真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第34話

 

 高速で騎士から何度も放たれる銀の槍をホーンテッドは危なげなく回避しながらカウンターの斬撃を放つ。迫り来る紅の凶刃に対して騎士は素早くその軌道に合わせて盾を構えて斬撃を受け止める。

 

 

「単調な攻撃だね」

 

「……銀騎士」

 

 精霊が放って来る攻撃の動きの速度は確かに速いが、フェイントも無い直線的な突きばかりで躱すことは難しくない。嘲るような口調で言い放つホーンテッドに対してロクスレイは言葉を返さず、代わりに静かに自身の契約精霊へと指示を与える。

 

「ッ!」

 

 瞬間、ロクスレイの精霊『銀騎士』の持つ銀槍がその硬さを失い、フニャフニャと先端から地面に垂れる。

 

「ほう」

 

『……ッ!』

 

 驚くホーンテッドに対して銀騎士は槍から鞭へと変化した己の得物を力一杯に振り回す。先程の突きによる単調な攻撃から一転、変則的な軌道を描きながら迫ってくる銀の鞭を前にしてホーンテッドは剣で受け流しながら打撃を凌いでいく。

 

「その精霊、どうやらまだまだ仕掛けがあるみたいだね」

 

「期待はしないでくれよ」

 

 ホーンテッドの軽口にロクスレイが応じている中、銀騎士は更に鞭を振り回す。周囲の地面を砕くほどの威力を見せる銀の鞭はけれどもホーンテッドには届かない。彼は迫ってくる鞭を躱し、あるいは剣で左右へと受け流しながら距離を詰めるべく前へと出る。

 

 接近してくるホーンテッドに対して銀騎士は再び得物を変化させる。まるで蛇のように唸っていた銀の鞭が銀騎士の手にしている柄へと収束されたかと思うと今度はその形状を剣へと変化させた。

 

「ははッ!変幻自在だな!」

 

 面白いと笑いながらホーンテッドは地面を強く踏むと勢い良く銀騎士に斬り掛かる。銀騎士は迫ってくる紅剣を盾で受け止めるとカウンターでホーンテッドの首目掛けて剣を突き出す。

 

 迫ってくる剣を首を傾けて軽々と避けたホーンテッドは身体を回転させて勢いを付けると仕返しとばかりに銀騎士の胴体目掛けて蹴りを放つ。銀騎士は迫ってくる蹴りを咄嗟に盾で防御したが、盾から伝わってくる予想超える衝撃にたたらを踏んでしまう。

 

 そして、ホーンテッドはその致命的な隙を逃さなかった。

 

「悪くはないけど、落第点だね」

 

 ホーンテッドは銀騎士をそう断じると剣に霊力を込める。ホーンテッドは霊力を喰らって禍々しい輝き光を放つ剣精霊を無防備な銀騎士へと突き出すと同時にその身に宿した霊力を砲弾の標的へと解き放った。

 

『ッ!?』

 

「…………」

 

 驚いた様子で目を見開くロクスレイが見たのは銀騎士の鎧に覆われた胴体の中心にまるで元から何も無かったかのようにポッカリと風穴が開き、その動きを止めた姿だった。

 

「さて、少し時間は掛かったけどお終いだ」

 

 ホーンテッドは胴体を貫かれたことで限界を迎え、動かなくなった銀騎士には目を向けずに精霊師であるロクスレイを斬るべく足を踏み込むと一気に距離を詰める。

 

 

 

「委員長ッ!」

 

 その様子を見たレイアが慌てて立ち上がろうとするが少ない霊力もロークの治癒に使った為、霊力不足でまともに身体を動かすことができず結果的に彼女ができたのは叫ぶことだけだった。

 

「心配するな」

 

 そんなレイアをロークは落ち着き払った様子で嗜める。

 

「寧ろ、ここからだ」

 

「えっ?」

 

 ロークの言葉の意味が理解できず、どういう意味だとレイアが尋ねようとして、彼女の視界にその答えが映し出される。

 

 

「がぁッ!」

 

 衝撃と共にホーンテッドの腹部を貫く銀の矛。ロクスレイに攻撃を仕掛けようとしたホーンテッドは予想もしない背後からの攻撃に驚きながら刃の発生源を確認するべく背後を振り返る。

 

「なッ!?」

 

 ホーンテッドが振り返った先にいたのは風穴を開けられて動けなくなった筈の銀騎士がその身体の一部を槍のように変化させて自身の身体へと突き立てた姿だった。

 

「まさか……ッ!」

 

「みんな、勘違いするんだよな」

 

 驚きによって隙を見せてしまったホーンテッドにロクスレイはニヤリと笑みを浮かべながら駆け出す。そのままホーンテッドを突き刺して貫通した銀の矛先を掴み取ると再びその形を変形させる。

 

 どんどん矛先が膨らんでいき、やがて槌のような鈍器へと変形するとロクスレイは柄の部分を両手で握り締めながら動揺しているホーンテッドの横面に向かって力の限り振るう。

 

 ゴンッと鈍い音が響き渡り、同時にホーンテッドの身体が勢いよく回転しながら彼方へと吹っ飛んでいく。

 

「銀装剣舞五十五式」

 

 ロクスレイの指示の下、銀騎士の身体から五十五本に及ぶ銀の剣を生み出したかと思うとその全てを蛸の触手のように伸ばながら大きく振り上げ、ホーンテッドへと差し向ける。

 

「ちッ!」

 

 体勢を立て直して地面に着地したホーンテッドは空からまるで雨のように降ってくる銀剣の群れを前にして、回避が間に合わないことを悟ると剣を盾にして防御の構えを取った。

 

 

 直後、ホーンテッドの身体は頭上から降ってきた銀の雨に飲み込まれた。

 

*****

 

「アレは……何ですか?」

 

「あれがロクスレイの契約精霊だ」

 

 驚いた表情を浮かべるレイアにロークが告げる。

 まるで銀色のゼリー状のようになった銀騎士はウネウネと不気味に身体をくねらせている。その姿は先程の鎧兜を纏った騎士の姿とは似ても似つかない。

 

「メタルスライム。それが銀騎士の正体だ」

 

「メタルスライム……初めて見ました」

 

 予想もしていなかったロクスレイの契約精霊の正体にレイアは驚愕の表情を浮かべながら銀騎士へと視線を向ける。

 

 低位の水精霊であるスライムの中でも唯一、金属としての性質も併せ持つ精霊メタルスライム。その存在の希少さは様々な精霊たちと比較しても群を抜いて高く、また臆病な性格の為に契約することが難しいことで有名だ。

 

「だろうな、俺も契約精霊にしてる奴を見たのは委員長が初めてだよ」

 

「でも、メタルスライムでここまであの男を圧倒するなんて………」

 

 メタルスライムは希少というだけ、そのスペックが決して高い訳では無い。確かに普通のスライムと比較すれば圧倒的な強さは持つが、それでもカイルの蛟をはじめとした高位の水精霊たちには単体で言えば到底及ぶことなど無い筈だ。

 

 けれども蓋を開ければロクスレイはロークとサラマンダー二人掛かりで苦戦していた相手を余裕すら見せながら戦っている。

 

「それが委員長の実力だよ」 

 

 ロークはロクスレイに敬意を抱きながら語る。 

 恐らく学院の中でも契約している精霊の格は中の下程度であろう。

 事実、そのせいでロクスレイは家でも学院内でも入学当初はロークと同様に周囲から見下されていた。けれども彼はそんな周囲の視線など気に留めず自身の精霊と向き合い続け、やがて彼は風紀委員長の地位を襲名し、そして学院四位まで登り詰めるに至っている。

 

 ミーシャやトラルウスたちが最初から類い稀な実力を備える天才型だとすればロクスレイは努力と試行錯誤によって実力を得た秀才型と言えるだろう。  

 

 似たような境遇の身であるロークとしてはロクスレイに敬意を抱かずにはいられなかった。

 

「でも何で最初は騎士の姿に……」

 

 最後の銀騎士の動きを見ている限り、騎士の形をしているよりも全身を武器に変化させて戦っていた方が強かったように思える。

 

「アレは相手に俺の契約精霊を誤認させて先手を取るためだ」

 

 予想以上に近くから声が聞こえてきてレイアが驚きながら振り返ればいつの間に近付いたのか、ロクスレイがすぐ側に立っていた。

 

「事実、俺の契約精霊を騎士精霊と勘違いしたアイツに一発入れられただろ」

 

「確かに、そうですね」

 

 言われてレイアは納得する。確かに今の一連の攻撃はホーンテッドがロクスレイの契約精霊を誤認したが為に完全に油断した隙を突いたことで行えたものだ。

 

「まぁ、全然足りないようだが……」

 

 剣を変化させていた銀騎士の身体を普段の騎士形態へと戻して側へと退かせていたロクスレイは砂煙の中からゆらゆらと立ち上がる影を確認する。

 

「まさかメタルスライムとは。全く、一本取られたね」

 

「何が一本だ、不気味な奴が」

 

 見事だと褒め称えてくるホーンテッドにロクスレイは心底気持ち悪いと言わんばかりに顔を顰めながら呟く。

 

「………お前、本当に人間か?」

 

「失礼な子だな、人間以外の何に見えるんだ?」

 

「…………」

 

 ロクスレイの言葉にロークも同意しながらホーンテッドへと視線を向ける。曝け出しになっている鍛え上げられたホーンテッドの上半身は砂埃や砂利で汚れているが、それだけだった。

 

 そう、それだけなのだ。今さっき銀騎士が貫いた筈の無数の刺傷もロークが刻み付けた幾つもの斬痕もサラマンダーによる火傷もその全てが身体から綺麗さっぱり消えている。

 

「ただの治癒術……じゃないよな」

 

 与えた傷が再生していること自体には気付いていた。けれどもそれも治癒術で再生させられる範囲だと納得できていたが、この再生能力は異常だ。

 

 傷跡すら残さない再生力は勿論、それ以上に再生速度が異常過ぎる。ロクスレイの攻撃は戦闘不能にするには充分な程のダメージを与えていた筈だが、それをこの短時間でまるで元から傷を負っていなかったと思うほどにまで再生させている。

 

「さて、仕切り直しといこうか。えーっと確か第四ラウンドだっよね?あれ、三かな?」

 

「知るか」

 

「最終ラウンドだって言ってるだろ」

 

 首を傾げるホーンテッドにロクスレイが吐き捨てるように言い放つとその後ろからノロノロと立ち上がりながら呟いた。

 

「先輩ッ!」

 

「治癒ありがとな、お陰で動けるようになった」

 

 ロークは慌てて止めようとするレイアの手を礼を述べながら退けるとロクスレイの隣へと並ぶ。

 

「傷は良いのか?」

 

「まぁな、マシになった」

 

 肩を回しながら呟くロークの言葉にレイアは内心でそんな筈は無いと否定する。外面だけ見れば少なからず治っているように見えるが中身は未だボロボロだ。今も絶えず身体を動かす度に凄まじい痛みを発している筈なのに、けれどもロークはその様子を少しも顔に出さなかった。

 

 

「じゃあ、メイン行くか?」

 

「………サポートで」 

 

「ハッ」

 

 ロークの若干気まずげな返答に笑いながらロクスレイが手を前に出すとその動きに合わせて銀騎士の身体が細長く伸ばしやながら主人の眼前へと移動する。

 

 やがて銀騎士の姿が一本の銀槍になり、ロクスレイは槍となった銀騎士を掴み取ると慣れた手つきで槍をくるくると回す。

 

「なら、わざわざ出張ってきた以上はしっかり援護しろよ」

 

「言われずとも」

 

「いいね、盛り上がってきた!」

 

 ロクスレイの言葉に応じながらロークは再び微精霊を周囲に集める。ロークが参戦したことでテンションが上がってきたのか笑みを浮かべるホーンテッドが剣を構えたところで何かに気付いた様子で視線を廃神殿へと向けた。

 

「マジか、時間切れか」

 

「は?」

 

 ホーンテッドがショックを受けた様子でため息混じりに呟いた直後だった。

 

 廃神殿の入り口から四つの影がこちらに向かって飛び出してきた。驚きながらロークが視線を向ければ現れた相手はホーンテッドの仲間であるデヤンとボラー、そして二人を追従するデヤンの精霊である二体の人狼だった。

 

 まさか援軍かとロークとレイアが警戒を強め、何者かを知らないロクスレイが困惑していると更にその背後から大きな霊力が放たれる。

 

 何事かと思っていると出口から大量の水が激流の如く溢れ、更にその水に押し出されるように一体のボロボロになった人狼が地面へと転がり込んだ。

 

「ホーンテッド、撤退するぞ」

 

「えー、まだ勧誘終わって無いですよ!」

 

「遅過ぎだ。こっちの目的は完了した」

 

「横ぼ、グェッ!?」

 

 デヤンの指示に不満を言うホーンテットだったが、問答無用と言わんばかりの様子で人狼の一体がホーンテッドの首にガブリと噛み付くとそのままローク達を無視ししてズルズルと引き摺りながら走り出す。

 

「ちょッ、クソ痛い!」

 

「ボラー」

 

「避影」

 

「ちょっとまっ——」

 

 デヤンに声を掛けられたボラーが腕に刻まれた契約紋を輝かせる。するとボラーの足元の影が広がり、三人と二体の精霊達はあっという間に影の中に沈み、そのまま姿を消してしまう。

 

「……撤退したようだな」

 

「……だな」

 

 三人が消えた後も暫く周囲を警戒し続けたロクスレイとロークだったが、周辺に霊力も気配も感じられなくなったことでようやく相手が引いたことを確信する。

 

「折角やる気になってたんだけどな…」

 

「俺としては助か……」

 

 相手が引いたことで気が抜けたのだろう。元々限界が近かったロークはロクスレイの軽口に言葉を返す途中で膝を突くとそのまま重力に従って倒れ掛ける。

 

「っと、やっぱり限界か」

 

「先輩ッ!」

 

「………ぁ、すま…ん……無……理」

 

 倒れる身体を支えてくれたロクスレイと慌てて駆け寄ってきたレイアに最後の力を振り絞って謝罪を述べるとそのまま意識を失った。

 

 

 

 

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