真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます 作:アラッサム
場所は廊下から変わって学院内部の食堂の一席に俺は腰を下ろしていた。
高い天井に奥まで伸びている食堂はとても広々としており、俺の腰掛ける席からは最奥にいる生徒の姿など裸眼ではまともに視認することもできない。
集会などのイベント事があるたびに使われる大食堂は規模で言えば数百人を優に収容できるほどに大きく、今回のようなレクリエーションなどには打って付けの場所と言えるだろう。
「だから言ったじゃないか、無理だって」
「うるせぇな、行けると思ったんだよ」
呆れた表情を浮かべるガレスの隣で俺は不機嫌な表情を浮かべながら腕を組み、背もたれに背中を預ける。
「そんな機嫌悪そうな顔するなよ、新入生がビビるよ」
「不機嫌にもなるだろ、何で自由参加って書いてあるのに俺は強制なんだよ」
そう、レクリエーションの内容が書かれた紙には参加自由と書いてる。
なのに何故か、俺は強制参加ときた。納得がいかない。
実際ガレスと別れた後、校門までは何とか行けたがそこで生徒会役員たちに見つかってレクリエーション会場へと戻れと命令されたので自由参加だろと抗議したが、アイツらはまるで俺の言葉を聞き入れてくれない。
何でも学年次席がレクリエーションに居ないのはマズいとのことらしいが、俺が知ったことでは無い。主席であるお姫様さえいれば次席である俺の存在など必要無い筈だ。
結局、互いに折れなかった俺と役員たちの間で取っ組み合いになり、数で劣る俺がそれでも何とかゴリ押しで校門を突破しようとした時、どこからとも無く現れた天使による一撃によって昏倒させられ、気付けばこのレクリエーション会場へと連れて来られていた。
って言うか、誰が運んだか知らないけど俺のこと引き摺っただろ?めっちゃ制服汚れてるんだが。マジで許さんぞ生徒会、クリーニング代をよこせ。
「………にしても多くね?」
俺は一度思考を切り替えて前方を見渡した。普段の長机から今回のレクリエーションの為にわざわざ用意された円卓のテーブルには5〜6つの席が用意されており、そこに2、3人ずつ程腰掛けている生徒たちの姿を眺めながら呟いた。
加えて俺達の周囲では同学年である二年生の生徒たちが密集して雑談を交わしている。人口密度が半端ない。
「そうだね、この様子だと一年も二年も殆ど全員参加してるんじゃないかな」
「みんな暇なのか?」
「寧ろみんな今日はこのイベントを目当てにしてると思うよ」
「マジで?俺はつまんないと思うけどなぁ」
正直、先輩と話しても延々とつまらない自慢話と謎の武勇伝を聞かされるだけで眠かった記憶しか無い。良い記憶といえばせいぜい歓談の際に席に用意された紅茶とお菓子が美味かったくらいだろうか。
「前回と違って今回はミーシャ様が生徒会長になって歓迎会を仕切ってるからね、みんな期待しているんだよ」
「流石の人気だな、お姫様は」
まぁ、あの美貌で性格も良くて優秀とくれば人気になる要素しかないか。
………いや、性格は言うほど良くは無かったか…。
「何か侮辱された気がしますが、ローク・アレアス?」
「気のせいだよ、お姫様」
背後からどこか冷え冷えとする声音で声を掛けられ、振り返れば白金色の髪を揺らし、青い瞳でこちらを見つめるミーシャの姿があった。
何だ、お姫様は読心術でも使えるのか?
「っていうか、お姫様。これ自由参加だよな?何で俺、強制されてんだ?」
「ローク・アレアス、仮にも貴方は二年生の次席ですよ?その影響力を考えて下さい」
「所詮はただの二位だろ?お姫様がいれば俺なんていてもいなくても変わんねぇよ」
一位の名前は知っていても二位以降の名前は覚えていない、よくある事だ。
同学年ならともかく新入生で俺のことを知っている者など何人いるだろうか。
「………前から思っていましたが、貴方はやけに自己評価が低いですね」
「適正な自己評価だと認識しているが?」
何たって契約精霊もいない落ちこぼれだからな。
寧ろ高過ぎるまである。
「謙虚も度が過ぎるとただの自虐になります。気を付けた方が良いですよ」
「肝に銘じとく。ところで帰って良い?」
「ダメです。間もなく始まるのでそのままそこで待機して下さい」
しれっと帰宅を希望するもやはり許可を貰うことはできず、ため息を漏らす俺は食堂の一番前に設置された壇上へと向かうミーシャの背中を見送った。
ミーシャが壇上へと立つと途端に喧騒に包まれていた食堂が静まり返り、食堂に集まっていた生徒たちの視線がミーシャに集中する。
「新入生の皆さん、改めてユートレア学院へ入学おめでとうございます。生徒会長を務めるミーシャ・ロムスです」
これだけの衆人の視線を浴びて普通なら緊張しそうなものだが拡声器を手にして挨拶を述べるミーシャの言葉は一切淀みがなく、流れるように言葉を紡いでいく。
その彼女の凛とした立ち振る舞いと透き通る声に気付けば食堂に集まった生徒たちが視線を奪われ、その言葉一つ一つを聞き逃さないように耳を傾けていく。そして気付けばあっという間に時間が過ぎ去り、最後に彼女は一呼吸を置くと笑みを浮かべた。
「最後に皆さん、私はこの学院において国の王女では無く、一介の生徒でしかありません。どうか後輩の皆さんは学院の先輩として気軽に声を掛けて下さい」
その言葉が終わると同時に食堂にいる生徒たちから拍手の嵐が起こる。中には感激のあまり涙を流してる新入生までいる程だ。
俺?俺は普通に手がヒリヒリするくらい手を叩いてたよ。
「それではずっと私の話ばかり聞いていてもつまらないでしょうから座談会の方へと移らせて頂きます。二年生の皆さんは今からアルファベットの書かれた紙をお配りするのでその番号の書かれた席へと入って下さい」
ミーシャの説明と同タイミングで小鳥の精霊が一枚の紙を俺の下へと運んできたので受け取るとFと書かれたアルファベットが刻まれていた。
「ローク、君はどこだい?」
「Fだとさ」
「残念、一つ違いだね」
そう言うガレスの紙を見ればEの文字が書かれており、どうやら俺の一つ隣のグループに入るようだ。正直、事情を知ってるガレスが一緒のグループだったら色々と心強かったのだが、まぁ仕方ないだろう。
「ローク、発言には気を付けるんだよ?」
「お前は俺の保護者か」
途中までガレスとそんな雑談を交わしながら席へと向かっていた俺は自分の番号の書かれたテーブルを見つけるとガレスと別れを告げて席へと向かう。
「………あ」
「………げ」
するとそこには悪魔の悪戯と言うべきだろうか、先程の歓迎試合で俺が倒した炎竜の巫女こと、レイア・ヴァルハートが新入生側の席に腰掛けていた。