真の実力を隠していると思われてる精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます   作:アラッサム

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第7話

 メンタルを削られた座談会を終えて更に夜の晩餐会にも拒否権を与えられず無理矢理出席させられて疲労困憊のまま爆睡した翌日、俺は疲れ切った表情を浮かべながら学院へと足を運んでいた。

 

「やぁ、ロークおはよう」

 

「………うす」

 

「やけに疲れた顔しているね?」

 

 一限目の教室へと向かう途中で合流したガレスは俺の顔を見るなり心配そうな表情を浮かべながら呟いた。

 

「ああ、昨日の疲れがな……。やっぱ平民の俺にはああいう煌びやかな場所は似合わん」

 

「ずっと隅っこに逃げてたもんな」

 

 3年生も合流した講堂を借りての晩餐会、天井から吊るされるシャンデリアやら豪奢な衣服を纏った貴族様たち、演奏団たちによって奏でられる荘厳な音楽は正直場違い過ぎてストレスで死にそうだった。というかガレスがいなければ多分死んでいた。

 

 マジで何で俺だけ強制なん?他の平民出身の学生みんな参加拒否してるやん。おかしいやん。

 

「大丈夫か?一限目の講義、高位霊術学だぞ?」

 

「ああ〜それは無理だ。寝るわ」

 

 学院は講義の選択式であり、基本的に必要単位数さえしっかり取得すれば好きな時間に好きな講義を受けることができる。けれども中には必修と呼ばれる絶対に取らなきゃいけない講義も存在している。それが丁度今向かっている高位霊術学の講義だったりする。

 

 高位霊術学は必修ということもあり、百人を超える学生たちが集まる講義なので本館から少し離れた別館の1、2階をぶち抜いた大教室が用意されているので言い方は悪いが寝てもバレにくい。

 

 加えて言えば高位霊術学は高齢の爺さん精霊師が担当しているのだが、その声音があまりにも眠気を誘うので講義の時間帯と相まって気付くと机に突っ伏している生徒が続出するのだ。

 

 一応いつもは耐えられているのだが今日の疲労度からして恐らく今回は耐え切れずに撃沈するだろう。

 

 

「寝てたらとりあえず起こしてくれ」 

 

「僕も寝てなかったらね」

 

「不穏なこと言うなよ」

 

 こちとら高い学費を払って講義を受けてるのだ。流石に講義全てを睡眠時間で終わらせる訳にはいかない。

 

「というか今更だけど良かったのかい?」

 

「ん?何の話だ?」

 

「オーグンのことだよ」

 

「ああ、そのことか」

 

 一瞬何の話だと思ったが、どうやらガレスは昨日の一件のことを尋ねているらしい。

 

「あの対応で妥当だろ?」

 

「いや、本来なら退学どころかオーグンを勘当させることも充分できるぞ」

 

 結局、座談会で水の霊術をぶっ放したオーグンは30日間程の停学処分という形で決着が付いた。いや、厳密には俺がその形で無理矢理終わらせたという言い方が正しいか……。

 

「何故庇う?君を貶した相手だぞ」

 

「いや、アイツの言ってたこと全部事実だしな。本当のこと言ってるのに退学にさせられるのは流石に違うだろ」

 

 まぁ、背中に霊術ぶっ放してきた時はビビったけど何とか無傷で終わらせられたしそこまで怒りがある訳でも無い。ダメにした紅茶や菓子の弁償求められたら全負担させようとは思ったけど………。

 

「そういう問題か?」

 

「そういう問題さ。そもそも俺が精霊と契約できればこんな面倒ごとも起こらなかったんだろうが……」

 

 仕方ないとはいえ俺の戦い方はどんなに真面目に戦おうと契約精霊を呼ばない為、相手を煽るような戦い方になってしまう。恐らくオーグンは学位戦の時にフルボッコにした時のことをずっと根に持っているのだろう。

 

 あの頃は俺の戦闘スタイルが確立できてテンションが上がっていた時期で色々と調子に乗っていた。今思い返すと無礼の上塗りに罪悪感と申し訳ない気持ちが湧き上がってくる。

 

 実際この点はミーシャにも覚えがあるようでそこを要点に説得をしたら意外とすんなりと応じてくれた。加えて言えば彼女が王族では無くあくまでも学院の生徒会長として対応してくれたのも大きいだろう。

 

「毎度思うけど君は変なところで律儀だよね」

 

「別に変では無いだろ。それより俺は説得に応じて貰う条件として何でも一つ言うことを聞くっていう恐ろしい条件をミーシャにつけられたことをどうにかしたいんだが」

 

 そうすんなり応じてくれたミーシャだがその実、俺は何か一つ絶対に言うことを聞かなくてはいけないという恐ろしすぎる。

 

 

「王族に意見したんだから妥当だろ。寧ろその程度で済むのなら安過ぎる」

 

 ガレスはそう言うがそれでも王族の命令何でも一つだぞ?

 そもそも大抵のことを命令できる王族がわざわざ何でも言うこと一つって何を命令する気なんだ。

 

「まぁ、大丈夫だろ。逆にご褒美と思えば良い」

 

「ご褒美と称して仮に一族郎党打首を命令されてもお前は喜べるのか?」

 

「ハハハ、ウケる」

 

「笑ってんじゃねぇ!」

 

 こっちは真面目に困ってんだよ!!

 

 と俺がガレスに怒っていると背後から唐突に衝撃が走り、そのまま勢いに押された俺の顔は地面と衝突した。

 

「ゴフォッ!?」

 

「よっ」

 

「やぁ、リリー。おはよう」

  

 背中に乗っているであろう人物が俺の悲鳴を無視して呑気にガレスと挨拶を交わす。おい、とりあえず降りろよ。

 

「ロークもおはよう」

 

「ああ、おはよう。ところで俺の背中から降りてくれないか?」

 

「できない相談」

 

「ずっとここにいろと?」

 

「馬車馬の如く私を乗せて動いて」

 

「貴様潰すぞ」

 

 そこでようやく背中から柔らかい重みが消え、起き上がった俺は先程までいた乗っていたであろう人物へと視線を向ける。セミロングの薄緑の髪、綺麗に整った顔立ちはけれども表情が乏しく整った容姿と相まって本当に人形のように見える。

 

 名をリリー・オラリア。俺と同じく平民出身ながら入学試験の座学においてあのミーシャを抑えて一位で通過するという紛れもない天才である。更に付け加えると結構なコミュ障で仲良くならないとマジで何も喋らない。

 故に俺同様に学院では少し浮いてしまっており、その結果浮いたもの同士自然と仲良くなった。

 

 

「ローク野蛮」

 

「後方からタックルしてきた奴に言われたくない」

 

 今でこそこうして冗談を交えて会話できているが当初は同じ平民同士だっていうのに一言も反応してくれなくて困ったものだった。

 

 にしても相変わらず無表情だな。俺も比較的表情が乏しい方だがコイツに関しては表情筋が死んでいる。

 

「そう言えばリリーは昨日レクリエーションに行ったか?」 

 

「面倒だったから行かなかった」  

 

 ですよね、当初は俺もそのつもりだったし。けれどそうなると一つの疑問が俺の中に浮かんでくる。

 

「お前の方には生徒会来なかったのか?」

 

「生徒会?何のこと?」

 

 俺の質問にリリーは不思議そうに首を傾げる。その反応からしてどうやらリリーの下に生徒会は赴いていないらしい。実績的に考えればリリーは絶対に歓迎会には連れて行った方が良い生徒の筈だが……。

 

「俺は生徒会に次席なんだから絶対に参加しろって言われて無理矢理連れて行かされたんだ」

 

「よく分からないけどロークは特別みたい」

 

「嬉しくない特別だなぁ」

 

 生徒会に目を付けられるなんて少なくとも絶対に良い意味での特別じゃない。下手したら精霊と契約していないことを暴かれそうで怖いったらありゃしない。

 

「はい、二人とも雑談はそこまでだ。そろそろ教室に行かないと遅刻するよ」

 

 ガレスの指摘に時計を確認すれば確かにもう開始まで数分程度しかない。俺たちは小走りに教室へと急ぐと教室のドアを開けて慌ただしく中へと入る。

 

 中には多くの学生たちが着席しており、案の定と言うべきか一番気楽な後方席は既に満杯だった。ギリギリに来た以上後方席が取れないのは分かっていたので俺たちは比較的手前の窓際席に三人並んで腰掛けた。

 

「おやすみ」

 

「おい、初手から寝ようとするんじゃねぇ」

 

 日光の眩しさがあれば眠らずに済むかと思ったが寧ろその温かさにやられてまだ先生が来ていないのにリリーが睡眠体勢に入った。

 思わず軽く頭を叩くとリリーはむぅと不満そうな表情を浮かべながら顔を上げた。

 

「邪魔しないで」

 

「俺はお前をそんな子に育てた覚えはないぞ」

 

「君はリリーのお父さんか何かかい?」

 

「貴方たちは相変わらず仲良いね」

 

 三人でそんな下らない漫才をしていると背後の席から声を掛けられ振り返るとニコニコと楽しそうに笑うセリアが一つ後ろの席に腰掛けていた。

 

「やぁ、セリア。いつもなら後ろにいる君が珍しいね」

 

「ふふ、今日はちょっとね。貴方たちが手前に座るのが見えたから来たの」

 

「何か用があるってことか」

 

 セリアの言葉を聞いた俺は確信を持って言った。意外と策士な彼女がただ雑談をする為だけに俺たちの所へと来るとは考えづらい。

 

「ふふふ、そう警戒しないで。中々お得な情報だから」

 

「勿体ぶらないで教えてくれ」

 

 焦らしてくるセリアを急かすと仕方ないなぁと彼女は言った。

 

「実はね、近々《ルナの遺跡》への立ち入り許可が下りそうなんだけど良ければ一緒に探索へ行かない?」

 

「…………へ?」

 

 その衝撃的な内容に俺とガレスは目を点にし、リリーは眠気が吹き飛んだ様子で「行く!」とキラキラと目を輝かせて頷いた。


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