真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第38話

 シグルムに乗りながらジュデッカの森周辺まで来たロークとガレスは森で準備をしているであろうオーウェンの姿を探そうとして視線を眼下に向けようとして、そこでこちらに向かって飛来してくる一匹の精霊の姿が視界に入った。

 

 

「これは」

 

「ワイアームか!」

 

 バサリと翼を広げながら二人の前に現れたのは、足の無いどこか蛇を彷彿とさせる姿をした小型の竜精霊ワイアームだった。すぐさま剣を構え、ベオウルフを呼び出して臨戦態勢に入ろうとするガレスにロークは「待て、違う」と静止の声を掛ける。

 

「おい」

 

「大丈夫だ」

 

 一瞬、シグルムに反応して襲い掛かってきたのかとガレス同様にロークも身構えたがよくよく考えればワイアームはジュデッカの森には生息してないし、もっと言えばシグルムも特に敵愾心を見せていない。

 

 ほぼ確実にオーウェンが簡易契約で従えている精霊だと判断して問題無いだろう。それを裏付けるようにワイアームは一向にこちらを襲うような様子は見せず、こちらの様子を伺うようにジッとこちらを見つめている。

 

「ただの案内役だよ」

 

「案内役が竜種とは豪華だね……」

 

 

 ワイアームは竜種の中で言えば低位であることは間違いないが、それでも他の種に比べれば獰猛で危険であることには違いない。それを当たり前のように簡易契約で従えるロークの師にガレスは静かに戦慄していた。

 

 そんなガレスの内心を無視するようにワイアームは翼を広げると二人を先導するように飛ぶとロークもシグルムに後を追うように指示を出し、二体の精霊はジュデッカの森の上空を飛行する。

 

 そのまま数分程、飛び続けているとワイアームが真下の開けた場所にゆっくりと降下を初め、追うように降りて行くと倒木に腰掛けているオーウェンの姿が目に入った。

 

「お、しっかりと来れたね」

 

「ワイアームが来て少しビビりましたよ」

 

「いやぁ、適当な精霊だともし途中で野良精霊に襲われたらと心配になってね。まぁ、無事に辿り着けたんだから良いじゃないか」

 

 ロークはシグルムの背から降りながら案内役に竜種を使ったことに苦言を呈する。

 けれどオーウェンは気にするなど笑いながら言うと倒木から立ち上がり、ロークに続いて降りてきたガレスへと視線を向けた。

 

 

「それで、そっちの君がロークの友人の……って、これはこれはオーロット家のご子息じゃないか」

 

「お初にお目にかかります、ガレス・オーロットです。お貴方がロークの師匠の……」

 

「僕はオーウェン・リブリア。一応、ロークの師匠をさせて貰ってる。今回は宜しく頼むよ」

 

 想像もしていなかったロークの友人にオーウェンが驚きながら挨拶をするとガレスはその名前を聞いて驚いた表情を浮かべる。

 

「…えっ、オーウェンって………あの《踏破者》オーウェンさんですか!?」

 

「……ん?ああ、そう言えば一時期そんな呼ばれ方をしていた時期があったね」

 

「師匠、そんな二つ名を持ってたんですか?」

 

 聞き覚えのない言葉にロークがシグルムを封霊石へと戻しながら尋ねると同じようにワイアームを封霊石へと戻したオーウェンが答える前にガレスが有り得ないと言わんばかりに口を開いた。

 

「お前、弟子のくせに知らないのか!オーウェン・リブリアと言えば古代遺跡の中でも最難関と呼ばれる遺跡の一つ、影の魔宮の踏破に成功した精霊師達の一人だぞッ!?」

 

「え、師匠って影の魔宮を踏破してたんですか!?」

 

「まぁね、と言っても僕がイケイケだった時代の話だよ」

 

 いつになく興奮した様子で語るガレスにロークは驚きの表情を浮かべながらオーウェンを見つめる。確かに影の魔宮に潜ったという話自体はロークも聞いたことがあった。地下に広がる広大な迷宮のような形をした古代遺跡でその危険度は他の古代遺跡とは一線を画すと言われ、数多くの貴重な財宝が眠っていることから今尚、多くの精霊師が足を運ぶと聞いている。

 

 その例に漏れずオーウェンも魔宮の恩恵にあやかろうと何度か潜ったとは言っていたが、まさか踏破しているとは思わなかった。

 

「しかもやたらと担ぎ上げられてるけど別に最奥に辿り着いただけだからなぁ…。踏破者って言われるのは少し大袈裟だから嫌なんだよね」

 

「いえ、そんな大袈裟なんてことは…!」

 

 オーウェンはそう言って嫌そうな顔をしているが影の魔宮の最奥に辿り着けた精霊師は未だ彼を含めて二十人程しかいない。大袈裟どころか寧ろ謙遜もいいところだ。

 

「まぁ、あの魔宮の話は置いておこう。今はロークの契約が優先だからね」

 

「は、はい…」

 

「待ってました。師匠、頼みますよ」

 

「頼みますよって、そりゃこっちのセリフだよ」

 

 意気揚々と言うロークにオーウェンは苦笑しながら言い返すと懐から新たに四つの封霊石を取り出し、中に封印されていた精霊を呼び出す。

 

 現れたのはそれぞれ火、水、土、風の四つの属性を司る騎士の姿をした精霊達だった。彼らは現れるなり、オーウェンによって簡易契約を結ばされると彼への忠誠を示すようにその場に跪いた。

 

「行け」

 

 オーウェンが端的に命ずると応じるように精霊達は立ち上がると四方に散り、それぞれが数百メートル程の距離を上げた場所で足を止めると引き抜いた刀剣を地面に突き刺した。

 

 

「四霊封陣」

 

 オーウェンが屈みながら地面に手を当て、霊術を発動させると四体の精霊を基点とした四属性が組み込まれた正方形の結界が展開され、三人を閉じ込めた。

 

「まぁ、とりあえずこれで良いだろう」

 

「「…………」」

 

 とりあえずとオーウェンは言っているが、当たり前のように高位精霊四体同時の簡易契約、そして四つの属性を複雑に複合させた強力な結界はどう見てもとりあえずで片付けられるような技術では無かった。

 それこそ似たような霊術をロークは教わって使用しているが操る精霊の格、霊術の技術量はオーウェンとは比較にならない。

 

 思わず言葉を失っている二人にオーウェンは小さく息を吐きながら立ち上がると訝しげな表情を浮かべる。

 

「ほら、二人ともぼさっとするな。ロークは邪霊の準備、ガレス君は僕と一緒に結界から出るよ」

 

「「は、はい」」

 

 その言葉に我に返った二人はそれぞれ指示に従って動き、ロークは結界の中央で依代を片手に立ち、ガレスはオーウェンと共に結界を出て万が一に備えて魔剣の柄を握りながら待機する。

 

 

「ローク、コッチはいつでも良いよッ!準備が出来次第、始めてくれッ!!」

 

「分かりましたッ!」

 

 結界外から聞こえてきたオーウェンの声に返事をしたロークはその胸中を様々な思いが過っていくのが分かった。恐怖や不安、そしてそれ以上に喜びと興奮がロークの胸中に溢れていた。

 

「………ふぅ」

 

 ロークは目を瞑ると一度、自身の心を落ち着ける為に深呼吸を行う。

 

 やがて心を落ち着けたロークは目を開けると勢いよく依代を広げ、邪霊を呼び出す。

 

「来いッ!!」

 

 紫色の輝きが放たれると共に見覚えのある巨大な胸ビレがロークの視界を覆った。

 

 

*****

 

「さて、始まったね」

 

「アレが、ルナの遺跡の時にロークが倒した邪霊……」

 

 結界の外に出たオーウェンとガレスはロークの眼前に現れたエイのような姿をした高位邪霊を目にしながらそれぞれ呟く。

 

「本当にあの邪霊と契約なんてできるんですか……?」

 

 ガレスは現れた邪霊の放つ禍々しい闇の魔力に結界越しだと言うのに気圧されながら思わずオーウェンに尋ねてしまう。見るまではロークが邪霊と契約できる可能性は半分くらいはあるのでは無いかと思っていたガレスだったが、本物を目の前にした今はその可能性はゼロに等しいのでは無いかと思えた。

 

「さて、どうだろう」

 

 曖昧な返答をするオーウェンは邪霊から放たれる圧を軽く受け流しながら目を僅かに細める。

 

 見ている限りでは現れた邪霊は特に暴れる様子もなく結界内を大人しく浮遊している。とりあえず、最悪のパターンである出た瞬間には大暴れという形は回避できたようだ。

 

「…………」

 

 けれどもまだ序盤も序盤、最初の一歩を踏み出せたに過ぎない。重要なのはここからだ。

 

「…………」

 

 ロークはフワリと浮かぶ邪霊を静かに見つめる。するとその視線に気付いたらしい邪霊はゆっくりと降下していき、やがてロークの眼前で動きを止めた。

 

 ジロリとこちらを見つめる邪霊の瞳からは少なくともルナの遺跡で出会ったような敵意は感じられない。故にロークは小さく息を吐きながら覚悟を決めると次のステップへと移行する。

 

 ロークはゆっくりと眼前に佇む邪霊へと手を伸ばし、その身体に自身の霊力を流し込む。

 

 霊力による精霊と精霊師の簡易的な繋がり、簡易契約を結ぶ為に。

 

 本来ならば簡易契約を挟まずに精霊契約を行うことの方が多いが、今回は相手が邪霊ということもあって万全を期す為に一つ一つ段階を挟んだ。仮にこの段階で何かしら異常があれば契約を切ることは容易く、本契約と比べれば受けるダメージは比較的軽傷で済む。

  

「…………」

 

 ごくりと息を呑むロークに対して落ち着いた様子の邪霊は流れてくる彼の霊力を拒否することなく受け入れ、ここに邪霊とロークの間に霊力による繋がり———簡易契約が成立した。

 

「………ふぅ」

 

「嘘だろ…」

 

「これで第二段階か」

 

 簡易契約とはいえ、邪霊と契約を結ぶことに成功した。

 その事実を前に緊張による汗を流しながら安堵の息を漏らすロークをガレスは信じられないと言わんばかりの様子で、オーウェンは僅かに安堵した様子でそれぞれ見つめていた。

 

「ローク、身体はッ!?」

 

「特に問題無いですッ!」

 

 パッと見る限り外傷は見られないが内部まではわからない。故にオーウェンが確認を取るとロークからの返答は問題ないとのことだった。声音からしても特に嘘や無理をしているようにも見えない。

 

「……霊力による繋がりだけなら邪霊とも契約できるのか?」

 

 オーウェンはロークと邪霊を眺めながら邪霊との契約について考察する。果たしてロークが特別なのか、それとも霊力だけの繋がりには害が無いのか。

 

 前例が少な過ぎる為、考えられることは限られているがそれでも少ない情報の中からオーウェンは必死に脳を回して考える。

 

「師匠ッ!本契約をやりますッ!」

 

「………ッ!分かったッ!」

 

 けれども思考を遮るように弟子の声が耳に入ってきたオーウェンは思考を切り替え、いつでもカバーに入れるように準備を行う。

 

「ガレス君、君もここからは要注意だよ」

 

「は、はい」

 

 オーウェンの言葉で我に返ったガレスは頷きながら改めてロークに意識を向ける。

 

 いよいよ段階は簡易契約から本契約、精霊契約へと移行する。

 

 ここまで来ると何がどうなるか誰にも予想が付かない。いきなりロークが廃人になることも考えられるし、或いは狂って邪霊と共に暴れ出すことも考えられる。

 

 悲劇の未来を想像したロークは躊躇い、けれども次の瞬間には覚悟を決めると邪霊に手を翳し、朗々と言霊を唱える。

 

「汝、気高き精霊よ。我が呼び掛けに応え、我と契り結び給え。さすれば我が身を汝の館とせん。重ねて命ずる、我が意に応ずるのならば汝の真名を告げよッ!」

 

 契約の言霊を唱え終えるとロークと邪霊の間に霊力では無い、魂同士による回路が繋げらる。同時にロークの脳内に邪霊からの念が聞き取れる言葉に変換されて入り込んでくる。

 

 —————いよいよだ。

 

 ロークは流れてくる声を聞き逃さないように目を閉じて意識を集中する。

 

 

『◎△$♪×¥●&%#!』

 

「…………は?」

 

 

『★♯●◾️$!:*%!?』

 

 

「………えっ?」  

 

 

『▲☆=¥〒♂◎&◾️♯£』

 

 

「……………」

 

 

 何言ってるかサッパリ分からなかった。

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