真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます 作:アラッサム
更新に結構な間が空いてしまい大変申し訳ございません。
けれど現在、2巻制作中につき次の更新も相当遅くなることが想定されます。大変ご迷惑をお掛けします。
という訳で本編です。
「俺ってやっぱりザコなのかな……」
「少し前の自信に満ち溢れた君はどこに消えてしまったんだ」
ベンチで腰を下ろし、どんよりとした雰囲気を放つロークの隣でガレスは呆れたように呟く。
「二人三脚に関してはどちらかと言うと君よりもパートナーの方に問題があったように思うけど」
「なのか?いや、まぁ……そうか…そうかもな………」
ガレスの指摘にロークは一瞬、首を傾げるがレイアと行った二人三脚のことを思い返しながら呟く。
何とかビリにこそならなかったが、一位を狙って走った俺としては散々な結果であり、レイアにも競技終了後に何度も謝られた。
「アイツ、体調でも悪かったのか…?」
そうだ、考えれば今までの競技ではしっかり好成績を収めていた筈なのに二人三脚になった途端にレイアはポンコツになってしまった。最初は誰かと息を合わせるのがが苦手なのだろうかと思ったが、優秀な精霊師であることを考えるとそれは考え辛い。
振り返ってみるとやけに顔が赤かった気がするし、もしかしたら熱中症にでもなっていたのかも知れない。
初めての霊輪祭と言うこともあり、疲れでも出たのだろう。
「一応、あとで様子でも見に行っておいた方が良いかな?」
「心配なら行けば良いんじゃないかな、大丈夫だとは思うけど」
委員としてレイアの体調を気に掛けたロークが呟くとガレスが確信めいた声音で呟く。どうしてそこまで確信を持っているかは知らないが、ガレスが大丈夫というなら多分、大丈夫なのだろう。
「苦戦してますね、ローク・アレアス」
「お姫様か…」
透き通った声に視線を向ければ美しいブロンドの髪を揺らすミーシャがこちらへと近付いてきた。
「ガレス・オーロットもお疲れ様です。スカイ・レースは見事でした」
「ありがとうございます。ミーシャ様も先程の二人三脚、素晴らしいコンビネーションでしたよ」
「ありがとうございます。少しペースを合わせるのは大変でしたが、何とかできました」
ガレスが先程、一位を取ったレースを思い出しながらそう言うとミーシャは嬉しそうに頷く。
ロークが落ち込んでいる間に行われたミーシャとパートナーの学生による二人三脚は終始相手が緊張気味ではあったがそれでも互いに呼吸を合わせながら上手に走っていた
「けれど残念ですね。貴方たちが組めばきっと早く走れた筈なのに。折角なら勝負したかったです」
「ハハ、今回は敵チームですからね。また次の機会があればってところですね」
残念そうな様子のミーシャの指摘にガレスは否定はせず、笑いながら答える。実際、タッグを組めば一位を取れる自信はあるがそもそもチームが違うのだ。少なくともこの霊輪祭中に協力することは無い。
「そうですね、また次の機会に取っておきましょう」
「……普段より少しテンション高めだな、ミーシャ」
「そうですか?いや、そうかも知れませんね」
ふと、普段よりも二割増しくらいで明るげなミーシャの様子を見ていたロークが指摘すると彼女は一瞬、首を傾げるがすぐに納得した様子で頷いた。
「こうやって誰かと協力しながら競技を行うなんて今まで無かったのでとても楽しいです」
どちらかと言えば生徒会長として学院の運営に携わっているミーシャは受ける講義も最低限の為、生徒会のメンバーを除けば関わることも非常に少ない。
故にミーシャにとってこういう場で誰かと一緒に競技に挑むのは非常に新鮮だった。
「それに何だか、他の方々とも普段よりも距離が近い気がしますし」
「あー」
言われて自身が恥をかいた借り物競争戦を思い出す。
そう言えばお題を確認した学生の一部がやたらとミーシャの下へと向かって走っていたのを思い出す。
確かに霊輪祭というイベント中で皆テンションが上がっているのもあってか、普段よりも大胆な行動をする者が多いように見える。
尤もミーシャの言いうような純粋な気持ちというよりはこれを機にお近付きになろうという下心満載の気持ちの気がするが、彼女の嬉しそうな表情を見ていると指摘をするのは憚られた。
「良かったな」
「ええ、これも貴方と実行委員会のお陰ですね」
ロークが言うとミーシャは嬉しそうに表情を綻ばせながら改めて礼を述べる。
「ありがとうございます。とても楽しい霊輪祭です」
「……それなら頑張って準備した甲斐があったよ」
面と向かって礼を言われたロークは一瞬、面食らって押し黙るがその後に恥ずかしげな表情を隠すように顔を背けながら呟く。
「何だい、柄になく照れてるの?」
「うっせぇ」
揶揄うように肘を突いてくるガレスをあしらいながら呟く。こうして礼を言われるのは流石照れる。当然だった。
「それにしてもローク・アレアス。貴方、今日はあまり体調が良くないのですか?あまり成績が芳しく無いようですが」
「……いや、体調じゃなくて運が良く無いんだと思う」
スッとこちらと自身の額に手を当てて熱を確認するミーシャに対してロークは動揺しながらも優しく彼女の手を退けて答える。
自分で実力があまり関係しない競技を選んでおいてアレだが、予想以上に運に恵まれていない。多少の不運など実力で捩じ伏せてやろうと考えて選んだ結果これである。
というか何だかこのお姫様、普段よりも距離感が近い気がする。これも霊輪祭の熱気に当てられたせいだろうか?
「そう言えば気になっていたのですが貴方、借り物競争の時に一体どんな内容のお題を———」
「その話は止めよう」
「え…」
「聞くべきじゃない、特にお姫様は。良いね?」
「わ、分かりました…。やめておきます」
ミーシャの言葉を遮り、ロークは告げる。
普段はあまり引かないミーシャもロークから放たれる不気味な迫力に若干気圧され、それ以上追求することを諦めた。
「それはそうとローク、このままだとジェミニ戦の結果によっては勝敗が決まるんじゃないか?」
「えっ、マジで?」
スコアボードを眺めていたガレスの言葉にロークは慌てて点数差を確認する。確かに言われてみると大きな負けこそ無いが、競技ごとに白組に点差をじわじわと広げられている。このまま得点の高いジェミニ戦に負けると最後の競技を迎えずして敗北する可能性がある。
「しかし、よりによってジェミニ戦か……」
バリバリ自分が参加している競技である。今日の自分の戦績を考えるとロークは不安で仕方なかった。加えて記憶が正しければ隣のガレスもこの競技に参加していた筈だ。
「確か…お二人とも参加予定でしたね」
「だな」
「ですね」
ミーシャの問いにロークとガレスは頷くと視線を交差させる。どうやら記憶通り、ガレスも参加するようだ。
「楽しみだね」
そう言って好戦的な笑みを浮かべるガレスに対してロークは顔を手で覆うのだった。
*****
ジェミニ戦とはコダマ、オオダマと呼ばれる一対の下位木霊と簡易契約を結び、使役して争う競技だ。赤白各チームから10名ずつ参加して戦う団体競技で用意されたフィールドに自身のコダマ、オオダマを呼び出して生き残ったチームの勝ちというバトルロワイヤル式の形式を取っている。
これだけ聴くと普通の精霊戦のように感じるかも知れないが、この二体には少し他の精霊とは違う特殊な性質を持っている。
『それでは間もなく試合を行いますので、参加者の方々は精霊を召喚して下さい!』
その言葉と共に参加者たちはコダマとオオダマが封じられた封霊石を取り出して精霊たちを呼び出していく。
大きな一つ目をした白く小さな球体の姿を精霊、コダマ。そして人間大の大きさに手足が生え、丸みの帯びた形に同じく大きな一つ瞳を持つコダマが成長したかのような姿を持つオオダマ。
二体の精霊が現れるとコダマが契約者の頭にチョコンと飛び乗るとその瞳をオオダマへと向ける。するとオオダマの姿が変化していき、契約者である精霊師を模した姿へと変化していく。
これが彼らの持つ性質の一つ、模倣能力である。
コダマが契約者の身体情報を読み取り、オオダマがコダマから得た契約者の情報を自身に反映させることで疑似的な分身を作るでことができるのだ。
無論、元が下位の精霊。
流石に本人そのままとはいかない上に精霊自身の思考能力が非常に低い為、使役には契約者である精霊師が集中して操る必要がある。
故にコダマの模倣能力の精度は使役する精霊師によって大きく変化する。
しっかりとコダマとオオダマを操作できればより精度の良い分身を生み出すことができるし、逆に上手くいかないと全く変化しないオオダマそのままの姿になってしまうなんてケースもある。
実際、自分のチームを確認するとオオダマの姿がほぼ変化してないものからだいぶ本人に近付いている者まで様々な状態のオオダマが存在している。
恐らく霊輪祭の中でも特に技術力が必要になる競技だろう。
「ふぅ……相手はアイツか」
ロークは視界の先にいる赤組の参加メンバーを確認する。
幸いなことにミーシャやロクスレイたちは参加していないようだが、それでも油断できない相手は何人もいる。
特にガレスに関しては霊力操作や身体能力で言えばロークに劣らない強さを持っている。実在、彼のオオダマは随分と筋肉質で本人の身体情報正確に反映しているように見える。
精密な霊力操作と鍛えられた身体能力、そういう意味ではジェミニ戦において彼は最悪の相手と言えるかも知れない。
「あ、あの先輩…」
「…ん?どうした、レイア?」
と思考に耽っていたロークは隣から聞こえてくる後輩の声に意識を現実に戻すと視線を彼女に向ける。
「あ、あの……二人三脚では色々と申し訳ございませんでした」
同じくジェミニ戦への参加者の一人であるレイアはそう言って申し訳なさそうな表情で頭を下げてくる。その隣を見れば彼女に似て可愛らしい姿になったオオダマがポツンと立っている。
どうやら彼女も上手くオオダマを使役できているようだ。
「ああ、あれは仕方ないさ。咄嗟のタッグだったしな、それよりも体調は大丈夫か?」
「体調ですか?どうして……そんなことを?」
「いや、あの時のレイアは何だか挙動不審だったし、顔もやたらと赤かったし熱でもあったのかと」
「…………」
何故、体調の心配をするのかと訝しむレイアにロークがそう答えると彼女はポカンとした表情を浮かべたまま暫し固まる。
そして———
「……ッ!!」
ボッと何かが弾けたような疑問を感じさせながらレイアは顔を真っ赤にする。そしてロークはそんな彼女の突然の変化に動揺する。
「ど、どうした?やっぱり体調が悪いのか?」
「……い、いえ違います!だ、大丈夫です!」
動揺しながらもロークがレイアの体調を気遣うと彼女はブンブンと首を横に振りながら問題無いと否定する。そのどこか大袈裟すら感じさせるレイアの否定の仕方に若干、不安を覚えながらもとりあえず本人が大丈夫と言うならとロークは引き下がる。
「まぁ、けど本当に体調悪いなら先に言えよ?無理に競技に参加する必要は無いし」
「は、はい。けど、ここで負ける訳にはいきませんし、頑張らせて頂きます!」
「……そうだよなぁ」
今更ながらこの競技に赤組の命運が掛かっているという事実にロークは気が重くなる。加えて自分がその原因の一端を担っていると思えば猶更だ。
だからこそ、ここは気張らなければいけない。
「フッ!」
「先輩!?」
突然横で思いっきり自分の両頬を叩いたロークにレイアが驚きながら視線を向け、そして硬直する。叩いたことで赤くなった頬、けれどそれ以上にレイアが目を奪われたのはロークの眼差しだった。
ロークが学位戦に挑む際……自身の中で何か覚悟をした時に彼が浮かべるその真剣な瞳を間近で見つめいたレイアは放心してしまう。
「レイア」
「は、はい」
「勝とう」
ロークの力強い意志の篭った言葉と共に彼の呼び出したオオダマの姿が変化していく。参加者の中でもより本人に近い姿へと変身したオオダマの姿に周囲から歓声の声が漏れる。
そしてレイアはそんな敬愛する先輩のオオダマの姿を見ると「はいッ!」と先輩の言葉に負けないように力強く返事をした。
『それではジェミニ戦、開始です!』
審判の合図と共に両チームのメンバーのオオダマたちが動き出す。
「行くぞッ!!」
「来いッ!!」
両チームのコダマがフィールドに出現する中、本人の能力をより反映させたロークとガレスのオオダマは素早い動きで他の参加者のオオダマを置いて前へと躍り出るとそのまま衝突した。