真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第54話

 

 学院都市ガラデアの東側に設営されている闘技場。

 普段は精霊師同士の試合を中心として利用されているがこの日に限ってはユートレア学院の貸切によって闘技場内はユートレア学院の関係者と多くの学生たちで溢れ返っていた。

 

 やがて時間と共に学生たちが中央に整列すると霊輪祭の開会式が行われる。開式の挨拶、国歌斉唱、関係各者の式辞、そして———

 

「我々選手一同は霊輪祭に参加する精霊師として正々堂々と戦うことを誓います」

 

 闘技場に集まる学生たちの先頭、壇上に立った生徒たちの代表であるミーシャが宣誓を言い終えると同時からワッと学生たちの歓声が溢れ出す。

 

 遂に霊輪祭が始まったのだ。

 

 

「ようやく始まったな」

 

「…………」

 

「寝るな~、起きろ」

 

 

 設営した実行委員会のテントから感慨深げにその様子を眺めていた俺は横でテーブルに突っ伏して意識を失いかけているリリーの頭を軽く叩きながら声を掛ける。

 

「…………無理。眠る」

 

「先輩、私も眠るから後はよろしく~」

 

「やめろッ!せめて最初の競技の準備してからにしてくれッ!?」

 

 リリーに続いて眠ろうとした後輩、燈の頭も叩きながら彼女達が眠らないように俺は大声で叫ぶ。このままいきなり準備要員を二人も失う訳にはいかなかった。

 

「アハハハ、みんなキツそうだねぇ」

 

「キツいどころか死屍累々ですよ」

 

 ニコニコと笑いながら声を掛けてきた委員長に俺は顔を顰めながら答え、視線を周囲に向ける。連日の準備によって競技が始まる前から既に満身創痍な委員会メンバーたちが椅子に背を預けたり、テーブルに突っ伏したりしていた。

 

 無理もないとは思う。

 そもそも俺を含めて全員がはじめての霊輪祭だ。しかも俺が色々内容を弄ったせいで今までのやり方が行えず手探りでの作業が多くなった為、より大変だった。

 あの燈ですら普段のように俺に絡むことなく疲れ切って机に突っ伏している辺り、準備がどれだけ大変だったことか伝わるだろう。

 

 かく言う俺も叫んではいるが準備の為に各所に奔走したせいでめっちゃ疲れてる。可能なら今すぐ寝たい。

 

「まぁ、ここからは先生方も手伝ってくれることだしぃ、タイミングを見て休みなよぉ」

 

「そうさせて頂きます」

 

 というか、この人にも割と手伝って貰った筈だけどなんでこんな元気なんだ?

 これが一年の経験の差なのだろうか…。

 

『それでは午前の部の最初の競技はスカイレースになります。参加選手の方は至急、集合場所に集まって下さい』

 

 委員長と話しているとアナウンスが入った。

 ここで駄弁っている場合じゃない。最初の競技の準備をしなくては。

 

「行くぞ、二人とも!用意した封霊石の中身間違えるなよ!」

 

「ねむ……」

 

「入る委員会、間違えた〜」

 

 目元をゴシゴシと擦るリリーと今更、委員会に入ったことを後悔し出した燈を引っ張りながらスカイレースの準備に取り掛かった。

 

*****

 

 スカイレース。

 それは封霊石に入れられた中位の風精霊、コバルトイーグルの背に乗って広い闘技場の設定されたコースを一周してその速さを競う競技だ。

 

 勝敗のポイントは簡易契約を結んだコバルトイーグルをどれだけ上手く使役できるかという点になるが……。

 

「うわぁぁああッ!?」

 

「くッ!」

 

『何という展開だッ!事前予想では一位と思われていたロット選手が最終コーナーでコバルトイーグルに振り落とされてしまったッ!?そして空かさずそこをカッシュ選手が見事追い抜き———ゴォォオオルッ!まさかの一位通過だッ!!』

 

「おー、荒れてる荒れてる」

 

 霊術による拡声音響を行使して実況席から限界突破したテンション上げ上げの実況を行う同じ実行委員であるリゲルの声と観戦している学生たちの歓声と拍手を耳にしながら俺は呟く。

 予想通りと言うべきか、レースは成績上位のロットがゴール手前で盛大に落下するという事故とどちらかと言えば成績下位であるカッシュが一位を取るという事前の下馬評を見事にひっくり返した結果を出し、荒れるに荒れていた。

 

 

 けれどそれも俺からすれば当然の結果だ。

 簡易契約は精霊師にとっては基礎的な技術ではあるが、精霊と契約を終えると同時に疎かにされる技術でもある。 

 微精霊や低位の精霊は意志と呼べるものが希薄だから契約さえすれば問題なく従えられるが、中位ともなるとしっかりとした個の意志を持つ為、契約精霊と同じような感覚で従えようとすると今のロットのように抵抗されることになる。

 

 例えどれだけ契約精霊が優秀でもその力に頼り切りで基礎を疎かにしている者には難しい競技と言えるだろう。

 

 

「最初から随分と盛り上がってるね」

 

「ああ、そうだな」

 

 再び飛び立つコバルトイーグルの群れを眺めていると少し前にスカイレースに出場していたガレスが近付いてきた。

 

「一位おめでとう。圧倒だったな」

 

「風精霊なんて普段は使役しないからね。貴重な体験だったよ」

 

 そう言って満足そうに呟くガレスは他の選手を寄せ付けない圧倒的な精霊捌きによって一位を取っていた。

 まぁ、ガレスは優秀だし当たり前と言えば当たり前の結果だ。ただガレスがあまりにも簡単そうにやってみせた為、後続のメンバーが楽勝だと思い込んで事故を起こすメンバーが多発している。

 

 

『おーっと今度は選手同士のクラッシュだ!保健委員会の方は落下した選手の治療をお願いします!』

 

「派手にいったね」

 

「うーむ」

 

 ガレスの言葉に同意しながら俺は接触事故を視界に収める。

 制御を誤り、暴れたコバルトイーグルが隣のレーンを飛ぶ選手のコバルトイーグルと思いっきり接触して選手たちが落下していく。

 

「ミノタウロス」

 

「ブォオオオ!!」

 

 リリーの指示に従い、ミノタウロスがダッシュして落下してくる学生たちの真下に向かいそのまま優しくキャッチする。

 

「怪我人はこちらへ、治療します」

 

 ミノタウロスはそのまま保健委員会の本部で待機するフローレンスを筆頭とした保健委員たちへと引き渡して再び主人の下へと戻っていく。

 

 

「もう少し委員を配置した方がいいかもな……」

 

 想定よりも学生たちの制御が荒い。

 多少の事故は仕方ないが、あまり大事にならないようにもう少し実行委員なり精霊を配置した方が良いかも知れない。

 

 

「今のところ僕らの組の方が点数入ってるね」

 

「言うてまだ序盤だろ。些事だ些事」

 

 赤と白に分かれた点数ボードに視線を向けながらガレスが言った。

 今回の霊輪祭は二チームに分かれて競い合っており、ガレスは白で俺は赤チームに所属している。現在、スカイレースでは紅組が優勢になっているが所詮は一競技だけだ。まだまだ勝敗は分からない。

 

 尤もガレスもそのことは分かっている筈だ。

 恐らくこいつが言いたいことは……。

 

 

「君は出ないんだね」

 

「実行委員の仕事が忙しいしな。それに——」

 

 

 俺はニヤリと厭らしい顔を浮かべながらハッキリと言う。

 

 

「俺が出たら圧勝しちゃうだろ?」

 

「———————」

 

 俺の言葉の余程驚いたらしくガレスは目を見開いて暫しフリーズする。そして十秒ほど経った後に口元を綻ばせた。

 

「珍しいね、ロークがそんなことを言うなんて」

 

「確かに。言われてみたらそうかもな」

 

 何なら珍しいどころか全くと言って無かった気までする。まぁ、契約精霊いないから自虐ばっかしてたしな。当然だろ。

 

「どういう心変わりだい?」

 

「いやさ、トラルウスとの試合を終えてふと思ったんだよ。俺って強いんだなって」

 

「………?」

 

 何言ってるんだコイツと言わんばかりのガレスの視線を受け止めながら俺は話を続ける。

 

「ほら、俺って契約精霊いないじゃん?」

 

「そうだね」

 

 ガレスは頷く。俺たちからすればそれは当然の事実だ、今更確認することでも無いと思っているのだろう。

 

「だからさ、やっぱり精霊と契約ができない俺は落ちこぼれだと思ってたんだよ」

 

 精霊と契約できない。

 つまりは精霊師としての素質が無いと思っていた俺はだからこそ努力した。努力をして工夫をして、そして結果を残した。

 

 ただ、それでも俺の中の劣等感と言うべきものは拭えなかった。

 

 けれど……。

 

「けど前の学位戦の時に吹っ切れて全部を曝け出して、邪霊まで呼び出して本気でトラルウスと戦ってさ。本当に今更だけど俺も捨てたもんじゃないなって思えたんだよ」

 

 力も心もありのまま自分の全てを出し尽くせたからだろうか。不思議と今まで抱いたような劣等感を覚えなくなった。何なら精霊と契約せずにトラルウスと戦えた自分が誇らしく思えた。

 

 だからこそ、会場の中央でいきなり契約精霊を呼び出して演奏を始めようとしているトラルウスに視線を向けながら俺は………いや、アイツ勝手に何やってんだ?

 

「………まぁ、だからもう少し自信を持とうと思ってな。それに今回は基本、契約精霊は呼ばない競技ばっかだし」

 

「……確かに。君が出過ぎたらパワーバランスが崩れるだろうしね」

 

「言うてお前も人のこと言えないけどな」

 

 ガレスもガレスで今回の霊輪祭においてはバランスブレイカーの可能性を担っている人物の一人だ。まぁ、それはミーシャら最上位陣全員に言えることだけど。

 

「そういう訳で出る競技には一応気を遣ってる。一人一人の出場競技数にも制限掛けてるし」

 

「そうだね、正解だと思うよ」

 

 あくまでも霊輪祭は皆んなで楽しく競い合うことが目的だ。俺ら上だけで戦っても盛り上がらないし、何も面白くない。

 

『ゴォォオオオオオオルッ!何ということだ、再び番狂わせが起きてしまったッ!!この霊輪祭は一体どうなってしまうんだ!?』

 

「やったッ!!」

 

 実況を耳にしながら一位をもぎ取った学生に視線を向ける。それは普段、学位戦では活躍できない学生が格上だと思っていた相手にスカイレースで勝って嬉しそうに喜ぶ姿が目に入った。

 

「楽しそうだね」

 

「だな」

 

 ガレスの言葉に頷く。

 実に楽しそうである。逆に敗北した学生はいつも下に見ていた相手に悔しげに顔を顰めている。

 

 そのレースの結果を見て次のレースの学生たちは自分でも行けるのではと自信を持つ成績下位者と自分はあんな風にならないようにと気を引き締める成績上位者の姿があった。  

 

「…………」

 

 うん、良い傾向だろう。

 

「アレアス先輩、次の競技の準備を!」

 

「ああ、今行く」

 

 とそこで実行委員の後輩から声が掛かった為、俺は返事をするとガレスとの会話を終わらせる。

 

「それじゃ、準備があるから」

 

「ああ、また後で」

 

 俺はガレスに別れを告げて次の競技の準備に向かった。

 

 

 

 

 

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