真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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終わらなかった。
最早、クリスマスなんてとうの昔なのに……。


番外編2

 その日、予めお誘いを受けていた友人たちと一緒に聖夜祭を回ろうとしていたガレスは何故かリリーの前に座らされていた。

 

「おかしい」

 

「そうだね、君がね」

 

 不満げなリリーの言葉にガレスは真顔で頷く。

 移動中に突然、霧が出てきたと思ったら前後左右がよく分からなくなり、誰かの霊術かと気付いた時には背後に回っていたミノタウロスに拘束されてこの状況である。

 

「グゴォ」

 

「シュコー」

 

 ガレスはリリーの背後にいる下手人達、ミノタウロスと蜃をジロリと睨み付ける。

 

 するとミノタウロスの方は罪悪感があるらしく心無しかその巨体を小さく縮め、隣の蜃は我関せずと言わんばかりにシュコーと音を鳴らしながら息を吐き続けている。いや、そもそも表情が無いから感情の読み取りようが無いのだが少なくともガレスにはそう感じた。

 

「はぁ、リリー、前も言ったけどこういう強引な方法はやめなさい。そして連れて来るのならば先に要件を述べなさい」

 

「…………」

 

「返事は?」

 

「………ごめんなさい」

 

 むすっとしているリリーをガレスが親のように叱ると彼女は若干拗ねたような表情を見せながらも謝罪する。

 

 とりあえずは謝罪したことでリリーの蛮行を許すことにしたガレスは溜息混じりに用件を尋ねる。

 

「それで、内容は?」

 

「ロークが誰かと聖夜祭回ってる」

 

「へぇ」

 

 その言葉にガレスは僅かに驚く。

 昨日は散々不満を口にした後に部屋に篭ると言っていた筈だが、誰かから誘われて出掛けることにしたのだろうか?

 

「私は誘われてないのに……」

 

「僕も昨日は家に篭るって聞いてたから少し意外だな」

 

 リリーの怒る理由を理解しながらガレスは興味深げに呟く。果たして彼は一体、誰と聖夜祭を回っているのだろうか?

 

 

 ………いや、ちょっと待て。

 

「リリー、君なんでロークが誰かと聖夜祭を回ってることを知ってるの?」

 

「簡易契約した精霊と視界を共有して後を追わせてる」

 

「………なるほど」

 

 しれっと高等技術をストーキングに使うリリーに引きながらガレスは納得する。というか前から思っていたが天才と言う割には知識が偏ってる。もう少ししっかりと倫理観も学んで欲しかったところである。

 

「ただ女の方の顔が確認できない。多分、着ている服に認識阻害の霊術が掛かってる」

 

「なんで?」

 

 何故そんな服を着る?ただの聖夜祭のデートじゃないのか。一緒にいる女性の方は恥ずかしがり屋な性格なのだろうか?

 

「だからこれからローク達を追って相手を確認する。付き合って」

 

「え、嫌だ」

 

 リリーのお願いをガレスは即断る。

 話を聞いていて気にならないことは無いが、わざわざ追い掛けてロークと誰かのデートを邪魔したいとは思わない。

 

 

「むぅ…」 

 

「リリー、ロークを取られて寂しい思いは分かるけど彼の邪魔をしちゃいけない。聖夜祭を見たいなら今回は僕と一緒に回ろう」

 

 不満げな表情を浮かべるリリーにガレスは苦笑を浮かべながら諭すように言う。恐らく数少ない大切な友人を取られて寂しいのだろう。

 

 せめて彼の代わりにはなれないまでも今日は彼女の友人として一緒に遊びに行ってあげよう。

 

「うん、分かった」

 

 そんなガレスの思いが通じたのか、リリーはコクリと首を縦に振る。

 

「じゃあ、一緒にロークを追い掛けよう」

 

 何も通じて無かった。

 

「ちょっと待ってリリー、僕の話を聞いて———」

 

「行こう、ミノタウロス」

 

「ブホッ!」

 

「待って、おい、離せクソ牛!こらッ!リリィィイイイッ!?」

 

*****

 

 そして時は流れて現在。

 

「むぅ、やっぱり顔が見えない」

 

「ねぇ、悪いことは言わないからもう止めよう。普通に聖夜祭を楽しもうよ」

 

 ガレスの言葉を無視し、彼が気を紛らわす為に買った串焼きをパクパクと食べながらリリーはジッと人混みの向こう側にいるロークたちの背を見つめる。加えて彼らの周囲に数体の精霊を配置しており、あらゆる視点から二人の行動を観察していた。

 

 けれども、やはり連れの認識阻害の霊術は強力なようで先程から精霊越しに何度も顔を覗き見ようとしていたが失敗している。

 

 あれほどの霊術が込められているということは相当高価なローブだろうが………となると相手は貴族だろうか?

 

「見た限り恋人って感じでも無いしもう良くない」

 

「ダメ、相手の正体を突き止めるまではやめない」

 

「…………」

 

 正直帰りたい。

 けど今のリリーを放置するのは怖い。今の彼女は放置すれば何かをやらかしそうな雰囲気を放っており、このまま彼女を放っておくのは危険だとガレスの直感が告げていた。

 

「けど、認識阻害の霊術使われてるんだろ?どうやって確認するんだ」

 

「それは勿論————ッ!」

 

「ん?どうしたの?」

 

 会話の途中でリリーが驚いた表情を浮かべながら視線をローク達のいる方へと向ける。彼らに何かあったのだろうか?

 

「監視してた精霊がやられた……」

 

「えぇ??」

 

 どういうことだ。一体何が起きているんだ。

 

「纏めてやられた。見事な手際だけど………」

 

 けれどガレスの困惑を無視してリリーは賞賛の言葉を口にしながら懐から幾つもの封霊石を取り出す。

 

「え、あのちょっと、リリーさん?」

 

「逃さない」

 

 ギラリと瞳に熱を宿しながらリリーは全ての封霊石から精霊を解き放った。

 

 

*****

 

「なぁ、こんなことしたらアイツは絶対ムキになってくるぞ!?」

 

「これが最善の手段です。それよりもこのまま何とか追手を撒きましょう」

 

 人混みの中を走り抜けながら叫ぶロークに対してミーシャは仕方ないと言わんばかりの表情で呟き、引き続きロークに先導を求める。

 

 そんな彼女にロークは困った表情を浮かべながら、けれども逆らうこともできず指示に従って追手、リリーから逃れるべく裏路地を経由して走り出す。

 

 ことの発端は遡ること数分前。

 違和感を覚え、先程からなんかジッとこちらを見ている風精霊がいると思って監視をされていることにロークが確信を持ったことが始まりだった。しかも一体じゃない。確認できた範囲で二、三体はこちらを監視している風精霊がいた。

 

 恐らく精霊たちと簡易契約を結んでいるだろうとロークが警戒心を強めながら彼らの契約者を探して周囲を視線を向けていると向こう側の方から丁度、精霊を放つリリーとその背後で困ったように佇むガレスの姿を見てロークは犯人が誰かを悟った。

 

 理由は分からない。

 けれどストーキングされていることには変わりないのでその事実をミーシャに伝えたのだが、その結果————

 

『あの三体ですね?』

 

『ああ、そうだな』

 

 ロークが頷くやミーシャは霊術で三体の聖霊を纏めて消し飛ばした。

 

『逃げます』

 

『えっ?』

 

 そして現在に至る。

 正直、何故ストーキングされてるかは分からないが事情を説明すればそれで済む話だったと思うのだが、何故こんな聖夜に逃走劇を繰り広げればならないのか。

 

「なぁ、ミーシャ。今からでも遅くないから説明を———」

 

「ダメです」

 

「……何故?」

 

「限定カーバンクルのぬいぐるみを買いに来たことなど絶対に誰にもバレる訳にはいきません」

 

「そこまで?」

 

 年頃の女の子なら可愛いぬいぐるみを集めることぐらい別に不思議なことではない筈だが、王族が故のプライドでもあるのだろうか?

 まぁ、確かに普段の振る舞いから考えるとぬいぐるみ好きということにギャップがあるのは確かだが……。

 

「………手、離すなよ」

 

「はい」

 

 何はともあれ姫様からの命令を断る訳にはいかない。

 チラリと背後に視線を向ければ再びリリーが放ったであろう風精霊たちが宙に舞い上がっており、大道芸か何かと勘違いした衆人たちが拍手をしている。

 

 あっちもやる気のようだが、今回ばかりは逃げ切らせて貰おう。

 

 ロークは掴んだミーシャの手を強く握り締めると人混みの中をすり抜けながら裏路地を通って追手を撒く作業に入る。土地勘だけで言えばこちらの方が強い。加えて今日は聖夜祭、多くの人々が闊歩するこの中でこちらを再捕捉するのは相当難しい筈だ。

 

 ロークはミーシャの手を引きながら幾つもの裏道を経由して大市場内を走り回り、周囲に視線を向けながらこちらを追っている精霊の姿が無いかを何度も確認する。

 

「はぁ、はぁ……何とか撒いたか」

 

「さ、流石ですね…ローク・アレアス」

 

 何とかリリーの精霊たちから逃げ切ったがこの人混みの中を動き回ったせいで流石に疲れた。ミーシャも普段の生活では体験しない人混みに疲れ切っている様子だ。

 

「ちょっと一休みするか……」

 

「そ、そうですね」

 

 とりあえず暫くは捕捉されることは無いだろう。そう思いながら近場に視線を向けているとミーシャがジッと何かに視線を向けており、釣られて視線を向ければピスチオと書かれた屋台を発見した。

 

「……アレは」

 

「ああ、そう言えば流行ってるらしいな」

 

 ここ最近、学院でも何かと話題に上がる。女子は何かとピスチオピスチオと言って放課後にピスチオを飲みに行くことをピスるとかと言って意味不明な造語を作っているのを聞いた覚えがる。

 

「気になるのか?」

 

「………いえ」

 

 口ではそう否定しているミーシャだが視線はずっと屋台に固定されている。興味津々であることはバレバレだった。

 

「丁度、喉乾いているし飲もうぜ」

 

「………貴方が言うなら仕方ないですね」

 

「はいはい、行こう行こう」

 

 素直じゃない姫様を連れてロークは屋台に向かうと女性店員に声を掛ける。

 

「すみません、ピスチオ二つ下さい」

 

「畏まりました……あ、もしかしてお二人カップルですか?そうでしたらカップル割りが適応できますが」

 

「はい、カップルです。お願いします」

 

「畏まりました!」

 

「ッ!?」

 

 店員のカップル割りの確認にロークが迷いなく頷くと隣にいたミーシャは驚いた表情を浮かべながらロークに視線を向ける。

 

「ろ、ローク——」

 

「安くなるなら安い方がお得だろ?良いじゃないか、これくらい」

 

「…………」  

 

 ミーシャの言葉を制するようにロークが言うと彼女は驚いた様子で口をパクパクとさせる。何か言いたげな様子だが、安く済むなら越したことがないロークからすれば知ったことでは無かった。

 

「はい、お待たせました。こちらカップル専用のカップになってます。仲良く聖夜祭をお楽しみ下さい!」

 

「ありがとうございます」

 

 営業スマイルを浮かべる店員からハートマークが描かれた容器に入った二つのピスチオを受け取ったロークは片方をミーシャに手渡す。

 

「ほれ、ミーシャ」

 

「…………あ、ありがとうございます」

 

 カップを出されたミーシャはハートマークの描かれた容器を手に取ることに躊躇いがあるのか、手を伸ばしたり引っ込めたりを何度か繰り返したが最終的には大人しく両手で受け取った。

 

「さて、俺も初めて飲むけど……これが本当に流行ってるのか?」

 

 容器は透明でピンク色のハートが描かれている部分以外は中身が見えるが、何というか思ったよりも不気味な見た目をしている。中身はミルクティーらしい、その下にある何か水生生物の卵を彷彿とさせる黒い丸い物体が気になる。これ本当に飲めるの?

 

「とりあえず飲むか」

 

 若干躊躇いながらも意を結したロークがストローを咥えて勢いよく中身を吸い込む

 

 そして。

 

「ゴフゥッ!?ゴホッゴホッ!?!?」

 

「………!」

 

 一気に入ってきた中身に思わずピスチオを喉に詰まらせそうになり咽せながらその場に座り込む。その横ではゆっくりと吸っていたミーシャが少し感動した様子で目を見開いていた。

 

「こ、これが本当に流行っているのか??」

 

「…………」

 

 瞬間的に死に掛けて絶句するロークを他所にミーシャはピスチオを飲み続けており、チラリと視線を向けると幸せそうな表情を浮かべていた。どうやら彼女のお気に召したらしい。

 

 

 

「……ふぅ、美味しかったです」

 

「それなら良かった。それじゃ、改めて———」

 

「ローク先輩?」

 

 まぁ、個人的には理解できないが本人が幸せならそれで良いだろう。そう思いながら十分休めたし今度こそ目的の店へ向かおうとしたロークは背後から聞こえてきた声に金縛りにでもあったかのように身体を硬直させる。

 

 そして、ギギギとブリキの玩具のような動きで振り返ると屋台の食べ物が入った袋を一杯に抱えるレイアと燈、メイリーら一年トリオの姿があった。

 

「一緒にいるそちらの方は………って、えっ?そのカップは…」

 

「……………」

 

 認識阻害の霊術が掛かっている為、隣の女性がミーシャだと認識できないレイアは不思議そうに首を傾げ、次いで二人の持つカップル用の容器を見てフリーズする。

 

 場の空気が一気に十度くらい下がった感覚に陥った。

 

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