真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第3話

 闘技場を去り、ユートレア学院の長い廊下を歩く俺は知らず知らずの内に大きなため息を漏らしていた。

 

 俺と戦った精霊師たちは皆、決まって同じことを聞いてくる。

 

 何故、契約精霊を使わない?

 私を馬鹿にしているのか?

 何故、そこまで契約精霊を隠すのだ?

 

 何故何故何故、決まって皆同じ疑問を口にする。

 

 

 何故、だと?

 そんなもん決まってんだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 契約精霊がいないからだよッ!!

 

 

 もう一度、言おう。

 

 

 契約精霊がいないんだよッ!!!(泣)

 

 

 そう、何を隠そう学年次席まで上り詰めている俺は何と契約している精霊がいないのである。

 故に皆、何で呼び出さないのかと聞いてくるがその実、呼び出すもクソもそもそも呼び出す相手がいないというのが正しい回答となる。

 

 学院入学した日の夜、多くの学生たちが行ったように俺も地面に魔法陣を書いて呪文を読み、契約の儀を行った。

 けれど待てども精霊は現れず、まぁでもその内いつか誰かが応じてくれるかと楽観的に考えたまま月日が経ち、気付けば契約精霊がいないまま一年が経過していた。

 

 いやさ、俺も正直こんなことになるとは思わなかったよ?お前には才能があるからって親父たちに背中押されてめっちゃ努力して学院入ったのにいざ、契約の儀を行ったら誰も契約に応じてくれないんだもん。

 

 けど今更、誰とも契約できませんでしたなんて理由で学院から抜ける訳にもいかない。親父が少ない貯金からわざわざ金を捻出して高い入学金も払ってるのに。

 

 精霊師になる上で当然の契約精霊がいないなどと仮にバレでもしたら落ちこぼれのレッテルを貼られること間違い無しだ。

 故に俺は努力した。

 契約精霊の力など借りずとも戦えるだけの力を身に付ける為に。

 

 契約精霊がいないので簡易契約の技術を学んで微精霊との契約を行うことで霊術を扱えるようにし、パートナーがいないので肉弾戦でも負けないように身体を鍛えて剣術を学び、どうにかして契約精霊を手に入れる為に図書館でありとあらゆる本を読み漁って知識を蓄え、時にはミーシャや同級生の契約精霊を眺めながらあんな精霊と契約を結びたいなと妄想をしたり、とにかく頑張った。

 

 

 そしてその結果が今の状態だ。

 学年次席の地位を手に入れたまではいいが、知らん内に真の実力を隠してる天才だとか欠片も嬉しくないレッテルを貼られてしまっている。

 

 なんか誰も彼も戦闘では俺は常に余裕を持って舐めプをしているとか、いつか本当に大切な試合の時のために契約精霊を隠しているだとか、契約精霊が強過ぎて呼び出すと周囲に危険が及ぶから皆の為に自らに枷をして戦っているとか噂が噂を呼び、気付けば尾鰭どころか背鰭やら何やらありとあらゆる鰭が付いてしまっている。

 

 俺、一度も舐めプした試合なんてねぇよ。どの試合も超本気だよ。

 ミーシャとの試合も降参した為に何か誤解を受けているが最後の最後にミーシャに奥の手を使われ、本格的に死ぬビジョンが見えたから殺される前に降参を選択したに過ぎない。

 

 まぁ、確かに契約精霊がいないながらも頑張ったからつい勿体ぶってカッコ良く敗北宣言したけどさ、まさかこんなことになるとは思わないやん?

 

 誰だよ、ミーシャの奥の手を確認できたから降参したって言った奴。

 奥の手を使われて勝てないことを確信したから降参したんだよ、アホ!

 

 何が楽しいのか、俺の行動全てを好意的解釈してくる同級生たちによって俺はもうどうしようもない程に持ち上げられ、最早本当は契約している精霊いません!なんてカミングアウトできるような雰囲気は無くなってしまった。

 

 同じ平民出身の同級生からは希望の星と言われ、貴族連中からは自らの地位を脅かす天才とやたらと目の敵にされるし、本当にどうすれば良いんだ。

 

「はぁ、なんで俺は最初に言わなかったんだろ…」

 

 こんな事なら最初に契約精霊がいないことをカミングアウトして、無能のレッテルを貼られながら頑張った方が楽だったんじゃないかと近頃は思う。

 というか先日、巷の書店でみた人気小説の内容見るとそんな感じのストーリーが流行ってた。

 

 あれ、良いよなぁ!だって最初が一番下だから上がるだけだもん!頑張れば頑張るだけみんなが認めてくれるし!

 今の俺は実力以上の評価を受けているせいで株は上がらないし、寧ろ落ちることしか無い。そろそろストレスで頭が禿げそうだ。

 

「はぁ……」

 

「炎竜の巫女様に勝ったって言うのに辛気臭い顔してるね、ローク」

 

「お前は楽しそうな顔してるな、ガレス」

 

 何度目になるか分からないため息を吐きながら廊下を歩いていると前方からニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべるイケメンが近付いてきた。

 小麦色の肌をした制服の上からでも分かる鍛え上げられた身体をした整った顔立ちのイケメンの名はガレス・オーロット。

 オーロット家の跡取りで《貴公子》なんて羨ましい二つ名を持つ精霊師だ。精霊師の中でも少数派の近接戦をメインに戦う精霊師で、腰に佩く一本の長い剣は家に代々伝わる魔剣だそうだ。

 本人の実力も申し分なく、特に純粋な剣術だけで言えば恐らくガレスの方が俺より僅かに上だろう。 

 

 そして何より俺の事情を知る数少ない学友である。

 

「まぁね、君が余裕綽々そうな顔をしながら内心必死でサラマンダーの攻撃を凌いでたんだろうなと考えると面白くてね」

 

「面白くねぇよ、殴るぞ」

 

 最後のサラマンダーのブレス攻撃などマジで死ぬかと思った。霊力を総動員しても水の霊術だけじゃ確実に防げないと思ったから風属性も混ぜて渦巻き状の防御壁を形成することで何とか防げたがあの時は冷汗で背中がビチャビチャになっていた。

 

 マジで次戦ったら文字通り焼肉にされるだろう。はは、笑えない。

 

「にしても、君は相変わらず凄まじい霊力の持ち主だね。微精霊たち数体の力であそこまでの霊術を扱うなんて」

 

「まぁ、そこは素直に自分の才能に感謝してるよ。マジで霊力多くて助かった」

 

 霊術を扱う際には基本的に霊力と媒介となる精霊の力が必要となる。故に精霊師が得意とする霊術は必然的に契約した精霊の属性となる。

 例を言えばレイアであればサラマンダーの火属性、ミーシャで言えば天使の光属性といったところだ。

 

 だが、あくまで霊術を行使するだけならば別に使いたい属性の精霊と契約さえすることができれば扱うことができる。

 あれ、それじゃ契約精霊のいない俺は霊術使えないじゃんと思ったそこの貴方、そこで出番となるのが簡易契約だ。適当にそこら辺に漂っている扱いたい属性の微精霊と契約をすれば、俺でも霊術を使うこと自体は充分に可能となる。

 

 けれどそれを行う場合に問題が一つ出てくる。霊力の消費量である。

 当たり前だが大技を使おうとすればするだけ霊力の消費量は大きくなる。それこそ、俺が喰らったサラマンダーのブレス攻撃など恐らく凄まじい霊力を消費していることだろう。

 けれど、高位の精霊師たちはそんな大技は当たり前のように躊躇いなくバンバンぶっ放してくる。それは何故か?

 

 その答えが精霊との繋がりだ。

 

 精霊はその身体全てが霊力によって構成されており、低位の精霊でも精霊師たちが持つ平均値の2倍以上の霊力を持つ。故に精霊師たちは大技を放つ際には契約精霊たちから霊力を分けて貰うことで自らの霊力消費を抑えて霊術を発動しているのだ。

 

 けれどこれが簡易契約となると契約の流れが精霊師から精霊へと一方通行になる為、霊力の供給を受けることができない。

 いや、厳密には多少は霊力を送ってくれてはいるのだが契約精霊と比べると少量も良いところだ。

 

 故に簡易契約は手数を増やす際の搦手のような形で使われるのみで戦闘で使用する精霊師はあまり多くない。

 

 まぁ、俺は契約精霊がいないから使わざるを得ないので使っているが。

 簡易契約で俺がバンバン霊術使ってるのにそれでも霊力切れを起こさない理由は単純に俺の持つ霊力量がアホみたいに多いからだ。

 

 お陰様で他の精霊師たちが10必要な霊術を俺は15〜20くらいの霊力を込めるという非常に燃費の悪い戦い方でも何とかなってる。ここら辺は本当に自らの才能に感謝しっぱなしだ。無茶な霊術行使を何度も行うことができる。

 

「にしてもローク、その様子だともしかしてこのまま家に帰るつもりかい?」

 

「それ以外、何がある?」

 

 交流戦が終わった以上、今日の俺の役目は終了だ。午後に授業がある訳でも無いし、もう帰って寝る以外に俺の選択肢はなかった。

 

「この後、生徒会の企画した新入生とのレクリエーションと夜には晩餐会がある筈だけど」

 

「出ねぇよ、面倒くせぇ。てか目立ちたくねぇ」

 

 この学院で過ごして一年、学んだことはとりあえず俺が何かすると変に目立つと言うことだ。故に俺はどちらにも参加しない、帰って寝る。

 

「あんなことしでかして帰ったら余計、目立つと思うけど……」

 

「知らん知らん!とにかく俺は帰るぞ!帰るったら帰るぞッ!!」

 

 どこか呆れた表情を浮かべるガレスを無視して俺は帰路に就く。

 

 

 その数分後、生徒会役員たちに見つかった俺は捕まって文字通り引き摺られてレクリエーション会場へと連れて行かれるのだった。 

 

 その様子を見たガレスがため息を漏らしたのだった。

 


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