真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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お久しぶりです。
色々あって大変遅くなりました。
申し訳ございません。

とりあえず今回で一区切りになります。

ということで本編をどうぞ。


第51話

「ォォオオオッ!」

 

「ァァアアアッ!」

 

 全霊力を込めた斬撃。

 後先のことなど考えない、ただ勝利のみを求めた全身全霊の一撃。

 

 衝突する二つの斬撃が火花と共に互いの霊力を散らし、周囲の地面を砕き結界にヒビを入れる。

 

「ハハハッ!!」

 

 余波によって頰や腕に無数の赤い線が刻まれる。

 加えて全身には限界を超えて霊力を放出し続けていることで全身に凄まじい痛みが走るがケイ・トラルウスはそんなものは気にならないと言わんばかりに笑う。

 

 相手が全てを自分にぶつけ、それを全身で受け止める。

 そして何よりも————自らの全てをぶつけ、相手が受け止めてくれることの、なんと心地良いことか。

 

 肉体はもう無理だ、限界だと悲鳴を上げているが心はまだまだともっと力を出せると歓喜の声を上げる。

 

 心が激しく脈動する。

 

「ああ、本当に素晴らしいッ!!」

 

 これが戦いかッ!

 これこそが、精霊師同士の戦いなのかッ!

 

 意識が変わっていく。

 物語の創作者から登場人物へと、自らが想像して生み出した魔王へと自身の意識が憑依するかのように生まれ変わっていく。

 

 否、違う。そうじゃ無い。

 

 今、自分は物語の主人公になっているのだ。

 他でもないケイ・トラルウスという物語の主人公へと!

 

「…………」

 

 ようやく自分と向き合えた。

 

 今ならば胸を張って言える。

 

 僕は精霊師だと。

 精霊師ケイ・トラルウスだと!

 

 

「ォォォオオオオオオッ!!」

 

 

 どこまでも心地良いこの刹那の瞬間の永遠を願いながらも同時にこの戦いの終わり………勝利を願う。

 

 

 どこまでも貪欲に、強欲に。心の底から。

 

 精霊師ケイ・トラルウスとしての始めての戦い。

 その勝利をッ!!

 

「ぐッ!」

 

「ぎぃッ!」

 

 

 互いに苦しみに顔を歪めながらも次の瞬間には笑い、そして最後の力を振り絞る。霊力を最後の一滴まで、その全てを絞り切る。

 

 

「「はぁぁぁああああッッ!!!」」

 

 

 互いの咆哮が闘技場に響き渡り、そして——————長くも短くも感じたこの試合が終わりを迎える。

 

 

「………ッ!!」

 

「………ッ!?」

 

 衝突していた二つの膨大な霊力が大きく広がっていき、やがて爆音を轟かせながら会場全体を二人の闇が包み込んだ。

 

 

 

*****

 

 火花を散らした二つの闇が轟音と共に弾け、土煙に包まれる闘技場の中で誰もが二人の姿を探していた。

 

「どっちが勝ったッ!?」

 

「分からん!土煙でよく見えないッ!!」

 

「くッ!」

 

 一体どうなったのか?

 どっちが勝ったのか、どっちが立っているのか。それともどちらも倒れたのか。

 

「………」

 

 ガレスは無言で闘技場をジッと見つめていた。

 

「どうなったの?」

 

「分からない、どっちの霊力も感じられない」

 

 困惑した様子のセリアの問いにリリーは霊力探知では二人を見つけられなかったことを告げる。

 

 文字通り二人が全てをぶつけた結果だろう。

 

 

「………ど、どっちが」

 

「ふふ、どっちだろうね」 

 

 

 どちらが勝利したのかと必死に目を凝らして二人の姿を探すメイリー、その隣では楽しそうに燈が笑みを浮かべながら微笑んでいた。

 

「………ローク先輩」

 

 そして友人達の横でレイアは静かにその名を呟く。

 色々と気になることはある、尋ねたいこともある。

 けれども今は彼が無事に立っていることを信じて闘技場へと視線を向ける。

 

 各々が様々な思いを胸中に抱きながら視線を向ける中、少しずつ土煙が晴れていき段々と中の光景が明らかになっていく。

 

 

「…………立ってるな」

 

 未だ土煙に覆われた闘技場の中で立っている黒い人影に気付いたロクスレイが静かに呟く。

 

 どちらかは分からない。そもそも二人とも背丈が同じくらいな上に姿をしっかりと視認できない今の状況で立っている人物がどちらかを判断するのは難しかった。

 

 

 

「会長ッ!あれって!」

 

「…………!」

 

 

 生徒会役員であるセナが叫びにミーシャは僅かに驚きながら視線を向ければ土煙が晴れて遂に立っている人物の正体が明らかになる。

 

 

 立っていた人物は———————。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 目を開けた先にあったのは見慣れない天井……では無かった。

 

「…………またか」

 

 ここ最近よく見る白い天井、保健室の天井だった。どうやらまた運び込まれてしまったらしい。

 

「………ッ!」

 

 鉛のような重い身体をゆっくりと起こすとズキリと頭に鋭い痛みが走った。ああ、めっちゃ痛い。

 

「あ、目覚めたんですね。良かったです」

 

「フローレンスか…」

 

 保健委員会委員長ミネア・フローレンス。

 視界の先に立っている美しい少女の腕には保健委員の証である赤十字が描かれた腕章が付けられていた。

 

「………怠い」

 

「でしょうね、霊力欠乏症です。そのまま暫く休んでいて下さい」

 

 

 青みがかった長髪、泣きぼくろのある綺麗な顔立ちは常に優しげで全体的にスタイルが良い。特に胸元に限って言えば制服の上からでも分かるほど大きな膨らみがあるが同時にどこか聖者じみた清楚な雰囲気を持っている為か、劣情を抱く男子は思いの外、少ないらしい。

 

 ちなみに俺は普通にエロいと思った。

 

「にしてもここ最近、アレアス君は頻繁に保健室に来ますけど無理は良くありませんよ?」

 

「したくてしてる訳じゃねぇ……」

 

 呟きながら意識が鮮明になっていき、段々と曖昧だった記憶を思い出していく。

 

 そうだ、俺はトラルウスと最後に………。

 

「なぁ、フローレンス」

 

「はい、何ですか?」

 

「俺は………いや、何でもない」

 

 学位戦の勝敗をフローレンスに尋ねようとして、けれど最後まで言葉にすることは無く途中で口を閉ざした。わざわざ聞くまでも無く、察することはできたからだ。

 

 俺は意識を失って保健室で寝ていた一方でトラルウスが寝ている気配は無く、どうやら保健室送りになったのは俺だけらしい。

 

 つまり、俺はトラルウスとの最後の衝突で押し負けて敗北したということだろう。

 

「…………くそ」

 

 その思考に至った俺は思わずその言葉を漏らしてしていた。

 この結果は戦う前からある程度分かっていたつもりだったが、それでもやはり悔しかった。

 

 何より今回は本当に全力だった。

 学んだ剣技と霊術、精霊、そして邪霊。恥も外聞も全てをかなぐり捨てて全身全霊でトラルウスにぶつかった。

 

 全てを曝け出して、その上で負けたのだ。

 これが悔しくない訳ないだろう、もうマジで今すぐリベンジマッチを申し込みたい程に悔しい。

 

 けれどそれも叶うか怪しいところだろう。

 契約精霊がいないことを知られ、邪霊を所持しているばかりか使役までしたのだ。

 

 良くて停学、下手するとこのまま退学まであるかも知れない。いや、寧ろ退学の可能性の方が圧倒的に多いだろう。

 

 折角、ここまで優等生として実績を積み上げてきたのに今日一日でその全てをパァにしてしまった。本当に一時の感情に振り回されて勿体無いことをした。

 

 

「……ははっ」

 

 容易に想像できる暗雲立ち込める未来、けれど不思議と心は軽く清々しかった。

 

 長期的に考えると間違いなくマイナスな選択をした筈だが、後悔は全く無かった。それどころか、何度やり直しても同じ選択をする自信がある。

 

 それほどに今の状態が心地良かった。

 もう何も偽る必要も隠す必要も無い。相手から契約精霊について聞かれる度にビクビクと怯える必要も無いのだ。

 

 そんな当たり前のことがどうしようもなく幸せだった。

 

「……そう言えば、フローレンスは俺に聞きたいことないのか?」

 

「勿論ありますよ。けど今は疲れているでしょうし、先に彼とお話しては如何ですか?」

 

「…………?」

 

 

 そう言ってミネアが視線を向ける方向に顔を向けると腰に魔剣を帯びた少年、ガレスが笑みを浮かべながら立っていた。

 

 

「やぁ、ようやくお目覚めかい?」

 

「ああ、快眠だったわ」

 

 

 ガレスが椅子を持ってきて俺のベットの隣に腰掛けるのを確認するとフローレンスは気を利かせてくれたようで保健室から出て行く。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 暫しの沈黙が俺達を包み込んだ後、俺はゆっくりと息を吐き出すように声を出しだ。

 

 

「……後悔は無い。俺はやりきったよ」

 

「ああ、顔を見れば分かる。ここ最近で一番いい顔してるよ」

 

「そうか……」

 

 どうやら表情に出てたらしい。何だか恥ずかしいな……。

 

「フローレンスから試合後のことは聞いたか?」

 

「いや、まだ何も……。けど、とりあえず俺負けたんだろ?」

 

 

「いや、君の勝ちだよ」

 

 

「…………えっ?」

 

 えっ?

 

 

「俺、勝ったの?」

 

 

「ああ、勝ったよ」

 

 

 うそん、俺勝ったの?マジで?

 

 いや、待て待て。

 

「けど俺、最後の技の後、完全に意識失ってたよな?記憶無いし」

 

 

「ああ、完全に意識失ってたよ」

 

「なら負けたんじゃ……?」

 

 意識を失って戦闘不能になっているのだから敗北の筈だ。仮にトラルウスも気絶していたとしても引き分けの筈だ。何で俺の勝ち判定になっている。

 

 

「トラルウスが降参したんだ。だから君の勝ちになった」

 

「ああぁんんッ!!?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺は胸中から湧き上がる憤怒に身を任せて反射的に声を荒げる。

 

 降参だと!?ふざけんなッ!!

 

「あの野郎ッ!舐めやがって!同情のつもりか!?今すぐ—————」

 

「落ち着け、ローク」

 

「ぐほぁッ」

 

 ベッドから出ようとした直後、ガレスに肩を押されて再びベッドに戻される。流石に試合後ということもあり身体にあまり力が入らず、まるで抵抗ができなかった。

 

「無理するな。フローレンスに怒られるぞ?」

 

「いや、けどさ……」

 

「そもそもお前も人のこと言えないだろう?」

 

「…………」

 

 そう言われて真っ先にミーシャとの学位戦が脳裏を過る。

 

 確かに俺も似たようなことをしていたな……。

 別にあの時の降参には悪意は無かったし、純粋に力量さを実感しての敗北宣言だったが、彼女からすれば今の俺のように憤っていたのかも知れない。

 

 

「そうだな……本当に申し訳ないことをしたな」

 

 

 今更ながら自分がしていたことを実感する。

 ミーシャにしてもレイアにしても、それに俺を目の敵にしていたオーグンにしても………しっかりと謝るべきだろう。

 

 まぁ、言うてもう隠している理由は全部バレてるんだけど…………。

 

 

「…………なぁ、ガレス。俺のカミングアウトにみんなはどんな反応してた」

 

「あー、それなんだけど…………実は、その…………」

 

「何だ?言いにくい程に落胆されたか?」

 

 どこか気まずげな顔をして言葉を詰まらせるガレスを見て俺はそう言って笑う。こちらとしてはもう開き直って無敵モードなので何を言われても大したダメージは受けない。もうドンと来い。

 

 

 と話していると俄かに保健室の外が騒がしくなる。複数人の声が聞こえているのでどうやら皆で来たようだが…………何だ?お礼参り?

 

「実は————」

 

 そんなことを思っているとガレスが学位戦の顛末の説明をするべく口を開いた。

 

 

*****

 

「どうして降参なさったのですか、ケイ様!?」

 

 シルトット・ミルラインは学位戦を終えた主人、ケイの下へと走ると信じられないと言わんばかりの表情で尋ねる。

 

 実際、彼女には理解できなかった。あそこまで戦って何故あのタイミングで主人が降参を宣言したのか。わざわざ勝利を捨てたのか、まるで理解ができなかった。

 

「だから何度も言っているだろ。アレは僕の負けだ」

 

「そんな筈はありません!」

 

「最後の一撃に打ち負けて膝を突いたのは僕だ、彼じゃない」

 

 最後の一撃。

 全力を尽くした魔王の一撃をロークの剣が斬り裂いたのをケイは確かに見た。その上でロークは限界を迎えて立ったまま意識を失い、ケイは意識を保ちながらも立つことができなかった。

 

 ケイが無事だったのは一重に彼の契約精霊、セイレーンの独断が故だった。彼女が主人の意に反して最後の瞬間にケイを守る為に攻撃に回していた霊力の一部で障壁を展開し、結果として彼は何とかロークの斬撃に耐え切ることができた。

 

 判定で見れば学位戦の勝者はケイで間違い無いだろう。

 

 けれど納得する訳にはいかなかった。最後の一撃、意識を失っても尚膝をつかずに立っていたローク。対してこちら全力の一撃を防がれた上に地面に膝をついたのだ。

 

 

 

 これを勝利と呼べる訳がなかった。

 

 

 

 だからケイは自らの敗北を宣言した。勝利を与えられる前に。この全力を尽くした上での屈辱的な敗北を奪われない為に。

 

「ですが……」

 

「良いんだ、それに今回は負けたけど次は勝つ。絶対にね」

 

 そう言うとケイは楽しげに笑う。

 そうだ、次がある。勝ち逃げなどさせない。

 

 次こそは絶対に完膚無きまでに勝利してみせる。

 

 

「いえ、ケイ様の意志は分かりました。これ以上、私が口を挟むようなことはしません。けれど、ケイ様の最後のあの言葉は本当のことなのですか?」

 

「ん?ああ、あの発言ことか。アレはね—————」

 

 一瞬、訝しげな表情を浮かべるケイだったがすぐに自身が降参を宣言した後に敢えて大声で言った発言のことを尋ねているのだと気付き、ニヤリと厭らしい笑みを浮かべる。

 

 

*****

 

『今回は僕の負けだロークッ!まさか邪霊を使役するとは見事としか言いようがない!』

 

 まるで敗北したとは思えない様子で高らかに敗北を宣言するケイはそのまま意識の無い俺をそう賞賛しながら話を続けたという。

 

『けれど次こそは君に勝つ!そして、その隠している契約精霊を僕が暴いて見せようッ!!』

 

 そんなクソみたいな爆弾発言を残して彼は会場から堂々と去って行ったらしい。

 

 やってくれたあの野郎。

 何が言葉の真偽は分かるだ、何にも見抜けてねぇし、何にも分かってねぇじゃねぇか。

 

 

 そしてその結果、当然のことながらトラルウスの発言に会場は再び騒然となり、そして今————

 

 

「ローク先輩、やはり精霊と契約していないというのは嘘だったんですか!?」

 

「ローク、結局精霊と契約しているの?いないの?」

 

「実は先輩が契約している精霊も邪霊なんでしょ?だからいないなんて嘘ついたんだよね?」

 

「ねぇ、ちょっとしっかり説明してよ!!」

 

「アレアス、制御できない程の強力な精霊と契約してるってマジか?だから使役できないって聞いたけど?」

 

「まぁ、お前ほどの男が精霊と契約できない訳ないよな!」

 

「俺、お前が精霊いないに賭けてるんだけど、どう?合ってる?」

 

 —————真相を知ろうとしている生徒達がフローレンスの制止を振り切って次々に保健室へと突入してきた。

 

「……………」

 

 無言で視線をガレスに向ける。

 すると彼はお手上げと言わんばかりに両手を上げた。

 

「あの、ローク・アレアス。生徒会の皆さんから制御し切れない邪霊と契約しているのを隠す為に嘘をついたという話を聞きましたが、そうなのですか??」

 

 次々に保健室に生徒が入ってくる中にミーシャもしれっと紛れ込むと不思議そうに首を傾げながら尋ねてくる。

 

 どうやらあのクソ野郎のせいでこの短い間に出所不明の憶測が飛び交っているようだ。

 

 故に俺は大きな声でハッキリと叫ぶ。

 

 

「だから契約してないって、言っただろォォォォォオオオオオオオオッ!?!?」

 

 

 先程まで耐えていた充足感を失った俺の悲痛な叫びが保健室から響き渡った。

 

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