真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第33話

 

「…………」

 

 サラマンダーのブレスの余波で半分以上破壊された土壁を解除しながら視界の先に映った景色を見てロークは思わず絶句する。

 

 まるで焼け野原のようになってしまった大地には周囲に被害を抑えると同時に炎を閉じ込める為に形成したドーム状の土壁も跡形もなく消し飛んでいる辺り、その威力の凄まじさを示している。

 

 というか今の一撃に限って言えば下手するとミーシャの放つ霊術の威力さえも超えていたかも知れない。それ程に強力な一撃だった。

 

「はぁ、はぁ…」

 

「グルル……」

 

 横で額から汗を流しなら荒い呼吸をするレイアと疲れた様子で唸るサラマンダーの様子から今の一撃で相当消耗しているのが分かる。あの威力を考えれば当然と言えば当然だろう。

 

「流石に…疲れましたね」

 

「大丈夫か?」

 

「……はい、ちょっと霊力的にキツいですが、問題は無いです」

 

「ああ、とりあえず少しでも休んでおけ」

 

 疲れ切ったレイアにロークはそう言うとふわりと周囲に四体の微精霊を浮かばせながら未だ何の反応も見せないホーンテッドがいるであろう焼け野原へと視線を向ける。

 

「割と真面目に殺す気でやったんですけど、アレでもダメですか…?」

 

「効いてるとは思うけどな、終わったって感じは無いな」

 

「邪霊は使役してるし…本当に何者なんですか、あの人?」

 

 うんざりした表情で呟くレイアにロークも内心で激しく同意する。

 人の才能を勝手にあーだこーだと決め付ける上に勝手に仲間になれだの何だの、マジで何なんだ。

 

「———ッ!」

 

「マジかよ…」

 

 ゾクリと背筋が凍らせるような生臭く禍々しい気配が前方から放たれる。咄嗟に身構えるロークとレイアの前に地面からドロリと血のような赤い霊力が溢れ出すと共に上半身が裸になったホーンテッドの姿が現れた。

 

「……ふぅ」

 

 ホーンテッドは絶句する二人を他所に身体に着いた土や灰を払いながらため息を漏らす。

 

「流石に殺されるかと思ったよ、全く」

 

「嘘……」

 

 服こそ焼け落ちて身体にも火傷の痕こそ残っているが、それだけだ。ホーンテッドの様子から疲労こそ感じられるが、依然として健在であることには間違いなかった。

 

 

「化物が……」

 

「褒め言葉としてありがたく受け取ろうか」

 

 

 

 ロークが思わず毒づくとホーンテッドはそう答えて手にしている剣をこちらに差し向ける。

 

 

「殺すつもりまでは無かったけど、君ちょっと邪魔だね。死のうか」

 

「ッ!!」

 

 剣を差し向けられた瞬間、レイアは全身の毛が逆立つような恐怖に駆られ身体がまるで金縛りにあったかのように動かなくなる。先程までのヘラヘラした雰囲気から一転、冷徹な殺気を纏うホーンテッドは怯えるレイアに対して躊躇いなく霊術を発動させる。

 

「ヴラド、串刺しの刑だ」

 

 

 応じるように剣精霊が赤く輝き出すとホーンテッドの周囲の地面が赤く染まったかと思うと、無数の真紅の槍が地面から矢のようにレイアを目掛けて放たれる。

 

「チッ!」

 

 迫ってくる槍の雨にロークは舌打ちをすると霊術を発動させ、咄嗟に土で自分達を覆うように天井を形成するが放たれた槍は一撃一撃が重く、瞬く間に天井が破壊されていく。

 

 その勢いに次の天井を形成したところで無駄だと判断したロークは素早くレイアの身体を掴むと槍の雨の範囲から抜けるべく駆け出す。

 

「くッ!」

 

 眼前へと迫ってくる槍に対して剣を振るい、弾き飛ばしていくがその威力の強さに数本を弾いただけで腕が痺れる。更に捌き切れなかった槍が身体を掠めて血が舞う。

 

「ガァァァアッ!?」

 

「サラマンダーッ!」

 

 マズいと判断したサラマンダーが二人を覆うように翼を広げて守ろうとするが、背中に突き刺さる無数の槍に苦しみの声を上げる。やがて先程の一撃で霊力を消耗していたこともあり、ついにその存在を保てなくなったサラマンダーが消滅する。

 

「これで邪魔なトカゲが消えたね」

 

「ふざけやがってッ!」

 

 更に迫ってくる槍に怒りの声を漏らしながらロークは駆け出す。けれど勢いを増して迫ってくる槍の雨からロークが逃げ切るには絶望的だった。

 

「先輩ッ!私を置いて行って下さい!先輩一人なら———」

 

「守り切れるから黙っとけッ!」

 

 ロークは腕の中で騒ぐレイアをそう言って制すと逃げ切ることを諦めて踵を返し、腕に力を込める。止むを得ないが使うしかない。

 

「颶風剣ッ!」

 

 風の微精霊の力が剣精霊に宿り、暴風が荒れ狂う。

 ロークは強く足を踏み込むと気合一閃、剣を横薙ぎに振るう。剣から放たれた風は大気の壁となり、迫ってくる槍を阻んでいく。

 

 そのまま迫り来る槍に対して二度、三度と風を放つことでようやく霊術を凌ぎ切ることができたロークの呼吸は荒かった。攻撃を防ぐ為に出力を最大にし続けた為、颶風剣は解除されており、消耗した霊力も少なくない。

 

「はぁ、はぁ…」

 

「逃さないよ」

 

 ホーンテッドはそんなロークを冷徹に眺めながらくるりと剣を逆手に持ち直すとそのまま地面に突き刺す。

 

「がッ!?」

 

 するとロークの足元が赤く染まり、次の瞬間には地面から生えてきた槍がロークの身体を貫いた。

 

「先輩ッ!」

 

 そのロークの姿を見てレイアから悲痛な声が上がる。

 咄嗟の判断でロークに投げ飛ばされたレイアは霊術に巻き込まれ無かったが、結果としてローク自身は逃げるタイミングを失い、串刺しにされてしまった。

 

「間違えた。君には死んで貰っちゃ困る」

 

 ホーンテッドは僅かに顔を顰めなから地面から剣を抜くと同時にロークを突き刺していた槍が液体となって消滅する。ドサリと地面に倒れ込むロークの姿にレイアが慌てて駆け寄る。

 

「ローク先輩ッ!」

 

「ぐッ」

 

 急所こそ避けられているがそれでも充分に重傷だった。放置していては命にすら関わるであろうロークの傷を少しでも癒すべくなけなしの霊力を振り絞って治癒術を施そうとしたレイアはそこで地面を踏む音が耳に入り、顔を上げる。

 

「あ…」

 

 そこには冷徹な瞳でレイアを見下ろすホーンテッドの姿があった。

 

「あの一撃こそ良かったけど、それ以外は見事にお荷物だったね」

 

「……ッ!」

 

 ホーンテッドから告げられた言葉がレイアの心に深く突き刺さる。そうだ、リベンジマッチと言って必殺の一撃まで使ったというのに結果を見れば先輩の足を引っ張ってばかりだ。

 

 そもそも自分が参加しなければ、先輩一人ならこんな結果にならなかったのでは? 

 

 後悔の念がぐるぐると頭の中を蠢き、目の前の敵を前にしてレイアはまともな思考すらできなくなってしまう。

 

「…………」

 

 そんなレイアを嘲笑しながらホーンテッドは緩やかに剣を持ち上げるとそのまま項垂れるレイアの首を切断するべく、振り下ろす。

 

 

 

 

 

「誰が……お荷物だって?」

 

 

 ギィンと振り下ろされた紅の剣はレイアの首へと届く前にロークの掲げた剣によって妨げられる。

  

「まだ動けるんだ、流石だね」

 

「そんなことより、俺の後輩がお荷物だって?」

 

 ギロリと顔を上げたロークの瞳はそのボロボロの身体とは裏腹に未だ鋭い眼光を放っており、睨み付けられたホーンテッドの背に薄寒いものが走る。

 

「…………」

 

「ハッ、どうやらアンタ…相当アホらしいな」

 

 ロークは無言のホーンテッドを嘲笑いながら腕に力を込める。

 

「俺を勧誘した辺りからセンスねぇとは思ってたが……」

 

「………ッ!」

 

 少しずつ、けれど確実に振り下ろした剣がロークによって押し返され始めたことにホーンテッドは驚く。

 

 ————コイツ、どこにこんな力を……。

 

 

「折角だから教えといてやるが、俺なんかより……レイアの方が百倍優秀だわッ!!」   

 

 ————そもそもサラマンダーなんて精霊と契約している時点で俺より上に決まってんだろうがッ!!

 

「ッ!」

 

「ッ!?」

 

 憤怒を込めたロークの剣によって押し返されたホーンテッドは僅かに背後に後退する。

 

「……はぁ、はぁ」

 

「………先輩」

 

「あんな狂人の言葉なんぞ気にするなレイア。それに……」

 

 目を見開きながら顔を上げるレイアの頭をポンと叩きながらロークはそう言うとニヤリと笑みを浮かべる。

 

「お前のお陰で俺達の勝ちだ」

 

「えっ?」

 

 ロークの言葉に意味が分からずレイアが困惑した直後だった。

 

 

 どこから飛んできたのか、空からホーンテッドとローク達の間に一本の銀槍が降ってきて地面に突き刺さる。

 

「……あれは」

 

「……槍?」

 

 突然降ってきた銀槍を前にしてレイアとホーンテッドは訝しげな視線を向ける。訳が分からないが、今の優先事項はレイアの抹殺とロークの捕獲。

 

 故にホーンテッドは銀槍を無視して二人の下へ駆けようとすると、まるで狙ったかのようなタイミングで銀槍はまるでその形を液体のように揺らがせる。

 

 そして次の瞬間には向かってきたホーンテッドに対してまるで剣山の如く無数の剣をその表面から生やした。

 

「これはッ!?」

 

 迫ってきた無数の刃をホーンテッドは咄嗟に回避しようとするも数本の刃が右足と左腕を貫き、後退こそできたが痛みで一時的にその場に蹲ってしまう。

 

 

 

「先輩…何が」  

 

 

「決まってるだろ」

 

 

 困惑するレイアに対してロークは勝ち気な笑みを浮かべながら答える。

 

 

 

「我らが鬼の風紀委員長様のお出ましだ」

 

 

「鬼は余計だ」

 

 

 ロークの言葉に訂正を入れながら空から二つの影が現れる。

 片や銀色の甲冑を纏った騎士の姿をした精霊、そうしてもう片方は後ろで一つに纏めた茶髪を揺らす風紀の腕章を纏ったユートレア学院指定の制服を纏った高身長の少年。

 

 

 学年第四位、ロクスレイ・ウォーバルト。

 

 

 

 

「…面倒な」

 

「……………」

 

 厄介な新手の出現に顔を歪ませるホーンテッドに対してロクスレイは探るように目を細める。

 

「ローク」

 

「はい」

 

「学院に戻る途中、凄まじい霊力と火柱が見えたから様子を見に来たが……これはどういう状況だ?アイツは誰だ?しかも、どうしてお前はそんなにボロボロなんだ?」

 

「あのヤバい奴にやられた」

 

「詳しく言え」

 

 ギロリとロクスレイに睨み付けられたロークはその眼光の鋭さに若干ビビりながら慌てて補足をする。

 

「学院を襲撃した一味で且つ、邪霊と契約できて四凶の封印を解こうとしているヤバい奴です」

 

「予想以上に色々な情報が出てきたな……」 

 

 ロークの説明を聞いたロクスレイは顔を顰めながら改めてホーンテッドへ視線を向ける。

 

 確かに言われてみればホーンテッドの持つ紅い剣精霊からは禍々しい闇の魔力が感じ取れる。邪霊で間違いないだろう。

 

「本当に邪霊と契約してるのか?」

 

「ああ、それは間違いない」

 

「やれやれ、寄り道するんじゃなかった」

 

 面倒ごとに関わってしまったとため息混じりにロクスレイが呟くと同時に剣山のような状態になっていた銀槍が元の槍の形へと戻ると一人で浮き上がり、ロクスレイの精霊である騎士の手元へと戻る。

 

「……邪魔をしないでくれないか?」

 

「あ?」

 

 唐突に呟かれたホーンテッドの言葉にロクスレイは訝しげな表情で聞き返す。

 

「僕は君の後ろにいるロークくんを捕まえたいだけでね、それさえ終わればもう用はないんだ」

 

「ほう?」

 

 ロクスレイが背後を振り返るとロークはブンブン首を横に振り、行きたくないアピールをする。それを確認して再び前方のホーンテッドへと視線を戻すと改めて先を促す。

 

「…で、何が言いたい?」

 

「彼さえ譲ってくれれば君たちは見逃そう。だから退いてくれないか?」

 

「……俺個人としては別に構わないが」

 

「ちょっと待って」

 

 助かったと思った側から同級生に見捨てられそうになり、思わず声を上げるロークだが無視してロクスレイは話を続ける。

 

「学院の仲間を売ることは風紀委員としてする訳にはいかないな」

 

「そうか、それなら——」

 

「それと、もう一つ。何か勘違いをしてるみたいだから言っておくが」

 

 

 

 ホーンテッドの言葉を遮ってロクスレイは霊力を放ちながら告げる。

 

 

「今、危機的状況なのはお前だぞ?」

 

 

 ロクスレイの言葉と共に騎士が動いたかと思うと槍を突き出し、ホーンテッドの身体を貫いた。

 

 

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