真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第35話

「………」

 

 ゆっくりと目を開けると見覚えのある白い天井が視界に入った。後頭部と背中に当たる柔らかい感触や室内に香る薬品の匂いと言い、学院の保健室のベッドの上にいると考えて良いだろう。

 

「あ、アレアスくん、目を覚ましたか?」

 

「……ミネア」

 

 ゆっくりと上げると保健委員の証である赤十字が描かれた腕章を付けた少女、保健委員長であるミネア・フローレンスが立っていた。

 青みがかった長髪、泣きぼくろのある綺麗な顔立ちは常に優しげで全体的にスタイルが良く、特に胸元に限って言えば制服の上からでも分かるほど大きな膨らみがあるが、同時にどこか聖者じみた清楚な雰囲気を持っている為か、劣情を抱く男子は思いの外、少ないらしい。

 

「お身体の方に異常はありませんか?」

 

「ああ、大丈夫。問題無いよ」

 

 身体の感覚を確かめる為に肩を回してみたりしながら問題無いことを確認して言うとミネアは安心した様子で笑みを浮かべる。

 

「なら良かったです。半日起きずに眠ってたので可愛い後輩が心配してましたよ?」

 

「……?」

 

 言われてミネアの視線を追うように隣へと視線を向ければ両腕を枕にしてうつ伏せに眠っているレイアの姿があった。

 

「ずっといたのか?」

 

「ええ、先生が見ているから寮に戻るようにと言っていたみたいですが、残ると言って聞かなかったようですよ」

 

「……………」

 

 あんな騒ぎの後だ。自分だって疲れているだろうにわざわざ付き添ってくれるとは、俺のことを相当心配してくれているのが分かった。

 

 とジッとレイアを見ていると彼女は俺が起きたことを察知したのかゆっくりと顔を上げると寝惚けた瞳でこちらを見つめた。

 

「せん…ぱい?」

 

「おはよう、お互いに苦労したな」

 

 まだ脳が覚醒しきってないらしく一瞬ボケッとした様子で俺の姿を見つめていたが、やがて状況を理解したのか目を大きく開き驚いた表情を浮かべる。

 

「先輩ッ!?」

 

「お、おはよう」

 

 いきなり耳元で大声で叫ばれ、キーンとなる耳を抑えながら俺は挨拶をする。

 

「け、怪我は!?大丈夫なんですか!?」

 

「あ、ああ。大丈夫大丈夫!」

 

 すごい顔を近付けながら確認してくるレイアに思わず少し仰反りながら返事をすると彼女は本当に安心したと深い息を吐いた。

 

「………本当に……良かった」

 

「レイアこそ怪我は大丈夫か?」

 

 俺はどでは無いにしても大技を使ったりと霊力の消耗も激しかった筈だ。見る限り大きな怪我を負っているようには見えないが、内部まではどうなっているかは分からない。

 

「はい、大きな怪我は負ってないので大丈夫です」

 

「風紀委員長は?」

 

「特に怪我も無いみたいで、既に学院に復帰してますよ」

 

 俺の質問にミネアが答えてくれた。

 

 そりゃそうか。

 考えてみれば委員長はほとんど怪我を負って無かったし、ピンピンしてるに決まってるか。

 

「にしてもここ最近、アレアスくんは怪我することが多いですね」

 

「相手が悪いんだよ、相手が……」

 

 特に今回は邪霊を操る化物が相手だったし、加えて最後の余裕そうな様子からしても終始手加減されていた感が否めない。正直、こうして生きているだけでも割と奇跡に近いだろう。

 

「すみません。私が足を引っ張ったばかりに」

 

「そんなことは無いだろ。寧ろ大活躍だったじゃないか」

 

 何やら顔を俯かせて申し訳無さそうに話すレイアを否定するように俺は言う。特にサラマンダーの一撃は見事なものだった。加えてアレのお陰で委員長が援軍に来れた訳だし、レイアの存在が勝利に繋がったと言っても過言では無いだろう。

 

「いえ…あの男にも言われたように私は結局お荷物でした」

 

「………」

 

「リベンジなんて言って無理矢理参加させて貰いながら私は……ッ」

 

 その表情を見ることは叶わないが、膝に零れる水滴を見てどんな表情かを察して困惑する。どうするべきか助けるようにミネアへと視線を向けると彼女は知らんフリして奥へと姿を消してしまう。

 

「…………」

 

 涙を流す女の子の後輩なんてどう慰めろと言うのか。思わず頭を掻きながらなんて言葉を掛けようか悩むが、残念ながら良い言葉は出てこない。

 

「…………なぁ、レイア」

 

 故に止むを得ないので素直に思ったことを口にすることにした。

 

「まず、先に一つだけ訂正するけど俺はお前が思ってるほど強くないぞ?マジで。俺一人じゃ、絶対にアイツに勝てなかったよ」

 

 謙遜でも何でもなく俺は当たり前の事実を告げる。

 周囲が才能あるだの何だと言おうが関係ない。勝てないものは勝てないのだ。

 

「かと言ってお前一人でも絶対に勝てないだろうな。まぁ、相手がアレだし当たり前だけど」

 

「………」

 

 これも当たり前だ。

 まぁ、あんな奴を相手に一人で勝てる可能性がある学生なんて王女様くらいなもんだろう。

 

「今回の戦いは二人で戦ったからこそ、どうにかなったものだよ」

 

 

「ですが、私は———」

 

「まさかとは思うが、あんな変人が言ったお荷物なんて言葉をずっと気にしてるのか?」

 

 俺の言葉にレイアがビクッと肩を震わせる。どうやら図星のようだ。

 

「……レイア、あの時も言ったろ?そんなことは無いって。お前はよく知る先輩とあの変人の言葉、どっちを信じるんだ?」

 

「それは………」

 

 言葉を詰まらせるレイアに俺は「そもそも」と言葉を続ける。

 

「レイア、お前はまだ一年生だぞ。弱くて当たり前だ」

 

「…………!」

 

「そりゃ、中には入った頃からアホみたいに強い奴らもいるけどな」

 

 ミーシャやトラルウスみたいな奴らは入学当初から無双状態だった。それこそそこら辺の現役の精霊師など敵ではない程の技量を当初から持っていた。

 

「けど大抵の人間はそうじゃない。俺も委員長だって入学当初はめっちゃ弱かったんだぞ?」

 

「あんまり、想像できませんね…」

 

 レイアはそう言うが当初は酷いものだった。契約精霊もおらず、フルボッコにされる日々だった。きっと過去の姿をレイアに見せたら別人だと思われるくらいに酷かった。

 

 

「だから、まぁ…今そんな絶望する必要はないよ」

 

「…………」

 

 その言葉にゆっくりと顔を上げたレイアが俺を見つめる。目元は少し腫れているが、それでもやはり綺麗な容姿をしていると思った。

 

「レイア、ここからだよ。そりゃまだまだ至らないところはあるだろうが、学んで次に活かせばいいだけだ。本当にまだまだこれからだぞ?」

  

「……先輩」

 

「寧ろ今回の戦いも貴重な経験だぞ?あんな相手と本気で戦う経験なんてそうそう無いからな」

 

 まぁ、そうそうあっては堪らないのだが。

 

「今回の経験も、それにこれから学院で学んでいくことをしっかりと活かせ。お前にはそれを吸収できる才能があるんだから」

 

「………」

 

「大丈夫、しっかり努力すれば俺なんて超えられるよ。レイアは伸び代が大きいからな」

 

 そう締め括って最後に笑うとレイアは目を見開き、ポカンとした表情を浮かべながら俺を見つめている。

 

 …………あれ?俺なりにめっちゃ激励したつもりなんだけど、響かなかったかな?

 

 あ、もしかして当たり前だとか思われてる?

 いや、精霊と契約してないし当たり前か。

 

「………ま、まぁ。そういうことだから。頑張って」

 

 何だか恥ずかしくなってきた俺はベッドから起き上がると未だ重い身体を動かして保健室の出口へと向かう。すると俺が出て行こうとしていることに気付いたミネアが奥から顔を出した。

 

「アレアスくん、もう行くの?身体は平気?」

 

「ああ、腹減ったしもう行くよ。ミネアさん、ありがとうな」

 

 腹減ってないし身体は重いけどこのままレイアの前にいると恐らく身体より精神の方がやられるだろう。

 

 俺はヨロヨロと思い足取りで保健室を出ていくと背後から「あれ、レイアちゃん少し熱ある?休んでいく?」というミネアの声が聞こえた気がした。

 

 

*****

 

「いやぁ、後ちょっとだったんだけどなぁ」

 

「何が後ちょっとだ。まだまだ時間が掛かっただろう」

 

 ソファで横になっているホーンテッドの未練たらたらな言葉にデヤンは呆れ混じりに指摘する。最後の回収のタイミングで見た二人の学生、間違いなくちょっとで済むような相手では無かった。

 

「そもそも、デヤンさんがもう少し耐えてくれればな」

 

「こっちも『霊装化』を使われた。悪いがアレ以上は無理だ」

 

「マジですか。あの教師、使えたんですか」

 

 デヤンの話を聞いたホーンテッドは驚きで目を見開く。確かに厄介な相手とは思っていたが、まさかそこまでとは。

 

 霊装化。

 精霊との固い絆、そして圧倒的なセンスを持つ精霊師たちが扱える技術の一つだが、この技を使える精霊師は少ない。三百年程前、敵味方共に猛者達しかいなかったあの頃ならともかく、今の王国精霊師団では数える程しかいないだろう。

 

「それは残念、その状態のアイツと戦ってみたかったですね」

 

「お前が戦ったら神殿壊すだろ」

 

 デヤンは残念そうに呟くホーンテッドに顔を顰める。仮にあの教師とホーンテッドが本気で戦ったら加減を知らないコイツは間違いなく神殿をぶっ壊すことだろう。

 

「酷いっすねぇ。俺だってちゃんとセーブしますよ」

 

「どうだか……。それより、お気に入りのローク・アレアスはどうだったんだ?」

 

「90点ってところですね」

 

 どうやら相当高評価だったらしい。ニヤニヤと楽しそうに笑う彼の姿からも満足な結果だったことが分かる。

 

「どうやら相当削られたみたいだな?」

 

「お陰様でね。まぁ、これはどちらかと言えば他を舐め過ぎましたね」

 

 特にあのサラマンダーの炎は予想外だった。アレほどの威力を持つ技を持っているとは思わなかった。お陰で予想以上に消耗させられてしまった。

 

「で、彼の10点分の減点の理由は?」

 

「力を使わないことですね。いや、使い方を知らないだけか?」

 

 ホーンテッドはロークとの記憶を振り返りながら思う。何やら追い詰められている表情を浮かべていた彼だったが、逆転の手段はしっかりと持っていた筈だ。

 

「少なくともあの巻物には入ってた筈なんですけどねぇ。何を躊躇ったんだか……」  

 

「ああ、例の邪霊か。そう言えばそうだったな」

 

 堕天使の封印を捜索する為に各地に簡易契約を結んで放たれた高位邪霊の一体、それを倒した挙句に回収したのがローク・アレアスだった。

 

 アレから組織内での少年の注目度が一気に上がった訳だが……。

 

「何だか運命を感じますね、色々と」   

 

「運命?」

 

「色々と時期が重なってるなと思いましてね……」

 

 首を傾げるデヤンを無視してホーンテッドはソファから体を起こし、ゆっくりと立ち上がる。

 

「はぁ、そろそろ行きますか。次は鍵ですっけ?」

 

「ああ、連続の任務で申し訳ないが頼むぞ」

 

「はいはい、ボラーさん。移動よろしく」

 

「…………」

 

 ゴキゴキと関節を鳴らしながら言うホーンテッドの足元の影が広がり、彼は次の任務に向かった。

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