ・ダハーカの封印にあると分かった以上、少なからず封印が今も問題無く機能をしてるかを早急に確認する必要がある」

 

「その為に俺が?」

 

「勿論、私たちも行く。流石にことがことだからね。仮に封印が解け掛かっていたら掛け直す必要もあるし」

 

 良かった、まさか俺一人で行かせるつもりなのかとビビったが、流石に先生方も一緒に向かってくれるようだ。

 

「封印に問題なければ後は王国精霊師団に引き継いで終わり。ただもし、あの侵入者たちがビブリア廃神殿にいるとなると私とカイル以外にも今すぐ動ける戦力がもう一人は欲しかったんだ」

 

「それで俺に白羽の矢が立ったと…」

 

 即戦力で優秀な奴なら俺以外にも沢山いる気がするが、また学院が襲撃された際の防衛戦力や先程の交戦した経験を考慮すれば確かに俺を連れて行くのは妥当かも知れない。

 

「分かりました。行かせて頂きます」

 

「ありがとうございます。大変だとは思いますが、よろしくお願いします」

 

 俺が任務の参加を表明するとミーシャは感謝を述べた。それを聞きながら俺は視線だけで隣に立つレイアへと向ける。

 

「ミーシャ様、私もこの特別依頼に参加させて頂けないでしょうか?」

 

「………理由を伺っても?」

 

 レイアの頼みにミーシャは僅かに目を細めながらその理由を尋ねる。

 

「………リベンジです。ヴァルハート家の精霊師として賊に負けたまま、終われません」

 

「…………」

 

 ミーシャの顔を見つめながらレイアは語る。それはいつかの新入生歓迎戦の後のことを彷彿とさせる会話だった。

 

 正直、負傷者が多数いたあの状況下で一年でありながら立派に戦ってたと思うが、レイア本人としては侵入者に負けたことが不服らしい。そもそも俺個人としては別にレイアが負けたとも思っていないが……。

 

「お願いしますッ!学友を傷付けられてこのまま引き下がりたくはないんですッ!!」

 

「…………」

 

 頭を下げて嘆願するレイアにミーシャはゆっくりと視線を教員陣へと向ける。するとアルベルト先生は微笑を浮かべ、カイル先生は面倒そうに手を振る。

 二人の反応を確認した後にミーシャは最後に俺へと視線を向ける。その視線の意味を理解している俺は小さく息を吐きながら問題無いと右手で丸を作る。

 

「分かりました。貴方の任務参加を認めます」

 

 俺たちメンバーの確認を取ったミーシャは頭を下げるレイアに特別任務への参加を許可した。

 

「けれど今回は内容が内容です。万が一も考えられますが、それでも行きますか?」

 

「はい、精霊師を目指すことを決めた日から常に覚悟はしています」

 

 ミーシャの問いに顔を上げたレイアは力強い声音で告げる。そのレイアの表情を見て問題無いと判断したミーシャは改めて頷くと「では、よろしくお願いします」と笑みを浮かべた。

 

 その確認は俺にはしてくれないの?いや、覚悟してない訳じゃ無いけどさ……。

 

「ヴァルハートさん、参加ありがとうございます。お互い精一杯頑張りましょう」

 

「アイツには俺も貸しがあるからな。来たら一緒にボコろうぜ」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

 そう微笑みながら話すアルベルト先生とカイル先生にミーシャは元気良く返事をする。

 

 こうして俺たち4人はアジ・ダハーカの封印の確認の為に急遽、ビブリア廃神殿へと向かうことになった。

 

 

 


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