真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第40話

 

「よろしく頼むよ、ジャック」

 

「久しぶりに呼ばれたと思えば……また面倒な時に呼ばれましたねぇ」

 

 現れたオーウェンの契約精霊ジャック・オ・ランタンは眼前のロークの姿を眺めながらそのカボチャの顔を歪めた。

 

「アレ、弟子のローク君かな?悪い意味で見違えましたね」

 

「そんなに?」

 

 少なくとも外観上、ロークに変わったところは見られないが…。

 

「纏う雰囲気、気配とでも言うのですかね。前から不気味なところはありましたがアレは最早、別人にしか見えませんね」

 

「なるほど……」

 

 ジャックの言葉にオーウェンは納得した様子で頷く。確かにそれはオーウェン自身も感じていたことだった。とは言え、邪霊と繋がっていることを考慮すればある程度は説明が付くだろうし、そこまで違和感を覚える必要も無い気はするが……。

 

「どちらにしても今のアイツは正気じゃ無さそうだからね。死なない程度に頼むよ、ジャック」

 

「面倒な注文も追加ですか……」

 

 主人の指示に従いながらジャックは面倒そうに呟くと紫炎が灯っているランタンをゆっくりと掲げた。

 

 

「ッ!?」

 

 ロークの足元が熱を帯び、咄嗟に背後へと飛び退くと先程までロークが立っていた場所から火柱が上がった。炎が帯びている霊力量に恐怖する間も無く再び足元から紫炎が立ち上がり、ロークは襲い掛かって来る紫炎の回避に奔走する。

 

「流石に良く避けますね」

 

「そうだね」

 

 確かにロークの機動力は厄介だ。彼は契約精霊がいない分、自力で戦えるように肉体を鍛えている。捉えるのは至難の技だろう。

 

 故にロークの機動力を削ぐ必要がある。

 

 オーウェンはジャックの炎を躱し続けるロークへとゆっくりと指を構えた。指先に霊力を込めながら照準を合わせ、紫炎を躱したロークの態勢が崩れたタイミングで脚部を狙い、指先から紫電を放った。

 

「ガッ!?」

 

 オーウェンから放たれた紫電は槍となって狙いを寸分違わずロークの右足首を貫いた。

 

 ロークが思わず痛みでその場に膝を突いて動きを止めると、その隙を逃さんとばかりにジャックは再び紫炎を生み出してロークの身体を包み込んだ。

 

「ちゃんと加減してるよね…?」

 

「一応は」

 

 前方で轟々と燃え上がる紫炎を眺めながら不安を覚え隣のジャックに確認するように尋ねるが、帰って来た返答は不安しか覚えないものだった。

 

「いやいや、一応って何?そこ曖昧だと困るよ?」

 

「相手が相手です、下手に加減した攻撃じゃ意味無いですよ。それに、ほら」

 

 苦言を呈するオーウェンにジャックは眼前に広がる紫炎へと意識を誘導する。すると紫炎の中から再び全方位に向けて重力が放たれ、ロークを包み込んでいた紫炎は完全に消し飛ばされた。

 

「下手に加減してるとやられますよ。流石にあんな格好付けておいて弟子に負けるのは嫌でしょう?」

 

「格好付けて無いわい」

 

 実際のところは格好付けていたのだが、オーウェンはジャックの言葉を無視して視線をロークへと向ける。紫炎の中から現れたロークはその全身から煙を立ち上らせてはいるが、しっかりと防御はしていたようで右足首の傷以外に外傷は見られなかった。

 

「よくも……ッ!!」

 

 自身の足から血が流れているのを見て憤怒を激らせるロークは重力を操り、周囲の木々を根本から引き抜くとそのままオーウェン達に向けて放つ。

 

 

「燃えなさい」

 

 向かってくる木々にジャックがランタンを掲げるとその全てが瞬く間に燃え上がり、その全てが二人に辿り着く前に灰となって消滅した。

 

「死ね」

 

「脚を怪我してその速度かッ!」

 

 ジャックが木々を対処している間に素早く背後へと回り込んだロークに対してオーウェンは脚を怪我して尚衰えないその速度に驚きながら背後を振り返り、雷撃を放つ。

 

「…ッ……はぁッ!」

 

 

 放たれた雷撃を霊力を盾のように纏うことで耐えると今度はロークがオーウェンに対して手を突き出して霊術を放つ。

 

「うぉッ!?」

 

 オーウェンはふわりと浮き上がったかと思うとそのまま身体を振り回され、勢いよく近くの岩へ頭から衝突した。

 

「私が狙いですか」

 

 ジャックの呟きを肯定するかのように直後、彼の全身を凄まじい重力に襲われ、一時的にその場に縫い付けられる。

 

「これはこれは……また随分とッ!」

 

「…………」

 

 あまりの重圧に立っていることができず、思わず片膝を突くジャックにロークは右手を手刀の形にしながら霊力を込める。手刀に込められていく霊力量から喰らえばただでは済まないとジャックは察するが、この拘束から抜け出すには少しばかり時間が掛かる。攻撃を躱す時間は無い。

 

「まずは、お前から……」

 

「シァァアアッ!」

 

 ロークが手刀を振り下ろそうとしたタイミングで上空から唸り声を上げながら竜精霊ワイアームが襲い掛かかった。

 

 口を大きく開きロークへと噛み付こうとしたワイアームはけれども、その眼前であらゆる方向から圧力を掛けれたことによって空中に完全に動きを封じられる。

 

「邪魔をするなッ!」

 

「ギィッ!?」

 

 動きを封じられ、眼前で無防備になったワイアームに向けてロークは手刀を振るう。すると頭から尻尾の先に至るまでパックリと身体が左右に裂けると粒子となって送還されてしまう。

 

「ふッ!」

 

「ッ!?」  

 

 けれどもその一瞬の隙で霊術を破ったジャックは口からロークに向けて紫炎を放つ。僅かに反応が遅れたロークは紫炎を浴びながらもジャックに向けて再び手刀を振るうが、紫炎を斬り裂いた先にジャックの姿は無く、視界に映ったのは裂け目が刻まれた地面だけだった。

 

「カボチャ風情が……」

 

 ロークはオーウェンの側へと下がったジャックを見て舌打ちを漏らしながら悪態を吐いた。

 

 

「竜種を一撃か…」

 

 ジンジンと痛む頭部を抑えながら立ち上がったオーウェンはワイアームが一瞬でやられた光景を見て静かに戦慄していた。いくら階位が低いとはいえ、竜種を一撃で送還させる威力を手刀で放てる程の実力をロークは持っていただろうか。

 

 

 

「………弟子の成長って早いね」

 

「呑気に言ってる場合ですか?」

 

 オーウェンが呟くと横からジャックに呆れ混じりに叱られてしまう。別に呑気にしているつもりは無いが、確かにこのままだと時間稼ぎすらままならないだろう。

 

「仕方ない。あんまり荒っぽい真似はしたく無かったけど」

 

「足を貫いてる時点で充分荒いですよ」

 

 ジャックの指摘を無視しながらオーウェンはジャックの肩に手を置く。するとジャックの身体が輝き出し、辺りを眩い光が包み込んだ。 

 

 

「………それは」   

 

 あまりの眩しさに目を覆っていたロークが目にしたのはジャックの姿が消え、代わりに柄尻がカボチャの形、鈍色の鋭い刃を持つ巨大な鎌を手に握るオーウェンの姿だった。

 

「契約精霊の霊装化。君には一度説明の為に見せたと思うけどやっぱり忘れているかな?」

 

 精霊を武装へと変化させて自らに纏わせことで契約精霊が持つ本来の実力以上の力を引き出すことが可能となる、一部の精霊師たちだけが扱える高等技術。

 

「本当は危ないからあんまり使いたくは無かったんだけど……」

 

 オーウェンは呟きながら両手で柄を掴み、ゆっくりと上半身を捻る。ケタケタと柄尻のカボチャから不気味な笑い声が響き渡り、同時に霊装の刃に紫炎が灯る。

 

 

「ッ!!」

 

 ゾクリとロークの背筋に悪寒が走ると同時に脳裏に頭と身体が分離するイメージが浮かび上がる。

 

 死ぬ。このまま何もしなければ間違いなく死ぬ。

 

 あまりにも明確な死のイメージを前にロークは冷や汗を流しながら咄嗟に体勢を低くした。

 

 直後、紫色の火の粉が頭上を散ったかと思うと周りに残っていた木々の悉くがある一定の高さで斬り倒され、辺りはまるで伐採跡地のような状態へと変化してしまった。

 

「いけない、やり過ぎた」

 

「相変わらず加減が下手ですねぇ」

 

 久しぶりに霊装化したせいで手加減が上手く出来なかった。

 地面に転がる木々を見て頭を抱えるオーウェンに柄尻のカボチャ、ジャックがケラケラと楽しそうに笑う。

 

「うるさい」

 

「グゲッ!?」

 

 主人を馬鹿にする契約精霊を仕置きしようと柄尻を地面に叩き付ける。霊装化したジャックは今や碌な抵抗ができない為、オーウェンのされるがままだった。

 

「グゴッ!?ゴホッ!?すみませッ———!」

 

「全く。反省した……ん?」

 

 ジャックのお仕置きを終えると同時に再びロークが霊術を放ってきたらしくオーウェンの全身に重圧が掛かる。

 

「はぁッ!」

 

 オーウェンが契約精霊と乳繰り合っている間に背後へと回り込んでいたロークは霊力を込め、その腹部に風穴を開けてやろうと拳を握り———先程と同じく首が飛ぶイメージが脳裏に浮かんだロークはその場から思いっきり跳躍した。

 

 刹那、先程までロークの首があった位置を霊装の刃が通り過ぎた。

 

「流石」

 

 攻撃を回避したロークを褒めながらオーウェンは笑う。一見すればこちらを馬鹿にしているようにも取れるオーウェンの態度、けれども今のロークに怒る余裕は無かった。

 

 先程の霊術、完璧に決めて普段の数十倍の重力を掛けてオーウェンの動きを封じた筈だったのに、まるで何事も無かったかのような動きで攻撃された。

 

「化物め…」

 

「酷いなぁ」

 

 弟子からの辛辣な言葉にオーウェンが苦笑を浮かべていると周囲の斬り倒された木々や岩が浮かび上がり、オーウェンへと向かって高速で突っ込んでいく。

 

「加減が難しいんだ、あんまり振らせないでくれ」

 

 全方位から迫ってくる圧倒的な物量を前にオーウェンは面倒そうに呟きながら再び霊装に紫炎を灯し、横薙ぎに振るう。たったその一撃でオーウェンに迫ってきていた全てが紫炎に飲み込まれて消滅し、更にその余波の炎がロークへと迫っていく。

 

 

「ぐッ!」

 

 咄嗟に地面を隆起させて簡易的な壁を形成することで炎を凌ぎ切ることには成功したが、チリチリと肌を焼く痛みに恐怖を覚えずにはいられなかった。

 

「良かった良かった、しっかり防御してくれたね」

 

「クソッ!!」

 

 

 ギロリとこちらを睨み付けるロークに更に加減をしながら技を放とうとしたオーウェンはそこで何かに気づいた様子で構えを解いた。

 

「……何のつもり?」

 

「タイムアップ。残念だけど喧嘩はここまで」

 

 宣言通り戦う気が無いのか闘志が消え失せたオーウェンの姿にロークは訝しげな表情を浮かべる。

 

「何をふざけて———」

 

「積もる話は君の目が覚めた後で」

 

 ロークの言葉を遮るようにオーウェンが呟いた直後のことだった。

 

 

 雷鳴が鳴り響くと同時に上空からロークへと雷が落下し、その身体を貫いた。

 

「……ガッ!?」

   

 全身に走る雷の衝撃によってロークの意識は刈り取られ、身体から煙を出しながら地面に倒れ込んだ。

 

「やれやれ」

 

 オーウェンが疲労から溜息を漏らしているとバサリと二対の青い翼を持つ怪鳥がその隣へと降りてきた。

 

「良くやった、良い加減だったよ」

 

 オーウェンは最初にジャックの紫炎に紛らせながら呼び出していた二体目の契約精霊、サンダーバードにそう労いの言葉を掛けたのだった。

 

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