真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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読者の皆様、いつも読んで下さりありがとうございます。


遅くなりましたが、更新になります。


第53話

「……競技を見直せって言われてもな」

 

「モグモグ………」

 

 委員会会議の後、久しぶりに委員室に顔を出した俺はカリキュラムの書かれた資料とアンケート用紙と睨み合いながら呟いた。その横ではしれっと隣に座っていたリリーが手元のサンドイッチを淡々と頬張っていた。

 

「うーむ……」

 

「モグモグ……」

 

 腕を組みながら改めて資料を見直す。

 結局のところ霊輪祭の開催における一番の障害はこの学院の上と下で大きな実力、ひいては向上心の差があることだ。

 

 理由は明確で精霊師としての実力は契約した精霊の格で決まってしまうと考えられている為だ。勿論、決してそれが全てでは無い。現にロクスレイなどは自身の実力で契約している精霊だけで言えば格上の相手を圧倒して学年四位の実力を維持している。

 

 ただ、それでもミーシャやトラルウスを筆頭として強力な精霊を使役している精霊師とそうでない精霊師の間では確かな壁というものは存在しており、例外こそあれど多くの精霊師の実力は契約した精霊で決まるというのが精霊師の常識だ。

 

 俺のように精霊と契約すらできてないのに必死こいてる奴などまさに例外の代表だろう。

 

 まぁ、俺は置いといてつまり学院に通う学生は強力な精霊と契約できたことで自信を持って成長しようと努力する者達と契約で失敗したと判断して早々に将来、精霊師として生きることを諦める者達の二パターンに分かれているのだ。何なら最悪のケースで言えば学院に通うのをやめてしまう者すらいる。

 

 一応、ユートレア学院に関しては外部から様々な分野の講師を加えて商人向けの経済学や医者向けの医学、果てには料理人向けに調理学など多種多様な講義を実施しているので学院に通わなくなると言う最悪のケースは少ないが………問題はそういった学生達は当然ながら霊輪祭に参加しないことである。

 

 学位戦ですら単位の為に必要最低限で済ますと言うのにわざわざ単位にすらならない霊輪祭に参加したい理由など無いだろう。

 

 そして霊輪祭の実行の為には、この反対派を納得させることがとても重要になるのだが………。

 

「なぁ、食ってないで一緒に考えてくれよ。お前も実行委員会の端くれだろ?」

 

 先程から俺が頭を抱えている横で一心不乱にサンドウィッチを食べているリリーに言う。一応、彼女も俺と同じく霊輪祭実行委員会に所属しているメンバーの一人である。何でこんな委員会に所属しているかは不明だが……まぁ、この委員会に所属している奴の大半は楽したいからだろう。

 

「モグモグ」

 

 俺の言葉にリリーはチラリと視線を向けながら口を動かす。

 何だお前、俺が悩んでいる隣で美味しそうに食いやがって。そのぷっくりと膨らんだ頬を指で突くぞ?   

 

「………分からない」

 

「放り投げやがった」

 

 やがてゴクンとサンドウィッチの欠片を飲み込んだリリーの開口一番がこれである。なんて頼りにならない奴だろうか。

 

「けど本当に開催するなら少なくとも今の競技は半分以上は変更しないと無理だと思う」

 

「まぁ、だよな」

 

 リリーの言葉に同意する。

 そもそも当たり前だが、どの競技も精霊による競い合いが多い。そりゃ精霊に自信が無ければ参加したいとは思わないし、何なら俺に限って言えばこの内容で開催しても参加できないまである。舐めてんのか。

 

「………」

 

 みんなが仲良く、参加者内の力量の優劣をできるだけ少なく、それでいて楽しいと思える霊輪祭。

 

 無理ゲーだ。

 いや、無理というか何を思い付いても契約精霊の存在が邪魔になる。精霊師なのに契約精霊が邪魔って言ってる意味が分からないけど契約精霊が邪魔だ。

 

 どの競技も契約精霊を持ち込んだ瞬間にバランスが崩壊する。特にミーシャやらレイアの契約精霊である天使や竜に暴れられるとどうしようもできない。多分、アイツらがいるグループの勝利になる。

 

「………いや、もういっそ」

 

「いっそ、なに?」

 

「ふぉおおおおッッ!?!?」

 

 思考を遮って突然、耳元で囁かれた俺は背中に走るぞわりとした感覚に驚いて椅子から盛大に転げて地面をのたうち回った。

 

「月影…燈」

 

「どうも、先輩方」

 

 ボソリと呟いたリリーの言葉で下手人の正体を把握した俺は顔を上げて非難じみた視線を燈へと向ける。

 

「……お前、気配を消して近付くのやめろ」

 

「ごめんなさい、癖で」

 

 癖って、お前は暗殺者か何かなのか?それとも東方の奴らみんな気配を消すのが癖なのか?

 

 いや、それは良い。

 それよりも…だ。

 

「っていうか、お前なんでここにいる?ここは霊輪祭実行委員会の委員室だぞ?部外者立ち入り禁止だ」

 

「何でって、私もこの委員会に所属しているからだよ」

 

「は?」

 

 今、何て言った?

 所属してるって言ったか?

 

「じ、冗談だろ?」

 

「本当だよ」

 

 燈はそう言うと懐から承認の判子が押されている入会届を取り出して見せてくる。彼女が紛れもなくこの委員会の正式なメンバーであることの証明だった。

 

「何でこの委員会に?」

 

「折角、どこかの委員会に入るなら先輩と同じ委員会にしようかなと思って」

 

 ニコニコと微笑みながら燈は言う。

 何故、彼女がここまで俺のことを気に入ったのか未だに分からないが、神出鬼没過ぎて怖いしできるだけ関わりたくない。

 

「……この委員会だとあんまり内申点増えないよ?」

 

「大丈夫。特に気にしてないし、他でカバーするよ」

 

「………」

 

 デメリットを伝えて暗に他の委員会に行けと言うが、内申点などいらないと言われてしまう。実際、コイツの実力なら内申点など無くても充分に良い成績を取れるだろし、そう言い返されるともう何も言えない。詰みである。

 

「それよりも聞いたよ先輩、困ってるんでしょ?私も手伝うよ」

 

「何が目的だ…?」

 

「えぇ~、ただの純粋な善意だよ。私を何だと思ってるの?」

 

「怖い後輩だよ」  

 

 今までの行動を振り返れば勘繰るのは当然だ。

 この後輩から発せられる純粋な善意ほど信じられないものは無いだろう。

 

「酷いなぁ」

 

「全然思ってないだろ」

 

 燈は口でこそそう言っているが、表情はニコニコと笑みを浮かべおり言葉ほどショックを受けているようには見えない。

 

「……まぁ、力になってくれるのは助かる。話はどこまで聞いてる?」

 

「概ねは。霊輪祭を開催する為に競技内容を見直すって」

 

「なら話は早いな、この資料を見て競技を考え直そうと思うんだけどどう思う?」

 

 

 俺が資料を燈へと手渡すと彼女はふむと資料に視線を落としながら考えはじめる。

 この横顔だけなら凛々しさを感じさせる優等生といった雰囲気なのだが、人の本質とは外面だけでは分からないものだ……。

 

 とそんなことを思いながら燈の横顔をジッと眺めていると袖を引っ張られた為、振り向くと俺に何か言いたげな視線を向けているリリーの姿が視界に入る。

 

「ん?なに」

 

「…………」

 

 何だろうかと尋ねるがリリーはジッとこちらに視線を向けるだけで何も喋らない。一体、何なんや。

 

「……先輩、これ」

 

「ん?」

 

 とリリーに意識を向けている内に燈の考えが纏まったのか資料に視線を落としたまま声を掛けてくる。

 

「この意見をそのまま受け入れたら今の競技、大体できないよ?契約精霊呼ばないでって言ってるようなものだよ、これ」

 

「まぁ、そうだよな」

 

 どうやら資料を確認した燈も俺と同じ結論に至ったらしい。 

 

「本当にこの意見を受け入れるの?」

 

「………」

 

 マジで?と言わんばかりの燈の視線に俺は押し黙る。

 

 実際どうしたものだろうか。

 

 全員とまでは言わなくても七割くらいの学生達が納得してくれるような案を考えなければ霊輪祭の開催は難しいだろう。となるとやはり、意見を聞く必要が出てくるのだが………。

 

 

 

「………なぁ、二人とも」

 

「なに?」

 

「はい?」

 

「一つ思い付いたんだけど——————」

 

 

 そうして俺は二人に思い付いた案を告げた。

 

 内容を聞いたリリーは驚いたように目を見開き、燈は楽しそうな笑みを浮かべた。

 

 

 

*****

 

 

 

 数日後、霊輪祭実行委員会内で過半数の賛成を得ることができた為、俺は提案内容を纏めた資料を生徒会へと提出に来ていた。

 

 

「思い切った案を出しましたね」

 

「色々考えた結果、これが一番かなという結論に至りました」

 

 ペラペラと提出した資料を捲るミーシャはどこか楽しげな表情を浮かべながら呟いた。

 

「アンケート等はこれから取って確認していきますが、問題が無ければ霊輪祭はこの形式で進めようと考えています」

 

「私は賛成ですよ。一部の競技を除いて契約精霊の召喚を禁止するとは大胆ではありますが、とても面白いと思います」

 

 そう、俺の思い付いた案とは契約精霊で格差が付くと言うのならもういっそのこと使用を禁止してしまおうと言う精霊師が考えたとは思えない大胆な提案だった。

 

 これなら競技の内容によって多少の左右はあれど学生間で大きな力量差が付くとは考え辛いだろうし、そもそも競技が一新されている為、今まで参加して来なかった学生達も参加しやすいだろう。

 

「良いのですか?会長」

 

「ええ、寧ろ良いキッカケになるのでは無いですか?今の精霊師は何かと精霊に頼りきりになって自分の研鑽を疎かにしている者も多いですからね」

 

 生徒会書記であるセナが本当に良いのか?と戸惑った表情でミーシャに尋ねるが彼女は勿論といった様子で頷く。

 

 どうやらミーシャは現状の精霊に頼る学生達の戦い方を憂いているらしい。

 

 実際、ミーシャの言葉通り強力な精霊と契約した精霊師の中で精霊に任せとけば試合には勝てると思っている者は少なくない。流石に成績上位陣はそんなことないが、中間層辺りの学生達に限って言えば精霊に雑に指示を出すだけと言う精霊任せの戦い方はザラにある。

 

 そしてそんな戦い方でも精霊が強ければ問題なく勝ててしまうのが精霊師の恐ろしいところであり、精霊師という存在が重宝される理由の一つでもある。

 

 けれど当然ながらそんな戦い方で勝利を得られるのはある程度のレベルまでの話だ。

 ガレスを始めとして実力のある精霊師達は自分自身もしっかりと鍛えている。いや、アイツに関して言えば魔剣まで持っているから少し例外的なところはあるか。

 

 まぁ、精霊と契約すらできてないから自力で戦ってる例外中の例外もいるけどな!!

 

「それに純粋な力比べという訳でも無いですし、楽しそうじゃないですか。セナもそうは思いませんか?」

 

「それは……そうですね」

 

 どうやらセナも興味自体はあるらしい。

 恐らく真面目な彼女のことだから今までの霊輪祭とはまるで内容が違うから、そこを心配したのかもしれない。

 

 ミーシャは欠片も気にしていないようだが。

 

「こちらの内容で問題はありません。後日、また改めて決まり次第、報告に来て下さい」

 

「分かった」

 

 無事、生徒会長からの許可が出たので後日委員会メンバーで学院全体にアンケートを取った結果、無事に七割以上の賛成を得ることができたので数年ぶりに霊輪祭の開催が決定した。

 

 そして俺達は準備で忙殺されることになった。

 

 

 

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