真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第32話

 

 

「どうした、強気な発言をした割に防御に回ってばかりじゃないかッ!?」

 

「うっせぇッ!」

 

 迫ってくる紅の斬撃をギリギリで捌きながらロークはホーンテッドに吠える。一撃目の刺突を首を傾けて躱し、空かさず襲ってくる二撃目の袈裟斬りを剣を盾にして防ぐ。僅かに態勢が崩れたところに追撃する形で更に首を狙って刃が迫る。

 

「ッ!」

 

 咄嗟に身体を伏せて一撃を避けるとそのままホーンテッドへ足払いを仕掛けて態勢を崩しに掛かる。

 

「おっと!」

 

 けれどもホーンテッドは素早く跳躍しながら後方へと下がることで躱し、再び距離を詰めようとしたところで眼前に視界を覆う巨大な炎の塊が迫って来ることに気付く。

 

「サラマンダーッ!」

 

「はッ!」

 

 迫ってきた火球をホーンテッドは一刀の下に斬り裂くとその背後から拳を握り締めた人間程の大きさをしたゴーレム五体が姿を現し、更にその背後から剣を構えたロークが迫ってくる。

 

 

「土塊如きじゃ陽動にもならないよッ!」

 

「ッ!?」

 

 真っ先に殴り掛かってきた二体のゴーレムを即座に破壊し、僅かに遅れて襲い掛かってきた三体のゴーレムを無視して間を通り抜けるとそのままロークの肩へ剣を突き立てる。

 

「むっ?」

 

 腕から伝わる感覚に違和感を覚えたホーンテッドは思わず訝しげな表情を浮かべる。同時にホーンテッドの背後にいた三体のゴーレムが全て崩れ落ち、その中からロークが姿を表す。

 

「ッ!」

 

「遅いッ!」

 

 目の前で泥となったロークには目もくれず、ホーンテッドは背後へと振り返って剣を向けようとするが動きが僅かに遅れ、結果ロークの放った拳を顔面に受けてしまう。

 

「ガッ!?」

 

「レイアッ!」

 

「はいッ!」

 

 そのままホーンテッドを殴り飛ばしたロークはすぐさま剣を掴み取ると追い討ちを掛けるようにレイアに指示を飛ばす。

 

 レイアの声に応じたサラマンダーは地面に転がるホーンテッドに対して上空から霊力を込めると口腔から一気に炎を吐き出す。

 

 まるで滝が流れ落ちるが如く空から降り注ぐ業火にホーンテッドの姿は飲まれて見えなくなる。これがそこら辺の精霊師ならば寧ろ相手の命を心配するところだが、今回は相手が相手の為、油断することはできない。

 

「ハハッ!!」

 

 案の定、一分もしない内に炎の海から高笑いが聞こえたかと思うと炎が掻き消えて中から未だ覇気を衰えさせないホーンテッドが狂気的な笑みと共に姿を表す。

 

 

「あの人、本当にどうなってるんですか…」

 

「さぁな、とりあえず普通では無いな」

 

 そんなホーンテッドに絶句した様子で尋ねてくるレイアにロークもウンザリした表情を浮かべながらため息混じりに呟く。

 

 意気軒昂な様子のホーンテッドに騙されそうになるが恐らく今までの攻撃が効いてない訳では無い。けれども体力が高過ぎるのか、回復力が凄まじいのか……。

 

「学院の時から思ってたけど、やはり良い火力だね」

 

「…………」

 

 ホーンテッドの賞賛の言葉を耳にするレイアに喜びの色は見えない。それどころか苛立ちすら覚えていた。当たり前だ、こちらの攻撃を受けても効いてないと言わんばかりの様子なのだから馬鹿にされてると感じても仕方ないだろう。

 

「対してロークくん。君にはガッカリだよ」

 

「あ?何がだ?」

  

 なんか知らないが勝手に期待したりガッカリされたりすることに苛立ちながらロークは尋ねる。

 

「君の本気が見れるかと思えばさっきから使ってくるのはウザったい小手先の技だけ。つまらないとまでは言わないけど、流石にそろそろ飽きてきたね」

 

「…………」

 

 その小手先が俺の全てなんだけど、と思わず声に出しそうになるがロークはぐっと堪える。どのような情報が漏れてるかは知らないが相当過大評価を受けているようだ。

 

「これじゃちょっと、僕たちの仲間になるには力不足だよ」

 

「元々なる気も無いんだが……」

 

 残念そうに呟くホーンテッドにロークは思わず突っ込む。なんで仲間に入りたい前提で話が進んでいるのか、犯罪組織の中になる気など欠片も無い。

 

「いやいや、けれど全く興味が無いって訳じゃないだろ?」

 

「…………」

 

 無言で目を細めるロークの反応に調子を良くしたホーンテッドは手振りを付けながら話を続けた。

 

「フフ、分かるよ。君はこう言いたいんだろ?何故、僕たちは邪霊と契約ができているのか?……と」

 

「………邪霊って」

 

「あの不気味な剣精霊だろ」

 

「えっ?」

 

 ロークの言葉にレイアが驚いたように呟く。最初の襲撃の時から察していたが実際のところ半信半疑だった為、ホーンテッドの言葉によってようやく確信を得ることができた。

 

「よく分かったね。これでも一応、気を遣って気配を抑えてるつもりだったんだけどな」

 

「最初の学院の際に会った時に大技をぶっ放しといて何言ってやがる」

 

 大技を受けた時に霊力の奔流の中に感じた遺跡で戦った邪霊と似た霊力、確信まではいかなくても推測くらいは充分にできた。

 

「あれね、あそこまで暴れるつもりは無かったんだけどね。少し楽しくなってついね」

 

「あり得ないッ!邪霊との契約は不可能だと———」

 

「それなら僕は幻覚か何かかい?」

 

 レイアの言葉を遮って尋ねるホーンテッドはおもむろに剣を一振りする。同時に刀身が紅色の輝きを放ち禍々しい霊力波が迫ってくる。

 

「ッ、気持ち悪いな……」

 

「……ッ!」

 

 咄嗟に前に出て斬撃で波を散らすが同時に波に篭った血生臭い禍々しい霊力を肌から感じ取り、ロークとレイアは思わず顔を顰める。

 

「どうだい、納得してくれたかな?」

 

「けれど、だとしても邪霊と契約して精神を保てる筈がッ!」

 

「聞き飽きた言葉だね。こうして目の前に契約をしてる人間がいるというのに」

 

 やれやれと呆れた表情を浮かべながらホーンテッドは右手の甲に刻まれた赤い剣の模様の精霊紋を二人に見せつける。流石にここまで証拠を見せ付けられてはレイアも反論をすることができず、押し黙ってしまう。

 

「そもそも君たちは、その例外を一人は知っている筈だよ」

 

「例外?」

 

「……イーヴァン・クルーガ」

 

 ホーンテッドの言葉にロークは静かにその名前を呟く。

 計七十二体にも及ぶ邪霊たちを従えたと言われている伝説の精霊師にして邪霊戦役を起こした大犯罪者。歴史上、少なからず明確に邪霊と契約して使役した記録が残っている精霊師と言えば彼くらいの筈だ。

 

「その通り。四凶すら従えた伝説の精霊師、我らの偉大なる祖先、イーヴァン・クルーガ。流石にその名を知らぬ訳じゃ無いだろう?それとも今時の学校はそれすらも教えなくなったかい?」

 

「………アンタはその後継者とでも言いたいのか?」

 

「まさか!後継者なんて恐れ多い。残念ながら僕の実力は彼には到底及ばないよ」

 

「安心したよ、これでアンタが七十二体もの邪霊と契約してるなんて言われたら失禁してたわ」

 

 尤も邪霊と契約できている時点でヤバいことには代わりないのだが。それにいよいよ邪霊と契約できることが明確になった以上、コイツらがこの封印に足を運んだ目的も見えてきた。

 

「……アンタらの目的は封印を解除してアジ・ダハーカと契約することか?」

 

「まぁ、何れはね。今回の目的は別にある」

 

「………別に?」 

 

「本当はもう少し力を確認してからが良かったんだけど…。まぁ、ここまで話したんだし、良いか」

 

 意味が分からず眉を顰めるロークに対してホーンテッドは不気味な笑みを浮かべながら手を伸ばす。

 

「どうだい、ローク・アレアスくん。僕たちの下へ来ないか?」

 

「………は?」

 

 予想もしていなかった勧誘の言葉を耳にしたロークは思わず目を点にする。何言ってんだ、コイツは?

 

「………何の冗談だ?」

 

「冗談じゃないよ、これでも割と本気で誘ってる」

 

「余計に理解できないな」

 

 何故、自分のような落伍者を勧誘するのか。噂に左右されてるのかは知らないが人を見る目が無いと見える。

 

「それで、返答はどうかな?」

 

「応じる訳ないだろ」

 

 間を空けずに馬鹿馬鹿しいと言わんばかりの表情でロークが返答すると横で会話の流れを見守っていたレイアがこっそりと安堵の息を漏らす。

 

 そんな筈は無いと思いつつ、もしかしてホーンテッドの誘いに乗ってしまうのではないかとレイアは内心僅かにビビっていた。

 

「何故断るんだい?君には素質があるのに」

 

「素質なんかある訳ないだろ……」

 

 契約精霊がいないんだぞ、俺は…と内心で文句を口にしながらロークはホーンテッドに言い返す。言ってて自分で悲しくなってくる。

 

「………ふむ」

 

 そんなロークの自虐を聞いたホーンテッドは顎に手を当て、訝しげな表情を浮かべながら目を細める。

 

「………まぁ、いいか。応じられないと言うなら仕方ない」

 

 くるりと右手の剣を鉛筆回しの要領で一回転させたホーンテッドは面倒そうにため息を漏らす。不自然にまでだらりと身体が脱力し、纏っていた威圧感が消失する。

 

 辺りが不気味な静けさと緊迫感に包まれ、ドクンドクンとロークは自らの心臓の脈拍が五月蝿くて仕方なかった。

 

 

「————無理矢理連れて行こうか」

 

「ッ!」

 

 気付けば首元に紅い刀身が迫っていた。あまりにも自然に近付いてきたホーンテッドにロークの脳は眼前にいる筈の彼の姿を敵と認識することができず、身体を動かすことができない。

 

 

 ————やべぇ、やられる。

 

 迫ってくる刃にロークが覚悟を決めた直後、ホーンテッドの脇腹に赤い尻尾が直撃し、視界から消え去って行く。

 

 

「私を無視して話を進めないで下さい」

 

 

 横を向けば吹っ飛んだホーンテッドを腹立たしげに睨み付けるレイアとサラマンダーの姿があった。特にサラマンダーからは口元から炎が漏れ出ており、相当気が立っていることが分かる。

 

「っと、ロークくんとの会話に集中して忘れていたよ」

 

「なら、嫌でも思い出させてあげます」

 

 ホーンテッドの言葉に青筋を立てながら呟くレイアに呼応するようにサラマンダーは咆哮を上げた。

 

「ぐッ!」

 

 

 竜種特有の霊力を帯びた咆哮によって一時的にホーンテッドは身動きが取れなくなる。

 

「ローク先輩」

 

 突発的だった為、ロークも咆哮に僅かに顔を顰めているとレイアから声を掛けられる。

 

「は、はい」

 

「あの人に同意する訳じゃありませんが、私も先輩にも素質はあると思います」

 

「…………」

 

「ですからサポート、お願いします」

 

「……任せろ」

 

 後輩のお願いにローク僅かに笑みを浮かべると地面に手を当て、霊術を発動させる。

 

「サラマンダーッ!本当の赤竜の吐息、見せてやりなさい」

 

「ガァァアアッ!」

 

 バサリと翼を広げたサラマンダーが大きく息を吸い込む。同時にサラマンダーの身体が熱を発し、その巨体が赤く燃え上がる。

 

 

「これは……流石にヤバいね」

 

 サラマンダーから放たれる霊力に危険を覚えたホーンテッドは全身に霊力を流し込んで身体を無理矢理動かそうとするが、直後に背後の地面が盛り上がって人型になると抱き締めるようにしてホーンテッドの身体を拘束する。

 

「後輩の晴れ舞台だ。しっかり堪能してくれ」

 

「本当にウザいねッ!」

 

 ロークは呟きながら更にホーンテッドの背後の壁を隆起させ、炎の逃げ道を塞ぐように彼の周囲をドーム上に覆う。

 

「レイアッ!余波は気にするなッ!思いっきりぶちかませッ!」

 

 ロークの叫びにレイアは静かに執行人の如く自身が従える竜に命令を下す。

 

「炎葬」

 

 溜め込まれた膨大な霊力がサラマンダーの口腔に集まり、太陽の如き輝きと共に灼熱の業火がホーンテッドを目掛けて解き放たれる。

 

「くッ!」

 

 今までの吐息とは比較にならない熱量と霊力の込められた業火は穴蔵に篭った賊を瞬時に飲み込み、二人の視界を赤く染め上げた。

 

 


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