真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます 作:アラッサム
座談会が始まり、各テーブルで新入生と在学生の間で会話が行われる中、俺達のFテーブルは未だ沈黙を保っていた。
原因は色々あるがその中心となっているのは恐らく俺だろう。
やっぱり帰れば良かったと今更ながら後悔する。
「そ、それじゃ、早速自己紹介しようか。私はセリア・ルーフレア、後輩諸君は気になることがあれば何でも聞いてね!」
このテーブルに漂う重苦しい空気を打開すべく快活な笑みを浮かべて自己紹介を始めたのは茶髪の髪を短く切り揃えた可愛らしい少女だった。
その名をセリア・ルーフレア。名門精霊師一族であるルーフレア家の跡取りである少女である。
学院の中でもかなり上位の実力を持つ精霊師で確か、成績は学年上位十名の中に連なっていた筈だ。
彼女は持ち前の明るさとコミュ力をフル動員してテーブルの場を盛り上げようとするが、お通夜のごとき空気は一向に軽くならない。けれども彼女の明るい雰囲気に触発された新入生達がポツリポツリと自己紹介を始めてくれた。
「あ、あの、メイリー・ノーストです。よ、よろしくお願いします!」
最初に名乗った彼女は青い前髪が目元にまで掛かっていて、その顔を伺うことはできないが上擦った声から緊張していることが感じ取れた。何だか新入生らしくて微笑ましくなる。
「月影燈(つきかげあかり)」
次に名乗ったのは艶の黒い長髪を伸ばした鋭い目付きをした少女だ。名前からして東方出身の精霊師だろうか、遠路遥々よく来たものだ。腰にはガレス同じく剣を帯剣してる辺り、近接戦闘を好むタイプなのだろうか。
「…………レイア・ヴァルハートです」
そして最後、ヴァルハート家のお嬢様。このテーブルの空気を重くしている要因その1である彼女は尻尾のように揺れる銀色の三つ編みを揺らしながらその金色の瞳で俺を睨み付けている。
容姿自体は非常に整っているのに眼力が強すぎて少しも可愛いと思えない。
つーか何でいるの?晩餐会まで参加しないんじゃ無かったの?
「メイリーちゃんに燈ちゃんにレイアちゃんね!みんな宜しく!ほら、こっちも二人とも挨拶して!!」
そう言ってセリアは俺たち在学生にも自己紹介するように促してくるので俺は努めて落ち着いた雰囲気を醸し出しながら口を開く。
「ローク・アレアスだ。宜しく頼む」
自己紹介を終えると気のせいかレイアの視線が少し鋭くなった気がする。どうか、勘違いでありますように……。
「俺はオーグン、オーグン・ゴドウィンだ!何かあればそこの平民よりも俺を頼るといいぜ!手取り足取り教えてやるよ」
そう言って俺に喧嘩を売りながら自己紹介をしたのはこのテーブルの空気を重くしている原因その2であるオーグン・ゴドウィンである。
学院指定の制服を着崩し、やたらとシルバーネックレスやらブレスレットやら高級な装飾品を身に付けた不良のような容姿のこの男も一応、名門貴族の一員だ。
それこそ家柄だけで言えばガレスやセリアに並ぶほどの有力貴族であり、実力に関しても二人には一歩及ばないにしても充分に優秀な部類に入るだろう。
まぁ、品格に関してはお察しではあるが……。
「こ、こら!オーグンくん、そんなこと言わないで!今日は新入生歓迎会なんだからもっと楽しくいこうよ!」
「はぁ、事実だろ!?ボッチで隠キャで貧乏な上にどんな戦いでも契約精霊は呼ばないときた、こんな不気味な奴を頼りたいと思うか!?」
必死のセリアのフォローも一蹴してオーグンは叫ぶ。
過去に何回かコイツをボコしたせいで俺はオーグンにやたらと嫌われている。それはもう食堂で飯食ってる時も図書館で本読んでる時も何なら授業中も会うと事あるごとに因縁を付けてくる。
そして今日も同じグループになってしまったのが運の尽き、座談会が始まる前からまるで親の仇の如く睨まれ続けていたが、とうとう我慢できなくなったらしく俺への悪口が止まらない止まらない。
けれどそれも俺が全く反応を示さないのを確認するとつまらなそうに舌打ちして標的を俺から新入生へとシフトしていく。
「お前ら、この学院で上に行きたいなら今の内からこの俺のご機嫌を取っておくと良いぜ?」
そう言って聞いてもいないのに自分の武勇伝を語り始めたオーグン、どうにか流れを修正しようと必死に話題を振るセリア、俺達を眺めながらオロオロするメイリー、不愉快そうにオーグンを半眼で睨む月影、オーグンの言葉の一切を無視して何故か俺をジッと見ているレイア。
もう収拾がつかない混沌に包まれた座談会の中で全てを諦めた俺はとりあえずテーブルに置いてあった紅茶のカップを手に取り、喉に流し込む。
うん、美味い。良い茶葉使ってんだろうな。
どんなに座談会が辛くてつまらなくても出されているお茶と菓子は美味い。
前回とまんま一緒である。
と俺が現実逃避しているとスッとレイアが片手を上げた。
「あの、質問良いですか?」
「う、うん!良いよ!何でも聞いて!!」
「任せろ、俺が何でも答えてやる」
新入生側からの始めてのアクションに瞳を輝かせるセリアと腕を組み質問を今か今かと待ち構えるオーグン。
そんな二人を横目に眺めながら何を質問するのかと俺は紅茶のカップを傾けながらレイアの次の言葉を待つ。
「ローク先輩はどうして契約精霊を呼ばないんですか?」
「……んッ…ゴホッゴホッ!」
二人では無く俺への質問、しかも前に答えた質問が飛んできた為に紅茶が気管に入り、思いっきり咽せてしまう。
他の質問してよ。セリアはともかくオーグン凄い顔してこっち見てるでしょうが。
「その質問には先程答えた筈だ」
「納得いきません、仮に自分を主体にして戦うにしても契約精霊を呼び出して霊力の供給を受けながら戦った方が楽に戦えた筈です」
そうだね、俺もそう思う。
「それなのに先輩は頑なに契約精霊を呼ばず、簡易契約による微精霊たちだけで私と戦い続け、挙句に私は負けました。馬鹿にしているとしか思えません」
「……………」
「仮にそれ以外の理由があるなら今すぐ答えて頂けませんか?あの答えでは納得することができません」
「……………」
レイアの問いに俺はゆったりとした動作でカップを机の上に置いてあるソーサーへと置く。
カチャリという音がやけに耳に入り、そこで気付けば周囲のグループも俺達のグループの異様な雰囲気を察してか、俺とレイアの会話に注目していることに気付いた。
お前ら頼むから自分のグループ内で会話してくれよ……。
「………理由、か」
俺はボソリと呟いて腕を組む。
あの理由で納得してくれないなら一体どんな理由を言えばレイアは納得してくれるのだろうか。
とりあえず目を瞑ってどこか深い事情がある感を醸し出すことで時間稼ぎを試みるが、これも長くは続かないだろう。加えて周囲の視線もあるせいで逃げ出すこともできない。
さて、マジでどうしよう。何も良い理由が思い付かない。
そもそも契約精霊を呼ばないデメリットは山ほど挙げることができるがメリットは一つも挙げることができない。
まぁ、だからレイアも疑問に思ってるんだろうけど…。
もういっそ思い切って実は契約精霊いましぇーん!とかってふざけて言ってみるか?全てを失うだろうが、逆にスッキリしそうな気がしなくもない。
と俺が呑気に悩んでいる時だった、その大声が食堂に響き渡ったのは。
「んなのコイツに契約精霊がいねぇからに決まってんだろッ!!」
マジで一瞬、呼吸が止まりかけた。