真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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お待たせしました!
最新話、合宿編突入です!


第62話

 

「お~、すげぇ」

 

 甲板に立つ俺は心地良い風を肌に感じながら周囲の景色に視界を向ける。

 

 視界いっぱいに広がる青空。そして凄まじい速度で移り変わっていく眼下の雄大な自然を見つめながら気付けばそんな声を漏らしていた。

 

「にしても飛行艇なんて初めて乗ったよ……」

 

「僕は何度か乗ったことあるよ。ここまでの船は初めだけどね」

 

 空を駆け抜けていく飛行艇の甲板で俺とガレスは言葉を交わす。

 飛行艇ヴァリゼウス。ロムス王家の保有する最新鋭の飛行艇で高位精霊の封霊石を利用した高出力の霊力機関、樹齢数千年の神樹を使用した外装は強力な防護機能を保有しており、並の攻撃ではこの飛行艇を傷付けることすら難しいという。

 

「この飛行艇に幾ら掛かってるんだろうな?」

 

「まぁ、君が遊んで人生終えられるくらいの金額は使われていると思うよ」

 

「すげぇ……」

 

 流石は王家、金持ちである。

 俺も学院を卒業して精霊師になったら将来は宮廷精霊師でも目指そうかな。

 

「それにしてもゼメキア山脈で合宿とはね」

 

「あそこは格の高い精霊が多いから苦手なんだよな」

 

 ロムス王国の南部を東西に伸びている山脈でジュデッカの森と同様に多くの精霊が住み着いている自然と霊力が豊かな場所として知られている。特に山頂付近には高位の竜精霊が住み着いている為、この山脈に登ることは基本的に禁じられている。

 

「下手に干渉しなければ手を出しては来ないだろ」

 

「まぁ、それは確かに」

 

 あそこは比較的穏やかな気性の精霊が多い為、ガレスの言う通りこっちから変なちょっかいを出さなければ面倒事にはならないだろう。

 

「ふぁ~」

 

 ガレスと話していると可愛らしい欠伸が耳に入り、振り返ると眠たそうな表情をしたリリーがふらふらと危なげな足取りで甲板に現れる。

 

「リリー、寝惚けながら甲板に来るなよ。危ないだろ」

 

「おんぶ求む……」

 

「なんでこんな奴、合宿に連れて来たの?下ろそうぜ」

 

「今期の学位戦の戦績良かったし。というかリリーは元々十位内には食い込んでたからね、誰かさんに蹴落とされたけど」

 

「…………」

 

 言われてみればコイツの戦績を落としたのは俺だったなと背中にのしかかってくるリリーを眺めながら過去の記憶を思い返す。

 

「ほら、そんな話をしている内に着くよ」

 

「やっぱりでけぇな……」

 

 眼前に聳え立つ巨大な山脈。

 少し前から形は見えていたが、間近で見ると改めてその大きさを実感する。

 

「おや、もう甲板に出ていたのですね」

 

「ミーシャ」

 

 この飛行艇の持ち主であるミーシャは屋内から姿を現すと視線をゼメキア山脈へと向けながらそう声を掛けてくる。

 

「そろそろ着陸するので荷物を持って降りる準備をしておいて下さいね」

 

「ああ、分かった」

 

 ガレスが返事をしている中、俺は必死にリリーの意識を覚醒させるべく揺らす。

 

「ほら、リリー起きろ。もう降りるって」

 

「あと二時間……」

 

「突き落とすぞ」

 

 既にグダグダな様相を見せ始めながらもこうして強化合宿は始まるのだった。

 

*****

 

 強化合宿なんて大層な名を謳ってはいるが結局のところ普段とは違う場所で気分を変えて普段よりもちょっとハードな訓練をするくらいだろう。

 

 そんな軽い気持ちで合宿に参加した俺はその思考がいかに甘いものだったのか合宿を開始してすぐに実感することになった。

 

「はぁ、はぁ……はぁ……」

 

 額から汗を流し、苦しげな呼吸を繰り返しながら俺は険しい山道を登っていく。その横では俺より若干、余裕のありそうなガレスが汗を流しながらも器用に岩を避けながら登っていく。そしてその後ろを余裕綽々と言わんばかりのベオウルフがひょいひょいと軽やかに追っていく。

 

「ローク、無理。死ぬ」

 

「そう言われても助けられん。何とか頑張れ」

 

 背後では既に限界が近いらしいリリーが虚な瞳で助けを求めてくるが、そんな余裕は無い。本来ならば契約しているミノタウロスにでも運んで貰えと言い返しているところだが、この鬼畜登山ルールで精霊に運んで貰う形で山を登ることは禁止されている。

 

 結果、呼び出されたミノタウロスは彼女の荷物を運びながらオロオロと不安げに主人の姿を見つめるだけに留まっている。

 

 まぁ、仮にそんなルールなくても俺に関しては契約精霊いないから意味ないのだが。

 

「ふぅ、ふぅ……」

 

「はぁ、はぁ……」

 

 ゼメキア山脈に到着するなり動きやすい服に着替えさせられたかと思ったら唐突に始まった登山。険しい山道を進む俺たちは早々に疲弊し始めていた。

 

 ここまで精霊師たちが苦しんでいる理由は鬼畜ルールや山道の歩きにくさもあるが、それ以上に霊力強化による身体能力が上手く機能しないことが大きな要因だった。

 

 ここの霊気がやたら濃いせいなのだろう。お陰で強化術式が乱れるに乱れ、しっかりと機能していない。

 

 結果、ほぼほぼ素の身体能力での登山をすることになった合宿参加者たちは早々に悲鳴の声を上げていた。実際、既に数名の参加者がリタイアして付き添いの教諭に運ばれて下山している。リリーは頑張っている方だろう。

 

 

「……きゃッ!?」

 

「っと!」

 

 少し手前を進んでいたレイアが地面の窪みに躓き、転びそうになったことに気付いた俺は効きの悪い身体強化を使って駆けると彼女の小さな身体を支えることに何とか成功する。

 

「あ、ありがとう……ございます」

 

「いい、それよりも足元には気を付けろ。転ぶと大変だぞ」

 

 普段ならともかく今は身体強化がしっかりと機能していない。こんな場所で下手な転び方をすると重傷になりかねない。

 

「は、はい……」

 

『……』

 

 俺はレイアがしっかりと立ったことを確認すると彼女から手を離す。するとそのタイミングでパタパタと赤い翼を羽ばたかせながら一匹の小さな竜がレイアの頭に着地する。

 

 それは普段の雄々しい姿とは打って変わって可愛らしいマスコットを彷彿とさせる姿になった彼女の契約精霊、サラマンダーだった。

 

 いつものままでは他の参加者たちの邪魔になると判断してスケールを落としたのだろう。ちょこちょこレイアの荷物を咥えて前を飛んでいたサラマンダーは主人が転びかけたのを見て戻ってきたらしい。

 

『グル』

 

「大丈夫。先輩に助けて貰ったから怪我は無いわ」

 

『グルル』

 

「ッ!!良いから貴方は荷物を運びなさいッ!」

 

『グゴッ!?』

 

 恐らくサラマンダーが念話か何かでレイアに話しかけていたのだろう。最初の会話は純粋な心配だったらしいが、後に余計なことを言ったらしい。思いっきり叩かれて地面に転がっている。

 

『…………』

 

「先輩、行きましょう」

 

「い、良いのか?」

 

 ピクピクと痙攣するサラマンダーを置いて先に行こうとするレイアに俺は思わずそう声を掛けるが、彼女は知ったことかと言わんばかりの様子でサラマンダーが持っていた荷物を自分で持つと先に進んでしまう

 

「…………」

 

 まぁ、考えてみれば小さくなったとはいえ最高位の精霊だ。レイアのビンタなんて痛くも痒くも無いだろうし心配する必要は無いだろう。

 

「野良の竜精霊が襲ってきたのかと思ったが、ヴァルハートの契約精霊か」

 

「………委員長」

 

 現れたのはメタルスライムで形成した銀色の登山装備一式でスムーズに山を登っていた風紀委員長ことロクスレイだった。あまりにも完璧な装備に若干ズルいと思わなくともないがルールに反している訳では無いからセーフと言えばセーフなのだろう。

 

「一応、精霊の襲撃を警戒しながら進んでいたが思ったほどだな」

 

「そりゃ、これだけの精霊と精霊師がいればな」

 

 天使や竜を始めとした高位精霊たちがワラワラと集団で登っているのだ。普通に考えてこんな多種多様な怪物たちの群れをわざわざ襲おうとは思わないだろう。

 

 少なくとも俺なら絶対やらない。

 

「まぁ、それもそうだな」

 

「にしてもお前、参加してたんだな。大精霊演武祭には参加しないって言ってたからてっきり来ないものかと」

 

 俺同様に大精霊演武祭への出場を頑なに拒否ってたし、絶対に来ないと思い込んでいた。

 

 

「いや、実際大精霊演舞祭には参加しないつもりだ。ここに来たのはあくまでも修行の一環だ」

 

「なるほど……」

 

 委員長はあくまでもこの合宿で自分を鍛えることが目的らしい。確かに現時点で俺の想像の三倍はハードだし、修行という意味では効果的なのかも知れない。

 

「とりあえず俺は引き続き周囲の警戒に努める。お前も何かあった時には頼むぞ」

 

 最後に委員長はそう言うとメタルスライムで形成した杖を突きながら後方に向かって下っていく。恐らく後ろの様子を見に行ったのだろうが、凄まじい体力だ。

 

「っていうか、頼むって言われてもマジで何もできんぞ……」

 

 冗談抜きで今の俺は何もできない。簡易契約も下手すると失敗して結べない可能性もあるし、この状況下においては霊力が多いだけの一般人に近い存在だ。

 

 ふと前方に視線を向けるとレイアやガレスたちよりも先に進む二人の学生が視界に入る。

 汗を拭い、疲労感を漂わせながらもペースを落とすことなく進み続けるミーシャ、そしてそんな彼女よりも更にハイペースで先に進むのが月影燈だった。

 

「アイツは猿かよ……」

 

 黒い長髪を揺らし、ひょいひょいとあまりに軽々と山道を突き進んでいく燈の姿を眺めながら思わず俺は呟く。

 

 元の身体能力が高いのもあるだろうが、にしても動きが良過ぎる。この環境下でも身体強化がしっかりと機能しているのだろうか。

 

「ろ、ろーく……」

 

 と、そんなことを思っていると死に掛けの声が背後から耳に入り、振り返ると先程よりも更に死相が濃くなったリリーがゆっくりと登ってきた。

 

「リリー、もうリタイアした方が良いんじゃないか?」

 

 思わず純粋な善意から俺はリリーにリタイアを提案する。どう考えても今のアイツにこの山を登り切るのは不可能だ。変に倒れる前にさっさと麓に戻った休んだ方がいい。

 

「い、いや……ロークたちと一緒に……」

 

「けど、その状態じゃ……」

 

「が、頑張る。任せて……」

 

「何を任されているんだ?」

 

 正常な思考を失い始めているリリーの様子に思わずため息を漏らしながら近付くと意を決して依代から微精霊を呼び出す。

 

「頼むぞ〜」

 

 そして祈るように呟きながら俺は微精霊に霊力を流し込み、簡易契約を結ぼうと試みる。

 

『……』

 

 周囲の霊気に霊力を乱され、何処かへ飛んで行こうとする微精霊を必死に止めながら何とか繋がりを形成し、契約を結ぶことに成功した俺はそのまま霊術を発動。手元に小さな氷塊を生み出す。

 

「よし……」

 

「……ッ」

 

 生み出した氷を俺は鞄から取り出した布で包み込むとそれをリリーの額に当てる。リリーはヒンヤリとした感触にビクリとしながらもやがて気持ち良さそうに目を瞑る。

 

「それ、そのまま持って片腕で持って首の後ろ辺りに当ててろ」

 

「ローク?」

 

 簡易的な保冷剤の効果か思考力が戻り、困惑するリリーをお姫様抱っこの要領で抱き上げる。

 

「……え?」

 

「はぁ、人が運んじゃいけないってルールは無かったからな。とは言え、流石に俺もキツいから回復したら自分で歩けよ?」

 

「………ありがと」

 

「今更だな」

 

 疲れて弱っているせいか、しおらしく感謝を伝えてくるリリーに俺は苦笑すると身体強化を全開にして進み始める。

 

「……あっ」

 

「ん?どうした?」

 

「……何でも無い」

 

 ふと何かを思い出した様子で声を漏らすリリーが気になり、尋ねてみるも何でも無いと嬉しそうに首を横に振られてしまう。

 

 何だ?何を思い出したんだ?

 

「まぁ、何でも良いけど。しっかり回復しろよ」

 

「ん」

 

 流石にこのままずっと運ぶのは嫌な為、改めてリリーにそう警告しながら俺は額の汗を拭うと足を前に出した。

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