真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第46話

 テスト期間の終了。

 普段ならばテストという重圧からの解放感に酔いしれる学生達の多くが講義を終え次第、大市場や劇場などに向かって各々がそれぞれの方法でリフレッシュをしている。

 

 けれどもその日に限っては違った。

 学生の多くが闘技場へと足を運び、観客席が学生で埋め尽くされるのは勿論のこと、闘技場外にも多くの学生が精霊による映像の投影を介して試合を見ようと集まっていた。

 

「随分とお祭り騒ぎになったね」

 

「…………」

 

 控えのベンチにて待機しているロークにガレスは闘技場を見渡しながら呟く。高順位者同士の戦いはよく満員近くまで観客席が埋まるが、今日はそれにしても人が多いように見える。

 

 その要因はロークとトラルウスの対決と言うのは勿論だが、それ以上に今回はトラルウスが予め学位戦への参加を表明していたことも大きいだろう。ただでさえ欠席率の高いトラルウスが学位戦に出ることが確定しているのだ。彼の試合を一目見ようと人が集まるのも無理は無い。

 

 尤も、ロークにとっては良い迷惑でしかないが……。

 

「相変わらず学位戦前は気分が悪そうだね」

 

「まぁな、これが学位戦じゃなきゃ余裕で棄権してるんだが……」

 

 とは言っても仮にただの試合でもここまで盛り上がられると下手に棄権しようものなら大ブーイング待ったなしだろう。みんなから物を投げられたり、グチグチと文句を言われる未来が容易に想像できる。

 

「それで何か対策はできたのかい?」

 

「……何とも言えないな」

 

「……ちなみに周りはいよいよ契約精霊を出すかと騒ぎになってるよ」

 

「俺も呼べるなら呼びたいよ」

 

 けれどいないものをどうやって呼び出せというのか、不可能である。

 

『ローク・アレアスさん、ケイ・トラルウスさん。入場して下さい』

 

「はぁ〜」

 

 ついに来てしまった終わりの始まりにロークは深い溜息を漏らすとゆっくりとベンチから立ち上がる。

 

「応援してるよ」

 

 

「精々格好付けてくるとするよ」

 

 

 ガレスの声援を背にロークは振り返らずに手だけ振ると戦場へと向かうべく前へと進む。そして対面から同じくこちらに向かって歩いて来た美少年、ケイ・トラルウスを視界に入れる。

 

 

「やぁ、ローク・アレアス。こうして面と向かって話すのは初めてかな?」

 

「講義もほとんど被ってないからな。おまけに被ってる講義も学位戦も碌に出席しないし、お前」

 

「ははは、僕も色々と忙しくてね、申し訳ない」

 

 ロークの嫌味混じりの言葉にケイは笑顔を浮かべながら謝罪の言葉を述べる。尤もトラルウスの清々しさすら感じる笑顔は申し訳なさを覚えいる人間が浮かべて良い顔では無いが……。

 

「それはそうと君には一度、負けてるからね。今回はリベンジさせて貰うよ」

 

「ざけんな、リベンジもクソも不戦敗だろうが」

 

 一年の時、ケイが来なかったことで幸か不幸か闘技場でポツンと一人佇む羽目になったロークは無駄に不戦勝という形で順位を上げてしまい以降、高位序列者との戦いに明け暮れることになる。

 

 思えばあの不戦勝がストレス学院生活の始まりだったのかも知れない。

 

「ふっ、細かいことを気にする男はモテないよ?」

 

「細かくねぇよ」

 

 マイペースなケイの言動に振り回されるロークは溜息を漏らしながら定位置に着く。同じく位置に着いたケイはそう言えばと何かを思い出した様子で口を開く。

 

「そうだ、始める前に一つだけ。出し惜しみはオススメしないよ、お互いの為に」

 

「したことねぇよ……」

 

 今まで一度だって。

 ロークは内心で呟きながら静かに懐から依代を取り出して構える。対するケイは特に何をするでもなく普段通りの様子で立っている。

 

「………」

 

 緊張から少なからず身体が強張っているこちらと比較してどこまで自然体なケイに格の違いを感じながらロークは試合開始の合図を待つ。

 

 

 

 

 試合開始までのたった数秒がやたらと遅く感じる中で遂に審判係の教員が開始の合図を告げる。

 

 

 

『始めッ!!』

 

 

 

「ッ!!」

 

 

 合図と共に先んじて行動を開始したのはロークだった。彼は依代に封印した精霊を呼び出し、素早く簡易契約を結ぶ。

 

 

 

 

「へぇ」

 

 ケイが現れた精霊を見て興味深げな声を漏らす。

 ロークが呼び出した精霊、雷を纏った何処か猫を彷彿とさせる獣、雷獣は唸り声を上げながら彼の肩に飛び乗る。

 

「サンダーピアス」

 

 雷の力を得たロークは空かさず指を突き出すと雷閃を呑気に棒立ちしているケイへと向けて放つ。先手必勝、下手に精霊を呼び出される前に倒す。当然の判断だった。

 

 けれども一直線に突き進んでいた雷閃はケイの眼前で何かに衝突したかのように弾けてしまう。

 

「フッ、気が早いね」

 

 ケイは霧散した霊術を見つめながら揶揄うように呟く。

 

「ま、だよな」

 

 この程度で倒せる相手ならば学年3位の地位を保てる訳がない。初手が呆気なく塞がれるのも想定通りだった。

 

「けど、直接ならどうだ?」

 

「む?」

 

 近くから聞こえてきたロークの声に反応してケイが振り返る。けれどケイの視界にロークの姿は無く、再び背後から聞こえてきた雷の音に視線だけを向けると雷の霊術で身体強化を施したロークがその手に持つ剣精霊を振り上げていた。

 

 ———速い。

 

 ロークの素早さをケイは素直に賞賛する。加えて剣精霊に込められている霊力、並の相手ならばこの一撃を防ぐことができずにこのまま敗北するだろう。

 

 けれどもロークのその一撃はケイにとって賞賛に値する一撃でこそあれど、脅威に値する一撃では無かった。

 

「セイレーン」

 

「ahーーーッ!」

 

「ッ!?」

 

 気付くとケイの隣に腰辺りから一対の翼を生やしたドレス姿の美しい少女が立っていた。いつの間に?そんな疑問を抱く間も無く、彼女は小さく息を吸うとその喉から美しいソプラノ音を響かせる。

 

 瞬間、ケイ達との間に不可視の防壁が形成され、剣を振り下ろしたロークは音を響かせながら弾き飛ばされることになった。

 

「ちッ」

 

「まだメンバーが揃ってもいないんだ。もう少しだけ待ってくれよ」

 

「悪いな、俺はせっかちなんだッ!」

 

 ロークは叫びながら腕を突き出す。

 同時に掌に雷と霊力が込められていき、次の瞬間には雷撃がケイに向かって放たれる。

 

 霊術によって発生した稲光が闘技場を包み込み、観客含めてその場にいた全員の視界が一時的に失われる。

 

「…………くそ」

 

 やがて光が収まり、鮮明になったロークはその光景を前にして絶望感に苛まれる。

 

「やれやれ」

 

 ロークの視界の先で呆れたような表情でため息を漏らすケイ。彼自身に変化は無いが、その周囲の様相はまるっきり違っていた。

 

 彼の隣に佇む令嬢のような姿をした精霊、セイレーン。

 そんな二人の上をまるで泳ぐかのように飛んでいるのは半人半魚の美しい女性の精霊。

 更にその周囲にはフワフワと小人のような姿をした精霊が五体ほど浮いている。

 

 それ即ち、ケイが契約している精霊が全てこの場に現れたことを示していた。

 

*****

 

「出てきたね」

   

「…………」 

 

 観客席に戻り、観戦していたガレスの呟きにリリーは無言で頷く。周囲ではケイの精霊達が現れたことによって歓声で溢れ返っていた。

 

「けどロークくんも雷獣なんて用意するなんてね」

 

 そう呟くセリアからは少なからず驚きの色が見えていた。世界を構成すると謳われる火、水、土、風などの四元素を司る精霊達と比べると他属性の精霊はその数が少ないと言われている。特に雷属性などは低位でも比較的希少と呼ばれる部類に入るが、一体どこで手に入れたのだろうか。

 

「あれ、市場で隅っこの方に置いてあるの見たよ」

 

「えっ、なんで買わないの!?」

 

「だって必要無いし…」

 

「なら私に教えてよッ!?」

 

「ごめん」

 

「まぁまぁ、二人とも今は試合を見ようよ」

 

 隣で騒ぐセリアを宥めると言われて落ち着きを取り戻した彼女は改めて試合に視線を向ける。

 

「にしても雷獣には驚かされたけど、やっぱり精霊の展開阻止は失敗したわね」

 

「そうだね」

 

 ケイの攻略法の中でよく挙げられる戦法の一つ。精霊を展開されきる前に倒すという誰もが一度は思い付き、考えるであろう戦法。尤もこの戦法を試して成功した者は未だ誰一人として存在しないのだが……。

 

 

「ロークくんも微精霊を展開し始めたわね。やっぱり契約精霊は呼ばずに勝負するつもりかしら?」

 

「無茶」

 

「さて、どうするんだローク?」

 

 真実を知るガレスは二人の言葉に耳を傾けながら静かに届かぬ疑問をロークへと投げ掛ける。

 

 

 初手の挨拶とも言える交差が終わり、本格的な戦闘へ移行しようとしている二人の姿を観客者達は固唾を呑みながら見守るのだった。

 

 

 

*****

 

 

 トラルウス家の精霊師としての歴史は実のところ浅い。

 では彼の家が何を生業としているのかと言えば音楽である。数多の著名な作曲家や演奏者を輩出していることで音楽家の名家としてその地位を確立している彼らにとって精霊師として地位を得る必要がまるで無かったのだ。

 

 時々現れる精霊師の才能を持つ者を学院に入学させることこそあれど、それはあくまでも人脈作りの一環であり、それ以上のことを求めることは無かった。

 

 

「ローレライ、おいで」

 

 

 そんな音楽家の家系に稀に見る精霊師としての才能を兼ね備えた異端児として生まれたのがケイ・トラルウスという男だった。

 

 ケイが手を突き出すと空を泳いでいた半人半魚、ローレライの身体が粒子となってその右腕を覆う。そして次の瞬間には一本の指揮棒と何処か魚の鱗を彷彿とさせる手甲を纏っていた。

 

 

 

「待たせたね。ようやく準備ができた」

 

「待ってねぇよ……」

 

 ロークは冷や汗を流しながら答える。

 霊装化。ロークの師であるオーウェンを始めとした優秀な精霊師達が扱うことのできる精霊を纏う高等技術。

 

 膨れ上がったケイの霊力に気圧されたロークは無意識に一歩後退ってしまう。

 

「精霊、呼ばなくて良いのかい?今なら待つけど」

 

「余計なお世話だ。さっさと掛かって来い」

 

 恐らくは挑発でも煽りでも無い善意からの言葉だと感じたがロークは敢えて強気な笑みを浮かべながら指を動かして挑発する。というか、いないから何時間待っても呼ぶことはできない。

 

 

「………いいね、面白い」

 

 ロークの挑発にケイはポカンとした表情を浮かべた後にその口元を歪める。

 

 

「決めたよ。今回の劇のテーマは英雄でいこうか」

 

 ケイは微精霊を従えながら構えるロークに対して笑いながら告げると同時に指揮棒を振り上げる。それと同時にセイレーンが高らかに歌を歌い始め、同時にケイの頭上に浮かぶ小人達から霊力で形成された音符が音を奏でながら周囲を舞い始める。

 

 

「相変わらず派手な霊術だな……」

 

「けれど君が舞台に立つのは初めてだろう?是非、堪能していってくれ」

 

 

 ケイが言い終えるや隣で歌うセイレーンの歌声が低く恐ろしい声音へと変化していき、彼女の歌声に合わせるように小人たちが奏でる音色も重苦しいものになっていく。

 

 

 やがて奏でる音楽の変化と共にケイの周囲を覆う大量の音符に込められた霊力が熱を帯びながら赤く染まっていく。

 

 

 

  そして————

 

 

「英雄の詩、第一章。炎炎轟々」

 

 

 ケイが指揮棒を振り下ろすと同時に音符はその形を業火に変えると紅蓮の津波となってロークに向かって襲い掛かった。

 

 

 

 

 

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