真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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いつもの如く遅くて申し訳ございません。


第64話

 その日、普段通り自室のベッドの上で目を覚ましたリリーは普段と変わりない筈の家の天井を見つめながら違和感を覚えた。

 

「………?」

 

 リリーは首を傾げながらもゆくっりと身体を起こし、部屋を見回してすぐにその原因に気付いた。

 

「………」

 

『シュコー』

 

 部屋の出入り口を塞ぐかの如くに堂々と佇んでいる巨大な貝にリリーは訝しげな表情を浮かべる。

 

「……何しているの?」

 

『シュコー』

 

 リリーは少し前に偶然契約を結ぶことに成功した水精霊こと蜃に対してそう声を掛けてみるも、貝殻の中から白い霧を吐き出すだけで返事らしいものが返ってこない。

 

「というか、何で霧を出してるの?」

 

『シュコー』

 

 部屋中に薄く漂っている霧を確認したリリーは再度、蜃に問い掛けるがやはり返事らしい返事は無く、相変わらず呼吸の如く白い霧を吐き出すだけだった。

 

「むぅ」

 

 そんな自分の契約精霊に若干の不満を抱きながらリリーはベッドから立ち上がると部屋を出るべく扉へと向かう。

 

「邪魔だから退いて」

 

『シュコー』

 

 リリーはそう言って退くように命じるも蜃はまるで話を聞いていないと言わんばかりの様子で動く気配を見せない。

 

「……ふんんッ!!」

 

 いや、そもそも蜃は動くことができるのだろうかと根本的な疑問を抱きながらもリリーは部屋を出る為に契約精霊の大きな身体を動かそうと力を込めて押す。

 

 が、ピクリとも動かない。

 全力で押しているのに岩の如く全く動く気配が無い。

 

「もうッ!」

 

 思わず怒りの声を漏らしたリリーは今度はポコポコと蜃の殻を叩いたり蹴ったりすることで退かそうと試みる。けれど、精霊師と言えどまだ年端もいかない子供の力。まるで蜃にリリーの攻撃が効いている様子は無く、寧ろパンチやキックを放った自分の手足が痛む始末だった。

 

「うぐぐ……」

 

『……シュルシュル』

 

 そうして涙目のリリーは蜃を暫く睨み付けていると唐突に貝殻の中から触手が現れ、ズルズルと身体を引っ張るようにして彼女の契約精霊は出入り口の前から退いた。

 

「……え?」

 

『……』

 

 今まで何をしても動かなかったのに突然、扉の前から退いた蜃な思わずリリーは困惑の声を漏らす。

 

 思考の読めない自身の契約精霊の行動に動揺しながらも気が変わらない内にさっさと部屋を出ようと駆け足気味に自室を飛び出す。

 

「……あれ?」

 

 廊下に出たリリーは先程とは違う違和感を抱く。

 

「………パパ、ママ?」

 

 時計の針は既に十二時を回っている。

 普段ならば父も母も既に起床している筈の時間だというのに家の中かが誰もいないかのように静かなことにリリーは抱いた違和感を少しずつ強めていく。

 

「……まだ、寝てるの?」

 

 今日は休日。

 加えて昨日は自分が高位精霊との契約に成功したことの祝いだと言って父が酒を浴びるように飲みながら喜んでいたことを思い出しながらリリーはボソリと呟く。

 

 父に関しては充分にあり得るだろう。けれど、だとしても母まで起きていないことはおかしい。

 

 時間に厳しい母は休日だろうと朝は早くに起きて家事を行なっているし、自分や父があまりにも寝続けていると強制的に起こされる。

 

「…………」

 

 解消されない疑問を確認するべくリリーはゆっくりとした足取りでリビングへと続く廊下を歩いていく。

 

 するとリビングの向こう側からあまり嗅ぎ慣れない臭いが漂ってきた為、リリーは思わず顔を顰める。

 

 ———何の臭いだろう?

 

 どこか鉄を彷彿とさせる香りにリリーは再び首を傾げながら扉の取手を握り、リビングへと入る。

 

 

「—————」

 

 

 そんなリリーの視界に入ったのは赤い血溜まりの中に倒れ伏す見慣れた男女の姿だった。

 

「……パパ、ママ?」

 

 幼い少女の呼び掛けに倒れた両親が返事をすることは二度となかった。

 

*****

 

 

「リリーッ!!」

 

「……ん?」

 

「ようやく反応してくれたか」

 

 聞こえてくる自分の名前にリリーが声のした方へと視線を向けると呆れた表情で自分を見つめるロークの姿があった。

 

「どうしたの?」

 

「どうした………って、まだ寝惚けてるな、お前」

 

 何のことかと首を傾げるリリーにロークは顔を手で覆いながらため息を漏らす。

 

「これから俺とペアで特訓するんだぞ」

 

「特訓……そうだった」

 

 ロークの言葉にリリーの段々と明瞭になっていく意識の中で今朝のことを思い返す。

 

 昨日の疲労から爆睡してまい、同室のメンバーだったセリアに何とか起こして貰ったところまでハッキリ覚えいる。ただそこから半覚醒状態のまま受けた二日目の特訓の内容に関してはほぼほぼ覚えていない。

 

「何するんだっけ?」

 

「詳しくは説明されてないよ。ただランダムでペア組まされて、この地図の場所に向かえって指示されてるだけだ」

 

「なるほど」

 

 そう言って目的地が記された地図を見せながら説明をしてくれるロークにリリーは納得した表情で頷く。

 

「という訳で昨日と同様に目的地まで少し歩くぞ」

 

「おんぶ」

 

「歩く努力くらいしなさい。昨日と違って道も緩やかなんだから」

 

 いつも通りおんぶの要求をロークにサラリと流されながら先を歩き始める彼の背中を追ってリリーも小走り気味に歩き出す。

 

 昨日とは違って今回進むルートは予め舗装された山道の為、軽快な足取りで二人は目的地に向かって進んでいく。

 

 

「ねぇ、ローク」

 

「ん?なんだ?」

 

 暫く歩いた後にリリーは少し前を歩くロークの背中に声を掛ける。一本道ながらも念には念をと地図を確認しながら歩き続けていたロークは地図から目を離すことなく返事をする。

 

 

「ロークは何で精霊師になろうと思ったの?」

 

「……珍しいな?お前がそんな質問してくるなんて」

 

 リリーの質問の内容にロークは思わず地図から目を離し、驚いた表情を浮かべながら視線を彼女に向ける。普段のリリーらしかの質問にロークは何かあったのだろうかと少し訝しむが、ジッとこちらを見つめて答えを待つ彼女にゆっくりと口を開く。

 

「そうだな。まぁ、若干曖昧なところもあるけど…………俺が精霊師を目指したのは実のところ自惚れからだったんだ」

 

「自惚れ?ロークが?」

 

「そう、俺が」

 

 ロークの発言に今度はリリーが驚く番だった。いっそ自虐とも呼べるほど、自分を卑下していたロークの姿からは考えられない発言にリリーは信じられないと言わんばかりの視線を向けてしまう。

 

 

「そんなに信じられないか?」

 

「うん」

 

「まぁ、学院に来た時にはメンブレしたからなぁ」

 

 そんなリリーの表情に苦笑しながらロークは当時の記憶を振り返る。

 

「……俺って霊力量、凄いだろ?」

 

「うん」

 

「だからガキの頃は親とか知り合いの大人に結構期待されてさ。まぁ、真に受けるよな」

 

 脳裏を過る大人たちの様々な称賛の声。

 人間離れした霊力量に多くの大人たちが自分のことを天才だやら逸材だなんて持て囃された結果、見事に調子に乗ってしまった。

 

「それでロークは精霊師を目指したの?」

 

「そ、精霊師なれば食いっぱぐれることも無いって言われてさ。まぁ、精霊師を目指したきっかけはそんなところだったかな?蓋を開ければ精霊と契約ができないという根本的な欠陥があった訳だが………」

 

 リリーの言葉に自嘲気味に頷いたロークは切り替えるように「じゃあ、今度はリリーの番だな」といたずらっ子のような笑みを浮かべる。

 

「え?」

 

「俺の理由を聞いたんだ。今度はリリーが精霊師を目指す理由を話す番だろ」

 

 

「……私が精霊師を目指す理由」

 

 リリーはボソリと呟くと視線を足元に落とし、そのまま黙り込んでしまう。

 

「リリー?」

 

「…………」

 

 声を掛けても反応が無い。けれど足は止まることなく歩みを続けているし、目もしっかりと開いている。意識もハッキリしている様子だ。少なくとも先程と違って寝惚けている訳では無いだろう。

 

「言いたく無いなら言わなくていいぞ?」

 

「…………」

 

 もしかして触れてはいけないところだっただろうかと思いながらロークは慌ててリリーに告げる。

 

 が、やはりリリーからの返答は無く、本格的にどうしようかとロークが焦り始めていると前方から凄まじい霊力を感知する。

 

 素早く視線を向けると丁度、一本道の先、広場のような開けた場所でお洒落な仮面を付けた男が行手を阻むかの如く腕を組み、仁王立ちで立っていた。

 

「特訓中にイチャイチャとは、ユートレア学院の学生ってのは噂よりも弛んでいるみたいだな」

 

「……何やってるんですか、カイル先生」

 

 何だが悪者風を装っている仮面の男ことカイル・マディソンにロークはジト目を向けながら尋ねる。

 

「誰だ、知らん名前だな。俺の名前はアルス、カイルなんて言うイケメンは知らない」

 

「自分でイケメンって言うんですか……」

 

 というより、イケメンと言っている時点で知っていると告白しているも同然である。

 

 呆れているロークを他所にあくまでも別人であると押し通そうとするカイルは何やら大仰な動作をしながら語り掛けてくる。

 

「悪いがこの道はウチの組織が管理していてな。どうやら君たちはこの先を通りたいようだが、ウチが発行している通行証を持たない奴を通す訳にはいかないな」

 

「通行証?」

 

「この通行証だ。これを持ってれば通してやる」

 

 そう言ってカイルは胸元のポケットからユートレア学院の校章が描かれた通行証を見せつけられる。

 

「持ってないですけど……」

 

 当然ながら通行証を持っていないロークは困惑気味に呟く。

 というか、の割に通行証の校章といい学院関係者であることを全く隠す気がない。

 

「なら、通す訳にはいかないな」

 

「じゃあ、この道を通るにはどうすれば?」  

 

「どうしても通りたいなら、俺から通行証を奪うことだな。そうすればここを通してやる」

 

「……なるほど、そういう設定ですか」

 

「設定とか言わないでくれないか?俺も頑張ってるんだぞ」

 

 この特訓の趣旨が読めてきたロークが納得した表情で呟くとカイルからどこか切実さを感じさせる声音で懇願される。段々とキャラを演じることが辛くなってきたようだ。

 

「……リリー、聞いてたか?先生から通行証を奪えってさ」

 

「………うん」

 

 呼び掛けには辛うじて反応はしてくれたが、リリーはまだ何かに気を取られている様子だ。

 

「体調悪いなら少し休んでいるか?」

 

 そんな彼女を気遣いながらロークは内心で焦る。

 相手はユートレア学院の武闘派教師。平時でさえ相当キツいというのに本来のパフォーマンスを発揮できないこの状況でカイルとの一騎打ちは避けたかった。

 

「そう心配そうな表情するな。ちゃんとハンデは付けてやるから」

 

「ハンデ?」

 

「ああ、契約精霊は戦わせない。俺だけで相手してやるよ」

 

 カイルが言い終えると共に姿を現した蛟はその尻尾で主人の手から通行証を絡め取るとそのまま後方へと後退する。

 

「契約精霊を使わないで俺たちを相手にするつもりですか?」

 

「そんな驚くことか?いつもお前がしていることだろ」

 

 カイルはそう言って笑うが、これまで契約精霊なしで戦って来たロークからすれば自分の土俵に相手が降りてきたことに変わりない。これならばリリーの助けが無くても勝機があるかも知れない。

 

「安心してるみたいだけど、本当にそんな余裕あるのかローク?」

 

「…………ッ!」

 

 図星を突かれて動揺を見せるロークに対してカイルは笑いながら両手を合わせ、術式を組む。

 

「お前ら、この環境下で上手く霊術を使えないんだろ?」

 

「けど、それは先生も———」

 

「同じだと思うか?」

 

 ロークの言葉を遮りカイルは獰猛な笑みを浮かべながら霊術を発動させる。

 

「まぁ、折角だ。喰らって確かめてみろよ」

 

 直後、カイルの足元から大量の水が勢いよく吹き出し、そのまま津波となってロークたちに向かって襲い掛かってきた。

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