真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第31話

 

「複数契約者…!」

 

 驚くロークの視線の先にはデヤンの背後の空間から歪な姿をした三体の契約精霊たちが現れる。姿を影のように形を揺らがせる精霊たちはそれぞれが人狼を彷彿とさせる姿をしていた。

 

 精霊たちは唸り声を上げるとそれぞれデヤンを飛び越えてロークへと向かって三方向から襲い掛かってくる。

 

 ———速い!

 

 予想以上に俊敏に迫ってくる精霊たちに対して僅かに反応が遅れながらも迎撃しようとするが直後にロークと人狼精霊たちを遮るように直線状に水流が放たれ、危険を察知した精霊たちは攻撃を中断して背後に飛び下がる。

 

「お前の相手は俺だ」

 

「…………」

 

 蛟が水色の細長い胴体がロークと精霊たちを遮るように現れ、その背に乗っていたカイルが眼下のデヤンを睨み付ける。デヤンは静かに顔を上げて視線のみをカイルへと向ければ周囲に控える人狼精霊たちが主人に代わって新たな敵に対して威嚇するように吠え、それに応ずるように蛟も咆哮を上げる。

 

「水鉄砲」

 

 指を銃のように構えたカイルの指先に霊力が集まり、指先から霊力を纏った水塊が弾丸となってデヤンたちに向かって放たれる。

 

 地面に衝突した水弾は着弾地点を派手に破壊するが、デヤンと人狼精霊たちはそれぞれ素早く四方に散って回避行動を取っておりカイルの攻撃は空振りに終わる。

 

「シィイッ!」

 

「グッ!?」

 

 けれども回避した人狼精霊の一体を狙って蛟はその長い尻尾を鞭の如く振り回してその身体にぶつけるとそのまま後方へと弾き飛ばす。

 

「ナイスだ、蛟」

 

 自身の契約精霊の活躍を褒めながらカイルは再び指を銃のように構えると回避したデヤンに向かって連続で水鉄砲を放ち続ける。

 

 対してデヤンはカイルに指先を向けられた瞬間に舌打ちをしながら次の回避行動へと移り、次々に放たれていく水弾を素早い身のこなしで躱していく。

 

「面倒な…」 

 

 衝撃音と共に水飛沫と破片が何度も宙を舞う中、無傷のまま攻撃を躱し続けるデヤンは僅かに顔を顰めると人差し指を動かしてカイルにバレないように契約精霊に指示を出す。

 

 「ガァァッ!」

 

 すると壁を駆けていた人狼精霊が金色の瞳でカイルを睨み付けて跳躍、鋭く尖った牙を見せつけながら襲い掛かる。

 

「近けぇよ、ワンコロが」

 

「グォォッ!?」

 

 デヤンに右手で狙いを定めていたカイルはけれども接近してきた精霊に対しても焦ることなく左手を向けると水弾を放つ。大きく口を開いて喰らい付こうとしていた人狼精霊は口腔に水弾を喰らい、呻き声を上げながら落下していく。

 

「ガァッ!!」

 

「……ちッ」

 

 けれども迎撃した人狼精霊の背後から更にもう一体の人狼精霊が姿を現し、霊術の僅かなインターバルを狙って右前脚をカイルの顔面目掛けて奮ってくる。

 

 カイルは迫ってくる精霊を前にして思わず舌打ちをする。水鉄砲は自身の扱う霊術の中でも早く威力の高い霊術だが、こうも難なく対応してくるとは…。

 

 瞬時に次弾が間に合わないと判断したカイルは蛟の背から飛び退いて攻撃を避けようとするが、回避をする前に強風が吹き荒れ眼前の人狼精霊が吹き飛ばされていった。

 

「先生ッ!」

 

「悪い!」

 

 下を向ければ掌をこちらに向けているロークの姿がおり、どうやら危険と判断してカバーしてくれたようだ。

 

 そのロークの判断を流石と思うと同時に情けなさも湧き上がる。自身でもどうにかなる程度の窮地とはいえ、生徒に助けられるとは……。

 

「こりゃ、気合いを入れないとマジで情けない姿を晒すことになるな」

 

 カイルは呟いて気合いを入れ直しながら周囲へと視線を向ける。残った相手の一人はアルベルトと相対しているが、どちらとも未だ何かアクションを起こす様子はなく互いに出方を伺っているようだった。

 

 ———となると残るは最初にロークがぶっ飛ばしたアイツか。

 

 そう考えたところで後方から瓦礫が弾け飛び、砂煙の中から高笑いと共にホーンテッドが姿を表す。

 

「ハハハハハッ!いやいや、油断した!本当に油断したよッ!流石だね、ロークくん!!」

 

「…………」

 

 先制の一撃を与えた筈なのにダメージを負うどころか寧ろ先程よりも元気な様子で現れたホーンテッドの姿にロークは露骨に顔を顰める。しかも何故かやたらと親しげに話しかけて来るし、本当に何なんだ。

 

「ホーンテッド、煩いぞ」

 

「ハハハッ、申し訳ない。つい興奮してしまいまして」

 

「お前の気持ちはどうでも良いが……どうする?お前が相手するのか?」

 

「ええ、ボラーさんはどうやら手が離せなそうですし、残りの方はお願いできますか?」

 

「…………」

 

 デヤンの問いにホーンテッドは頷くとそれ以外の相手を彼に押し付けようとする。あまりにも我儘な同僚にデヤンは思わずため息を漏らすが断る訳にもいかず、頷く以外の選択肢は無かった。 

 

「最低限の仕事はしてこい」

 

「言われずとも」

 

 デヤンの言葉にホーンテッドは笑みを浮かべると剣を構える。

 

 ホーンテッドが構えを取ったのを見てカイルとローク、レイアはそれぞれ全神経を集中させて警戒する。

 

「ブラッド・エンチャント」

 

 剣を構えたホーンテッドの身体が血の如く紅いオーラに包まれ、彼から放たれる霊力が一気に濃く重いものになる。

 

「二人とも、構えろ」

 

 警告するように告げられたカイルの言葉にホーンテッドの放つ重圧に飲まれかけていたロークとレイアは意識をハッキリさせ、改めて気を張り巡らす。

 

 

 けれどもその行為が直後に無駄だと気付くことになる。

 

「ロークッ!!」

 

「なッ!?」

 

 カイルが叫びによってロークはいつの間に接近していたのか、瞬間移動の如く眼前に現れたホーンテッドの姿に気が付く。

 

「くッ!」

 

 既に赤い弧を描きながら迫ってくる剣を躱すには遅く、咄嗟に剣を盾にするように間に挟み込むことでホーンテッドの一撃を防ごうとする。

 

「さっきは見事にやられたからね、お返しだ」

 

「ッ!?」

 

 ホーンテッドの剣が直撃した瞬間、腕が吹き飛ぶのでは無いかという程の衝撃と共にロークの身体はまるで風に飛ばされる葉っぱのように通ってきた神殿の通路へと吹っ飛ばされていく。

 

「ローク先輩ッ!」

 

 レイアが叫ぶと同時にカイルが蛟と共にホーンテッドに攻撃を仕掛けようとするが、蛟の横顔を狙って人狼精霊の一体が前脚を振るって壁に突き飛ばす。

 

「君の相手は私なんだろ?」

 

「うぜぇ」

 

 カイルの行く手を阻むようにデヤンは立ち塞がるとその背後から人狼精霊が唸り声を上げる。

 

「それじゃ、僕は行くんでこっちはお願いしますね」

 

「………」

 

 デヤンから返事は無かったがそれを肯定と受け取ったホーンテッドは吹っ飛ばしたロークを追い掛けるように駆け出して通路へと消えていく。

 

「レイアッ!こっちは良いからロークの援護に行けッ!」

 

「は、はいッ!サラマンダーッ!」

 

 カイルの指示に従ってレイアはサラマンダーの背に飛び乗るとそのままホーンテッドとローグを追い掛けて飛んで行く。

 

「…………」

 

 デヤンは去っていくサラマンダーを少し眺めていたが、やがて興味を失った様子で視線をカイルへと戻す。

 

「止めないんだな」

 

「…………」

 

 サラマンダーが通路を通ろうとした瞬間、妨害の為に一体の人狼精霊が動こうとしていたがデヤンは最後まで指示を出すことはなく、サラマンダーを見送るだけに留まった。

 

「……必要性を感じなかった」 

 

 それと半分くらいは普段から独断専行で暴れ回るホーンテッドへのちょっとした嫌がらせでもある。尤も、彼女一人が援軍に行ったところで何も変わることはないだろうが。

 

「…………」

 

 訝しげな表情を浮かべるカイルの背後に先程突き飛ばされた蛟が主人の元へと戻ってきてデヤンの周囲に控えている人狼精霊たちと睨み合う。

 

「うちの生徒を舐めてると後悔するぞ」

 

「その前に君は自分の心配をした方がいい」

 

 カイルの言葉に対してデヤンは口元に弧を描くと霊術を発動させる。デヤンの足元の影が蠢いて伸びたかと思うと複数に分裂し、その槍のように尖った先端をカイルへと向ける。

 

「お前、やっぱりその霊術……」

 

「最初からある程度予測は付いてたんだろう?」

 

 目を見開くカイルの言葉に被せるようにデヤンは告げると影の槍と控えていた契約精霊たちを差し向けた。

 

 

*****

 

「くそッ!ふざけやがってッ!!」

 

 神殿の外まで吹っ飛ばされたロークは何とか態勢を立て直すとこちらを猛追してくるホーンテッドの姿を視認する。

 

「本当に不気味な奴だなぁッ!」

 

「ハハハッ!」

 

 新しく微精霊と契約、霊力による身体強化を全開にするとこちらに斬撃を放つホーンテッドに合わせて斬撃を振るう。

 

 二人の剣が衝突すると共に互いの精霊が放つ霊力によって足元の地面が割れ、周囲の空気が振動する。

 

「むッ!?」

 

 次撃を仕掛けようとしたホーンテッドは足元の地面に拘束され、一時的に動きが止まる。

 

「学ばねぇ奴がッ!」

 

「そう言われると痛いな!」

 

 ロークの放つ横薙ぎの一撃を剣で受け止めたホーンテッドは腕を伸ばすとロークの襟元を掴みそのまま後方に投げ飛ばす。

 

「チッ!」

 

 投げ飛ばされたロークは舌打ちをしながら風を剣に纏わせると斬撃と共にホーンテッドへと放つ。けれど直撃する前に地面の拘束を破壊したホーンテッドは跳躍して斬撃を躱すと逆にロークに向けて三日月型の斬撃を放つ。

 

「ッ!」

 

 地面に着地したロークは地面に手を当て手前の地面を隆起させて壁を形成すると迫って来る斬撃を受け止める。けれども攻撃を防いだことに安堵する間もなく、土壁の向こう側から禍々しい霊力を感じると同時に土壁が粉々に砕け散り、一直線に伸びてきた赤い斬光がロークの左肩を斬り裂いた。

 

「ぐッ!?」

 

「どうしたッ!君の力はその程度じゃないだろ!?」

 

 痛みで顔を顰めるロークに対してホーンテッドは挑発するように叫びながら斬り掛かってくる。

 

「うるせぇッ!俺の何を知ってるッ!?」

 

 こちとら最初から全力で戦っているというのに。買い被るにしても程がある……というか学院外の賊が一体自分の何を知っているというのか。

 

「全力を出さないと死んでしまうよッ!」

 

「やかましいッ!」

 

 半ギレになりながらロークが大振りに剣を振るうと回避と同時に距離を取ったホーンテッドの剣に霊力が膨大に集まり出し、刀身の色が更に紅く染まっていく。

 

「ブラッド——」

 

「ガァァアアッ!」

 

 込められた霊力量からしてもヤバい一撃が飛んでくることを察したロークが技の妨害に入ろうとするより、先んじて後方から滑空してきたサラマンダーが鉤爪を振るってホーンテッドを弾き飛ばす。

 

「うぉっとッ!?」

 

 咄嗟に技を中断して防御に移ったので大きなダメージを負うことはなかったが、それでも攻撃を完全には防ぎ切れなかったようで腕に複数の赤い線が刻まれる。

 

「助かった、レイア」

 

「いえ、お役に立てて何よりです」

 

 隣に現れた後輩に礼を述べながらロークは小さく息を吐く。今のは割とマジで危なかった。

 

「先輩、肩がッ!」

 

「大丈夫、それよりもアイツから目を離すな」

 

 自分の肩を見て驚いた表情を浮かべるレイアにロークは問題無いと答えながら視線をホーンテッドに向けるように伝える。

 

「リベンジマッチかい?」

 

 ゆっくりと歩きながら近付いてくるホーンテッドは笑みを浮かべながら視線をレイアへと向ける。

 

「本当は彼と一人でやりたかったんだけど……まぁ、いいか」

 

「ッ」

 

 チラリとホーンテッドから視線を向けられたレイアがゾクリと震えたのを見て微笑む。

 

「落ち着け、今は俺がいる。大丈夫だ」

 

「は、はい」

 

 再びホーンテッドに飲まれそうになるレイアを肩を叩いて落ち着かせるとロークは剣を構え直す。

 

「レイア、メインは俺がやるからお前は援護を頼む」

 

「けれど、先輩」

 

「さっきも言ったけど傷のことなら平気だ。それに慣れてきた」

 

 レイアは尚も心配そうな表情を浮かべていたが、やがてロークの指示に納得するとサラマンダーを背後に控えさせる。

 

 

 

「さて、これから第二ラウンドって形で良いかな?」

 

 

「何言ってやがる。これが最終ラウンドだ」

 

 

 作戦会議が終わったのを見て尋ねてくるホーンテッドにロークはそう言い返すと駆け出してホーンテッドへと斬り掛かった。

 


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