真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第47話

 

 

 勢いよく迫ってくる業火に対してロークはかつてレイアとの戦闘でサラマンダーのブレスを防いだ時と同じ要領で水と風の霊力を複合させた防御霊術を発動させる。

 

 大量の水が渦を巻いてロークを覆い、迫りくる炎の波を正面から受け止めて消化していく。

 

「くッ!」

 

 視界が水蒸気によって遮られる中、ロークは素早く風を放って周りの視界を遮る共に熱を帯びた蒸気を素早く周囲へと散らす。    

 

「炎熱の苦難を乗り越えた英雄に降り掛かる次なる試練は大いなる海の脅威」

 

 蒸気が霧散し、明瞭になったロークの視界に映ったのは変わらず指揮を続けるケイの姿と先程とは打って変わって青色に染まる無数の音符の数々だった。

 

 

「第二章、天海激浪」

 

 ケイの指揮の下、荒々しく歌い上げるセイレーンの声と共に暴れ狂う激流がこちらに向かって襲い掛かってくる。

 

「容赦ないなッ!」

 

 ロークは声を荒げながら霊術を切り替え、今度は土の霊術を発動。眼前の土を隆起させて壁とすることで水流の勢いを抑えようとする。けれども水の勢いはロークの想定を超える勢いで襲い掛かり、受け止めていた土壁は数十秒程で砕け散ってしまう。

 

「風よッ!」

 

 その間にロークが選択した退路は上空だった。霊術でふわりと宙に舞い上がったロークはけれども、それが下策だと直後に理解することになる。

 

「海難を逃れた英雄を襲うは天の裁き」

 

 セイレーンが一際甲高い声で歌い上げると同時に小人達が奏でる音符が帯電しながら上空に登っていき、やがて暗雲となって空を黒く覆っていく。

 

 

「第三章、雷霆招来」

 

「ガッ!?」

 

 狙い撃つかのように雷雲から放たれた一条の雷。咄嗟にロークも雷獣に霊力を送って雷で迎撃しようとするも相手の雷の威力が高く、抑えることができなかった。

 

「三章はまだ終わってないよ」

 

 身体から煙を放ちながら落下していくロークを眺めながらケイは淡々と精霊達に追い討ちの命令を下す。

 

 雷鳴が闘技場に鳴り響く。落下してくロークに更に幾つもの稲妻が放たれ、その身体を稲光で覆い尽くしていく。

 

「そっちか」

 

「嘘だろッ!?」

 

 けれども次の瞬間、ケイは視線を闘技場の隅へと向けると雷を放つ。すると風の霊術を使い、空気を操作して身を隠していたロークが驚愕した様子で現れる。

 

 見ていた観客席の驚愕は隠れていたローク以上のものだった。いつのまに隠れていたのか?では今まさに雷を浴びているのは誰なのかと視線を向ければ土塊の人形が彼らの視界に入る。

 

「なッ!?」

 

「けど、気付かない筈が!霊力だって……ッ!?」

 

 驚く観客達は何故自分が気付かなかったのか砕けた人形の中からふわりと現れた微精霊の姿を見てその理由を悟る。微精霊に大量の霊力を流し込み、逆にローク本人が霊力を抑え込んで隠れることで一時的に居場所を錯覚させたのだろう。

 

 

 

 

「凄い…」

 

 高度な技術の重ね技。

 観客席で戦いを見守っていたレイアは思わずと言った様子でそう呟いていた。

 

 けれど、だからこそ同時にケイ・トラルウスの恐ろしさも実感する。光を屈折させる程の空気の層を生み出す綿密な霊力操作、視界上は完璧に隠れていた筈なのにそれを瞬時にケイは見抜いていた。

 

 

「先輩…」

 

「おやおや、そんなに愛しのローク先輩が心配?」

 

「なッ!?」

 

 レイアの背後から抱き着ながら揶揄うように呟いた燈の言葉に彼女は動揺した様子で顔を赤くする。

 

「えっ、そ、そうだったの!?」

 

「ち、違う!誤解よ!私は純粋に先輩として———ッ!」

 

「あ、ローク先輩ヤバいね」

 

 隣に座るメイリーが友人の恋愛話に目を輝かせながら尋ねると慌ててレイアが誤解を解くべく声を荒げようとして燈が呟いた言葉に二人の視線がすぐに闘技場へと移る。

 

 

 先程までの雷から再び属性が変化し、今度は走るロークの足元を隆起させると巨大な顎のように左右に地面が開く。そして中に入り込んだロークを飲み込まんと開いた地面が閉じようとする。

 

「とぉッ!?」

 

 ロークは焦った表情を浮かべながらも霊術で素早く地面から脱するも、直後に地面から数十本の土槍がロークを貫かんと突き出した。

 

 回避行動をとる余裕が無かったロークは剣を盾のようにして向かってきた土槍を受け止めるとそのまま更に宙へと弾き飛ばされる。

 

「さぁ、次の試練はどう受け止めるッ!?」

 

 ケイは無防備になっているロークを視界に収めながら指揮棒を振るう。するとセイレーンの底冷えする歌声と共に青白く染まった音符達が冷気を放ち始め、そのままロークを覆うように宙へと舞い上がっていく。

 

「第五章、氷嵐絶凍」

 

 あっという間に周囲の景色が真っ白な雪景色へと変化し、吹雪の中に覆われたロークは刺すような寒さに凍えながらも頭上から巨大な霊力を感じて素早く顔を上げる。

 

「冬に抱かれて眠れ」

 

「ッ!」

 

 頭上に展開された巨大な氷塊。

 目を見開くロークに向かって氷塊は無慈悲に落下し、そのまま轟音を響かせながら彼の身体を圧し潰したのだった。

 

 

*****

 

「こんなものか」

 

 まるで墓標のように眼前に聳え立つ氷塊を眺めながらケイはそこで初めて追撃の手を止めた。決して慢心しているわけでも無ければ、ロークを倒し切ったと思っている訳でも無い。

 

 

 

 けれど、この試合に対するやる気は段々と薄れていた。

 

 

 

 

「もう少し面白いと思ったんだけどな……」

 

 元々、ケイはその家柄もあって精霊師よりも音楽家を目指していた。

 それでも精霊師として学院に通っているのは才能を惜しんだ両親からの強い説得に折れての結果であり、別に強い想いがある訳でも無い。

 

 寧ろ外でコンサートをしている方が余程楽しいし、やり甲斐を感じている。

 

 故に学位戦に対する関心も薄く、勝敗への興味も無い。

 けれども家名に泥を塗る訳にはいかない以上、ある程度は参加して成績を残す必要がある。

 

 そこでケイが考えたのが学位戦をオペラのように楽しむことだった。

 オペラの時のように物語の設定を考えて自分達を登場人物に置き換え、作り上げた物語に沿って戦うことでケイは学位戦に対するモチベーションを保つことに成功した。

 

 それでも対戦相手に興味が湧かない時は学位戦をサボって一時的に成績を下げたこともあるが、他の試合で適当な高順位者に勝てば問題無く高順位を維持できる。

 

 こうしてケイ・トララウスは自身の学位戦に対するスタンス、闘い方を確立した。

 

 

 

「舐め……るなッ!!」

 

「…………」

 

 氷塊が真っ二つに割れてその間から業火と共にロークが姿を現す。その手に持つ剣精霊は微精霊の力によって炎で覆われており、声を荒げるロークはそのままこちらに向かって剣を振り下ろした。

 

 迫り来る紅蓮の三日月。受けるには危険な一撃を、けれどもケイは避ける素振りもせず、指揮棒を眼前に突き出すだけで対処する。

 

 刹那、霊力で形成された五線譜がケイの周囲を覆うように現れ、迫り来る斬撃を難なく弾いた。

 

「…………」

 

「………契約精霊は……やはり呼ばないか」

 

 その結果に顔を顰めるロークに対してケイは落胆した様子で呟く。

 

 契約精霊を呼ばない精霊師、ローク・アレアス。

 なるほど、確かに見事な動きだった。攻撃と防御、どちらにおいても優れた技術を有しているし、感心させられること何度かあった。

 

 けれど、それだけだ。 

 確かに強いが、今まで戦ってきた相手と変わらない。ケイのインスピレーションが刺激される程では無い。契約精霊を呼ぶなら或いはと思っていたが、あの様子ではそれも無さそうだ。

 

「精霊を呼ぶことを強要する権利は僕には無い。が、呼ばないならば悪いけど、もう幕引きにさせて貰うよ」

 

 セイレーンのどこか悲痛な叫びを彷彿とさせる歌声と共に五線譜がケイや精霊達を覆うように何重にも広がっていき、更に小人達の奏でる音符が五線譜の上に重ねられていく。

 

「大寒波はその炎で乗り越えられたけれど、果たして君にこの苦難は乗り越えられるかな?」

 

 五線譜上の音符が赤、茶、黄の三色に変化しながら膨大な霊力を放ち始める。五線譜が高速でケイの周囲を回転し、彼の頭上に雷炎を纏った岩石が計五つほど現れる。

 

「おいおい…」

 

 こちらに標的を定めながら宙に佇む五つの暴力を目にしてロークは苦笑を浮かべる。一つ一つに込められた霊力が今までとは桁違いだ。

 

 恐らく一発でも喰らえばその時点で戦闘不能になるだろう。加えて今の精霊達と自身の霊術を総動員しても全ての迎撃は不可能だ。

 

 

 ———ここまでか。

 

 

 湧き上がる諦念の感情。

 同時に自然と身体から力が抜けていく。

 

 

「頑張った……方だよな?」

 

 

 自己弁護のようにロークは呟く。

 そもそもあのケイ・トラルウス相手にここまで粘ったのだ。寧ろ誉められて当然だろう。

 

 

 けれど彼の脳内で本当に?と自身の努力を疑う声も聞こえてくる。

 

 本当にお前は全部を出し切ったのか?

 まだこの場を乗り越える手段はあるんじゃないか?

 

 このまま終わって良いのか?

 

「…………」

 

 分からない。

 本当に、分からない。

 

 この試合でそんなリスクを取る必要があるのか。今まで通り頑張ったけど無理でしたと潔く降参した方が良いんじゃないか。そうすればストレスは溜まるだろうが、明日からもいつも通りの日常を迎えることができる。

 

 

『何故、契約精霊を呼び出さなかったのですか!?』

 

『何故、貴方は契約精霊を呼び出してくれないのですか?』 

 

『大人しく精霊を呼んだらどうだ?そうすればお前にも勝ち目は充分にあるだろう』

 

『………契約精霊は……やはり呼ばないか』

 

 違う。呼ばないんじゃない、いないんだ。

 けれど、それを言う勇気は無くて……だからこうして契約精霊無しで戦ってきて……そうしたら今度は真の実力を隠しているとか意味不明なことを言われ始めて………。

 

 こっちは毎度毎度、全試合を全力で戦ってるって言うのに………………。

 

 

「………そう、だよな…」

 

 そうだ。全力で戦ってたんだ。どれだけ周囲に誤解されようと、誰が相手でもただ、全力で。ミーシャの試合だって全力をぶつけて、それで勝てなかったから降参しただけだ。

 

 俺は、まだ全力を出し切ってない。

 まだ終わる訳にはいかない。このまま噂通りに実力を隠して敗北することだけはダメだ。してはいけない。

 

「第六章、轟天隕撃」

 

「………ッ!」

 

 ケイが指揮棒を振り下ろすと同時に五つの雷炎を纏った岩石がこちらに向かって迫ってくる。 

 

 もう躊躇いは無かった。ロークは迫り来る脅威を前に素早く依代を取り出して剣精霊を除く全ての精霊を再び封印する。

 

 

 そして—————

 

 

 

 

*****

 

 

「………?」

 

 技を放ったトラルウスは拭いきれない違和感を抱いていた。

 

 最後の瞬間、技が直撃する瞬間、ケイはロークの顔をしっかりと視認していた。だからこそ気付いていた。

 

 彼が…確かに笑みを浮かべたのを。

 

「……何故だ?」

 

 口に出して呟くが疑問は解消されない。恐らく解決法はローク本人に尋ねることだが、今は技を喰らって気絶していることだろう。

 

「……まぁいいか」

 

 気にはなるが、既に終わったことだ。

 それよりもさっさと帰って次のコンサートの準備でもしよう。

 

 そう思って視線を審判である教員に向けて自身の勝利を告げて貰おうとしたケイは…………その直後にゾクリと背筋に悪寒を走らせることになった。

 

「ッ!?」

 

 ケイは反射的に視線をロークへと向ける。

 理由は分からない。この悪寒がそもそもロークから放たれたものなのかすらよく分からない。けれども身体は自然と今尚、土煙と岩石で覆われているであろうロークの方へと向いていた。

 

 

 何だ?何が起こってる?

 

 ケイが困惑しているとロークのいる方向から風が吹き荒れた。

 

「くッ!」 

 

 腕で顔を覆い、耐えようとするが、風のあまりの勢いに身体が飛ばされると判断したケイは瞬時に霊術による障壁を展開、五線譜が盾のようにケイ達を覆って強風から守る。

 

「……あれは」

 

 そして顔から腕を退けたケイは刮目する。

 

 

 ロークを避けるように不自然に左右に落下した五つの岩石、その中央に剣精霊を携えて佇むローク。

 

 

 そして、その頭上にふわりふわりと能天気に浮かぶエイを彷彿とさせる一匹の高位の邪霊の姿を……。

 

 

「……………」

 

 

 闘技場全体からの悲鳴や驚愕の叫びが響き渡る中、ケイは無意識にその口角を上げるのだった。

 

 

 

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