真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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この小説を書き始めて一年、ようやく50話まで来れました。

読者の皆様、いつもこの物語を読んで頂きありがとうございます。
この物語を面白いと思って頂けた方は宜しければ高評価、お気に入り登録などを宜しくお願いいたします。

それでは本編をお楽しみ下さい。


第50話

「アレアス……お前は……」

 

 その学生はロークと同じ二年生で平民の出ということもあり彼を慕っていた。

 

 尤も初期は契約精霊も呼ばずにボロ負けしたり、いつまでも契約精霊を呼ばない彼の様子を不思議に思っていたが、その思いも彼が実績を上げていくと同時に変化していった。

 

 強力な高位精霊を前に強力な精霊ではなく知恵や技術で対抗して一つ一つ打ち倒していくその姿に自信を与えられたのだ。契約した精霊が全てな訳では無い……と。

 

 もしかしたら自分達にそれを伝える為にわざわざ契約精霊を呼ばないなんて縛りをしてるのではと……そう思った時すらあった。

 

 けれど、まさか本当に契約精霊がいないのか?

 それにあの邪霊は一体………。

 

「………」

 

 湧き上がるモヤモヤとした感情。言い表せない気持ちが彼の胸中を覆っていく中、近くの席から大きな声が聞こえてきた。

 

「いけッ!ロークッ!!」

 

 声援の主へと視線を向けると端正な顔立ちの少年が視界に入る。確かアレはロークと親しかったガレス・オーロットだった筈だ。

 

 ロークのカミングアウトによって観戦席が静かになり、戦闘音だけが響き渡る中でその声は非常に耳に入った。

 

 改めて視線を戦う二人に向ける。

 

 生み出された闇の巨人、魔王を前にして一切臆することなく飛び込むロークの姿。連続で放たれる拳をギリギリで躱し続け、時には殴り飛ばされながも瞬時に立ち上がり、再び走り出すその姿は紛れもない自身が憧れた彼の姿だった。

 

「……いけ」

 

 気付けば声が漏れた。

 

「負けるなッ!アレアスッ!!」

 

 そして、その声を聞いた人々も続くように声援を上げ始める。

 

「頑張れッ!アレアスッ!!」

 

「いけぇッ!あのムカつくトラルウスをぶっ飛ばせッ!お前に今月の小遣い全掛けしてるんだぞッ!?」

 

「トラルウス様ッ!頑張って下さいッ!!」

 

 

「いけぇえええッ!!」

 

 闘技場に響き渡る声。

 静寂に包まれていた観客席は両者の声援によって満たされる。

 

 

 後のことは分からない。

 けれどもこの瞬間においては誰もが全力で戦う二人にただ声援を送っていた。

 

 

 

「はぁああッ!!」

 

 

 そして彼らの声援を背に受けながらロークは迫って来る拳に対して全力で剣を振るって受け止める。

 大気を振動させる衝撃音を響かせながら魔王の拳を止めると更にロークは雄叫びを上げながら剣を振り上げ、拳を真っ二つに斬り裂く。

 

『オオオ!!』

 

 斬撃によって肩辺りまでパックリと腕を割られながらも魔王は一切怯まず無事なもう片方の拳を放ってくる。

 

「クロッ!」

 

 叫ぶと同時に身体が引っ張られるように急上昇するとクロの少し下に浮かぶ瓦礫へと着地する。

 

 再び魔王へと視線を向ければ既にそこには元から傷など受けていなかったと言わんばかり元通りになった魔王の姿が視界に入る。

 

 

 まるでお前の攻撃は無意味だと告げられているかのようなその姿を前にしながらもロークは絶望するどころか、楽しげに笑っていた。

 

「………」

 

 ふと観客席からの声が耳に入ってくる。

 自身への罵倒?声援?それともトラルウスへに対しての声援か?

 

 よく聞こえないし、内容も分からない………いや、そもそもどうでも良かった。

 

 俺がありのままの自分を曝け出して戦う。

 そして相手が本当の俺を受け入れて真正面から応えてくれている。

 

 それだけで良かった。

 その事実がどこまでも心地良く……何よりも楽しかった。

 

「………ああ…」

 

 そうだ、楽しいのだ。

 今、始めて俺は戦いを楽しいと感じている。

 

 大量の霊力を消費し、酷使した身体は鉛のように重く悲鳴を上げているというのに心はどこまでも軽く、弾んでいた。

 

「ハハハッ!!」

 

 その事実を自覚したロークのボルテージが更に上昇する。

 限界である筈の身体からありったけの霊力を絞り出して剣精霊、そしてクロへと流し込む。

 

「行くぞッ!クロォオッ!」

 

『▲☆=¥><!!』

 

 叫ぶロークの言葉に応じるようにクロも咆哮を上げると地面の一部を巨大な槍のようにしながら宙に持ち上げる。

 

『ォォオオッ!!』

 

 そんなローク達を先んじて潰すべくケイに操られる魔王も咆哮を上げながら拳を放ってくる。

 

「やれッ!」

 

 ロークの指示に応じて浮かび上がっていた岩の巨槍が弾丸のような速度で魔王へと放たれる。

 

「その程度……なッ!?」

 

 所詮は岩、魔王を貫ける筈がない。

 そう思い込んでいたケイの慢心を突くように放たれた巨槍は魔王の胴体を貫いてその背後にいたケイへと迫っていく。

 

「ちぃッ!!」

 

「aaaaッ!!」

 

 素早く指揮棒を振うと同時にセイレーンが両手を広げながら歌手の若く美しい声を放つ。途端に展開された音の盾は迫ってくる巨槍の先端を受け止めて砕き、危機を回避したと安堵したケイはけれども槍の中程からこちらに向けて走ってくるロークに目を見開く。

 

「重剣 閃舞ッ!!」

 

「ぐッ!?」

 

 弾かれるようにして加速するロークはケイの視界から消え、次の瞬間には展開していた結界が砕かれる音と共に左肩から血飛沫が舞っていた。

 

「………甘いッ!」

 

「ぐおッ!?」

 

 全く反応できない程の動き。けれどもケイの耳は地面に足を着いたロークの音を正確に聞き取り、指揮棒を振るう。

 

 ようやく決められた一撃に無意識に気を緩ませていたロークは直後に迫って来た魔王の裏拳に反応できずに思いっきり殴り飛ばされる。

 

「………ッ!?……ッ!?」

 

「大丈夫だ、それよりも歌を止めるな」

 

 ケイが傷を負ったことに誰よりも動揺したのは本人では無く、側で歌い続けていた彼の契約精霊であるセイレーンだった。

 

 思わず歌を止めようとする彼女をケイは叱責しながら素早く指揮棒を振るい、再度結界を展開する。

 

「………フッ」

 

 自身の肩に触れて鋭い痛みを感じたケイは思わず笑う。

 マゾな訳では無い、ただ今まで学位戦で大した傷を負って来なかったケイにとって斬られるという感覚は彼に戦いの実感を味合わせた。

 

「良いね……最高だッ!!」 

 

 

 ロークと同様にボルテージを上げるケイに釣られて彼の契約精霊達の奏でる音のキレが増していく。

 

「黒雷の裁きッ!」

 

 雷鳴が轟く。

 魔王の口が開いたかと思うとその中から何条もの黒い稲妻がローク目掛けて放たれる。

 

「ッ!!」

 

 未だ態勢を立て直せないロークは迫りくる黒雷を防御するべく前身に霊力を流し込もうとすると直後に身体が浮き上がり、クロの側まで勢いよく引っ張られる。

 

 どうやらクロ自身の判断でカバーしてくれたらしい。

 

「ナイスだ、クロッ!」

 

『□&○%$■☆♭*♪』

 

 

 追撃で更に放たれる稲妻をクロは素早く障壁を展開して受け止める。バチチと闇の霊力同士が激しく衝突し、消滅していく。

 

「なら叩き潰してやる!!」

 

 

『ォォォオオオオオオッ!!!

 

 魔王の左腕が奇天烈に膨張するとそのまま天高く振り上げ、そして思いっきり振り下ろす。

 

 まるで黒く染まった空が落ちてきたかのように錯覚する光景。少なからず観客席からは恐怖の声が思わず漏れ出すような、そんな恐ろしい光景を前にロークは冷静に痺れの残る腕に力を入れた。

 

 

「…………ふぅ〜」

 

 闇の霊力によって形作られた魔王は非常に強固な上にどれだけダメージを与えてもすぐに再生してしまう。

 

 けれど同時に霊力で作られているが故の弱点もある。

 その最たるものが魔王が傷付き、再生の度にその身体の霊力密度に変化が生じていることだ。その全身の濃い霊力はけれどもこちらが斬り裂き、穿つ度に少なからず霊力が散っていた。

 

 故に魔王の身体には霊力の薄く脆い部分が所々に生み出されており、ロークは振り下ろされる腕の関節部分、薄く脆い部分を見抜くと剣を振り上げた。

 

「ふッ!」

 

「ッ!?」

 

 宙を舞う魔王の左腕。

 その光景を目を見開きながら驚くケイは……けれども次の瞬間にはその表情を笑みへと変えて指揮棒を振るう。

 

「なッ!?」

 

 今度はロークが驚愕する番だった。

 

 ケイの指揮に合わせて魔王の左腕は再生せずに粒子となってその形を腕から剣へとその形状を変化させると再生した右腕でその柄を握り締めた。

 

「魔王剣ティルウィング」

 

 振り下ろされる闇の剣。

 隻腕になった代わりに魔王が手にした剣の破壊力は凄まじく、地面に大きな残痕を残す。

 

「流石だッ!トラルウスッ!!」

 

 辛うじて斬撃を躱したロークは舞い上がる瓦礫の中を駆け上がりながら惜しみない賞賛の声を漏らす。

 

 そしてロークは一際大きな瓦礫の上に着地すると剣を構える。

 ふわりと彼の背後へと邪霊、クロが移動したかと思うとロークの手にする剣精霊に膨大な闇の霊力が込められていく。

 

 

 決めにきた。

 それを悟ったケイも全力で応えるべく魔王に自身の霊力の全てを流し込む。加えてあろうことか精霊達にも自身の結界維持の為に使用していた霊力を魔王へと流し込むように命じ、彼等から困惑の声が流れ込んでくる。

 

 加えてセイレーンと霊装化したローレライからは明確な拒否の念を送ってくるが、ケイはそれを黙らせる。

 

 その判断は普段の彼からは考えられない思考だった。

 攻防一体の完璧な戦い方を基本とするケイはどんな大技を放つ時でさえ、万が一のことを考慮して守りも固める。

 

 けれどもこの瞬間に限り、彼は万が一の可能性を切り捨てる。

 

 それは芸術家としてのケイ・トラルウスではなく、精霊師としてのケイ・トラルウスが抱いた強い想い。

 

 胸の奥底から沸々と湧き上がってくる勝利への渇望。

 

 あの男に勝ちたい!アイツに勝ちたい!!ローク・アレアスに勝ちたい!!!

 

 故に彼は自身と精霊の霊力の全てを魔王へと注ぎ込む。

 

 勝つ為に。

 

 

「防御は良いのかッ!?怪我するぞッ!!」

 

「不要だッ!!それより自身の心配をしたまえッ!!」

 

「余計なお世話だッ!!」

 

 言い終えた二人は互いに笑いながら視線を交差させる。

 当然だった。互いに自身が負けることなど考えていない、故に防御など不要。ただこの一撃に自身の全てを注ぐのみ。

 

 

「結界班に今すぐ結界を強化するように連絡しろッ!!この威力は下手すれば砕けるぞッ!!」

 

 急激に高まっていく二人の霊力にアルベルトは素早く闘技場の結界を形成している結界班に連絡を入れる。このまま衝突すると余波で結界を砕く可能性すらある、そう判断してのアルベルトの指示だった。

 

 

「…………ハッ」

 

 この一撃で全てが決まる。

 決着を前にして心を滾らせるロークは、しかし同時に自身の勝率を冷静に思考していた。

 

 恐らくここまでに消費した霊力量、そして元々の霊力量、そのどちらの要素を加味しても自身の敗北は濃厚。十中八九、このまま衝突すればこちらは負ける。

 

 ————だからどうしたッ!

 

 

 その思考を切り捨てる。

 勝算など知ったことでは無い。最後の一撃を放つ前に敗北を考える馬鹿がどこにいる。

 

 敗北など考えない、足りないものは気合と想いで補う。

 

 文字通り自分の持ちうる全てをぶつける。

 

 

 

 敢えて思考を止めるローク。

 だからこそ彼は気付かない。

 

 圧倒的な集中力による霊力効率、それでも尚補い切れなかった筈の霊力、それをクロが与えていたことに。

 途中からロークに流し込まれていた霊力をそのまま送り返し、クロが自身の霊力で霊術を使用していたその事実に。

 

 ロークが思っている以上に対等な条件でぶつかることができることに……。

 

 故に彼は自身が不利だと思いながらも、けれども自身の勝利を信じながら剣を振るう。

 

 

「俺の勝利の為に」

 

「僕の勝利の為に」

 

 

 二人が溜めた膨大な闇が互いの剣に宿る。

 

 

「お前は負けろ」

 

「君は敗れてくれ」

 

 

 ロークが剣を振り下ろし、ケイが指揮棒を振り下ろす。

 

 

「重剣 神楽ッ!!」

 

「ティルウィングッ!!」

 

 

 自身の勝利を疑わずに放たれた二つの斬撃が黒い火花を散らしながら衝突した。

 

 

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