真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます 作:アラッサム
2巻の刊行作業の為に更新に意識を向けられず、気付けば前回の更新からだいぶ時が経ってしまいました。
大変、申し訳ございません。
引き続き更新頑張っていきたいと思いますので待って頂ければ幸いです。
それでは本編になります。
「はぁぁああッ!」
「おおおおッ!」
早々に飛び出してきたロークとガレスのオオダマは契約者からの指示を受け、殴り合いを展開する。契約者の身体能力を再現した二体のオオダマは他の精霊たちとは一線を画す素早い動きを見せていた。
「あの二体は誰の精霊だ?」
「ロークとガレスの二人だ」
「やば、あいつらのオオダマだけ動きおかしいぞ…」
他のオオダマたちがポカポカと可愛らしい擬音が聞こえそうな音で殴り合ったり、霊術を放っている中、彼ら二人だけ技の駆け引きを交えながら殴打と蹴りを放っている。
その様子に周囲の学生たちは若干引きながらも彼らの戦闘に視線を向け続ける。
『ッ!』
『ッ!?』
ガレスのオオダマが放った正拳突きの軌道を見切ったロークはオオダマを操作してその腕を巻き取るように掴み取ると勢いを利用しながら宙へと投げ飛ばす。
「剣術ならともかく、徒手空拳ならこっちに分があるぞッ!」
「なら剣を作るまでだッ!」
ふわりと宙を舞うガレスのオオダマに追い討ちを掛けるべく跳躍したロークのオオダマはそのまま腕に霊力を込めるとその腹を貫かんと手刀を放つ。
けれども宙でくるりと回転して体勢を立て直したガレスは霊術を行使して大気を一時的に凍らせて足場を作ると迫ってくるロークのコダマの手刀を躱す。
更にはガレスは反撃とばかりに再び霊術を行使して今度は氷剣を生み出すと無防備になったロークのオオダマ目掛けて剣を振り下ろす。
「あぶなッ!」
咄嗟に霊力で強化した両腕を交差させて剣を受け止めるが、そのまま勢いよく地面に落とされてしまう。
「貰ったッ!」
氷剣を逆手に持ち、剣先を下に向けて落下してくるオオダマを視認したロークは素早くオオダマの身体を横に転がしてガレスの落下攻撃を回避する。
「ちぃッ!」
ベオウルフとの繋がりを利用し、氷の霊術を操るガレスにロークは舌打ちをする。依代も手元にない今のロークは普段よりも戦術が狭まっており、この状況でガレスを倒すのは至難の業だった。
「どうしたッ!その程度かッ!?」
ガレスの叫びと共にオオダマは更にもう片方の手にも氷剣を生み出すとまるで懸命に舞いの如く双剣を振るい、ロークのオオダマを追い詰めていく。
左右から次々に放たれる斬撃の軌道を読みながらオオダマを操作して懸命に回避を試みているが、こちらの動きを精霊が読み取って認識するまでのラグもあって流石に全ての攻撃を回避するのは難しく、少しずつ身体に傷を負い始めてしまう。
———このままだとジリ貧だな。
防戦一方な状況にロークは内心で焦る。
かつて剣術を叩き込んで貰っただけあり、ガレスの剣の癖や動きなどはある程度読むことができる。
けれど今戦っているのはあくまで自分ではなく精霊。幾ら身体能力を反映させられるとはいえ、動きには限界がある上にダメージ蓄積されてオオダマの動きが鈍くなり始めている。
「隙あり」
「ッ!足か!?」
思考しているとガクンとオオダマの動きが一気に鈍くなる。何事かと慌ててオオダマを確認すると右足を霊術によって凍らせることで機動力を削ぎにきていたようだ。
ロークは咄嗟にオオダマの右足に集中的に身体強化を施して思いっきり地面に足を打ち付ける。バリンと纏わり付いていた氷を砕いて何とか機動力を取り戻すとそのまま振り下ろされる斬撃を間一髪で回避。
そのまま更に後方へと下がり安堵の息を吐こうとしてオオダマの足元に方陣が展開され、直後に氷柱が地面から生えてくる。
「くッ!?」
「危険を感じたらまずは後退。鉄則だよね」
どうやらガレスはこちらの動きを読んで罠を仕掛けけてきたらしい。
何とか回避にこそ成功したが、ロークの心臓は激しく脈打ち、額からは汗から流れてくるのが分かった。
「何か策を練ってるみたいだけど、そんな余裕を与えるつもりは無いよ?」
「…………」
流石と言うべきか、それとも当たり前というべきなのか。
こちらがガレスの動きを読むことができるように彼もこちらの思考や癖をしっかりと理解しているようだ。
「折角なら直接戦いたかったけど、それでも久しぶりの勝負だからね。全力で行くよ」
「野郎…」
オオダマを操るガレスの楽しげな笑みにロークは焦りと同時に懐かしさを覚え、自分がまだ未熟で碌に霊術が扱えず、剣すら碌に振れなかった頃の記憶が脳裏を過る。
「昔と同じだな」
再び斬り掛かってきたガレスの剣を捌きながらロークは呟く。
ガレスとは一年の時に何度も勝負をして数え切れないほどの連敗を喫した。特にオーウェンから霊術の手解きを受けるまではこうしてよく剣を避けきれずに負けることが多かった。
木剣で全身を何度も叩かれ続けて痣だらけにされた自分を見て楽しげに笑っていたガレスの姿に感謝しながらもいつか絶対にその顔面をぶん殴ってやろうと誓ったなと昔ことを思い出し、苦笑を浮かべる。
「そうだ、すっかり忘れてた」
「はぁッ!」
左右から迫って来る氷剣を伏せて躱すと剣が丁度、頭上を通ったタイミングで腕を振り上げて剣の側面を叩く。バリンと音を響かせながら砕ける氷剣にガレスが動揺してオオダマの操作が鈍ったタイミングで霊力を術式に変換せず、そのまま塊にして相手にぶつける。
「くっ…」
衝撃となって吹き飛ばされたオオダマを素早く操作して態勢を立て直し、ロークの追い討ちに備えるが予想に反してオオダマを動かずことは無かった。
「……どういうつもりだ?」
「いや、なに。昔のことを思い出してさ」
訝しげな表情を浮かべるガレスにロークはそう言って笑う。
「一年の頃、お前にムカついてその顔面を思いっきりぶん殴ってやるって誓いを立てたことがあってさ」
「また物騒な誓いだな…」
そんな怒らせるようなことしたっけと昔の記憶を掘り起こそうしているガレスにロークは指を指しながら告げる。
「けど、色々お前には助けて貰ったからな。そのオオダマの顔面で勘弁してやるよ」
「…………」
挑発的なロークの言葉に一瞬、ポカンとしていたガレスはけれどもその意味を理解すると獰猛な笑みを浮かべる。
「やってみなよ」
「ああ」
再び氷剣を生成して構えるガレスのオオダマに対してロークも改めてオオダマに霊力を流し込んで身体強化を施しながら徒手空拳で構えを取った。
******
「はぁ、はぁ」
赤白のオオダマが入り混じって戦闘を行っている中、オオダマの操作による疲労からレイアは息を切らし、汗を流していた。
「うおおおッ!」
「ッ!」
レイアの疲労により生まれた隙を狙って背後から襲ってきたオオダマの攻撃を受けてダメージを負いながらも術式を構築、反撃として炎をお見舞いする。
霊術を浴びてあっという間に燃え上がったオオダマはそのまま戦闘不能になり、レイアは息を吐く。
「………ふぅ」
オオダマの操作に意識を集中しなければいけない中で常に周囲を警戒し続けるのは精神的な疲労が激しい。
特に今は上手くオオダマを操作ができなかった学生たちが早々にリタイアしたことで残っているのは皆、実力者ばかりな為、少しの油断が文字通り命取りになる。
「あのオオダマ、赤組だッ!狙えッ!」
「くッ!?」
聞こえてきた声にハッと視線を向ければ白組所属の学生たちが操るオオダマたちがレイアのオオダマを目掛けて迫ってきていた。
レイアが迎撃の為に再び意識を集中させながら霊術を発動させ、オオダマの両腕に炎を灯す。
その直後のことだった。
上空から二つの影がレイアたちの間に勢いよく落下してきた。
「へっ!?」
落下の際の衝撃で発生した土煙に包まれる中、予想外のことを目にしたレイアは相手共々オオダマの操作を止めてしまう。
「今落下したとこにいたオオダマ、レイアのだよな?」
「えっ、は…はい」
何事かと困惑していると横からロークに声を掛けられた為、レイアは頷く。
「なら今すぐ、あの場から逃げてくれ。初めての霊術だから加減が効かない」
「へっ?加減?」
何のことだろうと思いながらも指示に従ってレイアは再びオオダマを操作すると土煙の中から脱出する。
「よし、出たな」
ロークはレイアのオオダマが範囲外から出たのを確認するとオオダマに霊力を送り込みながら脳内にイメージを浮かべ、術式を構築。
「喰らっとけッ!!」
ロークは楽しげに叫びながら霊術を発動する。
土煙の中で霊力が溢れ出したかと思うと土煙の中から巨大な木々が地面から天に向かって生えた。
「派手にやってくれるな」
氷の鎧をオオダマに纏わせたことで辛うじて致命傷の回避に成功したガレスはロークの放った霊術を見て思わず笑みを浮かべる。その周囲では巻き込まれた白組のメンバーのオオダマが無惨にも身体を枝で貫かれてダウンしていた。
「オオダマ越しにこの規模の霊術を……」
「げぇ、加減ミスった」
隣で感嘆の言葉を漏らすレイアとは裏腹にロークは霊術を使用したオオダマの左腕が使い物にならなくなったのを確認して失敗を実感する。もっと範囲を狭めてガレスのみを狙い撃ちして霊術を放つつもりが無駄に広範囲になった上に威力調整を間違え、オオダマにもダメージを与えてしまった。
セリアやドリアード、それにトラルウスが使っていた霊術を思い出しながら感覚で術式を組んでみたが、やはりそう簡単に上手くはいかないようだ。
「ローク先輩、木属性の霊術も扱えたんですか?」
「いや、今初めて使ったよ」
「初めて!?」
「ああ」
初めであの規模の霊術を扱えることにレイアは驚愕の声を漏らす。
霊力操作や術式の構築が上手だというレベルの話じゃない。誰であれ霊術には契約した精霊の属性を基準に得意不得意……偏りがあるものだが、ロークに関してはそれがまるで感じられない。
ましてや初めて使用する属性だというのに……。
「レイア、ボーッとしてるな。来るぞ」
「えっ、あっ!」
その言葉にレイアはオオダマの操作を放棄していることに気付き、慌てて意識を向ける。
「流石だね、初めて扱う霊力属性でこの規模の霊術を放ってくるとはね!」
すると氷の鎧を修復して騎士のような姿になったオオダマが大樹から降りてロークとレイアのオオダマの前に着地した。
「ハッ!防いでおいてよく言う!」
「そりゃね、君の霊術を警戒しない訳ないだろう?」
ロークとの勝負でガレスが敗北するようになったのは主に彼が扱う多種多様の霊術が原因だった。属性に縛られることなくあらゆる霊術を扱うロークの実力を……霊術に限って言えば彼の右に出る者などいないと思っているガレスが警戒をしない訳がないのだ。
「とはいえ、流石にヒヤリとしたけどね。次は無いよ」
「………レイア、ヘルプ!」
「えっ、私ですか!?」
まさかの救援要請にレイアは困惑する。
何だか二人で一騎打ちをするような雰囲気だったが、自分が入ってもいいのだろうか?
「あの氷の鎧を溶かすにはお前の炎が必要だ。頼む」
「……役に立てるでしょうか?」
最初の二人のオオダマの動きを思い出し、自分の実力では邪魔になるのでは無いかと不安になったレイアが思わず尋ねるとロークは「勿論」と頷く。
「俺が何とか動きを止めるからレイアはそのタイミングを逃さず炎をぶっ飛ばしてくれ。後は俺が顔面ブン殴って倒すから」
「は、はい……」
「何かまた策を練っているみたいだけど……」
どうやら一人では自分を倒すことは難しいと判断して後輩に助けを求めたロークに対してガレスは告げる。
「勝つのは僕だよ」
氷剣を構えたオオダマが風を裂きながら二人に襲い掛かった。