真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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皆さま、いつも読んで頂きありがとうございます。
感想もいつも楽しく読ませて頂いてます。

改めて読者の皆さまに感謝します。


それでは本編、お楽しみ下さい。


第48話

 ロークの呼び出した精霊から放たれる闇の属性特有の禍々しい霊力。現れた瞬間に闘技場、そして外で観戦していた人々は確信する。

 

 あれは邪霊だと。

 

「えっ?えッ!?」

 

「えっ、あれって邪霊だよね!?」

 

「どういうことだ!?何でアレアスが邪霊を呼び出してるんだよ!!」

 

 驚愕。困惑。悲鳴。

 様々な声が闘技場内外で入り乱れる中、相対しているケイは静かに邪霊を見つめながらその繋がりを確認する。

 

 霊的な繋がりは薄い。

 ほぼ間違いなく契約は結んでいない。つまりはあの邪霊も簡易契約だろう。

 

 が、問題はそこでは無い。

 簡易契約とは言え、邪霊を使役している。それ自体が異常なことであり、偉業であり、そして脅威だった。

 

「…………」

 

 ケイは視線を下ろし、今度は邪霊を呼び出したロークへと目を向ける。

 

 多くの精霊師がそうなったように邪霊使役のリスクである精神破壊を疑うが、真っ直ぐにこちらを見つめる瞳の輝きを見て理解する。

 

 正気だ。間違いない。

 つまり、少なからずこの場に置いて彼は邪霊を制御している。今も特に暴れたりする様子を見せず、フワフワと彼の頭上に浮いていることからもその事実を証明している。

 

 

 面白い。

 

 

 笑みを浮かべるケイは先程まで自身が抱いていた倦怠の全てが吹き飛んでいることに気付いた。

 

*****

 

「あの精霊って遺跡の時のッ!」

 

「捕まえてたんだ……」

 

 邪霊が現れた瞬間に一際驚いていたのはルナの遺跡でその存在を予め認識していたセリアとリリーだった。特に実際にその力を目の当たりにしていたセリアの驚愕は大きい。

 

 その二人の隣で全てを知っている彼の親友であるガレスは驚きと、そして敬意を込めた視線をロークへと向ける。

 

「………そうか」

 

 口元に笑みを浮かべるガレスはポツリと呟くと口を閉じ、周囲の喧騒に耳を傾けながら静かに友の勇姿を視界に収めた。

 

 

 そして彼等から少し離れた席では同じくルナの遺跡で邪霊の恐怖を知っている後輩が目を見開いていた。

 

「アレは…遺跡の時の」

 

「知ってるの?」

 

 唖然としながら邪霊を見つめるレイアの横で燈は普段からは想像できない程、真剣な表情で尋ねる。

 

「え、ええ。私が古代遺跡の探索で出会った邪霊です。あの時はローク先輩と別れてしまって、最終的には先輩が一人で倒したって……けどまさか、こんな……」

 

「じ、邪霊を使役してるよッ!?先輩大丈夫なの!?」

 

「見たところ特に変化は無いね」

 

 ワタワタと慌てるメイリーを他所に燈は冷静にロークを観察しながら意見を述べる。尤も確証は無いが……。

 

「ローク先輩……」

 

 慕う先輩の暴挙とも呼べる行動を、けれどもレイアはその名を不安げに呟いて見守ることしかできない。

 

 既に周囲の声は彼女に届いていなかった。

 

*****

 

「邪霊……」

 

 目を細めながら現れた邪霊を見つめるのは現生徒会長にて学年一位の精霊師、ミーシャ・ロムスだった。彼女は周囲の生徒会メンバーが騒ぐ中、今までのロークの言動を静かに振り返っていた。

 

 まさか、これが彼が大精霊演舞祭への出場を断っていた理由?

 

 けれど繋がりを見る限り契約を結んでいる訳では無い。つまりは他に契約している精霊もいるのだろう。

 

 疑問は深まるが、彼女の思考を遮るように慌てた様子の生徒会書記であるセナの声が耳に入る

 

「会長、どうしましょう!?これは止めに入った方が」

 

「いえ、様子を見ましょう」

 

「ですがッ!」

 

 

 セナの焦りを代弁するかのように動いたのは審判役の教師だった。

 

「アレアスッ!聞こえてるかッ!?私の声は届いているかッ!?」

 

「はい、先生。大丈夫です。しっかり聞こえています」

 

 教師の声に反応してロークは視線を教師へと向けるとゆっくりと頷く。その反応に教師はまず安堵する。少なくとも意識はしっかりある。

 

「ならば、即刻その邪霊を戻すんだッ!危険だ!!」

 

「お断りします」

 

「なッ!?」

 

 ロークの返事に教師は目を見開く。

 

「コイツは俺の精霊です。それにコイツがいないと俺は彼に勝てない」

 

「何を言ってる!?これは邪霊だ!人が手を出して良いものじゃないッ!!」

 

「俺の精霊です。それ以外の何でもありません」

 

 あまりに力強く真っ直ぐなロークの言葉に教師は思わず気圧される。

 

「お願いします。このままやらせて下さい、ご迷惑は絶対にかけません」

 

 恐らく本音だろう。誠実さを感じる声に思わず頷きそうになるのを、けれどすぐに首を横に振る。

 

「ダメだ!幾ら君でも認められないッ!そもそも邪霊を呼ぶくらいなら先に契約精霊を呼びなさいッ!そんな危ない力に手を出すんじゃないッ!!」

 

「いませんよ、そんなの」

 

「……は?」

 

 ロークの放った言葉の意味を理解できず、教師はポカンとした表情を浮かべる。

 

 そんな教師の表情を見て自身が何を言ったのかを遅れて理解したロークは自身の発言ながら驚愕した表情を浮かべる。

 

 

 

 ———ああ、遂に言っちゃったな。

 

 

 けれども一度、口にすると不思議と身体が軽くなったような気がした。故にロークはどこか清々しさを感じる苦笑を浮かべながら再びその隠していた事実を口にする。

 

「だから俺にはいないんですよ、契約精霊が」

 

「け、契約精霊がいないッ!?な、何を言ってるんだ!?!?」 

 

 ロークの発言に教師は更に困惑する。契約精霊がいない?そんな馬鹿な、あり得ない。ましてや彼に限ってそんなことがある筈が無い。

 

「えっ、契約精霊がいないって言ったか!?」

 

「はぁ?あの強さで契約精霊がいない訳ないだろ!」

 

「いやけど、今本人がッ!?」

 

「だとしたらヤバ過ぎだろ……」

 

「どうせ嘘だよ、嘘に決まってる」

 

 

 再び困惑と驚愕、疑惑の声が闘技場広がっていく。

 邪霊の使役、契約精霊の無所持。信じ難い二つの情報にたちまち闘技場内は混乱に陥ってしまう。 

 

 契約精霊の有無に関しては今ここで言うつもりは無かったのだが、つい流れで口にしてしまった。

 

「…………参ったな」

 

 ロークはそんな状況を眺めながら諦観の笑みを浮かべる。

 まぁ、当然と言えば当然の反応だろう。邪霊を呼び出すかと思ったら今度は契約精霊がいないとカミングアウトだ。

 

 

 

 こんな状況では試合を続行するどころじゃないかと、ロークは静かに依代を取り出して邪霊を戻そうとする。

 

 

 

 

 闘技場全体に耳を劈く不協和音が響き渡ったのはまさにその直後のことだった。

 

 

 

「まだ劇の途中だっていうのに、ノイズが多いね」

 

 

 闘技場の人々が思わず耳を押さえている中で一人、音の発生源であるケイだけは煩わしそうな表情を浮かべながら指揮棒を振っていた。

 

「先生も邪魔しないで頂きたい。これは僕達の試合です」

 

「トラルウス…けれど」

 

「問題ありません。契約精霊の真偽に関しては知りませんが、少なくとも彼はしっかり邪霊を従えている。それに暴走しようが、周囲に被害が及ぶ前に僕が叩き潰します。それならば構わないでしょう?」

 

「い、いや、そういう問題じゃ……」

 

「やらせてあげましょう」

 

 というかこんな事態、新人の自分の一存では決められない。困った教師は他の誰かに助けを求めようとして背後から聞こえてきた呟きに驚き共に振り返る。

 

「あ、アルベルト先生…」

 

「彼らの望み通り試合をやらせてあげましょう。少なくとも今のロークくんに異常は無い。本人に続行の意思がある以上、この試合を止めてしまうのは非常に勿体無い」

 

「で、ですが……」

 

「何かあれば責任は私が取ります」

 

 邪霊学の権威であるアルベルトにそこまで言われては流石に言い返すことができず、教師はそこで押し黙る。

 

「審判役は私が引き継ぎます。代わりに結界の強化の連絡をお願いできますか?」

 

「わ、分かりました!」

 

 走り去っていく教師を見送ったアルベルトは視線を改めてロークへと向ける。

 

「アレアス君、気になることは幾つもあるが、まずは確認だ。私の邪霊学の講義を受けてくれている君ならば邪霊を使役する危険性も充分に理解しているね?」

 

「………はい」

 

 試すように確認を取るアルベルトにロークはゆっくりと頷く。

 

「先に言っておくが、君が暴走した際には殺すことすら辞さないつもりだ。それでも邪霊を使役して戦うのかい?」

 

「はい」

 

 今度は即答だった。

 ジッとロークの瞳を見つめ、その覚悟を感じ取ったアルベルトはやがて「ならば宜しい」と頷く。

 

「残りの話は試合が終わった後にしよう。二人とも、好きなタイミングで再開して構わないよ」

 

 フィールドから離れていくアルベルトはその言葉を最後に試合の観察に入る。

 

 ロークは闘技場全体から様々な思いが込められた視線を向けられているのを感じながら改めて対戦相手へと視線を向ける。

 

「申し訳ない、待たせた。それと…ありがとう」

 

 そしてロークは謝罪と感謝をケイへと向ける。それは彼が試合を望んでくれたこと、擁護してくれたことへの礼だった。

 

「構わないよ、僕もこんな終わり方はゴメンだからね」

 

「それとさっきの話だけど……俺は———っ!」

 

 ロークの言葉を遮るように再び不協和音が闘技場に鳴り響く。

 

「興味ないよ」

 

「………え?」

 

「君の契約精霊の有無の真偽なんて今更どうでも良い」

 

 

 驚くロークに対してケイは呆れた表情を浮かべながら話を続ける。

 

 

「言葉の真偽なんてわざわざ説明しなくても声に込められた感情を聞けば、目を見ればすぐに分かる———君が本気で僕に勝ちたいと思っていることも」

 

「ッ!!」

 

「だからこそ言おう。今の君に他のことを気にしている余裕があるのかい?この僕を前にして」

 

「…………」

 

 その言葉にロークは押し黙る。邪霊を使役していること、契約精霊がいないことを口にした自分をどう見ているのか。周囲の視線が気になっていた彼にその言葉は突き刺さった。

 

 その通りだ。

 どこまでもその通りだった。

 

 

「折角、君のお陰でインスピレーションが沸いて来ているんだッ!落胆させないでくれよッ!!」

 

 ケイが指揮棒を振るうと同時にセイレーンが歌を再開し、小人達が奏でる音楽がよりリズミカルになる。それは即ちケイの作り上げている物語の再会を意味していた。

 

「第七章 剣戟森森」

 

 セイレーンの声と共に地面を砕いて現れる仮初の木々。彼女の激しい歌声に応じて段々と成長していく木々はそのまま波のようにロークに向かって迫っていく。

 

「さぁ、魔の森に迷い込んだ英雄殿はどう対処するッ!?」

 

「………」

 

 視界を緑色で埋め尽くしながら迫ってくる木々の壁。

 

 迫って来た自然の暴威を前にロークは静かに思う。

 

 

 ———そうだ。トラルウスの言う通りだ。俺は勝つために覚悟を決めて邪霊を呼んだ。

 

 

 なら、色々考える前にするべきことがある筈だ。

 

 

 

 

「……重剣」

 

 黒い霊力が剣を覆い、不気味な重低音を響かせ始める。

 そして無数の枝が目の前に迫ってきたところでロークは腰を低くして剣を構えると———思いっきり横薙ぎに振るった。

   

 

 

 

 

 瞬間、迫っていた魔の森が衝撃波と共に砕け散った。

 

 

 

 

「なッ!?」

    

 

 剣から放たれた衝撃波は放った木々の全てを粉々に砕いていき、地面にヒビ割れを刻みながらこちらに迫ってくる。

 

 ケイは驚愕と共に素早く結界を展開、直後に衝撃波が直撃する。

 

「……くッ!」

 

 衝撃の重さに思わず一歩後退しながらも指揮棒を振るい、放たれた衝撃波を弾き飛ばす。

 

 

 衝撃波によって舞い上がった木々や土砂が地面に落下していく中、ケイは視界の先で剣を振り抜いたロークがゆっくりとこちらに剣を突き付ける姿を確認する。

 

 

「……お前に勝つぞ、トラルウス」

 

 

「良いね、そうこなくては………」

 

 

 どこまでも真っ直ぐに勝利を求めるロークの宣言に、まさにこの物語の英雄役に相応しい相手だと再認識する。

 

 そして、この学位戦で物語を作り続けていたケイは初めて作り上げた物語が佳境に入り掛かろうとしていることに心を躍らせた。

 

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