真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第30話

 

「ビブリア廃神殿は元々、その土地に根付いていた上位精霊を祀る目的で建築されていたんだ。けれど邪霊戦役の後にこの地に逃げ延びた四凶の一体、アジ・ダハーカと彼を追ってきた英雄アーサーとの戦闘で周囲に存在していた集落は尽く破壊されてしまってね。今ではご覧の通り僅かに人の営みがあったことが分かる程度しか残っていないんだ」

 

「なるほど…」

 

 アルベルト先生が移動用に所持している大型の風精霊で移動すること約一時間程、ビブリア廃神殿へと無事に到着した俺たちは荒れ果てた大地を見回しながらアルベルト先生の邪霊学講座に耳を傾けていた。

 

「アジ・ダハーカとアーサーの死闘は約二日間に渡ったと言われ、最終的に死闘を制したアーサーによってアジ・ダハーカはビブリア廃神殿の地下に封印された」

 

「討伐はできなかったんですか?」

 

「書物には不死身と称される程、アジ・ダハーカはタフだったと言われている。事実、アーサーでさえ討伐できなかったことを考えると不死身という説もあながち間違いでは無いかもね」

 

「話じゃ三本ある首の内の二つが斬り飛ばされても尚も意気衰えることなく襲い掛かってきたって言うんだからな。あり得そうな話だ」

 

 レイアの疑問にアルベルト先生は書物で得た知識を引っ張り出しながらアジ・ダハーカについて不死性について語ると隣を歩くカイル先生が逸話を思い返しながらカッカッカッと笑う。

 

 曰く、アジ・ダハーカは霊術に長けていてあらゆる属性、種類の霊術を扱うことができたと言われている。それこそ邪霊でありながら本来なら自身にとっての弱点である筈の光属性の霊術まで使用していた記録が残っているのだからその恐ろしさが窺い知れるだろう。

 

 また他の四凶にも言えることだが彼ら四凶は異常なほど生命力が高く、かの英雄アーサーを以てしても彼らの討伐は難しく封印することがやっとだったと言われている。

 

「それにほら、辺りを見て気付くことは無いかい?」

 

「えっ?」

 

 アルベルト先生に言われて改めて周辺を見渡す。周りは歴史を感じさせる残骸が残っていることを除けば特に大きな異常は見られない。レイアは何のことを言ってるのか分かっていない様子だったが、俺は暫く周囲を見回した後に質問の意図を理解した。

 

「精霊が全くと言って良いほどいませんね。微精霊含めて全く気配を感じ取れません」

 

「あっ!確かに」

 

 どんな土地であるとそこには微精霊しかり、精霊が根付いているものだがこの大地にはまるで精霊の気配を感じられない。あのルナの遺跡周辺ですら精霊はいたと言うのに。

 

「これがアジ・ダハーカの恐ろしさだよ。封印されて尚、その存在に恐れた精霊たちが逃げてしまうんだ」

 

 語りながらアルベルト先生はその視線を前方に佇むビブリア廃神殿へと向ける。年季が入った建物である為、所々ひび割れや崩れている部分もあるが、それでも未だに荘厳さを感じさせる外観を残している。

 

「さて、そんな化物が仮に復活してしまったらどうなるんだろうね」

 

「考えたくもねぇな」

 

「…………」

 

 今更ながらとんでもない任務に同行してることを自覚した俺の頬から冷や汗が流れ始める。仮に、本当に仮に封印が解けていたとしたらどうすれば良いのだろうか?

 

 背後を振り返れば俺と同じ考えに至ったのか、廃神殿を見上げるレイアの顔が緊張の為か強張っていた。

 

 そんな俺たちの様子に気付いたアルベルト先生は「すまない、少し脅し過ぎたね」と謝罪の言葉を口にしながら苦笑を浮かべる。

 

「そんな気張らなくても大丈夫だよ。四凶の封印は厳重で生半可に解くことができるものじゃないからね、まず全ての封印が解かれていることは無いと思っていいよ」

 

「……その、どのような封印が掛けられてるんですか?」

 

「それについては移動しながら話そうか」

 

 おずおずと封印について尋ねるレイアにアルベルト先生はそう言うとビブリア廃神殿へと足を踏み込む。それに続いて俺たちも廃神殿内部へと入っていく。

 

 内部もやはりと言うべきボロボロになっており、床には瓦礫や亀裂があって注意しながら歩かなければ躓いてしまう程だ。周囲の壁へと視線を向ければ床と同じく亀裂や穴があったり、元々は美しかったであろう描かれた壁画も黒く霞んでしまっていた。

 

 そんなビブリア廃神殿の惨状に僅かに感傷を抱いているとアルベルト先生が歩きながら封印についての説明を再開した。

 

「四凶には鍵による三つの封印とアーサーの契約精霊である泉の精霊による封印、計四つの封印によって構成されている」

 

 通路を歩くアルベルト先生はそう言って親指以外の指を立てると順を追って封印の説明をする。

 

「一つ目はアーサーの契約精霊の封印術。強力ではあるが流石に数百年間ずっと封印を維持しているせいで時々、術式が解れてしまう時がある。尤もこれも基本的に封印術式が勝手に自己修復できるレベルのものだけどね、定期確認で発見した場合には素早く修復するようにしている」

 

 そう言ってアルベルト先生は小指を折る。残るは三つの封印についてだが……。

 

「残り三つの封印はそれぞれロムス王国の王族から二人、そしてもう一人が所持している三つの鍵を使用しない限りは解けないようになってる」

 

「もう一人って誰ですか?」

 

「不明、この一人については完全に秘匿されている。ロムス王国民であることは確かだけれどね」

 

 その説明にレイアは驚いた表情を浮かべるが、対して俺は特に反応することなく黙って聞いていた。というのも講義で四凶の一体、闇冥龍アペプスの封印方法を調べた時と内容がほぼほぼ同じだったからだ。

 

 違う点と言えば封印を管理している国が違うくらいだろうか。

 

「それは…誰か分からなくて大丈夫なんですか?」

 

「仮に四凶復活を目的として王家が襲われても封印が解けないようにする為の保険だよ」

 尤もそんなことさせないけど、と付け足しながらアルベルト先生は話す。

 

 けれど事実として今、四凶の封印について何かを行おうとしている連中が現れていることを考えると保険を掛けておく意味はあるのかも知れない。

 

「アルベルト、講義はそこまでにしとけ。もう着くぞ」

 

「おっと、本当だ。話してると早いね」

 

 カイル先生の指摘にアルベルト先生はそう言って話を一度区切ると通路から広々とした空間に出た。警戒しながら内部に足を踏み入れると空間の最奥に淡い光を放つ封印術式が刻まれた方陣が存在していた。

 

「アレが魔龍アジ・ダハーカの封印だよ」

 

 アルベルト先生の言葉に耳を傾けながら俺も封印術式に視線を向けた———まさにその瞬間だった。

 

「ッ!?」

 

「先輩ッ!?」

 

 どこからか途轍もない重圧感と刺すような視線を感じた俺は思わず呼吸を乱してその場にへたり込んでしまう。

 

 俺の異変を感じ取って近付いてくるレイアに「問題無い」と呟きながら俺は深く呼吸をして心を落ち着ける。うん、大丈夫だ。

 

 一瞬感じた重圧も視線も既に消え去り、落ち着きを取り戻した俺は息を吐きながら立ち上がる。

 

「ローク、大丈夫か?」

 

「はい、すみません。少し目眩がしただけで大丈夫です」

 

 訝しげな様子で尋ねてくるカイル先生に俺は謝罪しながら先程の妙な感覚を思い返す。

 

 とても重くまるで全身が底無し沼に沈み込むかのような恐ろしい感覚だった。それこそ一瞬だけとは言え、呼吸ができなくなり立っていられなくなる程の重圧だった。

 

 マジでさっきのは何だったんだ…。

 

「アレアス君は……大丈夫そうだね。なら私は封印の確認をするから3人とも周囲の警戒をお願い」

 

 アルベルト先生はそう言うと方陣へと近付き、封印術式に手を伸ばして封印の状態の確認を始めた。

 

「…封印、大丈夫でしょうか?」

 

「アルベルトの専門は邪霊学だが、同時に封印術に関する造詣も深い。任せれば問題無いさ」

 

 心配そうな表情を浮かべるレイアの不安を一蹴するようにカイル先生は言うと目を瞑った。恐らくは周囲の探知に入ったのだろう。

 

「……ふむ、四つとも封印自体は問題なく効いている。ただアーサーの術式の解れはちょっと酷いな」

 

 背後では封印を確認したアルベルト先生が懐から何かペンのような道具を取り出し、何やら霊力を込めながら術式の修復を始めている。どうやら封印の修復の必要があったらしいが、アルベルト先生の表情を見る限りでは深刻そうな様子では無いので大丈夫だろう。

 

「……………」

 

「……………」

 

 

 そのまま暫く俺たちは無言で周辺の警戒に入り、アルベルト先生の封印を修復する音だけが辺りに響き渡っていたがやがて何かに気付いたカイル先生が目を開くと俺たちに呟いた。

 

「……二人とも構えろ。来るぞ」

 

「ッ!」

 

 先生の言葉から数秒遅れて迫ってくる三つの気配に気付いた俺も依代から剣精霊を呼び出して手に握る。その頃には既にカイル先生も闘技場でも見た細長い胴体に透き通った水色の鱗を纏わせた水精霊、蛟を召喚していた。

 

「レイア、お前もサラマンダーを出しておけ」

 

「はい」

 

 カイル先生に応じたレイアの契約紋が輝き、彼女の背後に赤竜が現れた。こちらが迎撃準備を整えると俺たちが入ってきた通路から僅かに足音が耳に入ってきた。

 

 やがて一定のリズムで聞こえてくる三つの足音は少しずつ大きくなっていき、いよいよ足音の正体である三人の人間が俺たちの眼前に姿を現した。

 

「おやおや、ついさっきぶりの再会だね」

 

「行動が早いな……」

 

「………」

 

 現れたのは学院を襲撃した薄茶髪の髪を揺らす精霊師の青年とその仲間と思わしき白い仮面で顔を隠した怪しげな男、そして黒い肌をした禿頭の男だった。

 

「お前らこそ、行動が早いじゃねぇか。あんだけボコってやったのに」

 

「そう言う君は格好良く啖呵を切って相手にむざむざ逃げられた教師じゃないか。貴方もまだ遊び足りなかったのかな?」

 

「…………」

 

「…………」

 

 出会って早々にカイル先生と青年の間で激しく火花が散る。どうやら俺がアイツを逃した後に割とドンパチやり合ったらしく、二人の感情の荒ぶりに呼応するかのように互いの身体から霊力が溢れ出す。

 

「そっちは僕が相手した方だね。契約精霊も呼ばず逃げの一手だったからまともに手合わせはできてないけど」

 

 封印の修復をしていたアルベルト先生が仮面の男を確認しながら呟く。どうやら学院に侵入したというもう一人があの仮面の男だったようだ。

 

 

「目的を果たせた以上、無駄に戦って手の内を晒す必要は無い」

 

「………」

 

 その言葉に俺は僅かに目を細めながら仮面の男へと視線を向ける。すると俺の視線に気づいたのかブカブカとした黒い衣服に身を包んだ男も仮面越しに俺に視線を向けてきた。

 

「おや、やっぱりデヤンさんもロークくんが気になるのかい?」

 

「口を閉じろ、ホーンテッド」

 

 揶揄うように尋ねるホーンテッドと呼ばれた青年に苛立った口調で仮面の男、デヤンは言い返す。 

 

「ボラーさん、デヤンさんが怖いですよ〜」

 

「…………」

 

「あらら、無視です?」

 

 ホーンテッドは褐色の禿頭の男、ボラーにガン無視されてしまうが欠片も気にした様子は見せず自身の契約精霊である剣精霊を呼び出した。

 

「ッ!」

 

 その精霊を見たレイアの顔が明らかに強張った。恐らくは学院での戦闘を思い出したのだろう。

 

 そんなレイアの様子に目敏く気付いたホーンテッドはニヤリと口元に弧を描く。

 

「おや、そこの君も学院で会ったね。リベンジマッチでもするかい?」

 

「ッ!望むところッ!」

 

「落ち着け、見え透いた挑発に乗るな」

 

 ホーンテッドの挑発に乗ったレイアが霊力を激らせながら攻撃を仕掛けようとしたのを俺は慌てて止める。あの二人は無策に突っ込めば俺たちは瞬く間にやられるのは目に見えている。

 

「ローク」

 

「はい」

 

「アイツならいけるな?」

 

 そうカイル先生が俺に確認するように視線で示すのはホーンテッド。まだ手の内を見せてない無いデヤンよりもホーンテッドに俺をぶつけた方が勝率が高いと考えたのだろう。

 

 正直、いけるかと言われるとキツいところはあるが少なからず一度戦ったことであの男に関しては最低限の対策はできている。加えてあの男は基本的に俺たち学生陣に対しては油断している、そこに付け入る隙があるだろう。

 

「……はい、やれます」

 

 故に俺は頷く。この状況、どちらにしろ俺が一人は受け持たなければならない。

 

「よし、レイア。お前はロークの援護だ。いいな」

 

「はい」

 

「アルベルト」

 

「僕はどちらでも。任せるよ」

 

 背後から気軽ながらも頼もしい声にカイル先生は頷くと音を鳴らして両手を合わせると霊力を込める。すると契約精霊である蛟が先生をその細長い胴体で囲った。

 

「よし、行くぞッ!」

 

 カイルの掛け声と共に蛟の周囲から水が溢れ出すとやがて小さな津波の如き勢いで前方の三人に襲い掛かった。

 

「フッ!」

 

 けれど襲い掛かってくる水の壁を前にしてホーンテッドは素早く前に出ると剣に霊力を込めて一閃、迫ってきた波を真っ二つに割って水を散らした。

 

「ッ!」

 

 そのタイミングで俺は前に踏み出すとホーンテッドの懐に入り込み、袈裟に剣を振るう。

 

「ハハッ!待ってたよッ!ロークくんッ!!」

 

「俺は別に待って…ねぇッ!」

 

「おッ!?」

 

 待っていたと笑いながら斬撃を受け取めるホーンテッドに対して俺は吠えながら全身に霊力を込める。すると俺の力の急激な上がり方に反応が遅れたホーンテッドは踏ん張れず、俺の剣に押し切られてそのまま背後の壁まで弾き飛ばされていった。

 

「……ふむ」

 

「…………」

 

 俺に対して目を鋭くしたデヤンとボラーの二人から紫色の輝きが放たれ、彼らの契約精霊が背後に現れる。

 

「舐めるなよ、小僧」

 

「アンタこそ、舐めるな」

 

 不気味な霊力を纏った精霊たちの殺気の篭った視線に対して俺は剣を突き付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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